日常に溶けている
「さてさて、着いたけど特に不審な点は見つからないね」
「普通のカフェに見えますが」
2人の前には建物の間に挟まれた普通のカフェが建っており、不自然な所は見つからない、それどころか客もいるようで賑やかな雰囲気が醸し出されている。
「ここにいても仕方ないし中に入ってみるか」
「本当に大丈夫ですかね」
2人が入っていくと店員が元気よく挨拶をしてくれる。
「こんにちは! 好きな所にお座りください」
「分かりました」
奥の空いている席に座ってメニューを見ている間に店舗の中を観察する小林、ネーペは店の中よりメニューに興味があるようでこれといって周りを観察しようとはしていない。
「小林君、そんなに周りを見てても怪しまれちゃうよ」
「ですがどこから襲ってくるのか分からないんですよ、一般人の被害を考えてないような奴らなんですから」
至極真っ当な意見に首を振って抗議の意志を伝えているネーペに呆れている小林はとりあえずメニューの中のレモネードを頼もうとしている。
「ネーペは何を頼むか決まりましたか?」
「僕はカフェオレを頼もうかな」
小林が店員を呼んで注文を伝えるとすぐにカウンターに戻っていく、警戒しながらも結局頼むことにした、というよりこれ以上この宇宙人みたいな人物に諦めたと表現するべきか。
「初見殺しな能力だった場合どうやって対処するんですか? ネーペは間違いなく強者ですが能力には何があるか分からないでしょう」
「心配してくれるのかい? 僕が死ぬなんてありえないよ、万が一にもね」
「ルートンの攻撃を防いだ時に使用した能力で対処するんですか」
「あの能力だとミスったら周りの人間に被害がでるんだけどいいの?」
驚かせるために小林へ聞いてきたのかは知る由もないが、ネーペがあの能力と称している物を制御していることぐらいは小林が分かっていることをネーペは理解しているだろう。
「被害が出た時は出た時でしょう、余計な事に時間を使えば使うほど民間人への被害がでるので」
「案外薄情者だったかい?」
「あなたのおかげでそう見えましたかね?」
皮肉交じりな会話は2人の関係が築かれている証なのか、奥のカウンターから店員が飲み物を両手に持ちながら歩いて来た。
「レモネードとカフェオレです」
「ありがとう、今日は君一人で?」
「いえ、この時間は私一人ですね、裏に店長もいますが」
「それはそれは、大変だね」
「お客さんは良い人ばかりだし、バイト仲間も優しいので大変ってことはないですよ」
随分現在の店で働いている事に満足しているのか、少しばかり感情を込めて返事をしてくる。
「どうせだし店長にも会ってみたいな、会えないかい?」
「流石に休憩中の店長へ合わせることは出来ないですよ」
いきなり無茶なお願いをされたからか困った様子でネーペのことを見ている。
「いくらなんでも店長にいきなり会いたいだなんて言ったら店員さんも困りますよ」
小林が店員のフォローをすると、カウンターの奥にあるドアが開いて、貫禄のある渋い声と共に白髪の男性がネーペを見ながら出てきた。
「私に会いたいだなんて随分変わったお客さんが来られたようですね」
店長と思わしき人物が、特に焦った様子も見受けられない佇まいで話しかけている。
「君の方が僕に用事があったようだから来たんだけど違ったかな?」