新たな知識
あの後小林は国塚から言われた通りにネーペの監視をしている、ネーペとの交渉役を言い渡されたのはほぼ強制的だった、小林自身で望んでやっているわけではないのでいつ殺されるかと脳内で考えながらも仕事は仕事として割り切っていた。
(いきなりで緊張が緩んでしまったけど、よく考えれば考えるほど隣にいるのは紛れもないバケモノだ、能力に対する専門家が集まって殺そうとしたが殺せなかったことを考えると間違いなくこの世界で最高峰と表して良い程の能力を持っているはず、そもそも何故ネーペは国に殺害を計画されるまでになったんだろうか? 契約と条件によって今は関係がそこまで悪くないように見えるが、じゃあ過去に何かをしたんだろうが... いくら何でも情報が少なすぎる、ネーペはネーペでなんで殺そうとした相手に対してわざわざまどろっこしい契約と条件を付けたんだ?)
「いくら考えたところでその疑問に対しての答えは見つからないよ」
「やっぱり思考を見てるんですね」
「わざわざそんな"まどろっこしい"事、スゴいね」
「ありがとうございます」
小林は皮肉交じりに会話をされながらもネーペの能力を考えていた、心を読む程度であそこまでの大惨事を起こすことは出来ないとなると複数の能力を持っているか、はたまた心を読む能力自体がネーペの能力による応用を効かせたものなのか。
「微睡みの天使に関する情報は持っているのでしょうか? 国塚さんは渡していなかったようなので必要でしたら書類を持ってきます」
「必要ないよ、僕が持ってこなくていいと言ったんだ」
「ではまず、微睡みの天使の情報を集めるところから始めるんですね」
遊びでやっているのかは判断できそうにないが、小林はこの状況を仕方なく受け入れることにして依頼を早く終わらせようと決意している。
「そういえば君、能力対しての知識はあるんだろ?」
突然能力に対して質問をとばしてくる、質問の意図が読めない小林は無難に答えた。
「一般的な知識はあります」
「一般的か...ならもっと深い知識を教えてあげよう」
「深い知識?」
「私のような存在と契約すれば手に入れられるんだよ」
「契約ですか」
(そんなものは今まで聞いたことがない、深い知識がどんな物なのか気になるが国塚さんの思考を止めてはいけないなんてセリフが気になってしまう、なぜわざわざあんな事を言ったのか、国塚さんの性格からして無駄なことはしない人間と思える、何かしらの意図を含んでいたのか)
「まず能力に対するお互いの一般的な認識の齟齬を改めようか、これは有名だけど能力そのものの起源は今でも判明してない謎だ、一体いつから能力なんてものが出てきたんだろうか?? しかも発現するのは200人に1人だが10歳〜24歳の期間にしか発現は確認されていない。そして能力には何かしらの制限が掛かっている、制限の強さに比例してどんな能力も強くなっていくし、制限を越えなければ無償で使えちゃう便利な物さ、制限自体は基本先天性だけどね。でもここからが1番重要だ、それは能力の種類が沢山あるということだよ、それこそ同じ能力なんて殆どないからいつか世界を破滅させる能力なんか現れちゃうかもね、制限の強さで次第だけど、でも君の絶対記憶のようなものから単純な身体強化を行う能力だったりも可能性があるのが恐ろしいところだ」
ここまで出ている情報は一般的なというより基礎の基礎を確認させるかのように聞いてくる
「だけどさっき言った深い知識だったり契約と条件次第で色々と例外を生み出してしまうことがある、例えば年齢に関係なく能力が発現したりだとか、制限が緩くなってしまう事、自分の能力が強くなる事もあるし、しかも発現した能力もサイコーに強力なんだよ」
「1つ聞きたいことがあります」
「なんだい?」
「さっき私のような存在は他人に対して契約を結ぶ事が出来ると言いましたが"存在"とわ?」
「君がそんな事知る必要があるかい?」
今までとは打って変わり、ネーペからまるで死を具現化したみたいに禍々しい圧を感じる、目には未だぜんまい仕掛けの時計が写っているけど、その瞳を観るとさっきまでのネーペはまるで人の皮を被ったバケモノのように見えてしまう。
「まぁ、冗談だし気にするなよ」
(さっきまでの雰囲気とは一変して優しい笑みを浮かべているが、やっぱり国塚さんが言っていた人の皮を被ったバケモノにしか見えない。)
「何か気に障る事をしてしまったらすみません」
「気にしなくてもいい元々渡す気だったからね、だけど契約と条件はしっかり結んでもらうよ?」
「元からそのつもりです、俺にはしたいことがある」
内心で燃えている小林を想いながら、ネーペは小林に聞こえないくらい小さい声量で小さく呟く。
「だから"私"は選んだんだよ、小林くん」
制限は越えない限り代償を払わずに使用することができる。制限を越えてしまうと・・・