第10話 兄ベルクスの日常03?
「フッ……今日もまた、俺の天才的な頭脳を村のために使うときが来たか」
朝日を浴びながら、兄ベルクスは腰に謎のマントを巻いて登場した。
「兄貴、またその恥ずかしい格好か……」
カイエン(主人公)は額を押さえる。
「これは"異世界ジェネラル・クローク"だ! 男ならマント! 常識だろう!」
「どこの常識だよ!」
姉ミトスが「わぁ〜ベルクス兄さん今日もかっこいい〜」と拍手し、妹のレミリアは無の表情で兄を見た。
その日、ベルクスは村の広場に巨大な木製の装置を設置した。
「名付けて! "ベルクス式からくり自動販売機"!」
――ガラガラガラッ!
木の歯車が回転し、ゴトン! と落ちてきたのは……
「ただのリンゴ、それも一個だけじゃねぇか!」
「いやいや、これは革命だぞカイエン! 金貨を入れるとリンゴが出てくる! 交易と物資流通の未来を先取りするシステム!」
村人たちはポカーンと眺めていたが、
子供が真似して鉄貨を入れると、なぜか10個のリンゴが出てきた。金貨の1/1000の価値の鉄貨で。
「うおおお! ベルクス様すげぇ!」
「ほら見ろ! これが未来だ!」
「りんご出過ぎ!いや絶対壊れてるだろ!」
そのあと、自動販売機を、リヤカーで自宅まで引いていくカイエンの姿を誰も気づかなかったという。
ベルクスのオタク魂は止まらない。
今度は村で「文化祭」をやると言い出した。
この村では、誰かがいい出すと、結構な頻度でイベントが開催されるのだ。
いつもうちがほとんど出費している。金欠なのはそのせいもある。
「(レミリアの)歌! (レミリアの)踊り! (レミリアの)コスプレ! 異世界交流は文化から始まる!」
「兄貴、村人はそんなノリ知らないって!」
だが押し切られ、村は強制的に文化祭モードに。
聖女ミトスは神聖劇の主演を任され、レミリアはメイド服を着せられ、カイエンは何故か鎧コスプレ。
これはコスプレか?
レミリアには終始付き纏い、カメラを構える兄。
レミリアの何かが見えそうになると、すぐさまカメラを構える兄。それを蔑んだ目で見るレミリア。
「なんで俺だけ鉄板着せられてんだよ! 重い!」
「戦士キャラ担当だろ!勇者の息子なんだから、カイエン!お前しかいない!」
村の広場は、今日のために手作りの屋台やテントが並び、子供たちや村人で賑わっていた。
「これぞ村祭り……!」
ベルクスは目を輝かせる。手には自作のカメラ。異世界知識を駆使した最新鋭――というか、妙にメカメカしい箱型の代物だ。
「よーし、今日はレミリアに異世界の伝説の歌を覚えてもらうんだ……!」
兄は小声でつぶやき、妹の後ろにそっと近づく。
「お兄ちゃん、なにやってるの?」
「おおっ……旅の小悪魔殿よ、少々お耳を拝借……いや、聞いてもらわねばならぬ!」
ベルクスの瞳は真剣そのものだ。いわゆるガンギマリの目をしている。
「えぇっ、また無理やり!?」
レミリアは軽く眉を吊り上げ、早くも怒りの表情。
ベルクスは頑張って平静を装う。
「いや、これは……異世界の伝統文化! 文化交流だ!」
しかし言い訳も空回り。妹の目は鋭く光る。
「なら歌わせてみなさいよ! お兄ちゃんの変な趣味に付き合う義理はないのよ!」
小悪魔の瞳は、怒りと挑戦の炎で燃えている。
「う、うぐっ……仕方ない……行くぞ……!」
ベルクスは手作りの譜面を取り出し、必死に歌詞を指差す。
「えーと、ここは……♪ラララ~魔界の夜に光る星~」
妹は口をへの字に曲げ、ぶつぶつと文句を言いながらも、歌い始める。
「お、おお……!」
ベルクスの手が震える。カメラを構え、シャッターを切る。そして、脇にある怪しげな機械の『録音』と書かれている大きなボタンをそっと押す。
「くっ……光よ…音よ……お前が、私の想いを捉えろ!」
周囲の村人から見ると、完全に奇行。兄は汗だく、妹はぶんむくれで歌う。
「お兄ちゃん! 私の声を勝手に録音するなんて許さないわよ! その音、何に使うのよ!」
レミリアの声に、ベルクスの体に奇妙な電流が走る。
「ひゃあ……これもよき……」
オタク心が変なゾクゾク感を覚え、完全に興奮してしまった。
周囲の村人は苦笑い。
「……あれが伝説の転生者か……」
「村の平和が脅かされている気がする……」
歌い終わると、レミリアは兄を睨みつつも、どこか楽しそうに顔をほころばせる。
「ふん、これで満足かしら、お兄ちゃん」
「う、うむ……素晴らしい……!」
ベルクスのオタク魂は満たされ、カメラには妹の歌う姿が大量に収められた。
「……次は村人たちにも異世界の歌を披露してもらう予定だ……」
兄の目は遠くを見つめる。
だがレミリアは、そんな兄のオタク魂に軽く舌打ち。
「お兄ちゃん、本当に気持ち悪いわね……でも……なんだか放っておけない」
小悪魔の微妙な表情に、兄はまたゾクゾクと電流を感じ、カメラを握る手に力が入る。
こうして、村の平和な祭りは、オタク兄と小悪魔妹の小さなバトルによって、異世界感と狂気に彩られるのだった。
最後に、姉が歌を口ずさんだら、雷鳴が轟き、夜なのに空に虹がかかった。
「うぉおお! 聖なる歌だ!」
「ちがーーう!!」カイエンが絶叫する。
文化祭のラストイベントは「花火大会」。花火なんか知らない村民は、みんなポカーンだ。
だが火薬の配合を間違えたベルクスの発明は……
――ドカーーン!!
空に花火が咲くどころか、巨大なドラゴン型の炎が出現し、村人全員が腰を抜かした。
「すげぇ! 火の竜だ!」
「いやこれマジでやばいやつだろ!!!」
しかしドラゴンの炎はなぜか村を一切焼かず、夜空に美しく舞って消えた。
村人たちは口を揃えてこう言った。
「あれが花火というのか! ベルクス様はやはり勇者の子だ!」
「いや、ただのオタクだからーーー!!」
そして、カイエンは、箒と塵取りを抱えて、そそくさと掃除をする。
結局、ベルクスのやらかしは「奇跡の祭典」として村に語り継がれることになった。
本人は胸を張り、「フッ……また俺の伝説が増えてしまったか」
とキザ顔でつぶやいた。
その横でカイエンは机に突っ伏していた。
後日、請求書の山に埋もれてカイエンは呟いた。
「この家族のフォロー役、誰か代わってくれよ……」