第13話 元気な新人◆鶴橋陽◆
13~15話はフィスカ達の居場所から視点が切り替わります。
時刻は数分さかのぼり、雰囲気も少し変わります。
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大通りにつながる駅の東口広場には、絨毯のようにびっしりと、人が並んでいた。
警察、軍人、肉まん屋の主人、そして幼い子供である。
「いいか! 黄色い杭から先へは、絶対に入るな! 」
顔のいかつい偉そうな髭男が、肉まんをもしゃもしゃさせながら声を張り上げる。
がっちりとしていながら絞られた、筋骨隆々の体に、太眉の力強い目元をした男だ。
「「はっ! 」」
彼の眼前で完璧な隊列を成した集団は、威勢の良い返事を返す。
急に流れてきた厚い雲によって日が陰り始め、風が少し出てきた。
張り詰めた緊張感の中、エプロン姿をした肉まん屋の女主人だけが平然とした柔和な表情で、人の合間を縫い、肉まんを配って歩いている。
「はいどうぞ! ほかほかだよ~ ほらそっちも、食べなよ食べな~ 」
主人は20代後半といったところだろうか、長い髪を後ろでポニーテールに結わえており、金に黒い宝石の嵌ったシンプルな形のイヤリングを着けている。
仕事中だからと、最初は受け取らない者がほとんどだったが、偉そうな髭の男が食べ始めると、それを拒む者は少なくなった。
完璧な整列のまま、皆一様に無言で肉まんを頬張る様子は、なかなかに異様だ。
本来ほっこりした存在である肉まんすらも、固い表情で食べざるを得ないことで、その緊迫感と異様な雰囲気が際立っていた。
その違和感を自覚する者はいても、それを声に出すことはなかった。
皆、口の中が肉まんでいっぱいだからである。
もちろん中には、真面目な軍人然として、肉まんを口にしない人間もいた。
隊列の一番端で黄色い大きな杭の側に控える女性、◆鶴橋陽もその1人。
「初年度の訓練より先に、実戦を迎えるなんて……私、ついてない―――いやいや、光栄なことだって! うん、しっかり頑張ろう! 」
自己暗示のように前向きな言葉を吐く陽は、ほっぺたを空気で膨らませて、その表情は一見して活力に満ち溢れている。
(軍人らしからぬ華奢な体躯に、素早い動きを阻害しそうな魅惑的なスタイル)と
密かに同職場の女性陣から、羨みの対象として噂される彼女だが、新人ながらに心根はキッチリカッチリ軍人のそれのつもりであった。
「それにしても、この子達は何のために居るんだろ? 」
隣に集められ、体育座りしている子供達を見ながら、彼女はそう呟く。
試験はトップ成績の鶴橋陽に与えられた仕事は、
【子供達の様子を《《観察》》し、変化があればまとめて報告すること】であった。
世話をしろとか、面倒を見ろではなく、《《観察》》というところに彼女はいささか違和感を覚えるも、それについて追求しようとはならなかった。
「まぁ、新人が仕事が貰えて、それが明確ってのはいいことだよね、うん」
と、そのくらいの認識だった。
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