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河童の薬

作者: 如月 什肋

ただ河童の薬、という単語を思い出し書いてみた。あまりにも無計画。

ちょっと本編の伏線っぽいものも入れてますが、まぁ、全然問題ないと思います。本編のほうは「お化け屋敷シリーズ」でいけるはず。誤字脱字はご愛嬌。

主要登場人物

主人公――小馬家屋・指揮おばけや・しき

クトゥルフ使い――丸々・罰まるまる・ばつ

雪女――丸々・糸鶴まるまる・しかく

河童――清水・道雄しみず・みちお


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「風邪ですか」

「そ〜う、風邪・・・たぶんねん」

 そう丸々・罰まるまる・ばつは頷いた。

 

;------------------------------------------------------------


 僕――小馬家屋・指揮おばけや・しき――は、丸々・罰のアパートに赴いていた。

 借りていた本を返しにきたからだ。

 丸々さん曰く、魔導書らしい。

 その本を読んでからというもの、少し頭がクラクラするのだ。

 本を返すついでにその事についても聞こうと思ったのだが・・・。

 丸々さんは玄関先で僕を迎えてくれた。

「風邪をひいているようには見えないのですけど」

「い〜や、僕じゃなくて糸鶴しかくがね」

「妖怪でも風邪ひくんだ・・・」

「生き物だしね」

 その理屈でいいのだろうか?人間が持つ常識という定規だけでは測れないものだ。

 僕は丸々さんの後ろを見た。

 アパートの部屋の広さは大きくも小さくも言えないものであるが、玄関先からでも奥を見ることができる。

 確かにそこには雪女である糸鶴が寝ていた。もちろん枕はアイスノン。

 僕は時々思うのだが、あの凍って固い枕は寝心地が悪いのではないだろうか。

 柔らかさを出すためにタオルなどを巻くが、あまり効果がないように思える。

 かといって、タオルを巻きすぎると冷やすための冷たさが無駄になる。

 そもそもあれだ。冷たいのをずっと頭に付けとくと、キーンと痛い。

「とりあえずこれを返しとくよ」

 僕は鞄の中から魔道書を取り出すと、丸々さんに渡した。そして丸々さんはそれを受け取ると、

「ふむ、感想はあるかい?」

 こう返してきた。

「頭が痛くなった」

「本の内容についてだったんだ〜けどねん」

 ・・・内容ね。

「う〜ん・・・正直、僕には理解できないところが多かったよ。それに抜けのページが多くあったし、その間を想像するのは無理かな。とりあえわずかったといえば、門に関してかな」

 丸々さんはふむふむと頷く。

「ぶっちゃけ、それくらいしか読むものないと思うよ〜。あの魔道書にある魔力は僕が使ったからねん。門は使ったことないから、そこの記述だけしか残ってないんだよ〜」

「そんなスッカスカの魔道書を見せて、僕に何を期待したんだよ」

「いやぁ〜、指揮君にこっち側の耐性を少しでも強めてもらおうと思ってねん。いつ何時、おかしなことが起こって発狂するかもしれないし」

 嬉しいお節介ではあるが・・・

「耐性つけるも何も、僕は怪異とかしょっちゅう遭ってるのだけど?それにあの魔道書読んだだけで頭が痛いんだ、逆効果じゃないのかよ」

 今もだ。頭の中は少しぼんやりしているし、なにやら幻覚が見えているようにも思える。

 ・・・あれ?実はヤバいんじゃないのか、これ。

 と、丸々さんは、おやっと何かに反応した。そして魔道書をパラパラと捲る。

「そうか、この本にはまだそれくらいの知識があったの〜ね」

 ぱたん、と魔道書を閉じた。

「・・・なに、心当たりあるの?僕の不調にさ。いや、心当たりが絶対にあるね。吐けこら。僕は明後日テストがあるんだ、悪い点取ったらどうするのさ」

 現在、6月の初め、うちの高校では中間テストが始まったりする。

 しかし、丸々さんは、

「別〜にいいじゃないか。頭いいし、そこまで困らないだろ?」

 と言う。なんて人だ。それとも僕の事褒めてる?いやいや、うぬぼれはよそう。そのうぬぼれで僕はひどい目に何回もあってる。

「いや、困ってるだろ・・・。僕にとっては重大なのさ。今後のことを考えるとさ・・・」

「進学かい?推薦かい?」

「いや、そこじゃないんだけどさ。僕はよく怪異に巻き込まれるじゃないか。いつ僕が長期間学校に行けなくなるかもしれないわけだしさ、保険は持っておきたいだろ?」

 それに、恋の時だって僕は大怪我をした。丁度良く夏休みに入ったから良かったものの、それがなければ僕は1ヶ月以上の間、欠席になるわけである。

 因みに恋とは僕の彼女のことである。

 一途二・恋いちずに・こい

 とてもおっかない女である。

 少し前のことであるが、僕は彼女に殺されそうになった。大怪我もそれが原因である。

「指揮君。恋ちゃんのこと考えたねん?あれは君の自業自得でもあるわけだけどさ―――て〜かあれだねん。卒業できるかで頑張ってたのか〜、君も気苦労が耐えないね」

「気苦労は僕の友達だよ。それに僕は僕に付き合わなきゃならないわけだから、慣れるしかないさ。で、話それたけど、僕の体調とその魔道書の関係は?」

「ん?あ〜簡単なことだよ。この本の内容が少し危険な知識だっただけで、それに当てられた感じ〜かな。も〜と詳しく話してもいいけど、玄関先で話すのもあれだしねん。今の君は純度の低いアルコールを飲んで少しフラフラしてる感じ〜だよ。すぐに治るさ」

「つまりは正気度、サニティが減ったと・・・どのくらいで治る?」

「その表現をしていいのかい?まぁ、早ければ今日の寝るくらいには、長くても明日には普通に戻ってるよ。でも、そ〜だね・・・確実に早く治したいなら、ちょっとおつかいを頼まれてくれないかい?」

 にまり、と笑う丸々さん。

「なんでおつかいすると、早く治るのさ」

 どういう引っ掛けだよ。

「まぁ、簡単なおつかいだよん。薬を貰ってきて欲しいのさ。妖怪に効く薬をね。そのついでに君の薬も貰うといいよん」

「薬ねぇ・・・」

 話は理解したけど、何か嫌な予感がするんだよな・・・。

「その薬を持ってる人って、安全?」

「ん?安全?・・・まぁ、安全だよ〜。なにせお医者さんさ。場所だけど―――あっちの方に行った先に大きめの川があるのを知ってるかい?」

 丸々さんが指す方角を見て頭の中を検索する。

 確か、大きくも小さくもない川があったはずだ。それに山の近くであるため、水も綺麗である。それに人通りも極端に少ない場所だった・・・はず。

「なんとなく予想はできたよ」

「その近くにある診療所の先生だよ。普通に営業してるし、ご近所さんの結構評判もいい」

「へぇ〜」

 初耳だ。まぁ、僕自身、この街にどれだけの病院や診療所があるか把握はしてないわけだし、こんなこともあるだろう。

 しかし、医者か評判も良い、と。丸々さんも大丈夫と言うからには大丈夫なのだろう。

 僕の取り越し苦労であったらしい。

「で、その先生は『河童先生』ってよばれているんだよねん」

「おう、なんてことだ!オチが見えちまったよ!というか直球だよ!ヒネれよ!!」

 つっこみは忘れない。

「いや、まぁ〜大丈夫だから。本当に―――で、ちょっと待ってね」

 丸々さんは僕を制してアパートの奥に引っ込んだ。

 そして襖を開ける音、何かを探す音が聞こえる。そして少しの沈黙。

 すぐに戻ってきた。その手には透明な小瓶。中には粉が入ってた。

「はいこれ」

「何これ」

「イブン・ガズイの粉薬。多分必要になると思うからさ〜。そしてもう一つ」

 それは一枚のメモ用紙だった。

 見ると、診療所への地図と数行の文章。

「とりあえずこれに書いてある通りにすれば、彼には会えるはずだから、頑張って〜・・・」

「おい、僕はまだ行くとも言ってないんだぞ」

 しかし、僕の言葉は丸々さんには届いてなかった。何故ならば、玄関のドアが締められてるからだ。

「・・・人の話し聞けよ。まずこの粉の意味を教えやがれ」

 と、玄関のドアが開いた。そして丸々さんの顔だけが出てくる。

「その粉、作るの大変だから後で返してね」

 再び閉まるドア。

「・・・・・・・・・」

 なにか疎外感を感じた瞬間であった。


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 こじんまりとした建物。清潔感を出そうと、白く塗られた壁。

 診療所にたどり着くのはたやすかった。

 いや、それは間違いだ。

 丸々さんの書いた地図は誤記が多かったのだ。

 あるはずの道がなかったり、ないはずの道があったりと、場所自体が間違っているのではないかと思ったくらいだ。

 しかし、目印となりそうな建物もあったりと要領を得ない。

 結局、道行く人に訊ねることとなった。

 僕はこの時驚いた。

 大抵の人が診療所の知っていたのだ。

 近所には有名と言っていたが、かなり広い近所である。それだけ腕が確かなのだろう。

 僕はどんな人だろうか期待し、診療所のガラス製のドアへと近づいた。―――だが、

「あれ?閉まってる」

 ドアからは明かりがもれてきてなかったのだ。

 今は夕方、節電するにしてもこの時間であれば、明かりはつけるものである。

 だが、その疑問も直ぐに消える。なぜならば、ドアにプリントされている営業日では今日は休みと出ていたのだ。

 ・・・おいおい、どうするんだよ。丸々さんは営業日を知らないのか?普段、丸々さんはこういう日付に関しては間違えないはずなのだが・・・。

 しかし、これでは薬を貰えない。どうすべきか迷う。

 と、そこで僕は思い出す。丸々さん言葉だ。

『とりあえずこれに書いてある通りにすれば、彼には会えるはずだから、頑張って〜・・・』

 メモを見る。確かこれには文字もあったはず。

 そこにはこう書かれていた。

『今日はお休みだろうから、その近くにある川に行くといいよ。彼はそこで水浴びをしてるはずだから。また、普通じゃ見つからないだろうから、イブン・ガズイの粉薬を橋から撒けばいい。ただし、一つまみ程度で・・・多量の使用は禁止、それ貴重だから』

 休みだと知っていたのなら、診療所の場所じゃなくて川の場所を教えろよ。・・・いや川の場所は知ってるけどさ。

 僕はここから近くの山の見えるほうへと向く。

 小さくも大きくもない川へ行くにはその方角が近いだろうとの判断だ。そしてその判断は間違ってはいなかった。

 徒歩にして10分、意外に早く着いた。

 その川はアスファルトでの舗装もされておらず、小さな岩がごろごろと存在し、草も程よく茂った場所だった。また、川の水も澄んでおり自然に近いともいえる。

 そしてまた数分歩くと、橋が見えた。これは流石にアスファルトであるが、小さい橋だ。車が一台通れるほどの幅だろう。

 僕は橋の中央まで行くと、川を見る。例の河童先生を探すためだ。

 しかし、人の姿は見えない。

 よ〜く探すが見つからない。橋の下を見る・・・いない。ロープが一本柱に括り付けられているのがあっただけだった。

 そもそも、この時期に水浴びはないのだろうか?それに夕方だ。空気は寒くなっている。

 とりあえず、僕は丸々さんのメモ通りにやってみることにした。

 瓶に入ったイブン・ガズイの粉薬を一つまみし、それをパラリと撒く。

 粉は直ぐに分散し、目で捉えられなくなった。だが―――

「ん?」

 僕は見た。今まで水の流れしか見えないところに人の姿を。

 その人は太った姿をしていた。そして、ぷかぷかと仰向けで浮いているのだ。その足元からはロープが伸びており、それをだどると橋の柱に巻いてあったものに繋がっていた。

 どうやらロープで流されないようにしてたらしい。

 しかし、服を着たままの姿だ。下手すると人がおぼれたようにも見える。・・・おぼれてないよね?

 多分、あれが河童先生なのだろう。

 そして僕は瓶を見る。

「イブン・ガズイの粉薬・・・見えないものを見えるようにする粉・・・か?」

 まぁ、いい・・・、とりあえず僕は土手まで行き、浮かんでいる人に話しかける。

「すいませ〜ん。いいですか〜?河童先生ですよね?」

 反応は遅れてきた。

 その人は寝ていたらしく、細い目で僕を捉え、疑問をもったように眉を上げる。そして僕と目が合う。

「・・・・・・」

 言葉はなかった。

「・・・・・・」

 その人はやっと自分が呼ばれたことに気付いたのか、起き上がりざぶざぶと土手まで歩いてきた。

 そこで僕は気付く。彼は白衣を着たままこの川に浮いていたのだと。そして、彼の頭頂部は禿ていた。綺麗に丸く禿ていた。

 ・・・まさか、あれが河童先生の由来なのだろうか。そうすると気軽に河童先生と呼ぶのは失礼だったのかもしれない。

 そして、彼は見る限りそこらで見る中年の男にしか見えなかった。

 彼は僕を見ると、

「ん〜、用事か?」

 けだるさそうな声で問いかける。気持ちよく寝ていたのを邪魔されたからだろうか。

 とりあえず僕は雪女に効く風邪薬と僕の頭痛に効きそうな薬が欲しい事について話した。

「雪女?・・・あぁ、罰さんのところの使いか。ふむ、すぐに用意しよう。それに君についての薬だね。まぁ、見てみなきゃわからないけど」

 温和な笑みで答えを返してくれた。どうやら普段は気の優しい人なのだろう。

 了解してくれたようだ。

「ありがとうございます」

「とりあえず、診療所に戻ろうか。薬も直ぐに調合しよう」

 彼はびちゃびちゃに濡れた服を気にすることもなく、歩き始めた。

「助かります」

 僕たちは診療所へと足を向けた。

 

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 彼の名前は清水・道雄しみず・みちおという。

 普通にある名前である。

 医大を出て、病院に数年間勤務、その後はこの街で診療所を開いたらしい。

 普通な経歴でもある。

 しかし、予想通りと、彼も妖怪であった。

 河童である。

「もともと私は薬剤師になりたかったんだよ。でもね、どうも人間の感性とは遭わないところがあった。

 君は知っているかい?河童は薬の知識に長けた妖怪であるんだよ」

 昔話で残っている話だ。

 悪さをした河童が人間に捕まると、自分の持つ薬の調合の知識を教え許しを請う話。

 または悪さがばれてしまい、腕を切り落とされた河童が、腕を繋ぐ薬の製法を教え自分の腕を繋ぐ話、助けてもらった礼として薬の製法を教える話もある。

 どうやら、彼―――清水さんは人間の作る薬の製法、その考えに対して河童として合わない所があったらしい。そして、自分が薬を作っても、それを使おうとする者が出ないだろうと考えたのだ。

 ならば、自分で使えばいいという発想での診療所の経営。

 分かりやすい人といえばそうだが、純粋に人を助けようとする気持ちは確かなものだった。

「勘違いしてはいけない。私は人間も妖怪も助けるのだよ」

 清水さんはそう言った。


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 診療所の中、清潔な内装、消毒液が充満するこの場はどことなく安心するものがある。

 とりあえず服を着替えるから、と僕は待合室で待たされることとなった。

 何故、服を着たまま水に入っていたのか、そう清水さんに訊ねると、彼はこう返した。

『陸上で生活する人間は服をきているよね?そういう意味さ。それに、この時期は寒いからね』

 感性の違いとはここでも出てくるらしい。

「待たせたね」

 清水さんが診察室から出てきた。

「いえ」

「調合する際に、君の診察もするから入ってきなさい」

 そう、診察室に僕を招きいれた。

 僕が診察室に入ると、清水さんは既に葉っぱを煎じていた。

「そこに座って楽にしたまえ―――さて、指揮君・・・君は一種の幻覚症状に陥ってる、そういうことだね」

「そうです、ふと隣に人影が通りがかったの気付いてそこを見ると誰もいなかったり。どこからか声が聞こえてきたり、と」

 ふむ、と清水さんは頷くが、薬を煎ずる手は止めない。

「そしてそのようなことが起きるようになったのは、罰さんから渡された本を読んだから・・・と、あの人が持つ本は危険なものだからね。私も読んでみたいよ思う反面、怖いのでまだ読んだことはないから、実際、どのような事になるかは分からないな・・・」

 と、清水さんは葉っぱの粉を少し指にとり舐める。苦いな、と呟き。新しい葉っぱを粉にし始めた。

「大丈夫なんでしょうか・・・僕」

「なに、心配することはない。君に出す薬はもう決めたからすぐに治るよ。どちらかというと雪女向けの薬のほうが心配だな」

 う〜む、と唸る。

「難しいのですか?」

「まぁね。なにせ雪女を患者にした経験はないのだよ。彼女とは前に行われた宴会で一回あっただけだが、その時のことを思い出しながら合いそうな調合を行っているところさ」

 ・・・それだけで薬は作れるものなのか?いや、自分の常識で考えてはいけない、ここは彼を信じる。そして、

「ははは・・・」

 とりあえず笑っとこう。

「私自身、罰さんとはあまり多くはないが、彼の縁者にはとても世話になってね。彼女の薦めでこの街にきたのだよ」

 と、清水さんは話を変えてきた。

「彼女?」

「そう、罰さんから見たら義理の姉。お兄さんの嫁さんだよ」

 確か前に丸々さんから聞いたことがある。

「雅さんですか」

「そうだよ。とてもできたお人だ。今は怪我で引退してしまったが、腕のある陰陽師だった。できれば彼女の怪我も治してあげたかったが、拒まれてしまってね。・・・とあまりいない人の話をしてしまうのもなんだな」

 清水さんは粉にしたものを混ぜ合わせた。

「出来たのですか?」

「あぁ、とりあえずこれで効く筈さ。一日待って効果が全然でないようなら、呼んでくれと伝えてくれ」

 そして、と清水さんは立ち上がり棚から一つの薬を取り出した。

 よく病院で出されるようなカプセルだ。

「市販の薬だが、これが君に効くだろう。私が見た限り、無意識のうちにショック状態になったのだと思う。ならば精神安定剤で十分だ。これを飲んでぐっすり寝たら、明日は元気な自分がごきげんようだ」

 なに、そんなに重い症状ではない、と笑い飛ばした。

「精神安定剤・・・」

 そういえばこのような薬にお世話になるのは久しぶりかもしれない。丸々さんに会うまではそれは何かと怪異に追い回され、精神的にまいっていたからだ。

 どうやらこのようなところでも丸々さんには助けてもらっているのだと実感する。

「まぁ、これでも心配なら。大きく深呼吸をするといい。それだけでも効果は出る。それに、この診療所自体にもいろいろ仕掛けがしてあってね」

 と、清水さんは語る。

 備え付けられている加湿器に薬を仕込んでいるとのこと。傷の治りを少し促進させたり、精神を落ち着ける効果があるらしい。

 ・・・なるほど、この診療所に入ったときに感じた安心感にはこのようなこともあったのか。

 僕は大きく深呼吸をする。

 そして忘れれはいけないこともしなければならない。

「清水さん、指で輪っかを作ってくれませんか?」

「ん、こうかい?」

「はい」

 OKサインのように親指と人差し指で丸を作ったそれに僕は人差し指で軽く切る。

「えんがちょ・・・と―――ありがとうございます」

 清水さんは不思議そうな顔で僕を見た。そして、ふと笑う。

「君も難儀な体質なのだね」

 なんとなく僕の概念には気付いているようだ。

「そういえば薬代なのだが」

「あ・・・」

 忘れてた。どこくらいするのだろうか。妖怪の薬って高いのだろうか・・・。

 自慢ではないがあまりお金はもっていなかったりする。

「おいおい、顔を青くすることはよ。君の持っているその粉薬、それを分けてくれるだけでいい」

 清水さんは僕のポケットを指差す。

 僕は瓶を取り出す。

「これ、ですか?」

「こういうのは罰さんの専門分野なのだろうが、非常に興味深いものでね。この際だから少し研究してみよう」

「はぁ・・・」

 僕はその瓶を清水さんに渡す。

 彼は瓶から少量のイブン・ガズイの粉薬を薬さじで取ると僕に返した。

「では、また怪我などしたら来ますね」

「なに、いつでも遊びに来なさい。ここは地域密着型で通している」

 そういうのは歓迎するよ、と。

「ありがとうございます」

 僕は診療所を後にした。


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 帰り道

 僕はあることに気付く。丸々さんから渡された地図が正確なことに・・・

 どうやら幻覚症状は大分落ち着いてきているようだった。

とりあえず、就職活動で第一次試験を突破したのでひとつ短編など書いてみました。あまり連載中の本編とは関係ないです。次の試験が一段落したら、短編か連載の続きを行きます。

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