第12話 黒い◆ダリタキガル◆
気付くと辺りのコンクリート壁は、隙間無く黒い汚れで埋め尽くされた。
黒い生き物の動きは、最初はゆっくりだったが、その数が増えるにつれて、少しずつ素早くなっていく。
まるで光を反射しない不気味で真っ黒な高架下は、現実のものとは思えない。
黒い生き物はさらにスピードを上げて、一気にどっとヴァーサに押し寄せたかと思えば、次の瞬間その勢いがぴたりと止まった。
あっという間に地面は元の、ざらざらしたコンクリートの質感に戻り、それが這い出てくることはなくなった。
ヴァーサを覆っていた個体もいつの間にか居なくなり、かわりに着ぐるみの端から、絵の具の筆を洗った水のような汚れた液体が垂れている。
「あれは、あの黒いのはどこに消えたんだ? フィスカ」と勇旗が訊くと
「ほとんどは情報を一部残して死んでしまう。 今回は多すぎたから全部を生け捕りにする余裕もないし。 お、まだ一匹いたな、ヴァーサに触れた瞬間の境目を見てみるといい 」
「境目? 」
目を細めると、黒い生き物がヴァーサに触れた瞬間、空気に混ざるように、透明になって消えていくのが見えた。
(死んだ? じゃあ、今ので黒いのを駆除できたってことか? )
フィスカも、作業の終了に安堵したのか、すぅ、と大きく深呼吸したと思えば
「黒色のやつは、死ぬ時に良い匂いがするんだよ 」
「匂い? 」
「コーヒーとかチョコみたいな 」
「ふーん。 そんな情報より、あれが何かを教えろよ 」
「そんなとは何だ! いいか? 勇旗が食べたチョコ。 あれにもさっきの奴のどk―――抽出物が入っていたのだ。 ダリタキガル、すごいだろう! 」
「何食わせてんだお前はぁ?! ていうか、今どくって言いかけたよな?! 聞き逃さないからな?! 」
黒いのはすごくねぇよ! すごいのはこいつの度胸だけだ!
こいつは俺を殺す気か?!
「まぁまぁ、落ち着いて。 チョコ食べるか? 」
「食べる訳ねぇだろ! そもそもなんで食わせたんだよ! 」
「栄養豊富《《かも》》しれないって聞いたから 」
「かも?! 不確定情報で動くな! 」
「ぜんぶ冗談だよ☆ 」
「な~んだ、ほんとに毒を盛られたのかと………ん? おい 」
フィスカの目が泳いでいる。
あっ、これ絶対に冗談じゃないな? なにかを隠してるときの顔だなぁ?
これよりフィスカ・ルンダースの裁判を行い――「いいぞ!! バッチリだ! 」
勇旗の脳内で執行されたフィスカ被告の有罪判決は、直前にヴァーサの声で中断された。
「え、なんか、色変わってないですか?」
「いいぞヴァーサ。 これぞ黒ダリタキガルの力だな! 」
ヴァーサ軽く屈むと、そのままジャンプして―――
「って! うおぉl! ……どうなってんだ」
斜め前方へ飛び出した黒い着ぐるみは、1歩で10メートルはあろう距離を飛・び・越・え・る。
そのまま風を切って、大通りの方へ吹っ飛んでいった。
(あっという間で、よく見れなかったが、毛の紫色が濃くなっていた気がする)
「お前達は…… というか、あの《《黒いの》》は? 」
「ふっ、勇旗もきちんと、最後まで《《見えていた》》ようだな」
「いやあの量がこの距離で見えなかったら病気だろ」
そうか! と手のひらにぽんと拳を置き、誰に対してか納得の決めポーズをとるフィスカ。
「あれこそ『あれこそが特定極秘隔離危険生物ー情報記憶疑似生命体! ダリタキガルだ! 』」
会話に割り込んだのは通話先のリエット。
フィスカもそれを気にしないで『どやぁ』と文字が見えるほどの得意顔だ。
被せて喋ったリエットも、スマホの向こうできっと同じ顔をしている。
え~っと、なんだって……? はぁ……。勇旗は頭が痛そうに額に手をあて、ため息をする。
「とりあえず生命なのか疑似生命なのか、のとこから《《やさしく》》説明してくれ 」
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