#6 キャリアプラン
帝国軍により占領された、都市のひとつ。以前までは王国のものだったその都市の酒場に、キミヒコはいた。
「侵攻作戦は順調だな。さすがは帝国軍。騎士オルレアは見つからんから、俺の仕事はいつまで経っても終わらないけど……」
「まあ、キミヒコさんはそうだろうけど、作戦は本当に順調だね。将軍も上機嫌だったよ」
キミヒコの愚痴に、同じテーブルに座るミルヒがそう返した。
「ウォーターマン将軍は本当に上機嫌でしたね。普段は気難しい方なので、司令部の雰囲気が明るくて助かります」
同席していたラミーも会話に加わる。
帝国軍の侵攻作戦は順調そのもので、王国軍は碌な抵抗もできずに、すでにいくつかの都市が落とされている。後方からの補給と王国内の村落からの組織的な略奪により兵站も万全で、時間的にも物資的にも帝国軍にはかなりの余裕があった。
そんな状況もあってか、占領都市で羽目を外す兵は多い。とはいえ、軍規の範囲内でのことではある。帝国軍の規律はよく保たれていた。
キミヒコも例に漏れず、ミルヒとラミーの三人で飲み会をやっている。
所属も出身も階級も異なる三人だったが、仲良くやれていた。
「参謀本部からの出向組もご苦労なことだね。私なんかは実働部隊だから、将軍を相手にすることはないからね」
「いや、他人事みたいに言ってるけど、ミルヒはその歳で少佐だろ。もっと出世したら、そんなこと言ってられないんじゃないの? ゆくゆくは将軍にもなれそうだけど」
少佐ともなれば高級将校と呼べる身分である。キミヒコよりも歳下でそんな身分なのだから、将来性は抜群であるはずだ。
もしかしたら一軍を指揮する立場にもなれるかもしれない。キミヒコはそう思っていた。
「あはは、そんな心配は無用だよ。猟兵隊のキャリアじゃ、せいぜい大佐までだからね。将官にはなれない。騎士文化の名残で、佐官までは異様に早いけどさ」
「なんだ……そうなのか……。未来の将軍様に贔屓してもらおうかと思って、ゴマすりしてたのに、損したな……」
「えぇ……ひどくない? まあ、ゴマすりしたいなら、そこのエリート参謀にやるといいよ。未来の参謀総長かもしれないよ?」
ミルヒがラミーに話題を振った。
参謀本部は帝国軍における最高機関であり、軍人たちの頂点に立つのが参謀総長である。
ラミーがそこまで上り詰めるのは難しいだろうが、可能性がないわけではない。
「いや、私じゃそこまでの出世は無理ですよ」
「えー、そこは気合い入れてくれよ。軍学校で首席だったんだろ?」
謙遜してのことなのか自身の出世に否定的なラミーに、キミヒコは発破をかける。だが、ラミーはそれに対して首を振った。
「歴代の参謀総長は全員、参謀本部の作戦課でキャリアを積んでから就任しています。ですが、作戦課はザンネルク出身者で固められてますからね」
「え? 中尉、ザンネルク生まれじゃないの?」
自身の出身について話すラミーに、ミルヒは驚きの声をあげる。
「ええ、私はリカール出身です」
「そうすると、厳しいか。というか、よくそれで参謀本部にいけたね……」
ラミーとミルヒの会話を黙って聞いていたキミヒコだったが、おおよその話は理解できた。
いわゆる、軍閥というやつである。
故郷日本でいうなら、旧陸軍は長州閥、旧海軍は薩摩閥で固められていたのと同じことだ。
シュバーデン帝国は、統一戦争と呼ばれる一連の戦争を契機にして、複数の国家が連合して成立した国家である。ザンネルク王国と呼ばれた国が、周囲の列強国相手にジャイアントキリングを連発することで求心力を高め、それは成し遂げられた。
そうした成立経緯があるのだから、当然ザンネルク王国の影響力は強い。現皇帝もザンネルク国王と兼任する形で、皇帝の椅子に座っている。
軍内部でも、ザンネルク出身者は優遇されているというわけだ。
「やれやれ、ゴマすりのしがいのない奴らだ……」
「こ、こいつ……」
キミヒコの言い草に、ミルヒは白い目を向ける。ラミーは苦笑いだ。
その後も、どこそこの上官が腹が立つだの、あの将校はコネで就任した無能だの、そんな話に花を咲かせた。
「てか、ラミー中尉さあ……ウォーターマン将軍にちゃんと言ってくれてる? 俺たちは便利屋じゃねえんだけど。出撃要請に応じても、騎士すらいないことばっかじゃん」
キミヒコの愚痴は、最近の司令部からの出撃要請に対するものだ。
剣聖とも呼ばれる騎士、オルレアの殺害こそが本来の仕事であり、それ以外はまったく余計なものだとキミヒコは考えていた。
だというのに、このところは出撃要請に応じ、戦地にホワイトを差し向けても騎士すらいないことがほとんどだった。
「ホワイトのヤバさ、あの将軍しっかり理解してる?」
「それは理解してますよ。将軍はあの人形をまるで信用してないですが、キミヒコさんは信用しています。キミヒコさんさえいれば、どうとでも動かせると思ってるようです」
侵攻軍の司令官、ウォーターマン将軍はどうやらホワイトの危険性を認知しつつも、戦力として運用することに抵抗はないらしい。
「なんだかんだで、キミヒコさんは話がわかるというか、常識的というか……。著しく契約を逸脱していない指示であれば、従ってくれてますので……。窓口としてキミヒコさんがそう言ってることは伝えてはいます。ですが、出撃要請自体は筋の通ったものですから、私の方からは強くは……」
ラミーの言葉にキミヒコは苦い顔だ。
少々、言いなりになりすぎていたかもしれない。帝国軍からの指示で理不尽なものは今までなかった。出撃先に騎士オルレアがいる可能性はあったから、契約を無視したものではない。だが、だからといってこのままいいように使われてはたまらない。
そんなことを思案しているキミヒコの下へ、ウェイターが注文していたおつまみのチーズを配膳に来た。
懐から硬貨を数枚取り出し、チップとして渡してやると、ウェイターは顔を綻ばせて戻っていった。
「いつも思うけど、チップは軍票じゃなくてキチンと現金なんだね……。意外だよ。すっごいガメついって有名なのに」
キミヒコがチップを渡す様子を見て、ミルヒが言う。
「ああ。そりゃだって、俺は軍票なんてもってないし。ていうか、報酬は必ず現金で寄越せって言ってあるから」
帝国兵たちは占領都市では軍票で物を購入していたし、チップなどの心づけなどしない程度には横柄だった。
その点、キミヒコは必ず現金で支払いをするし、チップも気前よく渡していた。
「正当な仕事には正当な報酬があるべきというだけの話さ。俺は軍票なんてものは好かんね」
キミヒコは発言のとおり、軍票というものが嫌いだった。
帝国のサジ加減で、タダの紙切れに変わる軍票などに信用を置いていない。当然、自身の報酬にあてがわれるなど論外である。
「……それに、損して得とれという言葉もある。見ろよ」
キミヒコが顎でしゃくった先には、先ほどのウェイターがボトルを持ってこちらへ向かっていた。なかなか上等そうなワインで、注文した覚えはない。
「キミヒコさん、店主からです。いつもご贔屓していただいているお礼とのことです」
「ん、そうか。ありがたくいただこう。店主によろしく言っておいてくれ」
ウェイターは三人分新たに用意したグラスに、持ってきたワインを注いで去っていった。
「こういうこと、よくあるんですか?」
「まあ、たまに。この都市に来てからここの常連だし、俺」
感心したように言うラミーに、なんてことはないかのようにキミヒコは答える。
「これ、結構高そうなワインなのに……」
「大方、兵隊たち相手に高級ボトルを開けちまったんだろ。残った分は、金払いのいい客相手のご機嫌とりに使おうってことだろうよ」
「なるほどねぇ……」
ミルヒとそんな会話をしながら、キミヒコはタダでもらったワインの味に舌鼓を打つ。
キミヒコとしては普段通りの支払いをしているだけなのに、サービスの質が勝手によくなるのだから満足していた。横柄な兵士たちに感謝しているくらいである。
「ラミー中尉も飲めよ。そんなに酒に強くないって言っても、せっかくタダでもらったんだしさ」
「……ええ、いただきます」
まだ手をつけていなかったラミーに、キミヒコが勧める。
ラミーは酒に強くないらしく、こうした場に誘ってもいつも飲む量は控えめだった。
「これは、アルスターのワインか……」
ワインに口をつけたラミーが呟いた。
「え、なに、中尉。もしかして詳しいの……? お酒弱いのに?」
ミルヒが驚きの声を上げる。
キミヒコもミルヒと全くの同意見だった。
酒に弱いこの男がワインの目利きなどできるのか。そう疑って、たまたま近くに来ていてウェイターに聞けば、確かに先ほどのワインはアルスターのものだった。
「……実家がワイナリーを営んでいるもので。これは実家のワインです」
「アルスターって、私でも聞いたことある銘柄なんだけど、実家? ワイン造りの一族、アルスター家が実家なの?」
帝国を構成する領邦国家の一つ、リカール王国。その地方領主であるアルスター家はワイン造りで有名だった。その家の名を冠するアルスターワインといえば、アマルテアにおける高級ワインの定番銘柄である。
「そんな立派な家名を持ってたのかよ……。今度からアルスター中尉って呼んだ方がいい?」
「いえ、戸籍上は家名は残ってますが、実際のところ、縁は切れてますので……」
キミヒコの言葉にラミーはそう返した。
帝国軍では、家名持ちの人間であれば家名プラス階級で呼ばれるのが慣例だ。本来であれば「ラミー中尉」ではなく「アルスター中尉」と呼ぶべきだろう。
あえて家名では名乗っていないということは、どうやら実家との関係は良好ではないらしい。
キミヒコのそんな推察が顔に出ていたのか、ラミーが口を開いた。
「家業を継ぐのが嫌で、飛び出したんですよ」
「で、軍学校に入ったと」
「ええ。幸い、特待生としての席を貰えて、学費は免除されてました。おかげで実家の援助なしで、こうして軍人になることができました」
キミヒコとラミーの会話を、ミルヒは神妙な顔で聞いている。
「実家、か……」
「……ミルヒは実家とは、どうなんだ?」
誰に言うともなく呟いたミルヒに、キミヒコが問いかける。
口から言葉が出たあとに、聞くんじゃなかったとキミヒコは後悔した。実家との関係が、良好なわけがない。
「勘当されたよ」
ミルヒは短く、そう答えた。
まあそれは、そうだろうな……。あんな理由で国を捨てれば、勘当くらいされるだろうよ。
キミヒコは心中でそう納得する。
帝国軍の侵攻作戦に加わってから、キミヒコはミルヒとはそれなりの交流を重ねていた。ミルヒが騎士ハインケルの位と故国を捨てた顛末も聞いている。
ミルヒは当時、同僚だった騎士ウーデットを慕っていた。父娘ほどの歳が離れているにもかかわらず、異性としてである。
ある時、彼女はウーデットに思いを打ち明け、見事玉砕。
当然である。ウーデットは妻子ある身であったし、品行方正な紳士だった。受け入れるはずがない。
そうして失恋したミルヒは、ヒステリーを起こして暴れ散らかした挙句そのまま国を出奔したと、要約すればそういう話だった。
キミヒコは最初にこれを聞いた際、らしくもなく深い同情の念を抱いた。ミルヒにではない。ウーデットにである。
女王もそうだったが、どうかしてるぜあの国の女どもは……。色恋沙汰で国の要職を投げ出すなよ……。
そんなことをキミヒコが考えていると、補足するようにミルヒが口を開いた。
「国を出た時じゃなくて、軍人になった時だよ」
国を捨てた際に勘当されたとキミヒコは思っていたが、どうやら早とちりだったようだ。もっと前から険悪な関係だったらしい。
「ということは、武門の家柄じゃないってことか。軍に入るのを反対されて、それを無視したと」
「そーいうこと。縁談を蹴って軍に入ったら、縁切りされた。……せいせいしたね」
「ほぉ……元お嬢様ってわけね」
知ったふうな口を利くキミヒコに、ミルヒは不愉快そうな目を向ける。
「そう言うキミヒコさんはどうなわけ? どこの名家出身なのかな?」
面倒な話題が飛び火して、今度はキミヒコが嫌な顔をする番だった。
「……なんで俺が名家出身なんだよ」
「そりゃ、キミヒコさんの神聖言語の筆記に発音は並じゃないし、あの人形の出どころとかも考えれば……ねえ? 普通の出自じゃないでしょうよ」
ミルヒの疑念はもっともなことだった。ラミーも無言のまま、興味ありげな視線を向けてくる。
言語能力もホワイトも、キミヒコがこの世界に落ちてくる際に願いの神から授かったものである。この世界の名家出身というのは見当外れではあるものの、まともな出自ではないのは確かだった。
「……家名は捨てた。もう名乗ることはないし、金輪際関わりはない。それにホワイト……あいつも、俺の実家とは何の関係も、ない」
いつになく強い口調でキミヒコはそう言った。
普段からあまり自分のことを語りたがらないキミヒコが、自らのバックグラウンドの一端を見せたことで、ミルヒはさらに興味を惹かれたらしい。さらに質問を重ねてきた。
「ふぅん……そうすると、あの人形は――」
「ホワイトについての詮索はやめておけ。あいつのこと、好きでもないだろう?」
好奇心のまま、質問を重ねるミルヒにキミヒコは釘を刺した。
キミヒコの秘密主義のベールの内側には、あの人形もいる。ホワイトが何をどこまでできるのか、弱点はあるのかなど、そういった情報は敵味方関係なく隠蔽されていた。
「好きか嫌いかでなら、私は好きだよ。あの人形」
どうせ好ましくも思っていないのだからと、キミヒコは警告をしたつもりだったが、ミルヒは意外なことを言う。
「あの悪魔みたいな魔力と残虐さを見ていると、まだ私は人間なんだって実感できるからね。……まあ、お近づきにはなりたくないけどさ」
そう呟くミルヒの瞳が、ドロリと濁っている。キミヒコにはそう見えた。
「中尉はどうかな? 軍学校で、ある程度の魔力操作は学ぶでしょう?」
話を黙って聞いていたラミーにミルヒが問いかける。
「率直に言えば、あの魔力の糸は、まあ気味が悪いですね。それに……」
「それに?」
ラミーは最後の言葉を濁した。ミルヒが続きを促すが、答えようとしない。
キミヒコにはラミーが何を言いかけたのか、見当がついた。
「まだ引きずってるのかよ。あんなの気にしたってしょうがないだろ。これは戦争なんだって、自分で言ってたじゃないか」
「んん? どういうこと?」
キミヒコはミルヒに説明した。
緒戦の要塞攻略戦の際に、ホワイトが騎士クラインとその従騎士を殺めた時のことだ。ホワイトが殺害した従騎士の女性は身重だったらしく、ラミーはそれにショックを受けているらしいことを話した。
「ああ、なるほど。あのとき人形が殺った、あの従騎士か。あの女の人、そんな状態だったんだねぇ」
ミルヒはその時現地にいて、ホワイトの戦闘のアシストを行なってくれていた。そのため、キミヒコの説明にすぐに得心がいったらしい。
「ふぅん……存外、細い神経してるんだね、中尉。自分が手を汚したわけでもないのにさ」
ミルヒの言い草に、ラミーの肩がピクリと震える。
「……私が猟兵隊に入る前の任地は、知ってるかな?」
「対ゴトランタ方面の最前線にいたと聞いてますが」
「最前線ではなかったよ。そのちょっと後方で、ゲリラを掃討するのが私の仕事だった」
ミルヒの話の途中ではあるが、キミヒコは彼女の話の先を知っていた。またこの女の悪い癖が出たとゲンナリする。
「ふふ……すごかったよ。上官がゲリラだと言えば、なんでもゲリラになるんだ。女も子供もおじいちゃんも、どいつもこいつも抹殺対象のゲリラなんだよ」
唐突に後ろ暗い自分語りを始めたミルヒにラミーは言葉を失っている。唖然としているラミーをよそに、ミルヒの話は続く。
「最初は上官殿が、あれはゲリラだって示してくれてたんだけど、いつの間にか私がそれを示す側になってた。もうどいつもこいつもゲリラに見えてさ。私は片っ端から部下に命じて――」
「酒がまずくなる話はやめろ」
なにが悲しくて、酒の席でこんな話を聞かされなければならないのか。キミヒコが言葉とともにそういう視線をミルヒに向けると、彼女は「ごめん」とだけ言って口をつぐんだ。
感情が昂ったり、酒が入って悪酔いしたりすると、ミルヒは不幸自慢のような話をペラペラ語り出すことがある。その際に見せる、彼女の地雷女ぶりにはキミヒコも辟易としていた。
こういう女が、リストカットとかやったりするんだよな。他人の気を引くためだけにさ……。
そんなことを思うが、憐れみの感情がないわけではない。
国を飛び出したのは自業自得で同情の余地はないとキミヒコは思っていたが、その後の彼女の境遇は悲惨なものだった。
かねてより誘いを受けていた帝国軍に入ったはいいが、ミルヒは元騎士とはいえよそ者である。おまけに故国の捨て方は最悪。そんな彼女に、国家への忠誠心のテストとして割り振られたのは、戦場の汚れ仕事だった。
ゲリラ掃討任務はミルヒの良心と呼べるものを破壊し、彼女の人間性にヒビを入れてしまった。それこそ、人の本質ともいえる魔力の性質を変えてしまうほどに。
戦場帰りがPTSDを患い、社会に馴染めなくなってしまうようなものだ。
ミルヒがホワイトに対する認識を変化させたのは、これが理由だった。
「……そ、そういえば、騎士クラインの武器は、キミヒコさんの預かりになったんでしたっけ?」
ラミーがなんとも稚拙な話題転換を試みる。とはいえ、場の空気は現在最悪なので、キミヒコはそれに乗ることにした。
「ああ、この間、正式にな。騎士クラインを殺った、報酬手形の代わりだよ」
「あの人形、使えそうですか?」
「ホワイトが言うには問題ないらしい。まああいつなら、適当に振り回すなり投げつけるなり、戦闘の足しにはするだろうよ」
騎士クラインの得物だった両刃剣は、司令部の承認を得てホワイトに扱わせることになっていた。
この武器は二つの剣の柄がくっついているような特殊な形状のため、非常に扱いにくい。このため、本来は鹵獲品として利用したいところなのだが、扱える兵がいないということで、ホワイトに白羽の矢が立つこととなった。
武装には魔核晶が入っているため、最終的には帝国軍がそれを取り出して再利用するために返却する。それと引き換えに、騎士クライン討伐の報酬が入る取り決めとなっていた。
「あの人形、壊さないかな?」
「……大事に扱うようには言ってある」
ミルヒの懸念にキミヒコはそう答えるが、その表情に自信はなさげだった。




