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灰色の空が変わるまで  作者: 白兼 海
6/8

大盛カレーおまち!



 お母さんが帰ってきた。帰ってきたんだけど、


 「ただいま~お腹すいちゃった、外までいい匂いがしてたわよ」


 玄関のドアを開けた途端にこれだ。


 この感じから私の予想通りお昼は抜いたのだろう。


 お母さんは公務員だし、私も贅沢を好まないからお金にはそれほど困ってはいないはず。普段頑張っているお母さんが一人プチ贅沢しても文句は言わない。

 だからお弁当を持っていかなかった日ぐらいは外食でもしてほしかった。なんならお惣菜かお弁当買ったりでも良かったのに………


 タメ息を吐き、お母さんにじと目を向ける。


 「おかえり、お母さんまさかお昼抜いたとか言わないよね?」

 「えっ?抜いたわよ。だって勿体ないじゃない?」


 さも当たり前のようにそんな事を言うお母さんに呆れてしまう。


 (もう何を言ってもムリだこれ)


 『お母さんは節約が趣味』とムリヤリ思考を切り替え、表情を笑顔にする。


 「ちょうど今できたとこだよ。お母さんお風呂入っておいでよ」


 本当にカレーができたのはギリギリだった。

 役所で働くお母さんは何かがない限りちゃんと定時に仕事が終わり、同じ時間に帰ってくる。

 もう少し気が付くのが遅れていたら間に合わなかった。


 「う~んお腹すいちゃったから、先にご飯にするわ。手洗ってくるね」

 「うん分かった、カレー準備しとく~」


 お母さんが洗面所に手を洗いに行っている間にカレーをよそう。


 お昼を抜いたお母さんのカレーはこれでもかというくらいに沢山入れた。私に気を使わせるお母さんにちょっとした意趣返しだ。またはそれを親子の触れ合いとも言う。


 そして二人分のカレーをテーブルに並べたところでお母さんがやってくる。


 仕事に出掛けたままの格好でやってきたとこを見ると、本当にお腹がすいている事が分かる。

 心の中で『お昼食べたら良かったのに』と呟きながら椅子に座るとお母さんも釣られるように座った。


 「なんか私のカレー多くないかな?お皿並々なんだけど?」

 「お母さんお腹すいてるみたいだから沢山入れてあげたよ」

 「ありが、とう、こんなに食べれるかな……」

 「愛情たっぷり入れて作ったんだから全部食べてよね」


 ウソは言ってない。本当に愛情はたっぷり入れてある。でもこのカレーの量はやり過ぎたかな?


 「「いただきます」」


 示し会わせたように同時に声を発すると、お母さんが微笑みカレーに手をつけた。


 「うん美味しい、アヤネも見てないで食べなよ」


 反応が気になってじっとお母さんを見ていた私はそう言われて頷くと、カレーを口に運んだ。


 カレーは美味しかった。


 カレーは失敗するのが難しいってのもあるけど、慌てて作ったにしては中々の出来栄えだ。


 「お母さん美味しいね」

 「アヤネが作ったからよけいに美味しく感じるわよ、ありがとうね」


 それは心から嬉しいと感じる台詞だった。


 『美味しく感じる』『ありがとうね』どの言葉も大好きなお母さんから言われたのだからに本当に響く。

 あの地獄に落ちる前に戻れて良かった。


 「お母さん、ありがとう」

 「どうしたのよ急に、何か欲しいものがあるの?」

 「何でそうなるのよ!違うよ、ただお母さんに言いたかっただけだよ。だからお母さんはどういたしましてって言えばいいの!」

 「ふ~ん、何だかんだよく分からないけど、どういたしまして?」


 よく分かってないお母さんは首を傾げながらカレーを頬張る。


 お母さんは何も分かって無くてもいい。私がお母さんの事を大切に思っていれば………


 (キャバクラのバイトやめようかな)


 などと思ってはみるものの、手っ取り早くお金を稼ぐにはこれほど時給のいいバイトはない。

 

 (キャバクラでバイトしたらお母さんに心配かけちゃうなぁ……何て言おう)


 色々考えても結局いい案が浮かばず、とりあえず面接に受かってから考えると決め、お母さんとの会話を楽しみながらカレーを食べる。


 そしてお母さんは何だかんだ大盛カレーを綺麗に平らげたのだった。


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