俺2番。あいつ1番……ギリィッ~両片想い?バカップル?ふざけんな!!~~
こんな子達がおったらクラスメイトとしてずっと観察してたい……
『1位 稲城 春 481点
2位 瀧寺 陽児 477点』
「すっげ。またこの2人でワンツーじゃん。」
「確か入学してからずっとだろ?めっちゃすげえよ。」
「赤点のお前にゃあ夢のまた夢だもんな…」
「あ?お前らもだろうが!俺知ってんだから!!お前らがそれぞれ数学と英語と社会で赤点とったの俺知ってんだからな!!」
「はぁ~!言ってはならないことをおっしゃりやがりましたねてめぇ!」
「そう言うお前は国英両方赤点取ったの俺ら知ってっから。」
「赤点取ったらゲーム禁止になんの僕ら知ってっから。」
「……どうしよう…」
「凄いよねぇ稲城さん!ずっと1位だもん!」
「うんうん。それに運動も出来るし先生にもめっちゃ頼られてるし!」
「何より超美少女だし…肌めっちゃ白いし綺麗だよねぇ。お母さんが海外の人なんだっけ?」
「しかも生徒会長ってさぁ。その上大企業のご令嬢でそれを鼻にかけずみんなに優しいってもう完璧じゃんね?」
「この前のバスケの授業めちゃカッコよかったなぁ…」
「私この前勉強教えてもらったんだよね。お陰で数学78点!」
「え、前赤点スレスレだったよね?すご!」
「この場合あんたの頑張りが凄いのか稲城ちゃんの指導力が凄いのか…」
「瀧寺、今回も惜しかったなぁ」
「4点差かぁ。前回は7点差だっけ?詰めたな!」
「違う違う。前は6点差だよ。まぁ詰めたのにかわりないけど。」
「そう言えば瀧寺くん、また何かで優勝したんじゃなかったっけ?」
「そうそう!あいつ英語得意だからな。何かのスピーチ大会で優勝したらしいぜ。」
「多芸だよなぁ。テストもこれだろ?」
「陸上部のエースで生徒会副会長。その上賢くて品行方正、穏やかで皆に人気だし、嫉妬心は消えるよなぁ。」
「正直男女関係なく見惚れるレベルでかっけぇしな。言動がそうだし、認めたくないが顔も良い。」
「俺さ、この前面倒な奴に絡まれてたんだけどさ。その時ちょうど瀧寺が通りかかって、その不良達追っ払ってくれたん。凄くね?キュンキュンしたわ。」
「瀧寺がお前のキュンを欲しがってるかどうかは置いといてあいつやっぱすげぇな。」
「本当あの2人って完璧で…お似合いだよねぇ。」
「早く付き合えば良いのによぉ。」
「ねぇ?もうこの学校の生徒全員どころか先生達からも公認カップル扱いされてるのにね。」
「稲城さんの方はもうだだもれって感じじゃない?」
「バレバレだよね!と言うか、わざわざお互い名前で呼び合いたいって言ってる時点でもう、ね?」
「春ちゃん、瀧寺君以外では名前呼びしてるの女子しかいないのにね!」
「しかも、たま~にタメ語で話してるし!」
「そんなの瀧寺しかいないのにさぁ?」
「瀧寺も満更じゃなさそうなんだけどなぁ。何で進展しないんだ?勝率120%じゃん。」
「でもそこが可愛い!2人揃って完璧なのにモダモダしてて何かもう尊い!ってなるんだよね。」
「…なぁ、瀧寺が1位取ったら稲城に告るってマジかな?」
「あぁ、流れてる噂ね。んー……何か瀧寺くんはそう言う拘りなしで言いたいタイミングで稲城さんに告白する気がするんだけど。」
「でも、何か稲城さんは社長令嬢だから相応しくなるため!みたいなのでテストも生徒会も部活もコンテストとかも頑張ってるって噂、俺聞いたぜ?」
「そうそう、僕はこれ結構信憑性あると思うなぁ。」
「そりゃまた何で?」
「実はさ…僕聞いちゃったんだよね!瀧寺君が『稲城ーーーに勝たないとーーはーーないよっ。』って的場君と平谷君に言ってるの!詳しくは聞こえなかったんだけどこれって勝たないと告白出来ないってことじゃない!?」
「いやいや流石に決めつけ過ぎだろ。お前じゃねぇよな?噂の発生源。」
「いつの間にか流れてたよね…でも、それが本当だったら…」
「マジか…拘りタイプだったか。」
「えー!てことは瀧寺君が1位になったら!」
「カップル成立ってこと!?」
「それなら俄然瀧寺に勝って欲しくなってきたな。」
「もう2年も終わりだもんね。」
「受験始まるし…何とか高校の内にカップル成立しますように!」
「おい!!稲城さんと瀧寺来たぞ!通してやれ!」
ーーーーーーーーーーー
「おい!!稲城さんと瀧寺来たぞ!通してやれ!」
誰かがそう言った途端、人垣が割れた。
比喩なしにばっくり2つに割れた。
「何か、申し訳ないですね。皆見てたのに。」
「……そうだね。でも、折角だし、素直に見ようじゃないか。」
まぁ、もうわかってるけど。
「はい、そうですねっ。」
『1位 稲城 春 481点
2位 瀧寺 陽児 477点』
また2位。4点差、か。
「…………流石だね、稲城さん。また1位じゃないか。今回はいけるかもって思ってたんだけど。」
「いえ、そんな…今、正直凄くほっとしてます。毎回抜かされるんじゃないかって、ヒヤヒヤしてるので。」
本当に?見ている限り、とてもそうとは思えないが。
「あはは。…次は負けないよ?」
「ふふ、望むところです!…ところで」
「ん?どうしたんだい?」
そう言うと彼女は袖を掴んできて…
「……この前、下の名前で呼んでくださいってお願いしましたよ?」
上目遣い、敬語、袖引き、赤く染まりつつ拗ねた顔……『可愛い』の具現化みたいだな、相変わらず。これ、胸キュンポイントなんだろうなきっと。
「…っごめん、つい前までのくせで。えぇっと…は、春、には負けない、よ?」
「!ぇ、えへへ、わ、私も!よ、陽児君には負けないよ!」
っ……!
「そっか。あ、それじゃ僕はこれで。」
「あ…い、行っちゃうんですか?」
あーもー…
「うん、泰牙と結城とお昼食べる約束してるからね。」
「あー、そうですよね…引き留めてしまってすみません。」
「ううん、気にしないで。あ、また洗って返すから。それじゃいな…春、またね。」
「は、ぁ、う、うん!陽児くん、また!」
「…あれで付き合ってないんすよ?」
「距離感バグりすぎじゃない?もうカップルじゃん。」
「ホント何で付き合ってないんだろうな?」
「大前提がそもそも間違ってるからだよボケがぁぁぁ!!!」
『本当あの2人って完璧で…お似合いだよねぇ。』
勝手な事言ってんじゃねぇ!
『ねぇ?もうこの学校の生徒全員どころか先生達からも公認カップル扱いされてるのにね。』
初耳だわ!
つか先生もかよ!!
おい大人しっかりしてくれよ!
不純異性交友取り締まれや!!
まあする気ねぇけどな!
『瀧寺も満更じゃなさそうなんだけどなぁ。何で進展しないんだ?』
満更じゃないどころかお互いその気が一切ねぇからだよ!
『…なぁ、瀧寺が1位取ったら稲城に告るってマジかな?』
ガセだよ!!!
誰だそんなこと言ったの!?
『でも、何か稲城さんは社長令嬢だから相応しくなるため!みたいなのでテストも生徒会も部活もコンテストとかも頑張ってるって噂、俺聞いたぜ?』
だからガセだよ!
フェイクニュースだよ!騙されんなよ!!
『詳しくは聞こえなかったんだけどこれって勝たないと告白出来ないってことじゃない!?』
発想力豊かすぎかよ!
何でそうなんだよ!
『お前じゃねぇよな?噂の発生源。』
だとしたら一発シバくからなマジで!!
『えー!てことは瀧寺君が1位になったらカップル成立ってこと!?』
決めつけてんじゃねぇわ!!
新しい話題作ってんじゃねぇわ!!
『それなら俄然瀧寺に勝って欲しくなってきたな。』
俺は俄然萎えたけどなぁ!?
『受験始まるし…何とか高校の内にカップル成立しますように!』
そんなこと祈ってんじゃねぇ!!
「うるさっ」
「また一段と荒れてるなぁ今日は。」
俺の名前は瀧寺陽児。眉目秀麗、才色兼備、品行方正、頭脳明晰……プラス方向の四字熟語の殆どが悉く当てはまる優等生だ。当然ながらこっちが素。
今はこの学校で唯一俺の素を知ってる幼馴染み兼親友の2人と人気のない空き教室で昼飯中。
「いやだってお前ら聞かなかったわけ?あれ!何なんだよ!!どいつもこいつもよぉ!!」
「はいはい。」
「半ば自業自得みたいなもんじゃん…」
ふざけるでないわ。俺の何が悪いと言うんだ。
確かに張り合ってるのもこのキャラを選んだのも俺だが、この件に関しては俺は悪くねぇだろ!
いつの間にか独り歩きしてやがったんだよ!
「いやだってさぁ、高校生だよ僕ら。こんなに面白過ぎるトピックが身近にあって、しかもほぼ毎日情報が更新されるとか注目の的に決まってるじゃん。」
「そーだぞ。第一、お前が中学に上がる直前にラノベにハマってそこに出てくるヒーローみたいになるんだっつったのが始まりだろ?面倒ならやめりゃあ良いじゃねぇか。」
「箸で人をさすんじゃねぇ。」
あぁそうだよ。
結城、泰牙、お前らが言ってることは正論だよ。でもな
「今更素に戻れるわけねぇだろ!今戻ってみろ、俺が今まで頑張って築き上げてきたもんの8割は倒壊するわ!!」
俺は優等生で通ってる。先生にも生徒にも、だ。
そんな俺が、実は勉強嫌いで極力楽したい派でゲーム大好き人間な普通の男子高校生だとバレたら吊し上げられるわ!
「そんなことはないとおもうけど……」
「あるんだよ。」
「……まぁ良いけどよ。何で今日はそんなに荒れてんだお前?いつものことじゃねぇの。」
よくぞ聞いてくれたな、泰牙よ。
「決まってるだろ?」
ーズダダダダダダ
「え、怖っ。」
ーピロンピロンピロン
「あー、何々?」
『稲城の奴が「負けそうでヒヤヒヤしてるので」なんて言って煽ってきやがったからだよ!!しかもご丁寧に演技までしてなぁ!!!その後には名前呼び強制されたんだぞマジでふざけんじゃねぇわ!!そもそ名前呼びだって俺が前回のテストで負けたから断れなくなったんだぞつまり名前呼びは俺の敗北の証ってことだふざけんな!!何で名前を呼び呼ばれするだけで敗北を思い出さなきゃなんねぇんだよ!俺が嫌いなら素直に言えや遠回りに煽ってくるとかマジで何なんたよ!!前も言ったけどそろそろ憤死しかねないよフラストレーション溜まりすぎでばくはつしそうだよちきしょうが!』
『そもそも何だよ何で嫌いな奴に名前呼び強制してるわけワケわからなすぎて俺の頭のリソースが経るんだが!?嫌いな奴に親しげに名前呼ばれんのとか最早拷問じゃねぇの違うのもう稲城が何したいのかほんなかくてきにわから』
『わからねぇんだけど!?』
「メールにした理由は?」
「また誰かに聞かれたら変な噂立つだろうが…!」
「不憫だなこいつ。誤字酷すぎっけどまぁ言いたいことは伝わった。」
「何だかんだ最終的に稲城さんが理解できないってとこに落ち着く辺り陽児らしいよね。」
「あ?俺らしいって何だよ?」
何だ?万年2位の俺には稲城の考えてることなんてわかりっこねぇってか?…いや、結城はそんなこと言う奴じゃねぇな。
「だって、ねぇ?」
「お前、何だかんだ言って稲城さんのこと好きだよな。」
「は?」
今なんつったこいつ?
俺が?
稲城を?
好き?
………ほう、こいつさてはボケたな?いつもツッコミだからわかりにくいんだよな~泰牙のボケって。
「失礼なこと考えてる顔してるから言っとくけどボケじゃねぇかんな?本気だかんな?」
「は?」
いや、いやいやいやいや!
俺の?
どこが?
稲城のことを好きだって!?!?
「じゃあそれは何さ?」
「あ?どれ?」
「それだよ。その弁当は何処産だ?」
「稲城産に決まってんだろ?お前らも経緯知ってるよなぁ?おぉん?」
そう、俺は週の内水曜日だけ稲城が作った弁当を食べている。
………稲城が作った弁当を食べているっ!!!
何でだよマジでよぉ!!もう本当理解不能なんだわ可笑しいだろ色々と!!
何で嫌いな奴に弁当作ってくんの!?
「何なのそのチンピラ擬きな喋り方…毎回凄い顔して食べてるけどさ、美味しくないとか言わないよね?」
「バカうめぇわちきしょうが!」
「急にキレてくるの怖いんだけど。」
「2年になってから情緒不安定だよなこいつ。」
不安定にもなるわ!!
てか美味いのがネックなんだよ!毎回毎回ちょっと楽しみにしてる自分がいるのが腹立つんだよ!!
「そう言えばそれもテストに負けたからだっけ?」
「言うんじゃねぇ…」
「あぁ、前々回のやつな。過去一点差が開いたやつ。」
「言うなって言ったの聞こえなかったのかい泰牙君よぉ…!」
こいつらぁ…他人事だと思って!俺には死活問題なんだぞ!!
元々よくわからなかった稲城が最近輪にかけてよくわからん行動するせいで近頃何かにつけて稲城を連想しちまうんだよ最早勉強の妨害になりかけてんだよ何とかしろ!!!
「まぁさっきの話に戻るけどさ?そんなに稲城さんのこと嫌いなんだったらお弁当断れば良いじゃん。」
「そうだぞ。名前で呼ばなきゃ良いじゃねぇか。てかそのキャラやめりゃあ一発なんじゃねぇ?」
「かもね。稲城さん、素の陽児知らないんでしょ?幻滅してくれるかもよ?」
「ぬぐっ」
いや、それはそうなんだけどさぁ?
さっき言った通りね?
俺このキャラで来ちゃってるしさぁ?
稲城だけに素を見せるって言うのもね?
それはそれで特別感が出てバレたらネタにされそうとかさ?
色々考えちゃうわけよ?
しかも前提としてだね?
稲城は俺の事嫌いなわけでね?
そんな相手にこの素を見せたらさ?なにされるかわかんないっつーかさ?
「そう言うわけで俺はこのキャラを保ちつつ何とか稲城に一泡吹かせたいわけだが。」
「何がどういうわけでか全くわからないんだけど。」
「まぁ勝てば良いんじゃね?」
「しかないよね。と言うか、勝ってるんじゃないの?そりゃテストでは負けてるけど、陽児の方が足早いし力強いし。」
「まぁ身長もお前のが高いしな。テストはともかく、それ以外はまぁ勝ち目あんじゃね?」
「アホ!女子相手にフィジカルで勝ってて何が誇れると言うのか!!」
「その心は?」
確かに世には俺より足早い女子もいるよ!力強い奴もでかい奴もいるよ!特に海外行ったらめっちゃいるよ!!でもな!!!
「俺たちは性別が違うの!!身体の造りからしてちげーの!!元々持ってるホルモン的なのがちげーの!!そもそも小学校までただ走り回ってた俺と習い事めっちゃやってた稲城とじゃ基礎体力がちげーの!!体力測定の基準見たらわかるじゃろがい!平均身長見たらわかるじゃろがい!男子と女子で大体12センチ差あるんだよ!それで考えたら変わらねぇんだよ!!」
俺は179センチで稲城は167センチだぞ!
ジャスト12センチ差だぞ!
あと1センチあれば180の大台に乗るのに止まったし!
泰牙は186あるし!結城は175だけど俺たちの中で一番リア充してやがるし!
ふざけんな!!
縮め!!!爆ぜろ!!!
「あーね。」
「本当変なとこで真面目だなお前。」
「泰牙、こう言うのは真面目じゃなくてバカ正直って言うんだよ。」
「やかましいわ!!」
相変わらずナチュラルに失礼なこと言いやがんな結城の野郎。
「てかサラッと流してたけどよぉ。」
「あん?」
「陽児、稲城さんの事結局どうなのよ?嫌いなん?」
稲城のこと?
嫌いかって?んー…
「嫌い……では、ない?」
のか?俺?
「じゃあ好きなの?」
「んな訳あるか!」
好きな奴相手にこんだけバカスカギャーギャー言ってる奴って男女関係なくイタ過ぎんだろ!
「えー、じゃあ何?」
「…嫌い、ではねぇ。」
「さっきと一緒じゃね?」
いや、でもなぁ…好きか嫌いかで言ったらどっちでもないと言うか……あぁいや、嫌いではないし、人間としては尊敬できるスペックつーかあれなわけだから好きではあるのか?
…いやいや、好きではねぇよな?
「………まぁ良いや。それとさ、ずっと気になってたんだけど。」
「何?」
「稲城さんって、陽児のこと嫌いなの?」
「は?嫌いだろ?」
じゃなきゃあんだけ一々煽って来ないだろ。
「てかそもそも稲城って不真面目な奴苦手っつってたし。」
苦手ってことは好きではねぇだろ。どっちかっつーと嫌いなんじゃね?
俺の素がこっちで、こっちの俺はどう考えても不真面目寄りだ。
あ、でも素を見せた場合、ひょっとしたら生理的に無理とかで関わりがなくなる可能性が……まぁ生理的に無理とまでは行かずとも嫌いにはカテゴライズされるはずだ。
「それにあいつ、俺と話すときいっつも顔真っ赤にしてやがんだぞ?いつの間にかタメ語も使ってくるようになってるしよ。」
なんだコラ、俺には敬語は勿体ないってかコラ。
「………何でこんな斜め上の解釈してるの?」
「アホだからだろ。」
「急な罵倒はヤメロ!」
傷つくだろうが!
「急じゃないんだよなぁ。」
「諦めだ諦め。こいつにゃ通じねぇよ。」
「は???」
何なの?
俺泰牙と結城にハブられてるわけ?
2人で通じあってるのマジで何なの?泣くよ??
「…いつもはここら辺で終わってるけど今日はもうちょっと行ってみない?」
「いい加減じれってぇしな…良いぞ。」
「は?なんのこと?」
「……おい陽児、お前のソシャゲの推しキャラ、どんなんだっけ?」
「は?急に変わりすぎじゃね?まぁ良いけどよ。」
いい加減、稲城関連でムカムカし過ぎて動悸がしてきたからな。
「俺が推してんのはこの娘だな。」
俺はわりと推し変しやすいタイプなんだが、この娘だけは高校入学してちょっと経った時に出会ってからずっと推してる。だってドタイプなんだもの。
「………もうさぁ…」
「諦めんな結城、諦めたらそこで試合終了だぞ。」
「もうゴールしてるじゃん…」
「否定はしない。」
何の話だよ。てか泰牙、懐かしすぎるだろそれ?何年前よ?
「あー…ねぇ陽児、これ誰かに似てない?」
「あん?」
んー?そう言われてみれば……誰かに…似てる、ような…?
「稲城さんに似てね?」
「…確かに?」
長く艶やかな黒髪、翡翠色の瞳、白い肌に敬語……確かに稲城だな?
「この娘推してるんだよね?ってことはさぁ…」
「ってことは……」
つまり……はっ!?
「まさか!稲城って!」
「そうそう!ようやくかぁ。」
「いや待て結城、まだわからん。」
「え?でもこれはもう」
「あいつ俺の性癖把握した上で俺の事煽ってきてるってこと!?!?」
どんだけ策士だよ!!
俺のメンタルに地雷埋め込んできてんじゃねぇか!
情緒破壊しにきてますやん!?
「ほらな。」
「これはもうダメだ…」
「諦めたらそこで試合終了だぞ。」
「好きだねそれ…完膚なきまでに敗北してるじゃん…」
「それも否定はしない。」
「いや本当何なんだ」
ーピロン
「メール?」
「んー?…ゲッ!」
『悪い!稲城!瀧寺!連絡事項あるの忘れてた!!配布する紙もあるから生徒会室来てくれ!』
「誰から?」
「生徒会の顧問の先生から。生徒会室集合だってよ。」
「ありゃま。」
「副会長は大変だねぇ。」
「おうよ……っと、食い終わってて良かった。わり、行くわ。」
「おー、転ぶなよ。」
「ちゃんと猫連れていきなよ~。」
「うるせいっ!」
言われなくても最早癖になってっから自動的に付いてくんだよ!
「うしっ、送信、と。」
「どうしたの?」
「宍戸に連絡~。」
「あぁ、なるほど。」
ーピロンッ
「……なぁ、あいつマジでその内刺されねぇか心配なんだけど?」
「何て書いてあったのさ…刺してくる相手が消滅するレベルで端から見たら相思相愛だから大丈夫でしょ。そもそも素のスペック高いし。まぁ努力の賜物でもあるけど。」
「グループで会話してっから後で見りゃわかるさ…あいつが食ってた弁当見たか?好きなもんばっかりだったぞ。」
「しかも陸上部だしお腹すくだろうしって言う気遣いがひしひしと伝わってくるような2段弁当でおかずはガッツリ系だったしね。」
「バランスも取れてそうだったしな。」
「毎回そうだよね。稲城さん、あんまり食べてるイメージないって言うか実際少食だし、自分のやつの倍くらい時間かけてるんじゃない?」
「だろうな。それにあいつ、俺達に絶対食わせないしな。」
「無自覚独占欲だよねぇ。洗って返すってとこ、普通じゃんって思うけどあれ無意識で関わり持とうとしてない?」
「絶対してるわ。まぁ普通に洗って返すのって相手が嫌がらなけりゃ普通だけどな。」
「ね。あれだけ美味しそうだったらそりゃ感謝の気持ち込めて洗って返すよね。にしても本当稲城さんて凄くない?」
「あー、宍戸が言ってたけど、稲城さん、わりと料理苦手だったらしいぞ?」
「マジで?」
「おう。」
「…料理苦手な人が飾り切りしたり、煮物とか煮崩れせずに作れたりするもんなの?」
「あいつに食わせるために相当練習したらしいわ。女子の何人かに教えてもらったんだと。それで形になったからあの勝負持ちかけたらしい。…マジで何で気づかねぇのあいつ?ハートとか露骨すぎんだろ。」
「あの勝負って前々回の?確かに唐突だったね…まぁそんな裏話があれば納得だよ。…あぁ、だから去年のバレンタインは既製品で今年のは手作りだったわけだ。……まぁ両方本命だって、見るからに主張してたけどね。手作りのに至ってはこれまたハートだったし。」
「見事にスルーしてたけどなあいつ。稲城さんも面と向かって伝える勇気はねぇみたいだし。」
「バレンタインと言えば、ホワイトデーは流石に不憫だったね、稲城さん。」
「あー、上げて落とされたやつな。」
「陽児が自分で選んできたのがまさかのキャンディーって言うね。」
「俺あの時までそれの意味知らなかったんだよな~……あれで強制的に知ることんなったけど。」
「…2人のテンションの差がねぇ?しかも理由は稲城さんがアメ好きだって言ってたからって言う…まぁ選び方としては正しいんだけどタイミングが最悪だったよね。」
「あれがきっかけでひっそり見守ってた俺ら5人が結託したからなぁ…ある意味プラスととらえることも出来るが?」
「結託って…だとしても稲城さんが被ったマイナスの方が大きいでしょあれは…本当陽児は鋭いのか鈍感なのか。」
「こと恋愛に関しては間違いなく鈍感だろうよ。あの陽児が動かないと進展しないって相当だぜ?もういっそ稲城さんが陽児に告白すれば解決じゃね?流石のあいつも告白されりゃあ嫌われてるなんて言う謎の勘違いは覚めるだろ?陽児をどうこうじゃなくて稲城さんに頑張ってもらう方向にシフトしねぇ?」
「稲城さんは結構頑張ってると思うけど……本当にね。そう言うとこまでラノベ主人公に染まらなくてもよかったんだけどなぁ…」
「マジでな。」
「と言うか、その場合一番の問題は陽児が自覚してないことじゃなくて、稲城さんが両片想いなこの状況を片想いだと認識してる現状だと思うんだけど。」
「それなぁ~。」
ーーーーーーーーーーー
「緋那ちゃ~ん!」
「おぉう!春、どしたの?」
私の名前は稲城春。この学校の生徒会長で、その…ふ、副会長の瀧寺陽児君に片想いしている女子高生。
こちらは宍戸緋那ちゃん。私の幼馴染みで親友。
「春ちゃんは今日も激しいねぇ。」
「何があったのよ今度は…」
「深雪ちゃん…光ちゃん……」
この2人は高校で出会った門野深雪ちゃんと双葉光ちゃん。
1年生の時隣の席だったことから深雪ちゃんと仲良くなり、それから光ちゃんとも仲良くなった……2人も、私にとって大事な親友。
「はいはい、皆いるからね~。ほら、話してみな?」
「緋那ちゃん…」
優しい…お姉ちゃん……
「まぁどうせ瀧寺関連でしょ。テスト結果一緒に見に行ったんじゃなかったっけ?」
ひ、光ちゃん鋭い…
「あ、瀧寺くんにとうとう告白されたとか!?」
「ぴぇ!?」
な、なななな、な、なんて事言うの深雪ちゃん!?しょ、しょんなこと…
「いや、それはないと思うな。そんなことあったらもっとだらしない顔してるって。まぁ今も緩みきってるけどさ。」
「ひ、緋那ちゃぁん」
うぅ…緋那ちゃんが容赦ないよぉ……否定できないけどぉ…いやでも片想いしてる人に告白されたら誰だってだらしない顔するよね!?
私だけじゃないよね!?
「それもそっかぁ!」
「で、どうしたの?瀧寺に何か言われた?」
そう言いながらお弁当を広げ始める光ちゃん…何だかんだ親身に聞いてくれるんだよね。優しい……
「は、は……はは、春、って」
「はい?」
「春って呼んでくれましたぁ…しかもニコって笑って手もふってくれて……お、お弁当箱も洗って返してくれるって…迷惑じゃないかと思ってたけど……好きぃ…!!」
まぁ一緒に見に行こうって誘うので精一杯で最早周りの様子どころか何話したのかさえほとんど記憶にないんだけど…変なこと言ってませんように!
「何だいつものか。」
「春ちゃん前もそれ言ってたよぉ?」
「春、そろそろ進みなさい。」
「ふぐっ」
みんな厳しすぎない?
「いや本当に。好きならもうちょっと積極的に行かない?」
「こ、これ以上ですか!?む、無理です…!」
これ、これ以上って…もう直接告白するとか、だ、抱きつく、とか…!?
「まぁまぁ、春ちゃんは春ちゃんなりに頑張ってるよぉ?と言うかバレンタインにハートのチョコ渡して、男子では唯一の名前呼びして、あたしら相手でもしないのに瀧寺くんにはたま~に敬語外して話して、お弁当も作って、何かにつけて誘ってデートして……あれ?何で付き合ってないの?」
「私が聞きたいです!!」
何でなんですか!
本当に何でなんですか陽児君!!
私、自慢じゃないけど大分わかりやすいと思うんだけどな!?
今日のお弁当にも入ってるハートに切った人参とか!バレンタインに渡したハートの手作りチョコ……とか…
「うぅ…」
「え、何どうしたの?」
「思い出しダメージを受けたと見た。」
「あぁ、ホワイトデー?」
「……あれは酷いと思います…」
「まあ春、あの時珍しく結構ガチ泣きしてたもんね。」
「上げて落とすのお手本みたいな感じだったからねぇ。」
「流石にあれは同情を禁じ得なかったわね。」
そうだ。
あれは酷い。酷すぎる。
ホワイトデーにキャンディーって!期待しちゃうのは私だけじゃないよね!?
バレンタインに渡したのもハートではなかったけども!滅茶苦茶本命だったし!
わざわざ呼び出して渡したし!?
それのお返しがキャンディーで!?期待しない方がおかしいよね!?
「た、確かに…確かにアメは好きですけど…!!」
えぇ、えぇ!好きですよ!
甘いし!?美味しいし!?貰えたのは凄く嬉しいよ!?
しかも好きな人からだし!!
好きな人が私の好きなものくれたの凄い嬉しいよ!?
覚えててくれたの滅茶苦茶幸せだよ!?
でも、でもね、陽児君……本命チョコ渡した相手に意味も知らずキャンディーを渡してくるのはヤバイと思うの!
意を決して意味を聞いた私に『あれ?ごめん、嫌いだったかな?』はないと思うの!
「えぇぇぇん……」
「あー、よしよし。」
「崩れ落ちてたもんねぇ、あのときぃっ!」
「え?何で知ってるんですか?」
陽児君から聞いたのかな?
「…その後瀧寺が肩貸してくれたって言って話してくれたでしょ?その話の下りで言ってたわよ、思わず崩れ落ちちゃったって。」
「あ、なるほど…」
そうなんだよね…あの後陽児君、肩かして保健室まで連れてってくれたんだよね。
体調は悪くなかったけど精神的にやられたから何気にありがたかったし…まぁ肩貸してくれたから大体回復したけど……もう本当優しいよ…好きすぎる…!
それにそこで先生に相談も出来たし…また行こうかなぁ?先生のアドバイスなんだよね、陽児君にお弁当作ったり、名前呼びしたりして意識させようって言うの。
……成果はあんまり出てないけど。
今のところ私が嬉しくて幸せなだけ…いや十分かも知れないけどね?
「まぁそれ話してる時からしてテンション忙しそうだったし。察するに余りあるよ。」
「うぅ…」
もう最近のお昼はずっとこんな感じだ。
私が陽児君のことをみんなに相談して、結局は慰めてもらう。
先生やみんなからのアドバイスも沢山もらってるのに全然進めてる気がしないし…陽児君、鈍感過ぎるよぉ…あっ!
それとも私にそっち方面での興味がない…とか!?
え、嫌すぎる!!普通にフラれるより嫌だよ!?
「何で急に絶望してるの?」
「春ちゃん面白いねぇ。」
「さっきからずっと百面相してるわね。」
「ムービーでとってグループに上げちゃおうかな。」
「やめてください!?」
ーピロンッ
「おろ?春ちゃんメール?」
「あ、えぇ…えっと……」
『悪い!稲城!瀧寺!連絡事項あるの忘れてた!!配布する紙もあるから生徒会室来てくれ!』
顧問の枝岸先生からだった。
「誰から?」
「枝岸先生からです。何やら連絡事項があったようで、私と陽児君をご指名ですね。」
と言うことは…また陽児君と会える!
ありがとうございます枝岸先生!
「会長は忙しいわね。行ってらっしゃい。」
「頑張ってね~。」
「はい!ありがとうございます!」
お弁当を食べ終えていて良かった。
今から生徒会室で説明を受けてもしかしたら配布物ももらって…となるとお昼休みは潰れる可能性が高い。
それに、陽児君は食べるのも早いからきっと食べ終えているはず。
ならば、私も食べ終えていればお互い気兼ねなく仕事に励める。
「よし、頑張ろ。」
いつか陽児君とお付き合いできる日が来るように、まずは目の前のことを一つずつ!
「みぃ~ゆぅ~きぃ~?」
「わぁごめんなさいごめんなさい!うっかりしてたんだってばぁ!」
「あれをうっかりで済ませないでよ…本当に焦ったのよ?」
「ごめんってばぁ…と言うか緋那ちゃん、流石に足踏むのは酷くない?」
「仕方なくない?あのままだったら余計にボロ出しそうだったし。光が上手く誤魔化してくれて、春が深く突っ込まない子だから良かったものの…君、春に隠す気ある?」
「ごめんてばぁ!」
「まぁ、そこら辺にしといてあげなさい緋那。」
「光ちゃん!」
「深雪のこれは今に始まったことじゃないわ。もうこれに関しては個性だと思ってスルーするのが一番よ。」
「光ちゃん!?」
「うーん、まぁそうかぁ…」
「うぅ、酷いなぁ……ところでさ?」
「何?」
「さっきも言ったけど、何であの2人付き合ってないのぉ?完全にカップルの行動じゃない?」
「…仕方ないわよ。春が最後の一歩を踏み出せないヘタレで、瀧寺が超弩級の鈍感なんだから。」
「的場情報、瀧寺君って無自覚らしいよ。」
「女の敵だぁ…」
「その場合、春は確実に擁護に回るけどね?」
「何だかんだ言いつつベタ惚れだからね。」
「何だかんだって言うか、バレバレすぎない?」
「本当何で気付かないんだか…」
「あぁは言ってたけど、もう残ってるのは告白ぐらいしかないよねぇ。」
「当の本人は『3年間1位を守りきれたら陽児君に告白、します!』とか言ってたけど?」
「あら、良かったわね。今流れてる噂通りに事が運ぶとしたらどっちに転んでもあの2人は付き合うことになりそう。」
「光、棒読みすぎない?」
「だって瀧寺が自覚してない内はあんな噂、達成のしようがないでしょ?」
「最早学校中が知ってるけど…何でか春はそれ知らないんだよなぁ……」
「知ってたら飛び上がって喜んでるよ、春ちゃんは。」
「いっそ教えてみる?」
「間違いなく狂喜乱舞して変な方向に暴走するわよあの子。」
「それかショートしてしばらく使い物にならなくなっちゃうんじゃない?」
「どっちにしろ告白はできなさそうだなぁ。」
「まぁ春って意外と頑固だからね。人に宣言したからにはそれをやり遂げようとするはず。」
「つまり教えても現状変わらないってことかぁ…」
「まぁ、あの噂を聞いたところからといって手は抜かないでしょうけどね。」
「そこが春の良いところ。…ってなると瀧寺君がこのまま自覚しないって言う仮定で話すとやっぱり春が1位のままが一番良いよね?」
「今の瀧寺は1位を取ったところで春に告白はしないわよ。賭けても良いわ。」
「私達5人でやる分には賭け成立しないから却下ね。やっぱ春から行かないとか。」
「春ちゃん、告白まがいのこと、既にしてるんだけどね?」
「もう全校放送で愛を叫ばせたらどうかしら?」
「その時は協力するよぉ~?…まぁそれが出来るならもう既に付き合えてる気がするけど。」
「現状だと打つ手無しなのか……ん?」
ーピロンッ
「お?誰から?」
「的場から…あーらー……」
「え?何?」
「んー………グループで話してるし見てみたら?」
「どれどれぇ?」
「………不憫ね、春。」
「…帰ってきたら優しくしてあげよっかぁ。」
完。
瀧寺陽児:主人公。超鈍感
稲城春:主人公?ヒロイン?不憫
的場泰牙:陽児の親友その1。バスケ部
平谷結城:陽児の親友その2。リア充
宍戸緋那:春の親友その1。バスケ部マネ
門野深雪:春の親友その2。放送部
双葉光:春の親友その3。結城のお相手
枝岸先生:生徒会の顧問。2人を公認にした犯人
結城×光のきっかけはお察し。緋那と泰牙は部活同じだから普通に仲良し。