第3話 ベランダから侵入者が!
それは耳の短い狐のような頭に、レンガ模様の胴体をしていた。
腕は短めの毛並みで動かしやすそうだが、もこもこ起毛した質感は着ぐるみらしい感じがある。
透明なガラス一枚隔て直立する紫色の怪物を見上げ、フィスカはピタリと動きを止めた。
目を細め、訝しげな表情を狐の着ぐるみに向けている。
そのまま二人は、互いを観察するように、じっと見つめ合う。
勇旗も体を起こし、その様子をうかがう。
何だなんだ、警察が突入しに来たんじゃないのか?
全くもって予想外な来客に、理解は及ばずとも、勇旗の脳は全力で危険信号を発し続けている。
(前髪パッつんガールとのどたばた生活日記が早くも打ち切り寸前だ! デンジャラスなシチュエーションからの逃避で未来への希望的観測をもった受け身をとらないと! フィスカ先生の次回作にご期待下さい! バタンキュー! )
心は叱咤激励し、この場からの逃走を促すが、完全に腰が抜けてしまい、手足に力がうまく入らない。
高い梯子はしごのてっぺんへ登ったみたいに、背中と足の裏とにピリリと歪いびつな寒気が走る。
勇旗の心臓は、自分でその鼓動が聴こえるほどに速く脈打っていた。
しかし、いつまでも怯えては居られない。
この部屋の主として、フィスカの保護者(仮)として、状況調査に乗り出さねば。
勇旗はフローリングの床についた掌にぐっと力を込め、震えた声で
「なぁフィスカ、そいつはお前の知り合い……なのか? 」と言いながらようやく立ち上がる。
「いや、全く。 この奇怪な生き物は知り合いではないよ。 ……それ。かちゃりっと」
「だったら今なぜベランダの鍵を開けた?! 」
「魔が差してつい、ただの出来心だったんです……」
「ちょっ! この状況で犯罪者っぽい感じだすなよ! あとそれ理由として認められないからな! 」
フィスカに返事を返しながら、慌てて窓辺へスプリントダッシュ。
すぐさまベランダの再施錠を試みるが、
「だって今日は天気がいいよ? そろそろ夏に入るらしいし、日焼けへの対策意識は、早いうちから持ったほうがいいんじゃない? 」
勇旗の前にバっと両腕を広げながら、ひょこひょことおでこをちらつかせて、進路妨害をするフィスカ選手。
素晴らしい前髪だ! 細く整った眉に上目遣いの表情が、よりいっそう、そのパッつんの魅力を高めている!
淡藤色の甘い誘惑に、思わず伸ばした手をそこへ持っていきたくなる勇旗。
(―――堪えろ! 俺! )
「どう見たって対策バッチリだろ! いいから鍵閉め―― 」
『ガラガラガラッ! ピシャッ!』
勇旗の伸ばした指先が銀色のアルミフレームに迫ったところで、レールの滑る軽やかな音が、モノトーンの部屋に響き渡る。
サッシが開くと同時に、涼しい外気が一気に部屋の奥まで吹き込んだ。
少し排気ガスっぽくて荒々しい風だけれど、長く暗い地下トンネルを抜けたときみたいに、不思議と爽やかな感じがする。
そんな明るい感情が過よぎったのも束の間、再び場に緊張感が走る。
紫の怪物がいきなりフィスカに抱きついたのだ。
「フィスカ! 」
またもや慌てる勇旗を横目に、フィスカは至って冷静な顔をして
『ガバッ!!』
紫の怪物に抱きつき返した。
「フィスカ?! 」
(こいつは、どうしたらいい? )
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