魔女っ娘は常に空腹
またもや、予告投稿の日を忘れてました。さっき気付きました。万が一、稚作に目を通された方が居られましたら、申し訳ありませんでした。
『どーすんの?』
問い掛けられた言葉に答える余裕はない。
『クロウに続いて、ニグリオスも、ノアールもダクネスまで眠っちゃったよ?』
声をかけるのは胸元の小さな蜘蛛。
小さな手を不安気に擦り合わせている。
(ちょっと、黙って……。)
ぎゅるると腹の虫が鳴った。
ある日、樹木桔梗は死んだ。
やたら「キ」の多い本名はともかく、現代日本に於いて餓死である。
親からの育児放棄。
小学校も中学校も給食だけが楽しみだった。けれど、栄養失調な体には給食は豪華過ぎて腹を下した。嘔吐したことだってあってクラスメートからは避けられた。
「お前は私の言う通りにしてればいいの。」
母親の言葉に素直に頷いた。だから、親と妹が旅行に行く時に、留守番だと言われても仕方ないのだと飲み込んだ。
親は学業より家族内の行事に熱心でとにかく記念日と言っては旅行に出掛けた。
私は、彼等にとって家族ではなかった。食事代として渡されたのはワンコイン。100円でないだけありがたく思えと言われるのはいつものことだった。
「もっと食べたいなら、いい子にしてな。」
小学校高学年になると、親の言ういい子になるために毎日の食事に掃除、洗濯をした。見本は一回だけ、失敗すると殴られた。痛いのはイヤだったから必死になって覚えた。
「身なりは、それなりに清潔にしておけ。」
父親に言われて、自分のものを洗濯するのを許され、シャワーに入るようにいわれたのは、児相が来たからだ。色々相談に乗ってくれようとしていた教師から、自分の親はバカなりに知恵はあるのだと思った。
それらを終了させないと食事にはありつけなかった。
常に空腹。
親ではなく、神を呪ったこともある。実に愚かな洗脳だったと今なら分かる。
だって、たまに貰える飴玉1つを嬉しく思えたんだもの。
台所から見た家族は理想そのものに思えて、明るい光の中に私は、いないのだと何度も痛感したのに、いい子にしていれば、あの光の中に入れるのではないかなんて、本当にバカだ。
栄養不足な体は、折れそうなほど細く、実際妹に突き飛ばされて足を折ったこともある。
痛みに苦しむ私を家族は役立たずと罵り、折檻した。
起き上がることも出来ない私を放置して彼等はいつもの旅行に行ってしまった。
何が飽食の時代だ!
私は、死んだ。
家族は旅行の後、母方の田舎、父方の田舎に土産を届けに行ったのだろう。妹の学業はどうするとか考えていないのだろう、夏休みが終わっても帰ってこない彼等の代わりに私は、死に、腐り、近所からの通報で警察に発見された。
「来るのが遅くなってごめんね。」
誰の言葉だったのだろう。
目が覚めると見たこともない白い空間。一応横になっていたようだけど、どちらが上なのか分からない。
「おはよう……。」
声の方向には可憐と言う言葉が相応しい美女。
「……おはよう?ございます。あの……。」
美女はニコリと笑う。
「ここは、選択の間。これからの人生を人として生きるか、魔女として生きるか選ぶ空間。」
「私は、死んだのですか?」
美女は今までの経過を話してくれた。魔女と言う存在についても。
「まさか、貴女の魂が別世界に転生させられていたとは思わなかったの其ほどに奴等との因果率が高かったのね。」
聞いた上で美女は、また、人として生きるか、魔女として生きるかを説明してくれた。
人として生きる場合、因果率に引っ張られて、また、元家族の生まれ変わりと関わる人間となること。魔女としての力、記憶は封じられ、死ぬ間際に記憶が甦り、再び選択をすることになるらしい。
「食いっぱぐれのない方で。」
説明を聞くまでもなかった。
そして、私は、魔女になった。
萬呪事引受協会。それが私の会社。会社?うん、そう言っていい。
安定した収入。
協会の食堂は素晴らしい。
日本ではお馴染みのカレーとかトンカツとかある。
なのに、私は、今、空腹だった。
私の魔力は、空腹に比例していた。燃費が悪いらしい。
それなのに、使い魔を多く従えているからだとも言われた。
だってさ、家族運のなかった私にね、ちょいと口は悪いけど愛情を持って側にいてくれるって言うんだもん。ホイホイ契約しちゃった。
上司のキキョウさん(前世名が一緒)にも美女そっくりな協会長にも呆れられた。
二人には、これ以上使い魔は増やしませんと誓約書を書かされた。
で、今空腹なのは、仕事前にたらふく食べていなかったから。
思った以上にてこずったから。
(ミスった。)
依頼主は私だった。
いや、詳しく言えば私の魂の残滓。魔女を転生に選んでも人としての未練は残るようで、その未練に漬け込む連中の執着が魂の残滓を呼び寄せてしまう。
神の裁きによって己の罪を認め懺悔することで真っ当な来世がくるらしいけど、だいたいさ、魂の残滓で記憶を鮮明に覚えているはずないから、私の魂を私利私欲のために得ようと執着をみせた彼らはまた同じ罪を繰り返す。
神様もさ、いっそのこと、彼らの記憶ごとコナゴナにして、新たな生命として転生させたらいいのにさ。
したら、魔女である私らも苦労しないのに。
溜め息を吐いても仕方ない。
会長曰く、神々は娯楽に餓えている気紛れな性質らしく、我々の事情は考えない。
会長の魂が元女神だから、魔女である私らにちょっとだけ肩入れしているに過ぎない。
にしても、腹へった。
さっさと協会に戻ろう、そして、食堂に行かなくちゃ。
協会の食事でなければ魔力の回復率が低下するとか、事実を知ったときはショックを受けたわ。
『キキ、帰ろう。お腹すいた。』
まだ眠りに就いていない子が言う。
1つだけ残していたマドレーヌ。協会の食堂のだ。
「これで協会に転移する魔力は補えると思う。じゃ、帰ろう、我が家へ。」