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七三 第二章・グレートゲーム 苦悩するイリオン外交当局


 七三


 駐ルクシニア大使のイレネ・レウ=ミツォキス大使からの至急電を読んだイリオン人民社会主義連邦外交長官は、日本側の提案のかたちをとった要求の内容に、もはや対日交渉を外交部のみで抱えてはいられないと判断するしかなかった。

 国家の最高指導者同士によるトップ会談で、暗礁にのりあげている交渉を打開する。

 常識的に考えるならば、進展しない交渉にしびれをきらした日本側が、状況の打開のためにトップ会談を要求してきた、と判断するべき内容である。だが外交長官は、これまでのイクナイオンでの交渉の経過を知っているだけに、日本側の意図をはかりかねていた。

 少なくとも日本国は、ルクシニアの南部最大の港湾都市であるカラルトとの間に海上交易路を開設し、ルクシニア帝國以外とも活発な貿易をおこなっている。ルクシニアの新聞に掲載された写真には、夜間高高度から撮影したものとして、海上を航海灯をともした船舶の列が延々と並んでいる光景のものすらあったのだ。カラルトの港湾施設の拡張工事の第一期が終わるのは二年後の予定だそうだが、今からすでに第二期拡張工事の計画すら立ち上がっているとの情報まではいってきている。

 つまり日本国は、今すぐ無理してタマラム諸島周辺海域の航行の自由を確保する必要性にかられているわけではない、はずなのだ。


「……雄に媚びるしか能のないくせに、ニホンの大使を篭絡することすらできぬのか」


 報告書におおいかぶさるように身を乗り出し、最近めっきりもどらなくなった眉根の間のしわをさらに深くし、外交長官はレウ=ミツォキス大使を選んだ自身のことを棚にあげてそう悪態をついた。

 レウ=ミツォキス大使をイクナイオンに送り出したのは、彼女の容姿が人族の劣情をあおる傾向にあると評価されていたためである。実際に男女の仲になるかどうかは別として、日本側が優越種であり性的魅力にあふれる女性である彼女に対して、なんらかの隙をみせることを期待していたのは事実なのだ。

 ここナリキア世界に転移してくる前の世界では、彼らイリオンの妖精族は、当たり前のように蛮族による略奪の対象となっていた。森と共生するかたちで発展した高度な魔法文明や独特な文化がもたらす産品は、周辺の劣等文明圏にとっては極めて価値の高い獲物とみなされており、またその容姿の美麗なるをもって彼らイリオンのエルフの子女らは、奴隷として非常に高い価値をあたえられて取引されてすらいた。

 その蛮族が魔法ではなく科学技術によって文明を発展させ、大量の工業製品を消費するようになってからも、彼らのその価値観は変わらなかった。むしろ工場で生産される大量の武器弾薬をもって、征服戦争をしかけてすらきたのである。

 たしかに「党」の支配は苛烈であり人民にかかる負担は大きかったが、それでも森の奥でかたくなに変化をこばむ部族の長老たちとは違って激変した状況に的確に対応し、それまで略奪される一方であったイリオンをひとかどの列強にまでのしあげ、周辺の蛮族どもに勝利し、彼らを征服し、富と栄光をもたらしたのも事実なのである。当然、高貴なる森の妖精と蛮族が同じ空間で生活するなど許されるはずもなく、征服した土地の蛮族はことごとく処分されている。


「……何をたくらんでいる? ニホン人ども」


 外交長官は、日本国の大使がつきつけてきた要求の裏にある意図をつかみかね、ただ思考の迷路にとらわれ無為な時間を過ごすしかできないでいた。



 外患陰謀罪で逮捕起訴された反体制活動家や反社会集団構成員が、文字通りの売国奴であることが裁判の席で明らかになりつつある中、永田町の首相官邸の地下にある内閣危機管理センターで開催されている国家安全保障会議の席上で、赤松永歳外務大臣は、イリオン人民連邦の駐ルクシニア大使につきつけた要求について、列席しているメンバーにその意図を説明していた。


「よって、国家運営についての決定権が全て「党」指導者に集中しているイリオンにおいては、「党」指導者は無謬でなくては国体そのものが成立しないわけですな。だからこそ、交渉の妥結が見込めるようになるまでは、イリオンの外交当局はこちらの要求にどう対応するかで手一杯になり、その他の外交的選択肢を選ぶことができなくなるというわけです」


 精一杯真面目な表情を保ちつつも、今イリオンの外交当局が置かれている惨状を心から愉しんでいるのがありありとわかる声色で、赤松外相はそう説明を続けた。


「イリオンから外交的選択肢を奪い、国家のリソースを戦争準備に集中させ続け、経済的破断界直前まで追い込む。そこで「党」指導者に花を持たせて、実はこちらがもらおう、と、そういう目論見です」

「それでイリオン側から要求のあった原子炉技術の提供か? あまりにも危険ではないのか?」

「なにも馬鹿正直に技術をくれてやる必要はないんじゃないですか。連中が欲しているのは、つまりは安定的なエネルギーの供給で、石油はそのための選択肢の一つでしょう。ならば我が国が、エネルギーの安定的供給を責任をもってやればいいんですよ」


 赤松外相のどや顔に、いならぶ国家安全保障会議のメンバーは、また悪い事を思いついたもんだと苦笑するしかなかった。

 赤松外相が目論んでいるのは、つまりはイリオンの電力供給網や自動車や船舶への燃料供給を日本国の企業でおさえてしまおう、とそういうことだからだ。

 普通に考えるならば絶対にのませられない提案のはずであるが、無謬にして絶対なる「党」指導者の功績ともなれば、イリオンのような全体主義国家においては、批判はおろか疑問をもつことすら許されなくなる。電力と燃料の供給の独占がどれだけの期間続けられるかは疑問であるが、少なくともイリオンに金を出させて日本のメーカーに大規模な事業を受注させることが可能になるのだ。

 当然コンピューターをもちいてネットワーク化してエネルギー供給システムを管理することになるわけで、イリオンが施設を無理矢理接収しようとするならば、プログラムとデータを全て消去してシステムを無効化してしまうのが前提でもある。


「いやあ、創作物だとね、エルフって高慢ちきで腹黒にえがかれることが多いじゃない。赤松さんの目論見通りになるかなあ」


 口調はともかくその悪人顔を楽しそうにゆがませて、早河太一首相は興味深げににやにやと笑っている。

 それに対して赤松外相は直接答えず、大内瑛二郎防衛大臣に視線をむけた。


「そろそろルクシニアのエドベロフの飛行場が完成する予定でしたな? 防衛相」

「はい、外相。現在レーダー等の管制施設の設置工事と試験がおこなわれており、今月末には空自の管制隊の第一陣が展開する予定です。同時に「北」の軍事顧問団も展開する予定であり、ルクシニア軍務省を通じて三カ国での運用協定の協議も進んでいます」


 赤松外相に話をふられた大内防衛相は、即座にメモも見ずにそうきっぱりと答えた。

 そんな彼に満足したかのようにうなずいた赤松外相は、一言礼をのべると次は一色輝彦経済安全保障大臣に身体ごと向きなおった。


「で、だ。経安相、今メーカーはルクシニアへ輸出するプラントの製造で忙しいんでしょうが、もしイリオンも含めるとしたら、どこまで経済波及効果を見込めますかな?」

「東日本大震災とその後の電力自由化によって、我が国のインフラ系企業が受けたダメージは甚大です。ですが、今すぐという話でないのであれば、十分対応可能でしょう。当然、政府の補助金で延命している下請け業者も、予定より早く息を吹き返せるのではないでしょうか」


 日本国の電力供給は、東日本大震災における福島第一原子力発電所でおきた燃料貯蔵施設での爆発事故によって、時の政権与党であった左派リベラル政党が無理矢理押し通した電力自由化により、2027年現在でも安定的な電力供給に難がある状態が続いている。

 とにかく当時の左派リベラル政党による、公金横領のための穴だらけの制度設計と、左派メディアと政治家と活動家が、地域独占であった電力会社を弱体化させることにかまけたせいで、需要に対して全く余裕のない発電容量のために、常に電力供給は綱渡りを強いられているのだ。

 政権を奪回した保守党は、世論がヒステリーを起こし反原発に流されている間は、代替エネルギーの開発や導入を政策として採用しつつ、ウクライナ戦争勃発によって国際的に石油や天然ガスの供給が不安定化し、電気の値段が急騰するにいたってようやく国民が現実に目を向けるようになってから、あらためてエネルギー問題の解決のために動き出したのであった。

 なにしろ民主主義国家の政治家である以上、国民が望まない政策を実行できるわけがないのだ。たとえそれが国民生活にはねかえってくるのが明らかな選択肢であっても、それを国民が望むのであれば政策として実行しなくてはならないのが、民主主義国家の政府というものなのである。

 そしてナリキア世界に転移して二年が経った今現在も、日本全土では計画停電が実施され、私用の自動車のための燃料には安くはない税金がかけられ、国民生活を圧迫している。

 ちなみに左派リベラル支持者が大好きな再生エネルギーや自然エネルギーであるが、気候の激変によってメガソーラー施設や風力発電施設が雨季の大嵐により次々と機能不全におちいり、再生エネルギーは当の代替エネルギーを生成するためのエネルギーが不足しているために開店休業状態となっていた。当然の話ではあるが、再生エネルギーや自然エネルギーを売り物にしていた事業者は、施設が機能しなくなり採算が取れなくなると、さっさと会社を倒産させて民事再生手続きをとり、地域に大きな傷跡を残したまま逃げ出している。


「そうすると、エネルギー供給を国のPFI事業として進めた実績があると、企業も海外への進出がしやすくなるねえ」

「では、おやりになるのですか? 原子力発電施設の国による買い上げと、民間への運営委託事業」

「うん。国安省と法務省ががんばってくれたおかげで、騒ぎそうな連中はほとんどが牢屋の中じゃない。そりゃメディアは騒ぐだろうけれど、今回の外患陰謀罪関連で国民から見放されつつあるからねえ。来年の通常国会で外患関係の法律を全面的に改正して、あと外患収賄罪も成立を目指すから、それが隠れ蓑になってくれるでしょ」


 一色経安相の質問に早河首相は、くちびるをめくるように悪い笑顔を浮かべてそう答えた。

 PFI事業とは、Private‐Finance‐Initiativeの頭文字をとった名称であり、民間の資金と経営能力、そしてノウハウを活用しておこなわれる公共事業のことである。平成11年にPFI法が施行され、これまで100を超える事業が全国で実施されている。日本語になおすならば、民間資金活用事業となる。

 そのPFI事業の中に、民間フェリー船等を自衛隊が有事での部隊輸送も含めて活用するものがある。これは日本船員組合による自衛隊への非協力が頻発したため、海上自衛官に海技資格を習得させ、除隊後予備自衛官として事業契約した船の乗組員として活用し、有事の部隊輸送に資することを目的としたものであった。

 2027年時点では、この事業のために設立させた特別事業会社が保有する32隻の各種船舶と、民間事業者が保有する8隻のフェリー船が、PFI事業の対象となっている。自衛隊がパラヴィジュラ諸島に迅速に部隊を展開できたのも、このPFI事業によって確保されている船舶があればこそのものである。

 ナリキア世界への転移後、早河内閣が成立した際に、早河首相は旧一電各社に原子力発電のPFI事業化を打診し、福島第一原子力発電所の廃炉事業の引継ぎも含めての原子力発電に関わる一切の面倒を国がみることを提案している。2025年の転移から現在にいたるまで、電力供給は常に逼迫した状態にあり、また電力会社による新規の発電所の建設も、経営のさきゆきが見通せないないためになかなか進まないでいたからだ。

 こうした問題の解決のため、早河首相は自身の公約で原子力発電のPFI事業化をかかげ、2026年の選挙に出馬し当選したのであった。


「海中ウランの採取事業も再開にこぎつけたし、下北半島で建設中の大間原子力発電所もMOX燃料使用炉からガス冷却黒鉛炉に変更して、核燃料の精製事業に使えるようにしたしね」

「そのための原子力規制庁の原子力管理庁への組織変更と、原子力規制委員会の原子力管理委員会への変更ですから」


 早河首相の言葉に、三浦耕志国土安全大臣が合の手をいれる。

 原子力規制庁は、東日本大震災における福島第一原発事故での東京電力のずさんな原発管理をうけて、環境省管轄で設立された原発行政を担当する役所である。そして原子力規制委員会は、原発事故の再発を防ぐことを目的に行政府から独立した委員会として設立され、原発の運営を監視する委員会であった。

 とはいえこの二つの組織は、当時の左派リベラル政党の肝いりだけあって反原発志向が強すぎ、原発の安全管理に資するどころか原発の安定的可動を阻害し、日本国内での電力供給不安定化を招く元凶となってすらいた。

 早河首相は、ナリキア世界への転移にともなって実施した省庁再編の際に、この二つの組織を設置法から見直し、日本国内での核燃料の生産も含めた原子力エネルギー管理と監督のための機関として再編したのであった。

 このナリキア世界において、現時点では日本国にとって安定した核燃料の供給元は存在しない。そのため必要な核燃料は自前で調達せねばならず、反原発活動そのものが国を滅ぼしかねないとして、まず中共や朝労から資金援助を受けていた活動家や団体を中心に外患陰謀罪を適用して逮捕拘禁起訴したのである。

 左派メディアによる活動家擁護の報道が繰り返されたにもかかわらず、内閣広報庁による反体制活動家と中共と朝労の間の金のやりとりの実態が繰り返し報道されたことで、国民の間には徐々に反体制活動家と売国奴がイコールで結ばれる風潮が生まれつつあった。

 当然早河首相は、この風潮を是としているわけではなかったが、今は国家存亡の危機のまっただ中であり、非常時の措置として断固とした対応をおこなう決心をしたのである。


「というわけで、原子炉だけイリオンに建設し、送電網を含めて電力事業の運営は我が国が全て担当し、燃料も全て我が国から運びこみ管理する、と。ここまでやれれば、イリオンは二度と対外戦争を起こせなくなるでしょうな」

「エドベロフの飛行場から空自の戦闘機や偵察機がひっきりなしに飛ぶようになれば、イリオンの軍部は、戦争になったら勝てないと判断するしかなくなるでしょう。まあ、戦争なんてどんなバカなきっかけで始まるか判りませんが、少なくともイリオンの選択肢を減らすのに効果的なのではないかと」

「飴と鞭、ではないねえ。いやね、DV夫やヤクザの支配のやりくちにそっくりなのが、多分効果的なんだろうとわかるのがもやっとするだけでねえ」


 話を最初に戻した赤松外相の言葉に、早河首相ら列席者は、笑顔で何度もうなずいて返事とした。



 イリオン人民社会主義連邦における国政の最高意思決定機関である、「党」の最高幹部が列席する「評議会」の席上で、外交長官は日本国がつきつけてきた要求について報告をしていた。

 当然、その内容を聞かされた列席者らは、皆しぶい表情を浮かべて黙って外交長官の言葉に耳をかたむけている。


「以上の通り、ニホン側は我が国のタマラム諸島領有の意思が強固であることを知り、交渉妥結のために我が方の隙を見つけだそうとこころみようとしている、と考えられます。とはいえ、交渉が進展していないのも事実であり、今後いかに対ニホン交渉を進めるべきか、再度確認をさせていただきたい」


 眉根の間のしわはそのままに、外交長官はある種の諦観をいだいてこの場にのぞんでいる。言葉こそイリオン側が不利な交渉をしいられていることを認めてはいないものの、実際には日本国が各国に対しておこなっている経済外交によって、イリオンが真綿で首をしめられるように追いつめられている状況は変わってはいないのである。


「ニホンとの交渉の経過については理解した。では、外交部は今後の展望をどう考えているのか?」


 資源の不足による経済活動の低迷によって、人民の間に不満が高まっている状況と対峙している内務長官が、いらだちを隠せない声色でそう問いかけた。今はまだ食料の配給に問題は出ていないが、このまま一切の資源を戦争準備につぎこみ続けるならば、それもあやしくなってくる。

 そして飢餓は、一切の秩序を破壊し、いかなる強権をもってしても抑えこむことはできないことを、内務長官はいやというほど見知っていた。


「それが見極められないからこその、この場で議題としての提議なのだが。展望がはっきりと見えているならば、その実現にむけて全力で邁進している」

「それは責任放棄ではないのか!? 外交部による失態が現状の連邦の窮状をまねいたのであろう! 外交部が責任をもって状況の打開につとめるべきではないのか!」


 列席者から怒声が飛ぶが、眉根の間にしわをきざんだ外交長官は、怒鳴った相手にむかって軽蔑のこもったまなざしを向けただけであった。

 そして身体ごと「党」指導者に向きなおると、外交長官は妙に平坦な声色で話しはじめた。


「指導者閣下。ニホン側の意図をさぐるためにも、自分がイクナイオンにおもむきニホンの外交責任者と接触することを、お許しいただけませんでしょうか? このまま交渉を続けても、ニホンはティエレンあたりをけしかけて、我が国に紛争なり戦争なりをしかけてくるかもしれません」

「ほう、自ら手を汚さず、他国を使嗾する、と?」

「可能性のひとつにすぎません。ですが、実際にニホンはティエレンを使嗾して、我が国への資源供給を妨害しました。さらに過激な手段を選択したとしても、劣等種族ゆえにありえないとは言えぬと考えるものです」


 外交長官の言葉に「党」指導者は、着座している椅子のひじ掛けにのせた腕に体重をかけ、その秀麗な美貌に興味深げな表情をうかべてみせた。

 全身にのしかかる圧に胃がにぎりしぼられるような感覚におそわれた外交長官は、それでも無表情をたもったまま「党」指導者の黄金の視線を見つめ返している。


「よかろう。ニホンが何を考え何を望んでいるのか、調査し報告せよ。今は正確な情報が必要だ」

「はい、指導者閣下。つきましては、一時的に相手の要求をのむふりをすることをお許しいただきたく」

「タマラム諸島領有放棄を認める、と?」

「一時的な妥協のふりのためです。それでニホンが出してくる条件によって、奴らの意図も明らかにできるかと」


 外交長官は、この瞬間賭けにでていた。

 ニホンとの交渉を、イリオンにとって望む形で妥結することは極めて困難である。とはいえ「党」指導者の命令は下されており、それをたがえることは許されない。

 だが、一時的な妥協のためにニホン側の要求をのむふりをする、という名目で交渉をまとめてしまえば、結果として下された命令にそむいたことにはならなくなる。今の外交部にとっては、もはや他に「党」指導者からのけん責をのがれる方法はないのだ。

 そんな外交長官の内心を見透かしたようなつまらなさそうな表情を浮かべた「党」指導者は、冷え冷えとした声色で言い放った。


「よかろう。ニホンの意図を確認せよ」

「はい、指導者閣下」


 外交長官は、今この瞬間は自分の命がつながったことに安堵の念で心がいっぱいになり、そしてそれを表情に出さないようにするのに全ての精神力を使わねばならなかった。



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>電力事業の掌握 原子炉を含めた電力利権と石油利権そのものを日本が握ってその功績をイリオンの指導者に花を持たせるとはイリオンに自由な戦争をさせない指導者を日本の操り人形にできそうですね。どんなにイリ…
さてこの外交長官殿はどれだけやれるのか?
[一言] 光ファイバーを芯にした送電線も作って通信網もGETしちゃいましょう(さらに悪辣) 北の産業が確か通信デバイスでしたよね(良い笑顔で)
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