パン屋と襲撃する者
「君が僕の謎を解いたことだし、目的の時間まで一緒にご飯でもどうかな?」
「俺はあなたが行く場所に監視のためついて行きますよ」
恋人かのような振る舞いをし小林を誘っていくが返事はいいものではないようだ、つまらないと言った顔をして勝手に歩き出すネーペについていく小林の光景は、まるでこれからの未来を描いてるかのように見えてしまう。
「最近僕の好きなパン屋さんがあるんだが興味はあるかい?」
世間話を軽くしているあたり、仲良くしようと歩みかけていく姿勢が垣間見える。
「どこのパン屋なんですか?」
「駅の中にあるんだが、僕が特におすすめするのがカレーパンでね、形はいかにもカレーパンって感じなんだけど、いつも揚げたてのキーマーカレー入りを手渡ししてくれるんだ、中はぎっしりとつまっていてキーマーカレー特有の大豆と挽肉の食感と、ザクザクとしたコーンフレークのおかげでいくら食べてもお腹が空く人気のカレーパンなんだよ」
普通に友達と話す感覚でカレーパンについて熱く語るネーペはパン好きなのか、カレーパン好きなのか・・・ ネーペが日常的な生活を送ることに対して違和感を持つ小林は、性格以外は普通の人間と何ら変わりないのかもしれないと考えている。
(あの人間性に関しては最悪だが、監視にストレスなく日常を送れるのなら、何かアクシデントが起こらない限りは自分の身について心配しなくていいのかもしれないな)
ネーペと共に歩けば周りからの視線を強く感じてしまう、駅に近づけば近づくほどに人集りは段々と増えていき、それに応じて視線がより強くなっている、そのことを気にしてるのは小林だけなのでネーペにとっては慣れたものなのか。
「パンが好きなんですか? 随分熱く語っていたので好物なのかと」
「そうだね、パンが好きなんだ、米も好きなんだけど僕には色んな種類のパンを見ていると、一つの物に沢山の知恵が振り絞った結晶を魅せられてる気持ちになるんだよ」
「物凄く共感しずらいこと以外は、面白い物への見方ですね」
「共感しずらいか、大半の人間がそう思うだろうけどね、考えてみれば当たり前の事だろ? 人が美味しいと思う食べ物を作るのだから生半可な気持ちで作れるはずがないんだ」
(そんな共感する事ができるのなら、人を対象に弄ぶ事をやめて欲しいけどな、まぁその気持ちの根幹にパンが触れたからここまで熱くなっているんだろうが)
二人の会話が終わった頃に着いたパン屋は、オシャレな外装をしており、昼にもかかわらず高校生ぐらいの女の子も出入りしている。
ネーペはパン屋の中に入ると、迷わずに受付の店員に話しかけている。
「今日はカレーパンを食べに来たんだが2個あるかな?」
「今日も来てくれたんですね! 2個ならすぐに作れますよ」
元気のいい返事でネーペに応じている店員は顔見知りかのように対応していた。
(表面上は良い人間にしか見えないな、演じている訳でもなく普通に接しているのか)
後ろにいる客の一人、背の高い30代くらい男がいつの間にかネーペが店員と会話している間に刃物で背中を刺そうとしている。
反応が遅れた小林は、手に持っている刃物から手を離させるために最速で手刀を繰り出したが遅れてしまったため、手刀は間に合いそうにない。
(ダメだ、間に合わない・・・)
「ネーペ!!!」
声を振り絞って警告をした判断は懸命だが、既に避けたところで回避は意味を成しそうにない。
「一体どこの誰なんだか、気持ちよくカレーパンを食べたかったのになぁ」
いつの間にか男の背後へ移動し、頭に手を乗せながら話しかけている、店員と周りの客は突然のことに驚き声を出せていないようだ。
「少しでも動いたら殺すから」
ネーペの話を聞いていなかったのか振り向きざまに襲いかかろうとした瞬間、身体が一瞬にして今にも死にそうな萎れた老人に変化していった。
「君みたいな奴はどうして死にたがるんだか」
心底不思議そうに疑問を口に出していた、そんなネーペの行動に小林は顔を青ざめながら興味ぶかそうに観察し、周りの人間は悲鳴をあげながら店の外へ逃げている。
「派手に殺りましたね、これじゃ情報の前に事情聴取されますよ」
「逮捕される心配はしてくれないのか」
「あなたを逮捕できる人間がいるならこの世界で最強を名乗れるんじゃ?」
外には野次馬が集まってきているのか、多数の声が混じって耳に入ってくる。
「小林君は管理者手帳を持っていないか?」
「そういえば国塚さんから貰いました」
スーツの内ポケットに入っている管理者手帳を取り出す。
「それは事情を説明する際に見せておけば、死体の件をどうにかできる便利な物さ」
(そんな話聞いてないんだけど!?)
国塚の適当ぶりに呆れながらもこの場はどうにか解決しそうな事に安堵している、ただ警官に対してネーペのことをどう説明するのかが大問題になってしまった。
「あなたの事をどう説明するんですか? ネーペなんて名前出してしまえば余計怪しまれますよ」
都市伝説とし語られている存在から私ですと説明されても、巫山戯ているか面倒な事になる未来しか想像できない。
「そんなことよりだ小林くん、今襲撃者してきた奴の能力はどんなものだと思う?」
(また何かのお遊びか?)
現状の問題を気にしてないのか、それか聞いてないのか、襲撃者の能力について聞いてくる。
「恐らく気配を消すことができる能力じゃないでしょうか、襲撃者はいつの間にか後ろに現れていたことから瞬間移動も考えられますが、瞬間移動にしては的確すぎる場所に移動していたことから除外できます、それに攻撃した瞬間に認識出来ていたので攻撃時は能力の効果が消える制限があったのでしょう、典型的な気配遮断能力ですかね」
冷静にネーペの質問に返せている小林、考察には納得できる理由が含まれている。
「良い考察だね! だが僕はほぼ毎日ここのパン屋に来ているわけだから転移系能力も最初から微調整されていたのなら有り得るものさ、今回は気配遮断能力だったろうが。」
「一体どこからの刺客なんですか?」
「質のいい暗殺者を雇わなかった所をみると個人から恨みを持たれてるのかな?」
散々の言われようではあるが、ネーペ自体は襲撃者より雇い主の方に興味を抱いている、個人から雇われていたのなら、なぜ周りにも被害が出る場所で暗殺させようとしたのか。
「個人となると、あの事件の被害者ですかね?」
「その可能性は高いが、微睡みの天使が様子見として雇ったかもしれないね」
「その場合だと情報漏洩してますよ」
「能力によっては有り得るさ、能力対策部隊の後処理係なんだから情報操作系の能力を持っている可能性が高いだろ? それなら僕に依頼してきたことにも納得いく」
この依頼をされていた時点でネーペは能力に目星をつけている、後処理係なんていうふざけたネーミングセンスだが、名前からどんな事をするのか予想していたようだ。
(確かに厄介だ、情報操作系の能力は一般人が巻き込まれる可能性がものすごく高い、依頼をすれば情報を渡すことが出来ないのと一般人にも被害が出る可能性はあるが、実力的にやらせた方が被害は少ないか)
「でも微睡みの天使なら情報は得られそうになさそうですね、襲ってきたやつはこの有様ですし」
「どうやら警察君も来たみたいだから早くお話でもしましょ」
ネーペの言った通り複数の警察が店の中に押しかけている、すぐに小林は能力管理手帳を掲げるように持ち上げ、焦りながらも丁寧に事情を説明する、ネーペはネーペで邪魔しないように配慮しているのか、何も話さずに周りに置いてあるパンを見ながら暇つぶししているようだ。