#27 時間と空間と魂と
長い梯子を老人が登っている。
暗く狭い竪穴にかけられた梯子は長く、額に汗を滲ませながら、デルヘッジは登っていた。
息も絶え絶えに、ようやく登り切る。竪穴から出た先は、美術館の一室。彼にとって馴染みのある、あの彫像の置かれた展示室だ。
老骨に、この梯子は苦しかったな……。さて、天使様は何処に……。
デルヘッジは息を整えながら、ここまできた目的、あの白い人形を探して視線を周囲に這わせた。
ふと見上げたのは、サモトラケのニケの彫像。この美術館の展示物の中で、デルヘッジの一番のお気に入り。
そんな彫像にまとわりつく影があった。巨大な蜘蛛だ。八本の脚を女神の像に這わせて、八つの目でこちらを見ている。
巨大蜘蛛の魔力がうねり、その腹部を覆うオレンジの毛が帯電し、バチバチという音がする。
待ち伏せ!? まずい……。
デルヘッジは即座にそう判断し、その手にあるアーティファクト、ディアボロスという黒い剣を起動させる。
その瞬間、世界が静止した。
静止した空間をデルヘッジは悠然と歩く。彼が移動しても、蜘蛛の魔獣はまったく反応を見せない。
このアーティファクト、ディアボロスは時間を止めたり遅くしたりできる。もちろん条件付きでだ。
起動条件は二つ。
満月の夜であること。そして、アーティファクトの好みの血を事前に吸わせること。
好みの血、というのが厄介で、ディアボロスと候補の人間を対面させて、この剣自身にお伺いを立てなければならない。
このために、デルヘッジは何年も前から集会を開いていた。天使学派の信徒の中から生贄を選定して、このアーティファクトに大量の血を染み込ませるための催しだ。
だがその血も、ストックがなくなりつつある。
都市を覆う規模の結界を張ったり、先の襲撃をやり過ごすために時間を止めたりで、力をだいぶ使ってしまった。
ドス黒くなるまで血を吸ったはずの刀身は、黒から赤色に退色しつつある。もうそれほど、使用回数は残されていないようだ。
だが、これで終わるわけにはいかない。死に方は、もう決めているのだ。
そんな決意をあらたにデルヘッジは歩を進める。
そして、そんな彼に、それは聞こえた。
「ふーん……すごいな。自らの時間を加速しているのか、あるいは自分以外の時間を遅くしているのか……。どっちかわからんが、完全に周囲が止まって見えるな。その割に、呼吸もできるし、目も見える……どうなってるんだ? これ……」
アーティファクトにより時間が静止したこの世界で、本来聞こえるはずのない声がする。
デルヘッジがそちらを見れば、見知った顔があった。
人形遣いが、展示室に入るための通路から顔を出している。彼は彫像の上の蜘蛛が静止しているのをしげしげと眺めていた。
静止した時間の中を平然と動くキミヒコに気を取られていると、デルヘッジは急に床に倒れ込んだ。
そして一拍間を空けて、手足に激痛が走る。
転倒の痛みではない。
いつの間にか、あの白い人形が、仰向けに倒れているデルヘッジを見下ろしていた。気を取られた一瞬のうちに、手足をへし折られたらしい。
「残念でしたねぇ、司教。私とホワイトには、こんな小細工は通用しないんですよ」
「……天使様はそうでしょうが、あなたもですか、キミヒコさん。やはり、真なる人間であられる方は違いますね……」
残酷な笑みを携えながらこちらに近づくキミヒコに、デルヘッジはそう返した。
先程の少年ハンターと魔人の女の襲撃の際にも、感じていたことだ。
静止した時間の中を移動し、完全に死角に入ったのに、あの少年はこちらの攻撃を凌いでみせた。人形遣いはあの糸を使って、静止した時の中で観測を継続し、こちらの位置情報を伝えていたのだろう。
そして、そこに思い至って、いまさらに気が付く。
あの蜘蛛の魔獣はどうやら囮だったようだ。ディアボロスの能力を使わせ、油断したところを攻撃する。そういう算段だったらしい。
「さて、と。おとなしく、ディアボロスを渡しな。アーティファクトの所有権を放棄しろ。そいつで時間に干渉しても、俺たちには通用しない。ていうか、通用したとして、すでに身動きもとれないだろうがな」
「……どうやら、そうらしいですね。私は完全に詰んだようだ」
「素直で助かるよ。あんたには、色々喋ってもらわないと困るんだ。……まあ、嫌だと言っても、喋ってもらうがな……ふふふ……」
キミヒコの嗜虐的な表情に、デルヘッジは静かにその目を閉じた。
◇
「ふーん……なるほどねぇ……。それで、ネオのやつ、これを見たことあるとか言ってたのか。ゲドラフ市からパクった危ないブツを、信者に見せてたのはそういうわけね」
その手にあるアーティファクトを眺めながら、キミヒコがぼやいた。
以前、天使学派の集会でこれを見たとネオから聞いていたが、ずっと不可解だった。これは本来、可能な限り隠匿しなければならない代物だ。
それを信者の目に触れさせるとはどういうことかと思っていたが、その疑問は氷解した。
今しがたデルヘッジから聞き出した、ディアボロスの起動条件。それに絡んだ理由だったらしい。
「で。このアーティファクトについては聞かせてもらったが、所有権はちゃんと放棄しただろうな?」
続けてキミヒコが問う。
だが、両手両足をへし折られ、巨大蜘蛛に取り押さえられているデルヘッジから、反応がない。
「おいシモン。やれ」
キミヒコがそう呟くと、糸電話から『了解』という声が聞こえる。
それからすぐに、蜘蛛の脚からバチリという音がして、デルヘッジの体がはねた。
「おっと、電気が強過ぎたかな?」
「心配には及びません……。少々、意識が飛んでいたらしいので、良い気付けになりました」
「結構。老人虐待は心が痛むんでね。聞かれたことにはさっさと答えてほしいな」
「……ディアボロスの所有権は、もう放棄しましたよ。同時に術も解けたはず。……まもなく、夜明けとなるでしょう」
青い顔をして、デルヘッジが言う。
彼は尋問に対して素直で、なんでも答えてくれた。だが、キミヒコは疑り深く、適度に電気ショックを挟んだりして、嘘がないか確認していた。
手足を折られたうえに、定期的に電気を浴びせられて、デルヘッジは息も絶え絶えの状態だ。
「おいホワイト。どうだ?」
「確かに、結界は解除されたようです。夜明けまで、四から五時間といったところですね」
ホワイトの返事に、キミヒコは大きく息を吐き出した。
どうにか、今回も乗り切ることができたらしい。
「ようやく、この最悪な夜も明けるか。……なんでこんな結界を張った? おかげで逃げることもできず、いい迷惑だ」
「以前、この場所で、生物の寿命について……テロメアの話をしましたね」
この傍迷惑な結界を敷いた理由、キミヒコがそれを問えば、そんな返事が返ってきた。
不可解な答えに、キミヒコは訝しげな表情をする。
「我々が造った……あなた方が羽根蟲と呼ぶ魔獣は、半ば偶然の産物でした。再現性に乏しく、再度、一からの製造は断念。オリジナルのうちの一匹を増殖させ、改良を加えたのが、今この都市にいるものです」
胡乱な目を向けられていることを知ってか知らでか、デルヘッジは淡々と説明を続ける。
「だがどんなに改良を重ねても、寿命の問題をクリアできなかった。限界まで延ばして、これ以上は無理というのが、今日です。明日の朝日を迎えるとともに、天使の種子は死に絶える……」
そこまで言って、デルヘッジは言葉を切った。
羽根蟲の寿命は今日までで、それが結界を張った理由。彼はそう言いたいらしい。
「……はあ? じゃあ、明日の朝で羽根蟲は寿命を迎えるから、それでアーティファクトで強引に明日がこないようにしたってこと? ていうか、それで寿命が引き延ばせるのかよ」
「どういうわけか、ね。あの魔獣は、細胞分裂の限界でも、生体として生きた時間の長さでもなく、今日という日が寿命なのです。どうやってもそれは変えられなかった……」
「すると……今、市内で暴れてる口裂け天使どもは……」
「全ての羽根蟲の寿命は、今宵まで。先程、結界は解除され、リシテア市はまた、時を刻み始めました。じきに羽根蟲は寿命で全て死に絶えるでしょう。あの醜い変異体もね」
デルヘッジのその説明を信じるのであれば、あとは夜明けを待てば全てが解決する。
あくまで信じれば、ではある。だが、勘に近いものではあるが、キミヒコにはこの老人が嘘を言っているようには思えなかった。
「アミアは……さっきお前を襲わせた魔人はどうだ? あいつの寿命も今日までか?」
続けて問うのは、魔人へと変貌したアミアのことだ。
彼女の体内の羽根蟲が全滅すれば普通の人間に戻れるのかもしれない。
しかし、死ぬ可能性もある。なにしろ、彼女の心臓は今も動いていない。羽根蟲によって生かされているという状況でもあるのだ。
「それは……私にはわかりません」
「……電気ショックがご所望らしいな?」
「まあ、それであなたの気が済むのなら、そうしてください。……ですがあの天使の模造品は、今のところ、唯一の成功例です。ラボで精査しようにも、研究員は全滅しましたし、設備も破壊されてしまいました。調べようがないのです」
デルヘッジの言葉に、キミヒコはため息をついた。
真偽を確かめようもないのでこの話題を切り上げ、別の質問に移ることにする。
「あのさぁ……いったい、何が目的でこんなことしでかしたわけ? 俺、すげー迷惑してるんですけど」
「良き終末の日、天使様の手により最期を迎えるためですが」
「いや、そういう信者を洗脳するための方便はいいから。お前の目的を聞いてるんだよ」
事の真意を問いただすキミヒコだったが、デルヘッジが口にしたのは、信者向けの方便だった。
天使学派の教義。終末の日に天使が天国に連れてってくれる。そういう話だ。
この話はあくまで、信者向けの方便であり、デルヘッジの目的は別にある。キミヒコはそう考えていた。
「……政争に負けた腹いせに、言語教会に反抗しようとでもしたか? こんな生物兵器を作ってさぁ」
新開発した生物兵器で、碌でもない企てをしていたのだろう。そういう推論を口にするキミヒコだが、デルヘッジは困った顔をするだけだ。
「そう言われましても……。あの魔人は我々、天使学派に異常な殺意を持っていませんでしたか? 我らの本懐、願いの成就のため、そうした性質を持たせてあったのです。終末の日に天使によって殺される。それが私たちの願い……」
キミヒコの考えと裏腹に、デルヘッジが口にしたのは、そんな説明だった。
その目はひたすら純粋で、キミヒコはゾッとする。
……え? ま、まさかこいつ、まさか……こんな意味不明な、カルトの教義を本気でやってたのか? 終末の日を演出するためにこの都市を地獄絵図に変えて、自分たちで天使の模造品を造って……マジなのか……?
デルヘッジの意味不明かつ理解不能な供述。それへの驚愕のため思考が二転三転し、キミヒコは言葉を紡げずにいた。
「はあ!? じゃあなにか、お前みたいな老人の自殺に巻き込まれて、リシテア市は壊滅したってこと!?」
キミヒコがようやく口にできたのは、そんな確認の言葉だった。
「まあ、飾らずに言えば、そういうことです」
「ふ、ふ、ふざけんな! 他の誰を巻き込んでもいいが、この俺を巻き込むんじゃねえ! 死ぬなら勝手に一人で死んでろカス!!」
たまらず罵倒するキミヒコだったが、デルヘッジはそれを受けて苦笑するだけだ。
「そのセリフと似たようなことを、あまり教義に熱心でない幹部たちも言ってました。……やはり理解し難いものなのでしょうか?」
「当たり前だろボケが。てかその幹部たちはお前を止めなかったのかよ?」
「ええ。邪魔しようとしてきたので、粛清しました」
どうやら、カルトの運営で私腹を肥やしていた、ある意味で健常な人間たちはすでに処刑されていたらしい。残ったのは天使学派の教義に忠実な狂信者と、研究できればなんでもいいマッドサイエンティストだけ。
そんな地獄みたいな組織が、今回の地獄みたいな事態を引き起こしたようだ。
「ていうか、自殺目的ならアミアに、さっきの魔人におとなしく殺されてろよ。他の連中みたいにさあ」
「そこは、最後の最後で欲がでましてね。……なにしろ、正真正銘、本物の天使が、目の前にいるのに、模造品に殺されるのは……ね」
そう言うデルヘッジの目には、狂気が滲んでいる。
……こ、こいつ、イカれてやがる。ホワイトは大いなる意思が創ったから、天使といえばそうなのかもしれんが……。
神が創造した存在。この人形を天使とみなし、それに殺されることを望む。
キミヒコにとって、完全に理解不能で意味不明な思想だった。
「まあ、そういうわけですので……本物の天使様の手で、私を黄泉路へ送っていただければ幸いです」
「頭がおかしいのか? 誰に殺されても、死ねば同じだろうが」
「この浮世も、しょせんは幻……。ですが、本物の天使がそこにいるのなら、私は……」
この世界は大いなる意思が創り出した幻影の世界。天使学派が作った魔人も、しょせんは天使の模造品。
だがそんなこの世界にあって、ホワイトは正真正銘の本物の天使。デルヘッジはそう思い込んでいるらしい。
キミヒコからすれば、ホワイトが天使であろうがなんだろうがどうでもいいことだ。
ホワイトはいついかなる時も、キミヒコの味方であり続ける。その事実だけあれば、その正体などは二の次だ。
「はぁ……呆れた野郎だな……。教会の連中ってどうしてこうなんだろうな? 真世界なんて、お前らが思っているほどいい場所じゃないと思うがね。ていうか、天使なんてあの世界にもいなかったぞ」
「……その言いよう。やはり、あなたは真世界出身なんですね」
「だったらどうした。これから死ぬのに、そんなことが気になるか? どこの何人だろうと、どんな死に方だろうと、死体になっちまえばみんな一緒なんだよ」
キミヒコはあっさりと、自身の秘密を暴露した。
黄泉の手向け、というような気取った理由ではない。この場で、この老人を絶対に始末する。そういう意思表示だ。
ホワイトはその意を正確に受け取ったらしい。
人形の糸が、攻撃的な発色をしながら明滅するのが、キミヒコの目に映る。
「一緒、ということはないでしょう。真世界の人間は、この世界の紛い物とは違いますよ。トバカタストロフを生き残り、他の類人猿を全て駆逐し、文明を築き、一つの惑星を我が物とした」
キミヒコの殺意や、ホワイトの糸による威嚇。そういったものを知ってか知らでか、デルヘッジは自説を展開し始めた。
この老人の相変わらずの調子に、いよいよ、キミヒコも呆れた顔をする。
「黒死病や天然痘のパンデミック、二度の世界大戦……何千万人死のうとも、それらを乗り越え、発展し続ける……実に、実に素晴らしい」
「そんなの、この世界の人間だってやってると思うが。教会が引き起こした、今やってる列強同士の大戦争とかさ。ていうかあれ、マジ勘弁しろよな……」
「戦争……ああ、『クラウゼヴィッツの実証実験』の事ですか。あれも結局、真世界の歴史の後追いに過ぎません。この幻影世界のエセ人類は、大いなる意思の用意した、都合のいい箱庭で生きるしかできない。何ひとつ、自らの力で成し得ることはできない……」
とうとうと語るデルヘッジに、キミヒコは「はあ、そうですか」と気のない相槌を打つだけだ。
頭の中にあるのは、この狂人との会話をいつ打ち切って始末しようか。そのタイミングについて考えている。
「真世界は超大国同士の冷戦をやっていると聞きますが、たとえ核戦争が起きても、かの世界の人類はそれを乗り越えていくのでしょうね」
「冷戦? お前らの知見はそこで止まってるのか。あいにくだが、核戦争もなしに冷戦は終結したよ。東側、ソ連は崩壊した」
アメリカ合衆国を盟主とした西側諸国と、旧ソビエト連邦を盟主とした東側諸国の対立構造。東西冷戦。
どうやら、言語教会が真世界の歴史について知っているのは、冷戦をやっている最中までのことらしい。
冷戦の顛末について、キミヒコが教えてやると、デルヘッジはひどく驚いた顔をする。そして、顔を歪め、笑い出した。
「ほう、それはそれは……。ソビエト連邦……ボリシェヴィキが、ね……。ふ、ふふふ」
「何がおかしい?」
「いえ、ね。かの国のイデオロギーに、大層ご執心な方がいらっしゃいましてね。東側の崩壊をその方が知れば……ふふ……」
心底おかしそうに、デルヘッジは笑う。
どうやら東側の崩壊がお気に召したらしい。
「なんだそれ……。教会内でマルクス主義にハマった奴でもいるのか?」
「キミヒコさんもいずれ、相見えるかもしれません。現在進行中のプロジェクトの一つ、『レーニンの実証実験』はすでに、教会の手に負えなくなりつつある。教会はまた、あなたの手を借りようとするやも……ふふ、おかしいでしょう?」
デルヘッジは心底おかしいといった具合に笑うが、言語教会の怪しげな実験を聞かされたキミヒコは閉口した。
クラウゼヴィッツに続いて、今度はレーニン……。共産主義でもやろうってか? 教会め、危ない社会実験も大概にしろよ。冗談じゃない……。
デルヘッジから聞き出した事柄は、あまり、自身にとって良い情報ではない。
キミヒコとしては正直、あまり詳細を知りたくない話だ。レーニンの実証実験とやらは、どう考えてもまともな計画ではなさそうである。聞けばきっと、げんなりするだろう。
だがこれ以上、言語教会のとんでも計画に巻き込まれたくはない。
そう思って、キミヒコが言語教会の悪巧みについて尋問しようとして、それはきた。
閃光が、この展示室に瞬く。
光源はサモトラケのニケからだ。下から上へ向けて光が突き抜け、そしてそれからほんの一瞬の間を空けて、この彫像は爆散した。
ホワイトがキミヒコを庇い、その身を抱えて部屋の隅に跳ぶ。同じく、近くにいた巨大蜘蛛も八本脚を素早く動かして、キミヒコたちとは反対側の壁に身を寄せた。
部屋中央は土煙に覆われ何も見えない。ただ、爆散した彫像の破片がパラパラと床に落ちる音が聞こえるだけだ。
「なにがあった!?」
「あの魔人です」
キミヒコの動揺の声に、ホワイトが短くそう答えた。
それからすぐに、バサリという音がして、土煙が霧散する。そこにいたのは、純白の翼を持つ魔人。アミアだ。
「みーつーけーたーぞぉ……」
天使の姿の魔人が、デルヘッジを見下ろして、嗤う。
殺意、怒り、侮蔑。あらゆる負の感情が、その表情に乗っている。キミヒコにはそう見えた。
「殺す殺す殺すコロス殺すコロ、コ、コロ、コリョ、コ、コリョリョリョリョ――」
「なるほど。過去の業……運命に捕えられた、か……。残念です。私は天使様に……」
その言葉は最後まで紡がれることはなかった。自らが造り出した魔人によって、老人は細切れの肉片へとその身を変え、その命を散らした。




