閑話 国王ジョージ
ジョージとジュリは政略ではなく恋愛で婚姻した。今、ケルンが通っている学園で二人は出会い愛を育んだ。ジョージに婚約者がいたという障害もあったが、障害があればあるほど禁断の恋は燃え上がった。ジョージは側近たちと力を合わせ婚約者を廃除して王族と平民という身分差も乗り越え結ばれた。
数々の困難を乗り越え愛する人と結ばれたジョージであったが、王族としては間違いの婚姻であった。ジュリは婚姻までに王妃教育を何一つ覚えることが出来なかった。そして、今も覚えることができていない。ケルンを授かったから王子妃となり、先王が亡くなったから王妃の名を受け継いだ。公式の場には王妃として少しの間だけ姿を出しているが、公務を全くさせられない状態であった。王とその側近たちがどうにか王妃の仕事もしているが、王妃としてのプライドだけはあるジュリは問題ばかり起こしていた。
一番問題となっているのが、他国の貴賓たちとのトラブルだ。礼儀作法・教養を修得していないジュリはこの国の常識、いや己の常識だけで自由奔放に動く。それが他国ではタブーとされていることでも覚えていないから普通で行ってしまう。そのために国交断絶・開戦の危機に何度陥ったことが。ジョージの姉エリタが強国である帝国に嫁ぎ皇妃となっているため、帝国を恐れて今は他国が退いている。帝国の後楯、いや、皇妃エリタに見捨てられたらこの国は一瞬で地図から名前が消えるだろう。
それでもジョージは幸せだった。政略ではなく自分が選び愛した人と結ばれたのだから。だが、時折ジョージは思う。父王たちが提案した通り廃除した婚約者と婚姻しジュリを愛妾として迎えていたら、と。
政務はこれ程まで忙しくならなかっただろう。
他国との無用なトラブルはなく友好な関係を築けていただろう。
姉エリタのご機嫌を伺いながらの政務をしなくてすんだだろう。エリタは廃除した婚約者を実の妹のように可愛がっていたのだから、帝国との関係も友好的なものだっただろう。
ジョージは思う。それは無理な夢物語だと。
婚約者は廃除しなければならなかった。令嬢の中の令嬢と言われていながら、学園でジュリを虐げていた悪女だったのだから。婚約者と婚姻していたら、今もジュリは虐げられていただろう。もしかしたら、王妃という権力を使ってジュリを廃除しようとしたかもしれない。
それに愛妾にするにはジュリを誰かに嫁がせなければならなかった。そして、ジュリとの間に子供が生まれても夫との嫡子となる。それは妃の地位を守るためでもあり、無用な後継者争いを避けるためでもあった。
愛するジュリを誰かの妻にするつもりなどなかったし、愛せなくなった婚約者との間に子供を作る気もなかった。
だから、これで良かったのだ。ジョージはそう思うことにしている。優しいジュリは婚約者を赦そうとしたが、婚約者は頑として罪を認めなかった。だから、婚約者は身内にも見捨てられた。勘当され平民に落とされ、国境近くに放逐となった。一人では何も出来ない令嬢が供も連れず見知らぬ場所に放り出される。どうなるのかは分かりきっている。帝国の近くに放逐するよう命じたから、運がよければ帝国の関所に姉エリタの元に辿り着くことが出来ただろうに。それが自分の婚約者として王妃教育を頑張った者へのせめてもの恩赦だったのに。全てを無にしたのは婚約者だ。ジョージたちには何一つ落ち度はない。
お読みいただきありがとうございますm(__)m
誤字脱字報告ありがとうございます




