私の親友
スマホのアラーム音で目を覚ますと辺りを見回した。
「良かった……」
風俗の部屋ではなく、ちゃんと自分の部屋にいた事に安堵のタメ息を漏らす。
時刻は午前五時、まだ少し薄暗い中、ベットから降りるとキッチンに向かった。
◇◇◇
お母さんと私の二人分のお弁当を用意して、朝御飯をテーブルの上に並べたところでお母さんがやってくる。
「おはよう、早いね、これアヤネが作ったの?」
「そうだよ、私以外に誰もいないでしょ」
「確かに……なんか怖い」
何が怖いのさ。ただ真心込めて朝御飯とお弁当を作っただけなのに……
「台風でもこないか心配だわ」
「どうしてそうなるの!ほらお母さん座って、食べよ」
「……うん」
狐にでも摘ままれたかのように首を傾げるお母さんは、納得のいってない表情で席に座ると朝御飯を食べ始めた。
「アヤネ、今日は学校に行くの?」
「うん、行くよ」
「もう大丈夫なの?なんなら落ち着くまで休んでもいいのよ」
なんて声を掛けてくれるお母さんの優しさが染みる。私は本当に大事にされていたんだなとしみじみ思った。
「大丈夫だから心配しないで」
「ならいいけど……」
などと軽い会話をしながら朝御飯を食べ終わると制服に着替えて家を出る。
「お母さん行ってきます。お弁当作ったから持っていってね」
「えっ?お弁当まで用意してくれたの?地震の起きる前触れかしら……」
いやいや何を言ってるのお母さんさすがに失礼すぎるでしょ!
まっ、お弁当も期待してね。六年分の愛情と心を込めて作ったからね。うふふ
「いってきまーす」
◇◇◇◇
久しぶりの通学路に胸が踊る。
ずっと通った道だけど、キョロキョロと不審者のように辺りに目を向けてしまう。
学校までは歩いて二十分ほどで着く。
何度も見ていた見覚えのある風景が新鮮に感じるのだから不思議だ。
校門の前まで来ると、懐かしい声がして足を止める。
「アヤネおはよう、昨日はお休みしてたけど風邪?」
声を掛けてきたのは白瀬カナだった。
カナは高校時代の親友で、卒業してからも頻繁に連絡を取っていた。
そして最後まで私の事を心配してくれていた。
懐かしい顔に思わず涙が溢れ抱きついてしまう。
「カナ、カナだ、カナー会いたかったよー」
嬉しさが込み上げ、力いっぱい抱き締めてしまいカナに苦しそうな表情が浮かぶ。
「ちちょっとアヤネ落ち着いて!どうしたの?って苦しい、離して!」
「カナ、カナ、カナ、カナー」
「いや、だから落ち着いて!離してって」
「カナ、カナ、カナー」
「し死ぬ、死んじゃう、いいやぁぁぁぁ」
嬉し涙を流して抱き付く私とは裏腹に、本気で嫌がるカナの叫び声が登校する生徒が沢山いる校門前で響き渡ったのだった。