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七〇 第二章・グレートゲーム 帝國軍と国防軍と自衛隊の自動火器あれこれ


 七〇


 ルクシニア帝國の北部油田地帯の中枢都市にあたるエドベロフ市は、元々は北方大陸北西部の諸部族を鎮定するために、時のルクシニア帝國の前身である部族連合の大王によって建設された都市であった。つまり大王の王城があったイクナイオンから川伝いに西大洋に出て海をわたり、エルワ河ぞいに北上したこの土地に建設された城塞都市、という由来をもつ。

 そして二度のイリオン人民連邦との戦争を経て要塞都市として強化され、北方軍の軍司令部が置かれている兵站拠点でもある軍事都市として、北方の護りの中核として存在しているのであった。

 ルクシニア帝國軍務省軍務局長のチャフイ・ムラ=クヴァリ少将と、陸上自衛隊のルクシニア派遣顧問団団長の喜多見兼光陸将がこのエドベロフ市を訪れたのは、この都市の郊外に帝國軍の兵器試験場があるからであった。つまりその試験場で試験されている、三ヶ国の各種の装備品についての試験を実地で見学するための出張なのである。


「……思いのほか、日本国の89式小銃の評価が高いですな」

「正規軍同士の戦闘を前提においた自動小銃としては、ある意味完成形といってもよい銃でしょうから」


 北部軍司令部の会議室の一室で、ムラ=クヴァリ少将と喜多見陸将は、歩兵携行火器についての比較試験についての説明を、試験を担当している帝國軍の担当者や、自衛隊や日本人民共和国国防軍の関係者から説明を受けていた。

 ムラ=クヴァリ少将が言及した89式自動小銃は、ヴェトナム戦争時に派遣部隊用に採用されたアーマライト社のAR-18自動小銃を参考にして開発された、陸上自衛隊の制式自動小銃である。

 89式自動小銃に先だって1964年に制式採用された64式自動小銃は、米軍のBARことM1918自動小銃を範にとった、軽機関銃としての性格が非常に強い小銃であった。太平洋戦争の沖縄戦と、北海道戦争での戦訓にもとづき、普通科分隊の防御戦闘時の火力発揮を重視して開発された自動小銃なのである。

 そして当時の日本の低い工業力では、自動小銃に軽機関銃としての能力を持たせるためには非常に複雑巧緻な設計にならざるをえなくなり、機構が複雑で部品点数の多い小銃として完成していた。とはいえ、連射時の安定性と命中率の高さは十分要求を満たすものがあり、当初の陸自の普通科を満足させる性能を発揮したのであった。

 だがヴェトナム戦争に参加するにあたって派遣された部隊では、その複雑な機構が故障を頻繁にまねき、部品点数の多さから分解整備にとられる時間が過大であるとして、非常に大きな不満をひきおこしてしまった。そして派遣された自衛隊員達は、64式自動小銃と62式機関銃を倉庫にしまいこむと、米軍が鹵獲したSKSカービンとPRD軽機関銃やPK軽機関銃を融通してもらい、それを使って戦闘にのぞんだのである。

 この問題は、派遣され殉職した隊員の遺族による複数の告発によって国会でもとりあげられ、豊和工業と日特金属工業はメディアによって散々に叩かれた。結果として自衛隊は、米軍との弾薬共用を名目にアーマライト社からAR-18のライセンス生産権を購入し、また1968年に制式採用された68式戦車の車載機関銃としてFN社からMAG軽機関銃のライセンス生産権を購入して、AR-18とFN MAGをヴェトナムに派遣された部隊に配備したのであった。

 豊和工業は、64式小銃で指摘された機構の複雑さからくる部品点数の多さに由来する信頼性の問題に真摯に向かいあい、NATO第二標準弾として採用されたSS109 5.56ミリ弾を使用する次期制式自動小銃を開発するにあたって、整備性と信頼性の向上を念頭において設計をおこなった。その結果として、64式小銃と比較して部品点数が減り、また各部をブロック化することで整備負荷を下げ、さらに作動機構を見直し工夫することで反動の低減と命中精度のさらなる向上をはかったのである。

 結果として制式採用された89式小銃は、湾岸戦争時に試験運用の名目でイラク派遣部隊に配備され、特に中遠距離での命中精度の高さをもって各国から高い評価を受けるにいたったのであった。なお米海兵隊は、89式小銃の中遠距離での命中精度の良さを非常に高く評価し、M27IARの採用にいたっている。


「まあ、我ら小鬼族は、目は良いし手先も器用ですからな。今帝國軍が使用している7.5ミリ小銃弾は、小鬼族の体格にあわせて開発した弾だったりいたしますし」

「なるほど。とはいえ、地球と比較して重力が7%ほども増えたために、軽量高速弾の有効射程が一割以上も低下しているのは、我が国としてもゆゆしき問題と認識しております」


 ムラ=クヴァリ少将が語ったように、ゴブリン族は視力が高く手先が器用で細かい作業が得意、という種族的特徴をもっている。かつては大柄で筋力あふれるオーク族やオーガ族が戦場で活躍したものであるが、火器の登場と発達、そして工業化による軍隊の機械化によって、ゴブリン族が戦場で活躍するようになって久しい。

 そしてそのゴブリン族の歩兵が、日本国と日本人民共和国が持ちこんだ各種の歩兵用装備品を試験した結果が、自衛隊の89式小銃に対する高評価なのであった。

 この地球とは環境が色々と違うにもかかわらず、500メートル先のマンターゲットにほぼ確実に命中弾がえられるという性能は、その軽量さと反動の小ささからルクシニア帝國軍でも高い評価を獲得したわけである。


「国防軍にとってはまことに残念ですが、やはり体格がモンゴロイドと比較してすら一回り小柄な小鬼族の兵士にとっては、7ミリ口径の火器は反動がきついようですな」


 日本人民共和国国防軍から派遣されいる井伊・アミル・ドゥダーエフ陸軍大佐が、報告書の束を整えつつそうコメントした。

 このナリキア世界の重力加速度は10.56と地球の9.8よりも約7パーセントほども大きいのである。そのため各種火器の射程がのきなみ短くなっており、小は拳銃弾から大は誘導弾用のロケットモーターにいたるまで、性能の再確認と射表の再作成を余儀なくされていた。

 当然国防軍も北方大陸に進出した際に、既存の射表がまったく使い物にならなくなってしまったために、非常に苦労をしている。

 特に現在正式採用されている5.45ミリ弾の射程と命中精度の低下の問題は、魔術で防護された現地住民の防具や城壁の存在もあって、国防省のみならず共産党でもとりあげられていた。

 彼らがルクシニア帝國や自衛隊との弾薬や燃料の共通規格化の話にのったのも、これらの装備品を全て一から再開発する面倒を嫌ってのことであった。


「とはいえ、お国のPRD軽機関銃は比較的評価が高いですぞ。貫通力も高く、600メートル先のイリオンの鉄帽をほとんどが貫通できております」

「……共和国の7.62x39弾は、弾芯に高炭素鋼を使って鉛の使用量を減らす設計となっております。それに付随した効果ですな」


 割と素直な物言いでのムラ=クヴァリ少将の評価に対し、井伊大佐はなんとも複雑な表情になってそう答えざるをえなかった。

 旧ソ連が開発した7.62x39小銃弾は、第二次世界大戦でナチスドイツ軍が投入した突撃銃の弾薬である7.92x33弾を元に開発された、歩兵携行自動火器用の弾薬である。

 それまでソ連軍は、ロシア帝国時代から使用されていた薬莢の直径よりリムの幅が広い7.62x54R弾と、軽量弾頭を高初速で発射する拳銃弾である7.62x25弾の二種類で第二次世界大戦までを戦い抜いた。だが個人用自動火器の弾薬としては、7.62x54R弾は反動がきつく銃自身の重量が過大になりがちで、7.62x25弾は拳銃や短機関銃の弾薬として成功したものの、射程が短すぎて他の火器の援護がないと敵歩兵を有効射程内にとらえることが極めて困難であった。

 同様の問題をかかえていたナチスドイツ軍は、小銃弾の弾頭をより短い薬莢を使って少量の装薬で発射する、自動小銃と短機関銃の中間の性能を持つ突撃銃を開発することで解決した。そしてその威力を実際に味わったソ連軍は、第二次世界大戦中に小銃弾の弾頭を少量の装薬で発射する弾薬の開発をはじめ、1940年代末にその新開発された7.62x39弾を使用するSKSカービンやAK-47自動小銃を開発し採用したのであった。

 この7.62x39弾は、当時のソ連にとっては高価であった鉛の使用量を減らすため、弾芯に炭素鋼を使用し、その周囲をライフリング保護のために鉛でおおい、その上から銅製の被膜をかぶせる構造となっている。このため第二次世界大戦後アメリカが自動小銃用として開発した7.62x51弾の弾頭よりも2グラムほど軽い8グラムの弾頭でありながら、貫通力はほぼ同等であり、二十一世紀に入ってからも防弾チョッキを着用した犯罪者制圧を念頭に法執行機関で多用されている傑作弾であった。

 ちなみに、5ミリ口径の小銃弾に対してそこまで性能で劣るわけではないとして、アフリカやアジアの予算に余裕のない国では、21世紀に入っても軍用正式実包として使用されている。実際ヴェトナム軍は、7.62x39弾の生産設備の更新にかかる手間をきらって、イスラエルのIMI社が開発した7.62x39弾を使用するガリルACE31と32をライセンス生産し、次期主力小銃として採用していた。


「同じ装薬量でも、弾頭が軽いと反動は減りますからな。その点、一発の威力を重視する方向性で設計された自衛隊の弾薬は、設計思想がひと世代古いといえるかもしれません」


 喜多見陸将が、そう話をひろって終わらせた。

 だがムラ=クヴァリ少将は、そんな喜多見陸将の気遣いに気がつかないふりをして話を続けた。


「まあ自衛隊が、小銃で300メートル、機関銃で600メートルの有効射程を要求しているというのは、自分もうかがっております。国防軍は、これが400メートルと800メートルになるそうですな」

「……たしかに現在の陸上自衛隊の要求性能は、まあそれくらいです」

「帝國陸軍の歩兵科は、小銃で600から400メートル、機関銃で1000から600メートルの有効射程を要求しております。とはいえ今の7.5ミリ弾ですと、800メートルより先の集弾性能が急激に悪化してですな、やはり新しい弾が欲しいのですよ」


 ムラ=クヴァリ少将の出した数値は、大日本帝国陸軍の系譜につながる自衛隊と国防軍の陸軍士官としては、肌感覚で理解できてしまう数値であった。

 なにしろ日本陸軍は、九二式重機関銃という遠距離での狙撃が可能な重機関銃を開発し、歩兵火力の主力として運用していたのだ。狙撃用眼鏡を使えば1000メートル先の人間大の的に必中で、突撃する歩兵の頭越しに射撃が可能なように射表が作られていた、という極めてニッチというか、火砲の整備に難があった日本陸軍ならではの支援火器なのである。

 現代の陸自ならば、その距離の敵には中隊の81ミリ迫撃砲を撃ちこんで吹き飛ばすし、国防軍ならば、30ミリ自動擲弾銃で制圧してしまう。だが地球でいうところの1920年代相当の技術レベルのルクシニア帝國軍としては、自動火器に求める性能はどうしても高くなりがちなのであった。


「……いっそ、中隊の火器小隊に大口径機関銃か軽迫撃砲を配備し、各歩兵分隊は800メートル未満での戦闘に専念させた方が良いかもしれませんな」

「ふむ、そういえば国防軍には14.5ミリ口径の、対戦車用徹甲弾や対空用榴弾を発射可能な重機関銃がありましたな。……これ、これです。KPT-14重機関銃。14.5ミリ機関銃弾を使用し、有効射程が3000メートル、有効射高が1400メートル。これで銃本体の重量が36キログラムしかないというのですから、いやはや科学技術の進歩というのには驚くほかはありませぬ」


 ムラ=クヴァリ少将の言葉に、井伊大佐はそっと視線をそらせた。

 国防軍が21世紀に入ってから、第二次世界大戦から朝鮮戦争にかけて使用されていた14.5ミリ弾を発射する重機関銃をわざわざ開発し復活させたのは、ドローン兵器の発達によって経空脅威が多様化し、それへの対処が必要になったからである。

 12.7ミリ口径の機関銃では、対空戦闘可能なRWSに搭載したとしても対ドローン戦闘ではいまひとつ効果が薄く、かといって米独のように30ミリ口径の機関砲を搭載するとなると、それ専門の対空戦闘車両を整備した方が効率がよくなってしまう。実際国防軍では、旧式化しているZSU-23「シルカ」の搭載機関砲を23ミリ四連装から30ミリ連装に変更し、さらに近SAMも搭載させよう、という計画が進められていた。なおその計画は、ここナリキア世界への異世界転移によって、事実上の凍結状態にあったが。

 なお国防軍がわざわざ14.5ミリ口径の機関銃を新規に開発したのは、国防軍ではチェコスロバキアが開発したOT-64装輪装甲車をライセンス生産したBTR-74装甲車が多数現役で使用されており、その搭載機関銃が14.5ミリ口径のKPV重機関銃だからである。14.5ミリ弾は、元々が対戦車ライフルの銃弾として開発され、当時のソ連軍には20ミリ級の信頼できる機関銃がなかったため、そのまま対空機関銃の弾薬に転用されたという経緯をもっている。そしてKPV重機関銃は、設計が1940年代と古く機構が複雑で重量が過大であり、新規開発したT-18戦車などに搭載する対ドローン用火器としては今一つ使い勝手がよろしくない、と判断されたからであった。


「……まあ、そもそも十ミリ台の口径の機関銃そのものが、地球世界では中途半端なものとして扱われておりましたからな」

「……二十ミリ級の機関砲ですら、威力不足がうたわれていたのですよ。地球世界では」


 喜多見陸将と井伊大佐の言葉に、ムラ=クヴァリ少将は、口の端がひきつるしかなかった。百年先の戦争がどれほど過酷なものか、イリオン連邦軍との戦争を経験したにもかかわらず、彼には想像がつかないのだから仕方がない。

 実際2022年のウクライナ戦争で、百万発単位で十五榴級の砲弾が消費され、百台単位で第三世代主力戦車が撃破される状況が発生し、それに無人飛行機が大きな役割を果たしている。となれば経空脅威について真面目に考えている軍隊ならば、相当な危機感をもって対応するわけである。

 そのため陸上自衛隊では、16式機動戦闘車の車体に、巡航ミサイル迎撃能力を持たせた近SAMと、40ミリテレスコープ弾を毎分1000発の射撃レートで射撃可能な機関砲を搭載した、26式自走近SAM発射基と26式自走機関砲を急遽開発し部隊配備を進めている最中であった。

 ちなみに国防軍では、ZSU-23「シルカ」自走高射機関砲の23ミリ四連装機関砲を、30ミリ連装機関砲に載せ替えたZSU-30「シルカM」自走高射機関砲を開発し、ウクライナ派遣義勇旅団に配備して実戦に投入していた。なお国防軍が独自開発した歩兵戦闘車BMP-18は、ロシア軍のBMPT同様に30ミリ機関砲を二門装備し、対空戦闘可能なFCSも搭載し、ZSU-30同様に対ドローン戦闘で活躍していた。

 結果としてZSU-30は、改装にかかる手間暇費用のわりがあわないと評価され、23ミリ機関砲四門搭載のものがルクシニア帝國軍の機甲部隊向けに売却されている。


「なるほど。とはいえ、国防軍では新規に開発した戦闘車両のほとんどに、KPT-14を搭載しておりますな。23ミリ連装機関砲は確かに素晴らしい対空火器ですが、歩兵中隊に配備するとなるといささか過大でして。その点KPT-14は、口径も手ごろで弾薬の種類も豊富、しかも銃本体の重量が36キロと軽量で、帝國軍にとっては非常に魅力的に見えるのですよ」


 ムラ=クヴァリ少将の言葉に、喜多見陸将は内心冷や汗をかくしかなかった。

 この銃本体の重量が36キロというのは、自衛隊が正式採用しているM2 12.7ミリ機関銃の自重38キロよりも軽いのである。そして自衛隊が使用しているM2機関銃は、住友重工がライセンス生産したものであり、アメリカ製のM2と比較して故障率が高いという問題を抱えていた。

 これは、そもそも住友重工が自衛隊に納入する機関銃の生産を担当したのが、当初機関銃の開発と生産を請け負った日本金属工業を買収合併したからである。ベトナム戦争に投入されてぼろくそにけなされ、長きにわたって国産兵器不要論の論拠にされた62式機関銃を開発したのが日特であるといえば、その設計能力や品質管理能力について語る必要もないであろう。

 なお、89式小銃の採用にともなって各普通科分隊に配備されることになったベルギーのFN社が開発したMINIMI軽機関銃のライセンス生産を担当したのも住友重工であるが、これもベルギーで生産されたものよりはるかに故障率が高い、という醜態をさらしている。そして2013年に自衛隊に納入していた各種機関銃の検査結果偽造等の不祥事が明るみに出るにいたって、指名停止処分を受ける羽目になり、自衛隊に納入する機関銃の製造は日本製鋼に移される結果となったのであった。

 なお20式小銃の採用にともない、分隊に配備される軽機関銃はMINIMI Mk3が選ばれているが、これは基本的にライセンス生産せずにFN社から直接購入し輸入していた。とはいえ、日本国がナリキア世界に転移することが判明した時点で、ライセンス生産権を日本製鋼が購入し生産をおこなうようになっている。

 つまりイリオンとの戦争を真面目にやるつもりならば、急いでまともに動く機関銃を調達し、部隊に配備し隊員に習熟させないとならない、という問題を自衛隊は抱えているのだ。


「各歩兵連隊と戦車連隊と砲兵連隊には、23ミリ機関砲を六基配備予定ですが、大隊や中隊用の対空火器としてKPT-14は有用そうに思えるのですよ」

「まあ、イリオン空軍の航空機を相手にするのであれば、確かに有効な火器であると考えられますな」


 過去の二度の戦争で、イリオン連邦軍の作戦機に散々に叩きのめされたルクシニア帝國軍の軍政の責任者であるムラ=クヴァリ少将にとっては、次の戦争にむけて前線の各部隊に十分な対空火器を配備するのは絶対といってよい課題である。

 ようやく戦闘機のジェット機化が進んでいる段階のイリオン空軍を相手にするのであれば、14.5ミリ口径の機関銃は、数をそろえられるならば十分有効な兵器として活躍できるであろう。実際にヴェトナム戦争では、米軍の戦闘機が任務のために低空に進入したところを多連装のKPV重機関銃の火網にからめとられ、けっこうな損害をだしていたのだ。


「KPT-14は、基本的に車載対空機関銃として開発されましたからな。実戦での評価は悪いものではありませんでしたし、数を導入するのであれば戦力として期待できるかもしれません」


 井伊大佐の言う通り、T-18戦車やIMR-18工兵作業車のRWSに搭載されたKPT-14は、低空を飛ぶ小型ドローンを相手にする限りでは有効に活用されている。とはいえ、それ以上にウクライナ軍の対戦車兵の小集団を制圧するために活躍しており、それを口にしてよいものかどうか彼は少しだけためらい黙っておくことを選択した。

 なにしろムラ=クヴァリ少将が、KPT-14に関するレポートに熱心に目を通しているのである。すぐに陳腐化するのが予想できるとはいえ、売れるならば売りたいというのが、井伊大佐の嘘偽らざる本音でもあるからだ。

 そしてそんな井伊大佐の心のうちを察した喜多見陸将は、あえて水を差す必要もあるまいと、賢明にも黙っておくことを選択した。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 89式小銃は実戦を経験している分早期に改良されていたりしそうですね。 64式小銃はベトナムで仕方ない扱いでしたので改造されているのかな。ルクシニアは89を導入するのかな…
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