三九 第二章・グレートゲーム 第五世代戦闘機F-3「シルフィード」のデモフライト
三九
ルクシニア帝國の帝都イクナイオンの空の玄関口であるハイヤメト皇嗣記念空港は、ンチャナベ連合王国の援助を受けて軍用機以外の民間ジェット機も離発着可能な飛行場として建設された、帝國初の近代的飛行場である。とはいえ民間での航空輸送は、ルクシニアの国内便は少数の飛行船が主力であり、海外便もンチャナベ等の転移国家との間にわずかな本数しか開通していないため、実質的には帝都防空のための空軍基地としての性格のほうが強い。
そのハイヤメト皇嗣記念空港のターミナルにしつらえられた観客席で、ンチャナベ連合王国のゲジマ=ハビ・ンゴラ大使は、かつて王立空軍の主力迎撃戦闘機であったKN4「カズカジ」戦闘機が、日本国が持ちこんできたF-3戦闘機に追いかけ回されるがまま、という屈辱的なショーを観覧させられるはめになっていた。
冬の澄み切った蒼空の中で、ブルーグレーの低視認塗装がほどこされた航空自衛隊のF-3戦闘機が、カーキ色ベースの地上迷彩塗装のルクシニア空軍のKN4「カズカジ」戦闘機の後方をしめたままその空中機動に楽々とついてゆく姿は、もはや不快を通り越して感嘆のため息すらもれるくらいである。機体全長13メートル強、翼幅9メートル強の単発単座の軽戦闘機が、全長21メートル弱、全幅15メートル強もある双発複座の戦闘爆撃機に機動性能で全くかなわないという光景は、日本国とンチャナベ連合王国の技術格差をまざまざと見せつけられているようで、大使としては乾いた笑いをうかべることすら苦労するほどであった。
「……帝國に売却した戦闘機は、全て我が空軍から退役した旧式機だそうだが、王立空軍の戦闘機軍団の最新鋭の機体ならば、もう少しましな見世物になったのかね?」
かたわらで顔色なさしむる姿をさらしている駐在武官の空軍大佐に向かって、ゲジマ=ハビ大使は回りの人間に聞こえないよう小声で質問を投げかけた。大使の周囲は、F-3戦闘機に搭載されたF9-IHI-20ターボファンエンジンがとどろかせる轟音で、まともに会話するのもむつかしいくらいであるが、それはそれとして当然の気遣いではある。
「……まことにお答えしづらいのですが、王立空軍が計画中の戦闘機であっても、さらし物となるであろう事を否定するのは難しいかと」
「……やはりか」
上昇旋回で内側に入りこもうとしているKN4「カズカジ」戦闘機を、さらに小さい旋回半径でほぼ垂直に上昇して追いつめてゆくF-3戦闘機の規格外ぶりに、ゲジマ=ハビ大使は予想された通りの回答に口をつぐむしかなかった。
「あの上下斜めに伸びている尾翼は、全体が遊動式です。そのためどのような姿勢をとっても、最低でも三枚に気流があたり舵が効くのです。それが、あの極めて優れた機動性能の一因かと考えられます。現時点での我が国の航空機技術では実装は難しいでしょうが、将来における開発の方向性の参考にはなるでしょう」
F-3戦闘機は、全遊動式の垂直尾翼が機体の外側に傾けて配置してあるのと同時に、全遊動式の水平尾翼が飛行中は斜め下方に伸びるように実装されている。離着陸時の水平尾翼はほぼ水平の位置に展開しているが、空中に上がったならば斜め下方へと向きが変わるのだ。
このため飛行中のF-3戦闘機は、前方から見ると水平に伸びる主翼の後方にX字状に尾翼が伸びて見えるという、中々にSFちっくな見た目の機体なのであった。
当然にこれは設計者の趣味によるデザインではなく、きちんとした理由があってのことである。飛行機は機首を上げて迎え角をとると、尾翼が機体にかくれて気流があたらなくなり舵が効かなくなってしまう。そのためF-2戦闘機やF/A-18戦闘機などは、垂直尾翼を外側に傾けることで、機体の下方を流れる気流が垂直尾翼に当たるように設計されている。F-22やF-35の垂直尾翼が、主翼と水平尾翼の間に斜めに傾けて配置されているのは、そのためなのである。
そしてF-3は、低空侵攻能力も当然のように要求仕様に入っていたため、低空での機動性も高いものが求められたのであった。その結果として、翼だけではなく機体全体で揚力が発生するブレンデッド・ウイングアンドボディを採用し、その上でどのような姿勢でも方向舵が気流をつかまえて機能するようX字状に尾翼を展開させる形状を採用したのである。
四枚の尾翼が全遊動式となって極めて高い舵の効きを発揮する上、推力偏向装置によってF9-IHI-20ターボファンエンジンが発揮する推進力のベクトルを操作できるF-3は、結果として大気状態の不安定な超低空から密度が薄くなり舵の効きが弱くなる高高度まで、いかなる高度でも高い飛行性能を発揮することが可能な高機動戦闘機として完成したのであった。
なお余談ではあるが、ノースロップ・グラマン社に引き渡された試験機を見た米空軍のパイロットが、「X Wing!」を連呼して大はしゃぎし、実際に試験飛行を行ってその運動性の高さに大喜びしている動画をSNSにアップしたことがあった。そのためF-3は、アメリカのネット上では「やっぱり日本人は未来に生きている!」と世界的大ヒットSF映画のファンを中心に大きな人気を集めていた。
なお当の日本人の間では、昭和の頃のSFファンを中心にペットネームを「雪風」「シルフィード」と呼ぶ者が多く、航空自衛隊の広報も半ば公認の形で愛称を「シルフィード」として紹介していたりする。
「一つだけ明るい材料があるとすれば、あの戦闘機は昨年から量産が始まったばかりの最新鋭機なので、実戦に投入可能となるまでまだしばらく時間がかかる、というところでしょうか。それまでに外務省の方々に骨折りしていただくしかないと、小官はお答えするしかありません」
「……だが、実際にこうして実物が各国の外交関係者の前で飛んでしまったのだ。今後は連合王国の外交官にとっては、ずいぶんと仕事がしづらくなることであろうよ」
さすがに残り燃料も限界にきたのか、翼を振って離脱したKN4「カズカジ」戦闘機に対して、まだまだ燃料に余裕があるのか、F-3戦闘機は空港上空に残って色々な飛行動作をパフォーマンスしている。
水平飛行から横倒しになって急旋回してからバレルロールを打って飛んでみたり、水平飛行から機体を垂直に立ててそのまま降下して水平飛行に戻ってみたり、水平方向に機体姿勢をたもったまま回転しつつ降下しまた水平飛行に戻ってみたり、あげく垂直方向に機体をくるくる回転させたり水平方向にくるくる回りながら地面と平行にまっすぐ飛んでみたりと、まったくもってやりたい放題しまくりである。
ゲジマ=ハビ大使は、少し離れた席で実に楽しそうに笑いながらそれを見ている日本国の早河太一首相の姿に、心底からの羨望の念を感じてしまった。
帝都イクナイオンに駐在している各国大使館の関係者の前で、実に派手というかわざとらしいお披露目をしてみせた航空自衛隊の最新鋭戦闘機F-3「シルフィード」は、早河首相が期待した通りの衝撃を各国の関係者に与えることに成功したようにみえた。
「正直に申し上げて、物理科学の可能性というものの深淵さに驚倒するしかできませんな、首相閣下」
「いやいや、そこまで驚かれては、逆にこちらが恐縮するしかできないのですが、宰相閣下」
観覧席の最前列で並んで座り、航空自衛隊とルクシニア空軍が披露した展示飛行を楽しみながら、早河首相とウリ=クディリ宰相の二人は、ゆったりとした様子で雑談という体をとって色々と機微な話を進めていた。
帝都イクナイオンの郊外に建設されたこのハイヤメト皇嗣記念空港は、帝都内と違って空気も綺麗で喉にも目にも負担がかからない。大出力の低バイパス比ターボファンエンジンがとどろかせる騒音こそ耳に痛いくらいだが、だからこそ周囲に聞かれず話をするにはもってこいということでもある。
「しかし、帝國が我が国の飛行機を導入するつもりがない、というのが意外でした」
「私としても残念ではありますが、なにしろ皇帝陛下の御心ゆえ、いたしかたありませぬ。御前会議にてはっきりと、「インチねじを帝國に入れるべきではない」と御聖断が下った以上は、臣下としては逆らうわけにもゆかず。ご容赦願いたい」
「まあ、日本国の技術者らも「ヤードポンド法滅ぼすべし」「インチねじ抹殺」と、広言してはばからないですからなあ。寸法単位が違う工業規格の製品を導入することの弊害は、我々政治家が思うよりも大きいのでしょう」
「なにしろ帝國の工業規格は、陛下が日本国より持ち帰られた原器を元に策定されましたからな。40吋で1メートル、1听が500グラムで、1呎が30サンチと、メートル・グラム法に準拠しておりますゆえ」
「もちろん、それは理解しておりますとも。まあ、陸軍の装備品は我が国が提供する兵器を採用していただける、との事ですから、何も問題はありませんのでお気遣いなく」
早河首相は、少し離れた席で相変わらず表情を浮かべないままF-3戦闘機の展示飛行に見入っている日本人民共和国共産党中央委員長の姿に視線を向けつつ、なんとも残念そうな口調でそう返事をした。
そんな首相の口調が可笑しかったのか、ウリ=クディリ宰相はくつくつと小さく笑い声をもらしてから、軽く咳をして場の空気を変えて話を続けた。
「とはいえ、日本人民共和国から、地球世界でも第一線で使用されている戦闘機を70機も購入できるというのは、次の戦争を考えるならば実にありがたいのですよ。まして、我が国にジェット機の開発生産のための施設だけでなく、各種兵器の開発生産基盤まで提供してくれるとなれば、その是非は言うまでもなく」
「まあ、その点については、我が国は色々と法的な手続きが面倒になっているのは事実ですので、何も言えませんなあ。まして自衛隊が現在調達中の装備品は、調達にも運用にも金がかかりすぎて、今の帝國では持て余してしまうのが目に見えておりますし」
「そういうことですな。あのF-3戦闘機が、帝國の新鋭戦艦とほとんど変わらぬ値段であると聞かされて、思わず葉巻を取り落すところでした」
航空自衛隊が現在全力で調達を開始したF-3戦闘機は、2025年時点の地球世界においても他に類をみない独特な尖った方向性の機体であった。
そもそもが、地中貫通爆弾で対抗目標の対爆構造の軍事施設を破壊することを目的とした戦闘爆撃機であり、それゆえの搭載量を活かし空飛ぶSAMサイトとして、日本国に侵攻してくる経空目標をことごとく滅殺せんとする防空戦闘機でもあるのだ。
新開発されたGCS-3地中貫通爆弾を搭載して戦闘行動半径1000カイリと、朝鮮半島全域と樺太島北端までを攻撃範囲におさめ、さらには北京をはじめとする大陸の東シナ海周辺の戦略目標を爆撃可能という、05大綱で明記された敵基地反撃能力のかなめとなる戦闘機なのである。
そのため、機体規模は全長20.8メートル、全幅15.4メートル、全高7,4メートル(飛行時)、乾燥重量19,800キログラム、全備重量42,400キログラム、最大離陸重量48,800キログラムにも達する大型機となり、燃料12トンと各種武装8トンを機内に搭載可能となっている。
固定武装は、F-35A戦闘機にも搭載されている口径25ミリのGAU-22/Aガトリング機関砲1門であり、機体右側の空気取り入れ口上部に搭載されていた。
機内ウェポンベイは、胴体中央部下面に全長9.6メートル、横幅135センチ、奥行75センチのものと、空気取り入れ口後方の機体側面に全長4,2メートル、幅68センチ、奥行き35センチのものが左右二ヶ所である。ちなみに対空ミサイルの搭載数は、JNAAMならば中央弾倉に10発と左右弾倉に1発づつの12発を搭載可能であり、現在開発最終段階に入っているX-AAM6空対空誘導弾ならば、中央弾倉に12発と左右弾倉に2発づつの合計16発を搭載可能となっていた。
なお左右ウェポンベイには、スタンドインジャマーとして使用されるUAVのKEQ-7を1機づつ搭載可能であるが、これの搭載は電子情報戦機として開発されているEF-3に予定されている。スタンドインジャマー用UAVは、あくまでSEAD/DEAD任務用の機材であり、それは電子情報戦任務機であるEF-3でなくてはその性能を十全に発揮できない、と空幕においてシミュレーションの結果、結論が出ていたためであった。
そしてF-3の機外兵装搭載ステーションは、左右主翼に三ヶ所づつ六ヶ所に600ガロン増槽を一本づつか、燃料搭載量を400ガロンに減らし代わりに二発の空対空誘導弾を搭載可能としたミサイルポッドを一本づつ六本が搭載可能であった。他にも空対艦誘導弾が、機内に2発から4発と翼下に6発の合計8発から10発が搭載可能であり、さらに各種無誘導爆弾多数の他にも、2000ポンドLJDAMを機内に4発と翼下に6発の合計10発、CBU-97クラスター爆弾ならば機内に12発と翼下に12発の合計24発を搭載可能なのである。
この通り機体内外合計で12トンもの各種兵装を搭載可能であり、多用なミッションを遂行できるマルチロールファイターであるため、F-15E同様に搭乗員は操縦士と兵装システム士官の二名となり、運用の柔軟性と冗長性を確保している。将来的には操縦士をAIで代替することも検討されているが、さすがにそれは空自のパイロット達の反発が大きく、よほどの事情が発生しない限りは無理だろうと防衛省や航空幕僚監部では考えていた。
「そういえば、日本人民共和国より導入する戦闘機、MIG-29は随分と改造の手を入れられる予定だそうですな」
「貴国と人民共和国の関係がどの程度変わるかにもよりますが、できれば誘導弾は、将来的には自衛隊が採用しているものを搭載できるようにしたいのですよ」
日本人民共和国国防軍の主力戦闘機であるMIG-29MJは、共和国がソ連崩壊後の混乱期のどさくさにミグ設計局からライセンス生産権をもぎとって採用した機体である。
元々MIG-29は、ソ連前線空軍で陸軍に対する航空支援を行うために開発された戦闘機であり、極めて高い低空運動性と野戦飛行場での運用能力、そして野整備の容易さをつきつめた戦闘機であった。そのため、文字通りエンジンは使い捨てに近く、兵装の搭載量も少なめであり、同世代の西側の戦闘機と比較しても色々と使い勝手の悪い機体ではあった。
だが、冷戦崩壊後ソ連軍の庇護のなくなった日本人民共和国は、空軍の全面的な改革を実施した際に、Su-25のような単能の専門機を引退させ、ミグ設計局が開発中のMIG-29戦闘機をマルチロールファイター化させたMIG-29M戦闘機を主力戦闘機として採用したのである。
これは、空軍の主力を作戦機から対空ミサイルに変更し、共和国全土を対空ミサイルの傘でおおいつくし、その上で高速道路などを活用した野戦飛行場からMIG-29MJを出撃させて前線の陸軍部隊への航空支援を実施する、という空軍戦略の転換を行ったためである。この弱者としての空軍運用においては、MIG-29MJの基地機能に依存するところの少なさは非常に大きなメリットであり、多少兵装搭載量が少なかったり、オーバーホール間隔が短かったりすることは、許容範囲であると割り切った上での採用であった。
ルクシニア帝國にとっても、この野戦飛行場での運用を念頭において開発されたMIG-29の特性は非常に有用であり、部品や弾薬等の消耗品の補給さえ安定するのであれば、是非とも数をそろえたい機体であると評価されていた。なにしろ帝國の航空機運用基盤は、まだ整備が始まったも同然の状態であり、空自戦闘機に共通する、JADGEの端末としての戦闘機という基地機能やネットワーク機能に依存するところが極めて大きい機体という性格は、システムそのものの導入にかかるコストが重すぎて採用に二の足をふむところが多いのであった。
さらに日本国は防衛装備品開発においては、基本的にハイエンド狙いのものが大半で、経済規模の小さい国向けのチープな兵器がラインナップには無かったりする。その点日本人民共和国は、旧ソ連の衛星国として安価な兵器をうまく改良したり運用法を工夫したりしてきた経験があり、地球世界で1920年代相当の文明水準にあるルクシニア帝國であっても、比較的少ない負担で導入できる兵器の生産基盤を有しているのであった。
「確かに誘導弾は、事実上の職人による手作りですからなあ。日本の企業の規模は決して大きくはありませんが、それでも「北」と比較すれば大きいですし、自衛隊の備蓄量もかなりのものですからな」
「左様。せめて敵が投入してくる機体を全て撃墜できる数くらいは、数をそろえたいのですよ」
早河首相とウリ=クディリ宰相は、具体的な名前は出さないようにしつつも、視線だけイリオン人民連邦の大使の方へと向けて、そうのべた。
イリオン空軍の主力戦闘機は、南方大陸南端の沖合に五十年前に転移してきたティエレン連合からの技術協力を受けて開発された、亜音速のジェット戦闘機で更新されつつある。なお主武装は大口径の機関砲であり、誘導弾は開発途中であると帝國の諜報機関が情報をつかんでいた。
つまり地球世界で言うならば、F-86かMIG-15世代の機体ということである。その点、一応超音速を発揮可能であり、高い上昇性能に裏づけされた機動性能を有するKN4「カズカジ」戦闘機は、イリオンの戦闘機と会敵した際、ほぼ有利な条件で空戦を行うことができることが確認されている。
「先ほどデモ飛行した戦闘機ですが、あれ可動機数が50機を割ってしまったそうですな」
「ええ、なにしろ連合王国が、整備補修用の部品を中々送ってきませんでな。おかげさまで、共食い整備をせねばまともに飛ばせもしないという有様でしたとも」
「やはり吹っ掛けられましたか」
「もちろん。南部油田地帯の事実上の割譲、というべき条件を出してきましたからな。さすがにそれは帝國としてものめませぬ」
早河首相は、経済的に追い詰められたンチャナベ連合王国政府が、焦ったばかりにドジを踏んだのだと見切りをつけた。そしてその失敗に乗じるかたちで、日本国と日本人民共和国がルクシニア帝國内で大きな利権にありつけることを、連合王国がこころよく思わないであろうことも理解できてしまった。
「これは、イリオンよりもンチャナベの方が、日本にとっては難儀な敵になりそうですねえ」
「ふむ、彼らがそこまで後先考えぬ真似をしでかしますかな?」
「石油という燃料資源問題で、日本国はンチャナベの死命を制する形になってしまっておりますからな。意図したゆえではありませんが、覚悟は必要となるでしょうねえ」
日本国が転移した場所が、ルクシニア帝國南部油田地帯からンチャナベ連合王国までの海上通商路をふさぐ位置であることで、早河首相は内心で日本を異世界転移させた神様とやらを罵倒したい気持ちでいっぱいであった。核弾頭搭載弾道ミサイルを持つ国と好き好んで敵対する趣味は、彼にも日本国にもないのだ。
「ンチャナベとの国交開設交渉、焦った向こうがどんな条件を出してくるのか、いや困ったものですよ」
だが早河首相は、口先ではそう愚痴をこぼしつつも、その表情は楽し気な稚気に満ちたものであった。
そんな彼をウリ=クディリ宰相は、実に興味深そうな表情でながめていた。




