救われない現実
読んでくれる人いるかな……
様子見で3話投稿します。
喘ぐ声とギシギシと軋むベッドの音が部屋に響く。
その音が止むと「うっ」と声を上げ、ハテた男が私の上に覆い被さった。
粗い呼吸をする男からオジサン臭い匂いと、タバコの匂いが混ざり合ったイヤな匂いがしてそれが鼻につく。
込み上げてくる物を飲み込み、男の胸に頬を当てると甘えた声で語りかけた。
「すっごく気持ち良かったよ」
「そうかそうか俺も気持ち良かったぞ!」
気分良さそうにガハハと笑う男が私の頭を撫でた。
ガサガサの手のひらが、栄養不足と薬物の影響で艶の無くなった私の髪に絡まりすごく痛い。でも声には出せない。
「嬉しい……」
痛みを堪えて言いたくもない言葉を再び甘えた声で発し、男の胸元を指で優しくなぞった。
「うぅっ、また元気になりそうだ」
『気持ち悪い』
心ではそう思っていても汚れきった私のカラダは大きくなり始めた男の物に反応してしまい、下腹部がギュッとする。
ジュクジュクと溢れそうな下腹部が、汚された私の淫乱ぶりと現実を現していた。
「私で興奮してくれるなんて嬉しいよ」
微塵にも思っていない台詞を吐き出して、ベッドの直ぐ側にある台に置かれた時計に目を向けるとサービス終了の時間が迫っていた。
「ねぇ、後十分で終了だけどどうする?」
「そうだなぁ、延長したいけど明日は仕事だから終了で」
「えっ帰っちゃうの?寂しいな……」
「本当かわいいやつだわ!また来るからさ」
言葉と上目使いで相手の心も気持ちよくさせる。
夢も希望もないただ死を待つだけの抜け殻の私が、この世界で生きて行く為に覚えさせられた技術だけど、普通に生きて行く上で全く必要のない技術。
そして今の私にはお似合いの技術………
『死にたい』
何度もそう思った。
でも、勇気の無い私には自ら命をたつ事など出来なかった。
「お客様終了です」
「了解」
受付に入れた電話を切ると、男の手を取り一緒にお風呂へと向かう。
手早く男の全身を洗い、体を拭いて服を着せる。
そして私はブラとパンツを履き、薄手のブラウスを着ると二人で部屋の出口へと向かった。
「また来てね」
「おう」
軽く言葉を交わし、舌を絡めた口づけをする。
ねっとりとした唾液がクチュクチュと音をたて始めると、私は男からゆっくりと唇を離した。
唇が離れる時に伸びた唾液が、私をこの地獄に縛り付ける糸のように思える。
「続きはまた今度ね」
「……残念、また来るよ」
高揚した頬や体が疼くのを必死で押さえて、何度もこちらを見て名残惜しそうに階段を降りていく男に向かって笑顔で手を振った。
男の姿が見えなくなるとすぐに部屋に戻りベッドに飛び込むと、火照る体を慰めるように自然と手が下腹部に伸びた。
「あっ、あっん……」
自分の喘ぎ声と、他の部屋から微かに聞こえてくる喘ぎ声が混ざり合う。
こんな事したくない。したくないけど、脳内を快感に刺激され自然と手の動きが速くなる。
「あっ……あんっ……死に、たい……」
快楽を求める脳と体に抵抗するかのように心からの声が漏る。そしてそれは涙を誘発させた。
涙を流しながら下腹部をまさぐる姿は気持ち良すぎて泣いているように見えるだろう。
惨めでけして救われる事の無い現実が私の心と理性を破壊して行く。
そして快楽が頂点に達しようとしたその時、部屋の扉が開いた。
「お前またオナってんのかよ」
「あんっ……マサト………」
私をこの地獄に叩き落として、淫乱な体に作り替えた元凶の男、鬼沢マサトが立ち尽くし、こちらに哀れみの視線を向けていた。