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第18話 四天王達の日常 征服だぁぁ!!

村の朝は、いつもどこか騒がしい。


 いや、正確には「この一家とその周囲が、勝手に騒がしい」のだが。


 今日の主役は、かつて世界を震え上がらせた魔王軍の四天王――ただし、今や、ほとんど村の雑務係に成り下がっている残念な面々である。


 普段はタイカン(元・魔王、現・畑バカ)の農作業を手伝うのが日課なのだが、今日は休日。ベルクスの発案で「5勤2休」制度が敷かれているからだ。


 ……もっとも、ベルクス自身は「0勤∞休」なのだが。


 祖母パナメーラも、なにかと口出しはするが、右往左往するだけで実質役立たず。


ミトスは何をしているのかわからないが、よく村をふらふらしている。


ただ、村民はそれだけで有難いと祈る始末。要するに、この家ではまともに働いているのは魔王と勇者とその息子カイエンくらいで、その他は騒動要員にすぎない。


 さて、その四天王。休日をどう過ごすか。


「せっかくだから世界征服の会議でもしない?」


 筋肉自慢の武の四天王・ブラチス(28歳)が腕を組み、目を輝かせた。


「いいわね。畑の世界を征服して、作物の支配権を握るとかどう?」


 智の四天王・ブリュック(25歳)がすぐさま理論を展開する。彼女は天才軍師だが、理屈っぽさが行き過ぎて現実から浮きがち。


「征服……悪の組織を従えてみたい」


 闇の四天王・ビジョン(17歳)は相変わらず寡黙だが、言葉の内容が物騒だ。昨日も畑で雑草を「暗殺」したばかりである。


「ちょっと待って。ベルクスさんが言ってたじゃない? 彼の世界には『制服』っていう可愛い衣装があるって!」


 美の四天王・ヴァルメ(20歳)が割り込んだ。鏡を抱えて自分を見つめながら、興奮気味に提案する。


「制服?」


「可愛い?」


「それは……支配に役立つの?」


 四人は一斉にベルクスの部屋のドアを叩いた。


 制服の話を聞いたベルクスは「待ってました!」とばかりに、懐からくしゃくしゃのノートを取り出す。


そこには彼が記憶を頼りに描いた「ブレザータイプ」「セーラー服」「ジャンパースカート」などの怪しいスケッチがあった。


「これが……制服だ!」


 ベルクスはどや顔で差し出した。


 四天王は食い入るようにスケッチを見る。


 ブラチスは「動きやすそうだ!」と腕まくりし、ブリュックは「集団心理を掌握するには統一衣装が不可欠!」と理屈を積み上げ、ビジョンは黙って「征服に使える」と呟き、ヴァルメは「可愛いは正義! これは美の革命だわ!」と叫ぶ。


 こうして、征服目標は「制服」に決まった。




 四天王はそのまま村の仕立て屋へ直行。


 「大急ぎで作ってくれ!」と詰め寄る彼女らに、仕立て屋は震え上がる。


「し、しかし、この絵だけでは……ちょっと……」


「黙って作るんだ!」


 ブラチスが腕をぶんと振ると、窓がガタガタ震えた。


「生地は? サイズは?」


「全部、最高級で!」


 ヴァルメが鏡を構えながら言う。


 仕立て屋は観念し、夜通し針を動かした。報酬は――ツケ。もちろん、請求先はカイエン(元・勇者の子供、現・一家の苦労人)だ。





 翌日(早っ、、、、※作者の声)。


 村の広場に集まった四天王。


 ブラチスはブレザー姿。スカートからのぞく太ももの筋肉がちょっとイカツイが、目を見張る美脚だ。


「どうだ! 力と知性を兼ね備えた姿だろう!」


 ブリュックはセーラー服。メガネを押し上げ、戦略マップを広げながら、やたら理屈っぽいポーズを取る。


「この衣装こそ、支配と規律の象徴……!」


 ヴァルメはゴス寄りにアレンジした制服。ポーズを取るたびに「可愛い……やっぱり私が世界一……」と自画自賛。

 ビジョンは学ラン風を着せられていた。スカートではなくスラックスだが、妙に似合っている。


「……暗殺に適している」


 村人たちはぽかんと口を開けた。


 だがすぐに男性陣から歓声が上がる。


「なんだこの破壊力は! かわいい!」


「なんだあの服は……ありだな!」


 その瞬間、ベルクスが現れた。手にはカメラ(もちろん自作の魔道具)。


「よし、そこだ! もっと足を! 角度を変えて!」


 普段は妹レミリア一筋の変態兄だが、この日は珍しく四天王たちを撮影しまくった。


「素晴らしい……これは芸術だ……! ……………………次はゴスロリだな……!」


 呟くベルクスの姿は、完全に不審者である。




 だが、夢の時間は長く続かない。


 仕立て屋から届いた請求書――そこには「特急料金込み・高級生地使用:金貨150枚」と記されていた。


「誰だ! こんな大金を……」


 カイエンが絶叫する。


 ベルクスはしれっと「文化投資だ」と言い、四天王は「世界征服の第一歩だ」と胸を張る。


 だが、カイエンは頭を抱えた。勇者の剣で邪神を倒したことがある父でも、金貨150枚の請求書を倒す術はないのだ。


「……やっぱり俺の人生、一番の敵は身内だ……そもそも四天王の服をなぜうちが支払うの?」


 かつて世界を救った勇者の息子の嘆きが、村の空にむなしく響いた。




 こうして、元・魔王軍四天王による「制服『征服』作戦」は、村人たちを大いに楽しませ――そしてカイエン一家の財布を直撃する結果に終わった。


 世界征服? そんなものはどうでもいい。


 今や彼女たちの戦場は、畑と鏡と仕立て屋と――そしてカイエンの敵は請求書になった。


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