表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

百合の守り手

 短編として書いてますが、応募している企画の文字数制限のためであり、後日書き直して長編にする予定です。続きが書きたいなぁってなったので…


精暦280年5月6日17:08

ーーレザルド王国

   ローゼンセイル公爵領

    港町ガーイウス

     冒険者ギルド受付ーー


「お帰りなさい、今日も無事に帰ってきたわね。ガイル、エア。」


 ギルドで依頼を選んで出発したのが今朝の8時頃だったからまあ、想定時間内に帰ってこれたな。声をかけてきたのは元々は同じ冒険者パーティーだったセリー、今はギルドのカウンターの向こう側で冒険者を待つ受付嬢になっている。

 ヒーラーとしても優秀であり、優しげなオーラを纏っているため、一部の冒険者にはママと言われていたりする。まあ、髪型も水色の長髪をサイドテールにしていて、確かに母性が感じられるだろう、143cmの身長を除けば…


「一人でも余裕な依頼内容だったから怪我のしようがないわ。」


「そうは言っても、油断したらどんな依頼でもすぐ怪我するからね!」 



 ちなみに俺の隣にいるエアという女性はセミロングの金髪をハーフアップに編み込んでいる現在のパーティーメンバーであり、セリーと話しているのを俺は黙って聞いている。農家の次男として産まれ、16歳から10年近く軍人として頑張ってきたが、魔人との戦争が終結したのをきっかけに退役したのだが、元々は無口で黙々と畑作業に向き合う生活が好きだったのだ、軍人を退役した後の冒険者生活では無口でいい場面はひたすらに黙りこくることを決めている。

 ということで、黙っている内に会話が進み、


「では、今回の報酬はこちらになります。」


「セリーいつも有難うございます、このあと食事に行きませんか?」

 トレーに載せられた貨幣が入った2つの袋を差し出すセリーからエアが受け取り、残った1つを掴み俺は懐に仕舞う。

 さて、軍で結構功績を残せた俺の退役時の給金で買ったマイホームに帰ろう…今はパーティーハウス扱いでエアも住んでいるが……なんなら冒険者を引退したはずなのに今も住んでいるセリーがいるため、3LDKのマイホームは一部屋しか使えない現状だ。リビングにもあまりいることはできない、女性が多い家のリビングほど居づらいところはない。

 ギルドを出て夕飯を買って帰ろうと思いながら歩いているが食べて帰った方がいいだろうか?





「行ってしまいましたねガイルさん」


 どこか寂しげな様子のセリーさん、やはりガイルのことが気になるのだろうか、私にも振り向いて欲しいのだけれど…とりあえず食事に誘おう、そして断られても仕事が終わるまでギルドで待っていよう。どうせ帰る場所は同じなのだから…

「そうですね、では二人きりで今からディナーに行きましょう。」


「行きませんよ、まだギルドの勤務時間中ですし、エアさんも依頼を達成してお疲れでしょう?今日も私の仕事が終わるまで待っていなくていいですよ。」


「いえ、好きでしていることですので、今日も待っています。」


「そうですか…ではお仕事に戻りますので。」


 カウンターの奥に引っ込んでいくセリーさんを名残惜しげに見つつ、ギルドに併設している酒場の特等席を目指す。そうギルドカウンターを正面に見ることができる席へ…


「エア!オレらの席で飲まねぇか?」


 私の邪魔をするのは誰…無視しよう知らない人だ。

「…」


「おい、エア!無視するなよ、昔組んだ仲だろー」

 6人で座れるテーブル席で酒を飲みながら騒いでいた5人パーティーの内の1人が立ち上がり、こちらの進路を塞ぐようにして話しかけてくる。

「知らない誰?」


「オレだよオレ!」


 邪魔なこの男をどう倒そうか思案しようとした所、同じ席から歩み寄って来た魔法使いの妖艶なお姉さんが間に入ってくる。

「はいはいごめんなさいねぇ6年前、見習いの頃に共同依頼を受けただけだそうよ。そうでしょバート?」


「お、おう、そうだよ…」


「私達、今日久しぶりに王都からこっちに帰ってきたからこいつも調子乗ってるのよ、本当にごめんない…」


 魔法使いの装備をしているお姉さんは暗い色合いの服装で揃えているけれど、ロングスカートに深いスリットがあり、艶めかしい御御足を覗かせている。ぜひお近づきになりたい。

「気にしてない、あなたのお名前は?」


「あら、私のことが気になるの?イリーナっていうの…よろしくね?」


「オレはバートだ!Aランクにこの間なったんだぜ!」


「イリーナ…よろしく……イリーナもAランク?」


「ええ、そうよ私達業炎の燈火は全員Aランクなの」


「そう…私はBランクなのだけれど、仲良くしてくれるだろうか?」


 黒く艶のある長髪を左手ではらいながら笑顔で右手を差し出してくれる。

「もちろんよ、エアあなたのことはこのバートが酒の席で話題にしてたから興味があったのよ。同じくらいに冒険者登録した子にかなり強い人がいてそれでいて美しい人だったーっていつも言ってたもの。」


 イリーナの横で身悶えている赤髪短髪大男は放置して、イリーナの事を見つめる。

「これからよろしく…でも今日は大事な用事があるからこれで失礼する。」


「そう、残念ね…私達は2ヶ月くらいこっちに逗留してるからどこかで食事でもしましょうね」


 イリーナに会釈してセリーと目が合う席を確保する。これから3時間ずっと眺めて待っていればあっという間に過ぎ去るこの時間を楽しもう。




 ギルドを出た俺は伯父の商会が食品を卸している関係で知った食事処で夕飯を食べ、その足で家に帰らず伯父の家に泊まることにした。依頼を達成して帰還した日はエアからセリーと二人きりにしてほしいと頼まれているからだ。俺としてもエアとセリーが仲良く過ごしてもらうのは構わない、男がいない環境で女性同士過ごしたい時もあるだろう、パーティーリーダーとして、家くらい貸してあげるのもわけない。

 それに、伯父は行商人として成り上がり、小さいけれど商館をこの港町に建てて、行商人の部下を多数各地に派遣している会頭だ。よく借りる客間のベットが気持ちいいから俺としても喜ばしい。

 伯父と酒を酌み交わすのは伯父の仕事が忙しくない冬期限定なのだが、今日は珍しく飲みに誘われた。ある程度お酒が進み、家族の愚痴を聞かされる。

「ガイルゥ~お前さんも家庭を持つとわかるぞぉ〜嫁になりそう娘はおらんのかぁ?」


「もう俺も38になるし、冒険者やってる内は結婚する気はないですよ。」


「いやいや、男ならまだ結婚できるさ、なんならうちで働くか?行商人の護衛なら何年もやってきただろうし、行商できるだろう?」


「商売は遠慮しておくよ、軍人として長かったから体を動かす方が楽だしね。」


「そうだなぁ、まあ無理にとは言わんがガイルは有望株だろう?持ち家もあるし、軍での功績から払われた報酬金も残っておるだろう、それに大戦の英雄フライド将軍の紹介状も取ってあるんだろ?それがあれば王城勤務の兵士になれるし、王都の衛兵なら管理職にでもすぐなれるだろう。」


「いや、フライド将軍のお手を煩わせてしまいますし、貴族と関わるような仕事は苦手なんですよ。」


「戦場で貴族出身の横柄な上官でもいたんだな?」


「ええ、まあ部下共々無策で突撃させられそうになったことが何度かあったので…」


「お、おう…すまんなトラウマを思い出させちまった、ほれこれ食べてみな昔行商してた時に現地で美味かったやつを取り寄せたんだ。」


 差し出された皿にはフライド将軍が好物だといいながら指揮所でよく食べていた料理だった。確か名前はポテトフライ…

「あ、頂きます。」





 伯父が限界まで飲んだところで伯父の奥さんによって解散になったから部屋のベットを堪能しよう。翌朝は二日酔いもなく、すっきりとした目覚めだ。ベッドを名残惜しみながら立ち上がり部屋を出る。朝食は遠慮して、叔父の家を出た。

 パーティーハウスと化している我が家に帰るとリビングのテーブルに酒盛りの形跡がある。そのテーブルには、セリーからの書き置きで

「エアがお酒をがぶ飲みしてすぐ酔い潰れてしまったので、お部屋に運んでおいたけれど、テーブルのお片付けできてなくてごめんなさいね、今日は私もお休みだったのだけれど、ギルドから緊急招集が掛けられたので先に行っています。高ランク冒険者の方にも後ほど召集令が出ると思われます。」


 何だ?残党の魔人でも見つかったか?

とりあえず、エアを起こしておかないといけないか。




「さて、この町で集められるBランク以上の冒険者諸君に集まってもらった理由だが、本日午後この国レザルド王国と同盟関係にあるブラッティア王国から大使の方が海路でいらっしゃる、そのためここガーイウスから王城までの道中を護衛してもらいたい。勿論、レザルド王国側やブラッティア王国側の護衛もいるが中立の立場であるギルドからも人員が欲しいとの要望が出されたため今回はこのような対応となった。人選としては冒険者7名とギルド職員1名の派遣を考えている。」

 ガーイウス支部のギルド長が話す内容を吟味しつつ、会議室にいるメンツを確認する。

 Bランクは俺とエア、そして、6人パーティーのリーダーであるジュールしかいない。他のBランク冒険者は出払っているか護衛に向かない奴は省かれた形なのだろう。

 Aランクの方は遠征に出ているから不在であるため、いないはず。後は見慣れない5人組パーティーだな。


「薄々気づいているとは思うが、今回ガイルのとこと王都から呼んでおいた業炎の燈火に護衛をしてもらう。業炎の燈火には事前に通達していたから問題はないだろう?ガイルとエアには強制依頼を発行してるからよろしく!随行のギルド員はセリーに頼んでるし問題ないだろ?元メンバーだもんな。」


 このギルド長は裏の手回しができるタイプの人間だから断るのは面倒くさい…護衛ぐらいならそうそう問題は起きないだろうし受けるしかないか、ちらっとエアの方を見ると絶対に受けろよって顔でこちらを睨んでいた。まあ、セリーと久々にパーティーを組むようなものだから嬉しいのだろう。

「強制依頼なら仕方ないな、護衛開始はいつからなんだ?この町を出るところからになるのか?」


「護衛開始は町を出るときからで構わんが、港で出迎えて顔合わせはしておいてくれ。レザルド王国側の人員とは今から会いに行くからそのつもりでな。遠征中の食事は護衛中ということもあって念のため別々にしたいようでな、費用だけ支給するから自由に準備してこいとのお達しだ。ということでジュールのパーティーにはギルドの保持戦力として待機しておいてくれというのがもう一つの通達事項となる。ジュールついてきてくれ、近場ですぐに済む依頼や待機中の報酬について説明をしよう。」


 ギルド長はそう言うと、セリーにこの場を任せて退出していった。何枚か束ねてある資料をそれぞれのパーティーに配ったセリーがこの依頼の詳細を説明してくれる。大使がこの町を出発するのは明日の早朝であり、その日の内に宿場町に到着して宿泊、次の日は古都ローゼンセイルに宿泊するが公爵家に2日泊まる予定になっており、冒険者は宿を自身で用意すること、そしてローゼンセイルから王都へは冒険者パーティーが先行して街道を調査することになっているらしい。

「それでは、各自この部屋で話し合う時間を設けますので、レザルド王国軍の方に挨拶をしに行くまでこちらで待機してください。今お見せしている資料は持ち出しできませんので、内容の把握をしっかりお願いします。」


「オレたち業炎の燈火は剣士のオレ、重戦士のダルク、魔法使いのイリーナ、斥候兼弓使いのサロア、回復術士のイリャクの5人パーティーだ、そっちは2人だけか?」

 赤髪短髪大男が名乗ってないからわからんが、大盾を脇においている全身鎧で顔もわからない大男がダルクで黒髪ロングのお姉さま然とした魔法使いがイリーナ、茶髪のセミロングを後ろでくくっているスレンダーな女性がサロア、図書館の司書をしているような雰囲気の優男がイリャクといったところだろう。

 こちらも自己紹介するべきだろうが、苦手なんだよなぁ、軍隊時代のノリで挨拶するのならできるが、それはなんとなくここではしないほうがいい気がする。エアに頼むか、セリーにやってもらおう、うんそうしよう。ちらっ…エアはセリーの方を見ていて気づかない。セリーは資料を読み込んでいる……

「今は俺…ガイルがパーティーリーダーをしている……メンバーはエアだけだ………」


「ん?それだけか?他にもなんかあるだろ?戦闘スタイルとかメンバーが少ない理由とか!エアもこっちの話に参加してくれよ。」


 セリーに顔をむけたまま、仕方ないな面倒くさいやつだとでも言いたげな声色で反応する。

「私、魔法剣士…ガイル近接武器全般…以上」


「あ、すいません私からも紹介しますね。彼らはこのガーイウス支部の教導冒険者に指定されていまして、一定期間訓連メンバーを加入させていただいているので固定のメンバーはお二人だけになります。ガイルさんは様々な武器の取り扱いに優れていますので組むメンバーによって武器を変えるスタイルになります、エアさんは身体強化と風精霊の力を使った速攻が得意な方です。そして、私は2年前までは回復術士として冒険者をしていましたので、護衛についていくのは問題ないということで今回参加することになりましたのでよろしくお願い致しますね皆さん。」


 やっぱりセリーは頼りになるなぁ、なんて思っているとイリーナがエアに近づき話しかける。

「昨日ぶりねエアちゃん、今回一緒にお仕事頑張りましょうね」


 セリーのことしか興味ないとでも言いたげなエアがしっかりと相手の顔を見て返事する様子で察する、ああイリーナのようなお姉さま系にも弱いんだったなエア…さっきまで無表情だったのに握手しているとき口元が少しニヤついていたぞ…

「ええ、無事に依頼を達成できるようにお互い全力を出しましょう。」


 その後、王家の騎士に挨拶をして、お互い顔を覚えた後は、レザルド王国軍の護衛部隊に会う予定だったが指揮官は既に港に向かっていたため、挨拶は後ほどとなった。大使の乗船している船が入港するのは夕方頃になる予定らしく、それまでは各自準備して港に再集合となった。

「エア、俺は伯父の店で揃えてくるがどうする?」


「私はセリーと一緒に準備してくるから」


「えっと私はガイルと同じでいいんだけど…」


「……じゃあ3人分の食事を準備してくる」



 保存食を手配してもらった後は、家に戻って旅装の準備に取り掛かる。武器については昔戦場で拾った指輪型の魔術具を使えば問題ないな、武器限定で6つまで収納できる空間魔術が付与されている自慢の一品だ。まあ、盾は武器扱いしてくれないらしく、いつも投げ捨ててしまう盾が可哀想だが。

 いつの間にか帰宅していたセリーとエアに呼ばれ港に向かった。



「君たち業炎の燈火の評判は聞いている、期待しておるぞ。」


「はい、ご期待に添えるよう、働かせていただきます。」

 イリーナ達が、レザルド王国の軍服を着た金髪の偉丈夫と話しているのを見つけて近づいていたら自己紹介はおわっていたようで締めの挨拶をしているのが聞こえてくる。イリーナの横に立っていた赤髪短髪大男がこちらを指さして軍服の男に声をかけた結果、その男が振り返った様子を確認した俺はセリーとエアが着いてきているのを横目で確認しながら歩きを早めてその方の元に急ぐ。なんて言ったってお世話になったあの方のご子息なのだから。


「あれ?君はガイルじゃないか!魔人戦争が終結してから顔を見なかったが冒険者をしていたのか、てっきり父の下で働くものと思っていたからね、父も残念がっていたさ、今からでも王都で働かないかい?」


 やはり、フライド・ナルド将軍のご子息、モス・ナルド様だったか…戦場でもご一緒したことがある方で、よくお父君とフライドポテトの切り方で揉めていたのが印象に残っている。


「お久しぶりですモス・ナルド様、軍人としてはあの戦争が終わった時にやる意味がなくなりましたから…それに住み慣れたガーイウスで生活をしていたいので、お誘いは嬉しいのですが辞退させてください。」


「いいよいいよ、君がしっかりとここで生きているのが知れただけでも十分だ。それにその指輪を大事に使っているところをみるに冒険者としてもしっかり活躍しているのだろう?もしその才能を活かすことなく武器を握っていないなんてことになっていたら、父の下に引っ張って行くところだったさ。なんなら王都までは行くんだし、父に挨拶していってくれないかな、元上官として最後にそれだけ命令させてもらおう。」


「承知しました。必ずフライド将軍にお会いします。」


「うん、王都についたら父の下に案内するよ。さて、ガイルがいるならこの道中安心だ。それじゃあ護衛対象の船が入港するようだし行こうか。」


 その後、人魚族の戦士(女性しかいない種族)が護衛する大きな帆船がガーイウスの港に到着し、この町を含む周辺の村々を統べる領主のガーイウス伯爵やモス様が率いるレザルド軍人15名、近衛騎士3名、ギルド派遣組8人で出迎える。

 船から降りてきたのは病的までに色白い肌に赤い眼、長い漆黒の髪を風になびかせた女性と細長い耳が覗く白金の長髪を後ろで束ねた翡翠のような色の眼をした女性でそれぞれの護衛を引き連れている。領主とにこやかに挨拶をした大使の方々に、護衛の紹介として時間をもらったあとは領主と会食するために去ったのでこちらも明日の早朝に集合する場所を示された後解散となった。

 モス様と夕飯をご一緒した際に教えてもらった情報によると、ブラッティア王国の大使であるのは一人目に降りてきた方で外務大臣のセレスティア・レイソン様、そしてブラッティア王国の同盟国で3人のハイエルフが統べる国ジーパ国の方らしい、モス様の方でもジーパ国から派遣されることは知らなかったようで名前や役職はわかっていないらしい。

 予定より護衛対象が増えようとも、今回のような専任の護衛がいる旅の護衛する冒険者は隊列の先を行かされるか後ろからついていく形だろうから関係ないだろう。ということを翌朝、待ち合わせ場所に停めた馬車の傍でセリーと話していると、ギルドの紋章が臨時で貼り付けられている馬車に乗ったイリーナ達が到着した。

 今回は隊列の最後尾をギルドから貸し出された馬車で進む俺たちと、前方を先に進む業炎の燈火で前後を挟んで進む予定になっている。

「あら?エアちゃんはいないの?」


「エアは馬車の中で寝てますよ、昔から朝が苦手な子なんです。」


 セリーがイリーナと話しているのを眺めつつ、町から出てくる大使の方々が乗るレザルド王家の紋章が目立つ馬車を護衛する方々を見つけたため、馬車を動かせるように準備を始める。

 俺たちは町を出て少し進んだところで待機することになっている。町の門の前で隊列を組む彼らの邪魔になるからである。

 彼らが町を出たところで、道中守りやすいように隊列を組み換え始めたのを眺める。大使の馬車を囲む彼らの護衛達が、それぞれ馬に乗っており、その囲みを前後で挟む軍の馬車、そして近衛騎士の騎馬にそれぞれ従士が2人ついて歩いている。こちらには先程この隊列を先導する兵士がきており、業炎の燈火の馬車に兵士が2人乗り込んでいる。兵士が旗で本隊とやり取りをして出発したのを見送り、その場で本隊が通り過ぎるのを道端で待ち出発する。とまあ、しっかり護衛してきたこともあり、予定通り古都ローゼンセイルに着いたのが昨日…そして、王都に明日出発する大使の方々の先触れとして一日早く出発する兵士2人の護衛としてギルド派遣組の俺たちはローゼンセイルを出発した。ちなみに王都までは近いので昼からの出発となったが夕方には到着する見込みだ。


「王都までの短い間だが護衛を頼む。確実にたどり着くために先を進む業炎の燈火の馬車と君たちの馬車で分乗したがそうそう、トラブルは起きんだろう。」


「そうですね、伯父の行商を護衛した際にも王都に行きましたが王都近くにある森ぐらいしか周囲を見渡せない場所はないですからね。」


「ガイル殿は王都に来ていたのですか、モス隊長やフライド将軍が称賛する軍人としてある程度の階級の兵には知る者が多いのですが、城下町の衛兵ぐらいになると知らないはずなので見つからなかったのでしょう。」


「もしかして、私は捜索対象にでもされていたんでしょうか?」


「ええ、まあガイル殿が王都に来られると思っていた将軍がよく話されるので、名前と特徴だけ広まった形ですね。なので、王城の駐屯地で先触れの任務を完遂した後はそのままフライド将軍の元に案内するようモス隊長から指示されていますのでよろしくお願いします。」


「将軍にお会いするに際してお土産も準備しているので逃げたりしませんよ。」


「それなら安心です。ちなみにお土産とは?」


「これですよ」

 馬車の奥に積んでおいた大きい麻袋を指して答える。

「行商をしている伯父が選んだフライドポテトにおすすめのじゃがいもです。」


 馬に指示を出しながら兵士のザッパーと会話していた中で振り返った際に見えた光景にパワーをもらいながら、何もなかったかのように会話を続ける。

 先程見た、エアがセリーに甘えて膝枕をしている姿を脳裏に浮かべながら……いや堪能していると言ってもいい…女性同士の会話や関係性から咲く百合の花の香りを満喫しているのだ!

 女性が好きなのに男性と結婚しないといけないために男爵家を出奔したエアの性癖を知った時に俺の使命と生きる糧がわかった…百合の花畑をこの世界に広めること、百合百合しい関係を眺めることで得られるエネルギーで生きることができると!



 ガイルのやつ、私がどうにかセリーに甘えることができた瞬間振り返ってこちらを見ていたな。やつは戦争で生き残るだけの実力があるがそれをフルで活用して背後の気配を察知したのだろう、才能の無駄遣いだな。そんなことは忘れて今はこの枕を堪能しなければ。セリーと出会った時もこの膝枕にはお世話になったものだ。

 実家を飛び出して冒険者になったものの、1人で依頼を達成するには実力が足りていなかった3年前、危険なところをセリーに助けてもらったところで彼女のパーティーに誘われ即加入した…だって母性あふれる言動なのにロリ体形の年上美女だったのだ!私の探し求める理想のパートナーだ!当然即加入するしかなかった。

 加入してから知ったがこの冒険者パーティーはガイルという人助けが趣味の変わり者がリーダーをしていて、気を失って倒れていた私を見つけたのは彼らしい、まあ起きるまで膝枕してくれたセリーが助けてくれたことに記憶の捏造をしている。

 セリーも助けられた1人らしく、ガイルに好意があるのは知っていたが、ガイル自身結婚願望もなくセリーの好意にも気づいていないようだったのでこっそり妨害していた、だがセリーに甘えていたある時気づいた、こいつ私達のことや、町中で見る女性達の絡みに対して過敏に反応するなと。

 貴族でもいたからわかる、こいつは百合の花を愛でることが生きがいの人種だと…

 だからセリーが引退してギルド職員になった時にガイルに提案した、ギルド職員と親密になれる方法として新人をギルドから紹介してもらって指導する現役の冒険者向けの制度、教導冒険者というものを…もちろんガイルは察した、セリーに近づくから協力しろというメッセージに…

 そうして、今に至るわけだが馬車に近づく不届き者を察知した私とガイルは動いた。


「すまない、用を足したいので馬車をそこで止める。」


「ええ、構いませんよ。業炎の燈火には3時間ずらして後から出発してもらうので、休憩に少々時間を使っても問題ありません。」


「助かります。」


 王都の近くの森まで来ていた俺たちは、森の中を並走している怪しい一団を見つけたので排除することにした、もちろんセリーとエアの空気を壊さないようにトイレをするためと嘘をついたが…

 

「貴様ら所属を答えろ!」

 接近に気づいて陣形を組む5人の人物に一応確認をしておく。


「冒険者風情がっ!邪魔をするな!」


 問答無用で襲いかかる彼らにむかつき吠える。

「お前らこそ邪魔をするな!」

 せっかくエアが、セリーを攻めたのに!その邪魔をする!!百合に挟まる男は排除する!!!

 統一の剣術を使う5人組を斬り伏せ、念のため周囲を探索した結果見つけたのは王都近郊では見かけない魔物、それも魔人戦争でよく相手にした種類のものばかりを集めてふんぞり返っている魔人共。


「まったく!人間ってやつは使えんな、街道を見に行ったきり戻ってこないではないか!これでは大使暗殺計画が狂うぞ、だから反対したのだ我ら魔人のみで遂行すると!」


「まあまあ、人間も使い方次第ですよ、ですが確かに遅いですねぇ、彼らには襲撃の合図をお願いしていたのですが…もしかしたらまだ大使が来ていないのかもしれませんがね」


「だが!奴らが言ったではないか!昨日近くの街に大使が到着したのを確認したから今日この街道を通るだろう、と」


「それも含めて確認しましょう、隠密性に優れた魔物を放ってみましょうか」


 どうやら、思っていたより邪魔なものが多かったようだが、今魔物を放たれると百合の花の成長を阻害することになる、ということはここで全て倒すしかないな。そう決めて、隠れていた木から歩み出る。

「大事な今を邪魔するものは全て切らせてもらおう!それに敗戦した魔人がなぜこんなところにいる!」


「我らは敗戦したのではない!方針を変更しただけだ!とにかくなぜここがばれたのかは知らんが人間1人でどうにかなるものか!やれ!」

 

 魔人の一人が叫んだ瞬間大人しかった魔物の軍勢がこちらに襲いかかる。

 散々相手してきた奴らを切り捨てまくる。魔人に操られている分魔物の動きは隙だらけな上、連携をしてくるその動きも親しみのあるものばかりだったためすぐに殲滅できる。それに用を足しに行くと言ったのだから早めに戻らないといけない!

 ここは久々にあの武器を使うか…指輪に魔力を籠めて今持っている長剣を仕舞い、戦争のときに愛用していた武器…ハルバードを2本取り出す。



「なぜだ…なぜ奴を殺せんのだ!圧倒的に数は勝っているだろうが!」


「そ、そんなまさか!100匹もいたはずの魔物を瞬時に切り捨てるなんて!やつは人間なのか?バケモノめ!」


「ええいお前も見ておらんで攻撃しろ!」


「は、はいですが、奴は例の要注意人物ではないですか?」


「そんなわけなかろう!奴は戦後、暗殺するために捜索したがレザルド軍にも近衛騎士団にもいなかったと報告されておったではないか、こんな時に現れるなんてことがあっていいはずがない!」


「クバァ」ドサァ


「おい!どうした!返事をせん…カハァいつの間に…ハルバードを片手で扱う人間なんぞ一人しかおらん…やはりお前は刃嵐の…アク…ム……」ドシャ



「刃嵐の悪夢ねぇ…俺らからしたら魔人の方がよっぽど悪夢じゃねぇかと思うんだが…それも俺ら人類連合側の見方ってことか…ってそれどころじゃねぇな早く戻らねぇと!」

 久しぶりに戦争当時の戦闘スタイルをとったせいか少し語気が荒れた気がするな、直しておこう。返り血はつかないように斬ったけど血の匂いはごまかせないだろうから動物でも狩っていくか…ハァ

 大使の方々も百合の香りがしていたから事前に防げて良かった、良かった。

 ちなみに大使のセレスティア様とジーパ国の大使のそういう関係を直接知ることになるのはもう少し先になるのだが…


 まあ、今は背中で百合の花が成長するのを見守ろう。そう思いながら馬車を王都に向けて走らせる。

 俺の使命は百合の花を守り、育てること。そして、百合の守り手を育てることだ、だって俺は普通の人間なんだから寿命が尽きる、もしくは守って死ぬときがきたら誰が百合を守り育てるのだと気づいたのだ、だから教導冒険者を薦められたときエアは天才だと改めて気づいたのだ。いつか、同じ志しの同志を見つけ出せたなら、俺の培ってきた力を全て伝授していこうと…

 

 



 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ