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四七 第二章・グレートゲーム 本気になった日本の行動開始


 四七


 パラヴィジュラ諸島最大の島であるムラヤ島には、四つの大きな港湾がある。

 陸上自衛隊が最初に上陸した北東部のカナカ市、そのカナカ市から南に240キロほど南下したパセラマ湾に面したタラマ市、そこから島の南側で東西にのびるチュリーヤ山脈を西へ進んだ先にあるパフラマ湾に面したアテリリ市、そして北側へ島を横断した先にあるウマヤ市の四つである。

 これらの港湾都市のうち、ルクシニア帝國とイリオン人民社会主義連邦の戦争によって破壊されず無事であったのは、北西部のウマヤ市のみであった。そのため自衛隊は、残る三つの港町に部隊を迅速に上陸させるために、台湾有事にそなえて開発した先進揚陸支援システムを持ちこんだのである。


「戦争に備えて作ったものですが、こうして人道支援のために役に立つのは、むしろ本望でしょうなあ」

「まったくです。とはいえ、あくまで仮設の桟橋ですから、一日も早くきちんとした桟橋の整備をお願いします」

「任せて下さい。そのために日本中の土建屋が、JV組んでここに集まってきているんです。この島の開拓に成功すれば、少なくとも日本人が飢えることはなくなるそうじゃないですか。そりゃ、皆はりきりますって」


 その結果、海上自衛隊の輸送艦のみならず民間の大型タグボートや浮きドックまでかりだして運び込んだ艀の数々が連結され、港まで大型工事車両を載せたトレーラーが自走して上陸できる洋上基地が、わずか一週間足らずで完成したのであった。

 大型カーフェリーやコンテナ船まで接岸できる規模に拡大された浮桟橋には、すでに本土からやってきた土木建築会社の第一陣が上陸をはじめている。

 陸上自衛隊は、各方面隊直属の施設群のうち七個を動員し、短期間で仮設桟橋を設置すると、次に陸上に民間業者用の仮設住宅と機材置き場の整備にとりかかった。それと平行して本土から民間業者が多数の艀持ちこんで連結することで、迅速に大量の機材と材料を持ちこむための洋上基地の建設を進めることができたのである。

 カーフェリーから重機を載せたトレーラーが浮桟橋の上に降りると、そのまま自走して陸地へと上陸してゆく。そのかたわらでデリックがコンテナ船から20フィートや40フィートのコンテナを艀に下ろしては、別のクレーンが手際よくコンテナをトレーラーに載せて陸地へと運んでいっている。

 本気となった日本の土建屋の仕事ぶりに、洋上基地の管理責任者である陸自の2等陸佐は、久しぶりに感じる高揚感にほほがゆるみっぱなしであった。


「まあ見ていてください。本気になった土建屋の仕事ってやつを、この世界の連中に見せつけてやりますよ」

「期待しています。ですが、くれぐれも無理はなさらないでください」

「なに、ああして海の上には護衛艦、陸地には戦車がいて守ってくれているんです。自衛隊さんにはいいところを見せませんと」


 仮設桟橋の監督責任者がそう言って笑ったのを、2等陸佐は頼もしげになんどもうなずき笑顔を浮かべた。

 実際、浮桟橋が設置されている湾内には、荷揚げ待ちの船が多数と、それを護衛してきた海自の護衛艦が三隻ほど遊弋している。そして水平線のかなたには護衛艦から発進した哨戒ヘリが飛んでおり、万が一にも現地人の海賊やイリオン人民連邦の軍艦がやってきた時のためにそなえていた。

 また陸上の集積所の周囲には土塁と有刺鉄線がめぐらされており、さらには90式戦車と89式装甲戦闘車や96式装甲車をはじめとする各種AFVが警備にあたっている。そして内陸へと向かって、赤土舗装とはいえ四車線にもおよぶ広さの道路が施設科によって整備され、それは今も工事によって伸びている最中なのであった。

 このような光景が、カナカ市、タラマ市、アテリリ市でほぼ同じくしてひろがり、現地住民であるダークエルフ族の民衆が見物に集まってきている。彼らは、まさしく異次元の出来事に驚くばかりで、上陸してきた日本人をどう相手するべきか判らないまま困惑しているように見えた。



「……これが、ニホン国の実力ですか」

「その一端ではあります」


 ここアテリリ市の統治を担当しているルクシニア帝國の小鬼族の役人が市庁舎の最上階から、突如として出現したようにしか見えない洋上基地と、視界一杯に湾内を埋め尽くすようにに停泊する巨大な貨物船らを前に、茫然とした表情をさらしていた。

 そんな彼を、第8師団隷下に新設された第28旅団の旅団長である片倉孝篤陸将補が、できる限り穏やかな物腰で相手をしていた。


「一週間と経っていないのですぞ。それなのに何百両もの戦車を上陸させて、何十隻もの巨大貨物船から流し込むように貨物を陸揚げしている。それでも、ニホンの実力の一端でしかないのですか?」

「はい。ここアテリリ市だけではなく、カナカ市とタラマ市でも同じように揚陸作業が行われています。ウマヤ市は港湾施設が無事でしたので、直接船を接岸させて揚陸作業を行っているはずです」

「私の知るかぎりでは、あそこの港に、あんな大きな船が泊まれる桟橋は無かったはずですが」


 片倉陸将補の言葉に、生成りの麻のシャツとスラックスを身に着けたゴブリン族の役人は、目と口を丸くして驚いている。

 そんな彼に片倉陸将補は、かたわらの通信手から野外用タブレットを受け取ると、旅団長権限でウマヤ市での上陸作業のライブ映像を検索し再生して見せた。


「……イクナイオンで走っている自動車よりも数が多いのでは?」

「あいにくと自分は貴国の帝都のことを存じ上げませんが、まあ自衛隊と民間業者を合わせれば、千台を超えているのは確実でしょう」


 野外用タブレットの画面の中では、海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」「しれとこ」の二隻が岸壁に接岸し、舷側のサイドランプからオリーブドラブ色のトラックを次々と揚陸させていた。

 海上自衛隊の「おおすみ」型輸送艦は、基準排水量1万3500トン、満載排水量2万2000トンにも達する大型のドック型揚陸艦であり、戦車14両と装甲車30両、各種トラック90台、陸自隊員670名を搭載し、LCAC二隻で揚陸作業を行うことができる能力を有している。この「おおすみ」型輸送艦は「おおすみ」「しもきた」「くにさき」「しれとこ」「ぼうそう」「たかなわ」の六隻が建造されており、六隻全てを使えば1個旅団戦闘団を輸送可能とされている。

 今回はウマヤ市に第4施設団隷下の第6施設群を輸送してきており、本部管理中隊、施設中隊3個、施設器材中隊、ダンプ車両中隊、整備支援隊等からなる隊員760名、各種車両240両と各種資器材を揚陸中であった。

 この他にも土木建築会社の人員と車両と資器材が、ウマヤ市では揚陸されている最中なのである。地球でいうところの1920年代の文明レベルの者からすれば、驚くなというほうが無理があるというものであろう。


「……ニホン国は、この島の開発を急いでいると聞いていましたが、本当に三年で開発のめどをつけるつもりなのですか」

「はい。政府の希望としては、三年後に最初の農作物の収穫と輸出を可能としたい、となっています。さすがにダムの建設と送電網の整備には十年単位の時間が必要となるでしょうが、最低限の道路と鉄道の敷設ならば、三年以内に終わらせられると見積もっています」

「……この広い未開地ばかりの島に、三年で道路と鉄道を張り巡らせる、と?」


 片倉陸将補の言葉に小鬼族の役人は、心底から信じられない事を聞いたかのような表情を浮かべた。

 そんな彼に向かって片倉陸将補は、あくまで穏やかな笑顔を保ちつつはっきりと言い切った。


「全てに張り巡らせることは予定されていませんが、必要な分は敷設いたします」


 そして片倉陸将補は心のうちでつけ加えた。

 荒廃した農地の復旧や、湿原地帯での灌漑施設の整備を行い、大規模で高率化された農場を建設する。それから大量の農作業用機械を投入して、米、芋、大豆、トウモロコシといった穀物を中心に農作物を植え収穫する。

 これに失敗すれば日本の食料は配給制となり、社会不安が醸成され闇市場が蔓延し、犯罪組織が跋扈することになるだろう。そうなったら日本国は、破滅にむけて一歩踏み出すことになりかねない。

 だが、自分達自衛隊と民間有志らが力を合わせて全力をつくして、そんな未来は回避してみせる。

 これもまた国防のありかたの一つだと、片倉陸将補は内心強く覚悟を決めていた。



 2025年11月末から始まった日本のパラヴィジュラ諸島進出は、まず陸上自衛隊を中心に、ムラヤ島、タラニ島、タダ島、カランダ島、レトダ島に部隊を展開させることから始まった。

 ムラヤ島には、まず札幌の第2師団と熊本の第8師団と、第6、第12施設群が展開した。

 第2師団は、第24戦車連隊と第25普通科連隊を基幹とする第9旅団と、第22戦車連隊と第9普通科連隊を基幹とする第26旅団で編成され、他に第2特科連隊が師団特科隊隷下に所属している半個機甲師団編成の機動打撃部隊である。

 第8師団は、第50、第54普通科連隊からなる第16旅団と、第52、第53普通科連隊からなる第28旅団で編成され、第8特科連隊と第16戦車大隊が師団直轄として配属されている。

 さらに来年度には、東京の第1師団から抽出した人員で第11師団を新設することで、3個師団体制でムラヤ島の警備を行う予定となっていた。当然のことながら、各旅団は普通科連隊と戦車連隊の増設もまた予定されており、戦車連隊と普通科連隊を合計で4個隷下におく計画となっている。

 そしてタラニ島には、帯広の第5師団が移駐してきており、第51戦車連隊と第6普通科連隊からなる第8旅団、第53戦車連隊と第22普通科連隊からなる第27旅団、そして第5特科連隊が展開した。同じく来年度には、名古屋の第10師団を基幹として新編される第12師団が配置され、約8万平方キロにも達するタラニ島の防衛を担当する予定となっている。配置される施設群は第10施設群である。

 またタダ島には信太山の第37普通科連隊と今津の第18戦車大隊からなる第24旅団、ビジャン島には宇治の第45普通科連隊と今津の第21戦車大隊からなる第25旅団、カランダ島にはえびのの第24普通科連隊と珠久の第20戦車大隊からなる第22旅団、レトダ島には高松の第49普通科連隊と日本原の第14戦車大隊からなる第23旅団が上陸している。タダ島には第4施設群、ビジャン島には第14施設群、カランダ島には第9施設群、レトダ島には第8施設群が展開し、民間業者と協力してインフラ整備と陸海空の基地施設の建設にあたることになっていた。

 これらの旅団は、今後普通科連隊や戦車連隊の新設と特科部隊の移駐をもって、普通科連隊と戦車連/大隊を合計で3個から4個、旅団特科隊に1個から3個の特科大隊、そしてその他の支援部隊を有する正規編成の旅団として編成される予定となっていた。

 当初陸上幕僚監部では、第8、第11、第12師団隷下の旅団と、第22、第23、第24、第25の各旅団を、普通科連隊3個と戦車大隊1個、特科大隊3個編成の旅団特科隊などを基幹とする旅団戦闘団編成が可能かどうか検討した。そして当然のように予算と人員の都合から考えて不可能であると見切りをつけ、最低限必要な警備活動が可能な規模にとどめるべきである、との結論にいたったのであった。その結果陸上自衛隊は、現状展開させられる戦力では島嶼全体の防衛は不可能である、というシミュレーション結果を元に、都市部を中心とした住民保護を優先するという方針を選択したのである。

 そのため、連隊戦闘団による機動防御によって上陸してきた敵を撃破し排除すること、を目標とすることになった。結果として配備される装備も。路外機動力に劣り正面からの高烈度戦を戦うことを念頭においていない共通戦術装輪車両ではなく、敵の機甲部隊を正面から撃破するための共通戦術装軌車両主体にすることを検討しているのである。

 こうして陸上自衛隊は、2030年までにパラヴィジュラ諸島の防衛体制を整備する計画をたて、着実に進めてゆくつもりでいるのであった。



 カナロア王国の王宮で今後のムラヤ島において日本が進める開拓事業について詳細を打ち合わせした畠山武雄総裁は、開拓公団の現地責任者にあとを託すと陸上自衛隊のV-22輸送ヘリで那覇空港まで飛び、さらにチャーター機で羽田空港まで急ぎ戻ってきた。時はすでに12月末になっており、日本各地は年末の賑わいをみせている。


「ルクシニアでの交渉、お疲れ様でした、早河総理」

「ありがとうございます、畠山さん。そちらもカナロア王国との交渉、お疲れ様でした」


 年末年始の選挙区での挨拶に戻る直前の早河太一首相を訪問した畠山総裁は、ティグリ市でまとめた計画案の概要を報告した。首相官邸には当然のように閣僚らも集まっており、実質的な今年最後の閣議となってしまっているといってもよい。


「さて皆さん、まず最初に前提としてですが、パラヴィジュラ諸島の荒廃は予想以上のものがあります。はっきり申し上げるならば、ルクシニアが建設した商品作物の農園はほぼ壊滅、住民の人口は20年前には100万名を超えていたのが、現在では40万名を下回る数しか残っていません。つまり……」


 ここで言葉を切って一息ついた畠山総裁は、あくまで真面目な表情をしたまま結論を述べた。


「パラヴィジュラ諸島は、将来的には日本国に併合せざるをえなくなる、と考えます」


 畠山総裁の出した結論に、真っ先に質問を発したのは外務大臣であった。


「それでも、カナロア王国はまだ独立を保っています。農業の振興を進めて医療支援を行えば、独立は維持できませんか?」

「それは当然検討しました。ですが、肝心のカナロア政府、というより女王にそのつもりがありません。すでに直系の王族は残っておらず、傍系も女性ばかり。ムラヤ島以外の島々では、それぞれの領主がなんとか領地を維持しているに過ぎない有様です」

「……領主が領主特権を手放すとは、到底考えられませんが」

「はい。ですからそれぞれの領主は、すでに王国に対する忠誠心を失っており、自分の領地さえなんとかなるなら、それ以外については一切興味がありません」


 畠山総裁の言葉に、いならぶ閣僚らは全員が頭を抱えたそうな表情になった。


「つまり、カナロア王国だけが残っているのではなく、王族が残っていて王国を名乗っているのがカナロアだけ、ということですか?」

「はい、その理解で正しいかと」

「……限りなく最悪に近い状態じゃないですか」


 外務大臣は、畠山総裁の説明を聞いて、心底困ったような表情になった。

 つまり今のパラヴィジュラ諸島は、古代中国の春秋戦国以前の各部族ごとの分裂状態にも等しい有様で、それぞれの住民が領主を中心として閉じた世界を作ってしまっている、ということだからだ。これを統一して日本にとっての友好国にするのは、まず不可能といっても過言ではない。

 日本国はパラヴィジュラ諸島で農業、漁業、鉱業を振興し、日本本土への各種物資を運びこむつもりでいるのである。そのためにわずかひと月で陸自だけでも5万名もの隊員を派遣し、民間各社からも数万名以上もの人間が送りこまれてインフラ整備にたずさわっているのだ。当然その数は、これから増えることはあっても減ることはない。

 この日本人と現地住民の間の経済格差がもたらす影響は、彼らの既存の社会構造を破壊してしまうことが容易に予想できるのである。


「そして、カナロア王国のメフネ女王から、今上陛下のお血筋に連なる皇族を王配として迎え入れたい、と要請がありました」

「それは、いくらなんでも無理だろう。今皇族男子で未婚の方は、皇嗣殿下の御子息しかおられないんだぞ。皇嗣殿下ご夫妻の御歳も考えるならば、次の天皇陛下は決まっているようなものだ」


 さらに続いた畠山総裁の報告に、閣僚の一人が反射的に否定の言葉を発する。

 今の日本の皇室は、とにかく少子化の世相に影響を受けたのか、未婚で出産可能な皇族がごく少数しかいない。そのため女性宮家を認めるよう与党内では皇室典範改正の検討が行われているが、皇族に下手な家柄の血筋を入れるわけにはゆかず、ろくに議論すら進んでいなかった。

 なにしろ元華族が大半の宮内庁職員にまでリベラルな意識の人間が多数入りこんでおり、彼らがいわゆるリベラル的価値観からすると時代遅れもはなはだしい皇室のためにどれだけ誠実に働いているかというと、外から見ると疑わしいことこのうえないものがあるのだ。そのくせ元華族の血筋による縁故採用がまかり通っているため、時の政府ではいかんともしがたいところがあった。


「……本来皇室の藩屏たるはずの宮内庁や元華族が、最も皇室をないがしろにしているんだ。しかも血筋がからむ話だから、そうそう政治が首を突っこむわけにもゆかん」


 そして、本来は皇室の藩屏たる人材を育成することを目的とした存在であるはずの華族であったはずが、今上陛下の御令嬢である内親王殿下に対するいじめを放置し不登校にまで追い込むという、本来ならば許されざるスキャンダルまで引き起こしたのである。

 日本国の皇室をとりまく状況は、長年にわたる反体制的なリベラル思想に影響された人間によって、悪化の一途をたどっているのであった。なまじ高等教育を受けた人間ほど、いわゆる意識高いリベラルで皇室敬慕の意識が薄いという傾向があり、リベラルな人間特有の責任回避指向もあって、よほどの強権的な改革を実施しなければどうにもならないところまで追いつめられていた。


「……それにそもそも、皇室を婚姻政策の駒として使うことを、国民が許すわけがない。そんなことがすっぱ抜かれたら、下手しなくても内閣総辞職だろう」


 結局のところ、日本国民全体に空気としてある、今までうまくいっていたやり方を変えたくはない、という後ろ向きな姿勢こそが、この異世界転移という国家滅亡の危機に直面した日本にとっての最大の脅威と言ってもよいのだ。

 その結果として起きている危機が、国民の少子高齢化であり、皇室の存続問題であり、地方の衰退なのである。


「まあ、それは今はおいておこうじゃあないか」


 閣僚皆が頭を抱えている中、早河首相があり変わらずの呑気そうな声色で場の雰囲気を変えた。


「親王殿下の御結婚は、三年後の大学御卒業後よりあとになるからねえ。現状結婚相手を探すのは、政府としては筋が悪いと思うよ。とりあえずカナロア王国については、経済安定化まで棚上げということにしよう」

「……先送りですか。確かに他に方法はないでしょうが」

「だって、他に方法がないからねえ。それに、もっと先に手をつけないとならない事があるしね」


 あくまで余裕をにじませた表情で、早河首相はそう言って閣僚らを見まわした。


「来年の通常国会で、まず来年度の予算を通さないと。それから憲法改正を理由に解散総選挙をやる。今年、衆院と参院で選挙をやったばかりだからね。野党も異世界転移で金づるを失って経済的に厳しいし、省庁再編と監査の強化でこれまでの集金組織もがたがたになってる」


 実にあくどい笑顔を浮かべた早河首相は、どすのきいた声色できっぱりと言い切った。


「来年は、憲法改正から始めてこの国の在り方を徹底的に変えるよ。日本崩壊まで、あと三年から五年しかないんだからねえ。やれる事は全部やって、なんとしてもこの国を生き延びさせないとね。皆も、そのつもりで覚悟を決めて欲しい」


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