第9話 姉の日常
辺境の村の朝。
聖女ミトスは目覚めるや否や、寝ぼけ眼で庭を歩きながら、「おはようございます〜」と小さな声でつぶやいた。
すると、庭にあったバケツがひょいっと飛んでいき、水が少なかった作物にの周辺に移動して自然にスプリンクラーのように注がれた。
「わぁ……」
村人の老夫婦が驚いて見ていた。
「聖女様のおかげで、朝の水やり、助かるなぁ」
「いや、偶然だろ……」
カイエンは冷静にツッコミつつも、内心で「やっぱり姉ちゃんはただ者じゃない」と思う。
その後、ミトスは村の商店街を歩いていた。
「今日は良い天気ですね〜」と話しかけると、雨が降りそうだった空が晴れ、風がちょうど心地よく吹いた。
パン屋のおじさんが小麦を落としてしまったが、落ちた小麦がちょうど袋に戻る。
「うわぁ……なんで自然に戻るんですか!?」
村人たちはびっくり。「これも聖女様の奇跡の力か……」
カイエン「いや、たぶん偶然だろ!」
しかし、ミトスはニコニコ笑っているだけで、何も特別なことはしていない。
周囲の人間が「奇跡」と呼ぶのは、もはや日常の自然な偶然が重なった結果でしかない。
その日の昼、レミリアが村の広場でいたずらをしていた。
「お兄ちゃん〜、見て見て♡」
猫を追いかけるレミリアに、村人が巻き込まれて転びそうになる。
「あ、あぶない!」
カイエンが駆け寄ろうとした瞬間、ミトスが手をかざす。
――その手の動きだけで、転びかけた村人はふわりと元に戻る。
「うわ……これって奇跡?」
「えへへ〜、ただ支えただけです〜」
カイエン「支えてないじゃねぇか!」
夕方、村祭りの準備が始まった。
父ティーガーは張り切って屋台を設営、母ミュレーヌは派手な装飾をやりすぎて予算を圧迫、四天王もそれぞれ好き勝手に動き回る。
そんな混乱の中、ミトスはただ軽く手をかざすだけで、屋台の提灯が自然に均等に並び、風で倒れかけた柱もぴたりと立ち直る。
「すごい……!」
「いや、これも偶然だろ!」
カイエンは顔面蒼白。
そして、祭り本番。
村人たちは「聖女様のおかげで村が完璧に整っている」と大喜び。
ベルクス兄は「これは異世界の奇跡に違いない」とカメラを構え、レミリアは「お兄ちゃんのことは無視して♡」と甘える。
カイエンはもう限界だ。
「頼むから、日常の自然なことを勝手に奇跡呼ばわりするのはやめろ!」しかしミトスは笑顔で手を振るだけ。
「えへへ〜、でもみんな喜んでくれたからいいじゃないですか〜」
夜、村の空に星が輝く。
小さな奇跡を巻き起こす姉の存在に、カイエンは深くため息をつく。
「俺、この家で生き残れるのか……?」しかし村人たちは静かに、「聖女ミトス様がいるから、今日も平和だ」と噂するのだった。
こうしてまた、辺境の村は小さな奇跡と家族の騒動に包まれて一日が終わる。