表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

9.合鍵

「お母さん、優しそうな人だったね」

「そう? 母さんは怒ると結構怖いんだよ?」

 そう言って一樹は笑った。


 食卓には私の作ったカレーと、ちぎったレタスとゆで卵で作ったサラダ、野菜スープが並んでいる。

 一樹の家で食事を作ることも増えてきて、いくつか私の買い足した調味料がキッチンに置かれている。学校が終わってバイトをした日は自分のアパートに帰ったが、バイトが休みの日は一樹のマンションに来ることが増えていた。


「今日のご飯もおいしいよ。ありがとう、七海さん」

「……良かった」

 作ったものを温かいうちに、おいしそうに、嬉しそうに食べてもらえることが、こんなに心が温かくなることだって、私は知らなかった。


二人で過ごす時間を重ねる間に愛しい、という気持ちが私にも芽生えてきた。だけど、お互いにお金で買ったこと、買われたことを考えると、その気持ちを素直に認める気にはなれない。


「あ、そうだ。七海さんに渡したいものがあるんだ」

「何?」

 一樹は食堂の脇に歩いていくと、置いてあったカバンから何かを取り出した。

「七海さん、これ、もらってくれる?」

「……カード?」


「うちのマンションのカードキー。暗証番号は……」

「ちょ、ちょっと待って! そんな大事なもの、受け取れない!」

「大事だから、君にもらってほしいんだ……それとも、迷惑?」

「迷惑なんて……」

 私はカードキーを受け取ると、財布にしまった。


「恋人なら、合鍵くらいもっているよね」

 私はそういうことかと、がっかりして、がっかりした自分に驚いた。

「……分かった」

「よかった、受け取ってくれて」

 一樹の笑顔を、素直に喜べない。


 その「よかった」は、どういう意味なのだろう。

 

恋人のふりを続けてくれて「よかった」なのか、本当に合鍵を持てる仲になれたことが「よかった」のか。私には一樹の心が、わからない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ