次のステップ
—— 八王子西ダンジョン『4F 光岩の洞窟』
ウェポンスケルトン達に軽量ミスリル合金ソード改の威力を試しているのだが、これは強力だ。
一振りで二体ものスケルトンを一掃できるし、軽く、リーチも長い。
力の草を食べる前の俺では振れなかっただろうが、その重さも丁度よい。
サクサクと進み、一階から四階まで全フロアを周り切ってきたが、まだ二時間と経っていない。
この調子なら五階層のボスに調整しても大丈夫だろう。
—— 八王子西ダンジョン『5F 光岩の洞窟』
話に聞いていたとおり、ボスフロアは魔物が居ない広い空間になっており、ぽつんと扉が設置されている。
あそこを開くとこの階層のボスが居るのに間違い無さそうだ。
そしてもう一つの特徴が、ここだけは日付が変わっても地形の変動が起きないと言うのだ。
それを利用して、大手クランなどはここで一夜を明かし、日を跨いでの探索を可能としているらしい。
ちなみに、普通のフロアで日を跨いでしまうとどうなるかと言うと、地形変動に巻き込まれて殆どの場合、死に至るのだとか。
運良く生き残った者が教えてくれたそうだが、そんな事は絶対に試したくない。
ボスフロアで昼食にし、少し腹ごなしがてらウォームアップをして備える。
遂に初めてのボスとの対面だ。
重たい扉を開くと、一見中には何もいなさそう見える。
通常は、人が入ると部屋の中央付近にある魔法陣からボスが召喚されるのだそうだ。
意を決して中に踏み込むとガタンッ、と勢いよく扉が閉じる。
そして魔法陣が発光し、光の中から真っ黒なローブを着て、両手に暗い光を宿したスケルトンが現れた。
普通のスケルトンより少し大きく、身長は2メートルくらいありそうだ。
そして何よりも禍々しい雰囲気と手の光——どう考えても魔法を使ってきそうだ。
スケルトン両手を交互に振り切って、暗い光を飛ばしてくる。
プロ野球選手ばりの速度に一瞬体が硬直するが、見切りの指輪のおかげでギリギリのところを横っ飛びで回避する。
次から次に飛んでくる光を全てかわすのは無理と判断し、受け流しのミスリル盾を使って半分受ける。
ミスリルを合成したおかげもあり、魔法耐性は多少ありそうだ。
受けながら、避けながら少しづつ近づいていき、あと一歩で剣の間合いに入ると思った瞬間、スケルトンは両手を地面に向けて魔法を放つ。
おそらく全方位攻撃だと悟った俺は、盾と剣を壁にその場にうずくまって凌ぐ。
嫌な雰囲気が体を包み、弾き飛ばされそうになるも、おそらく魔獣のコートが効いているのであろうが、無傷で耐えきった。
ここしか無い、瞬時に前進し、魔法の打ち終わりでまだ構えを解いていないスケルトンを、軽量ミスリル合金ソード改で横薙ぎに切る。
ローブに深い斬り痕を残しスケルトンが仰け反るが、あと一歩踏み込みが足りなかった。
スケルトンは両手に再び暗い光を宿し、距離を詰めて直接殴りに来る。
盾で受け流すが、当たるたびに光の余波が広がり、それが俺の体をズンズンと刺激する。
おそらく、魔獣のコートを着ていなければ体中傷だらけだっただろう。
スケルトンのラッシュになかなか反撃の機会が無かったが、無理やり拳を弾いて隙を作り、がら空きになった腹部に剣戟を加える。
背骨辺りが砕けて真っ二つになったスケルトンは塵になって消えていった。
結果としては大した傷も無く、コートの下に幾つかの打撲がある程度で済んだが、何か選択を謝れば死んでいたかもしれない。
一人でダンジョン探索をすることのリスクを改めて思い出し、次のボスはもっと慎重になろうと誓った。
入ってきた扉と反対側にある扉が開いたが、その前にスケルトンはドロップを残していったようで、確認する。
見た目は指輪だが、これ系は鑑定しないと効果が全くわからないので、持って変えるしか無い。
魔石も当然落としているのだが、今までとは比べ物にならないサイズで、こぶし大である。
ドロップを拾って奥の扉へ進むと、小部屋に宝箱と六層への階段がある。
ボスを倒すと必ず宝箱が開けられるらしく、十日一階復活するボスを倒すのに、いろんなクランがしのぎを削っているらしい。
この過疎ダンジョンはそういった意味ならお得だ。
宝箱を空けると、中から更に箱が出てくる。
マトリョーシカか? と思い更に箱を開けてみるが、中には何も入っていない。
派出所に置いてある『物知りの壺』みたいなものだろうが、こればかりは鑑定してみないとわからない。
時間はまだ有るので、薬草を呑んで六階層にも一応降りてみる。
さすがに魔物が強力すぎて即死、なんてことは無いだろう。
—— 八王子西ダンジョン『6F 亜人が住む樹林』
階段を降りるとそこには樹林が広がっており、一瞬困惑する。
どうやら樹林の端の岩壁に階段が着いており、そこから降りてきたようだが、どうしても構造が理解できない。
そもそもダンジョン自体が未知すぎるので今更かもしれないが、現実を受け入れるのに少し時間がかかった。
迷いやすそうなので方向感覚に気をつけながら、周りを探索してみる。
どうやらこの樹林は岩壁に囲まれており、この中がフロアになっているようだ。
特殊な能力でこの岩壁を超えたらどこに出るのか興味あるが、今の俺には方法が無いので諦める。
今までしっとりとした洞窟を探索していたので、この樹林は開放的で気分が良い。
偽物にせよ、たくさんの緑と青空、心地よい風があるだけで、探索のストレスが幾分か薄れるようだ。
岩壁沿いに歩いていくと、遠くからギィギィと何匹もの聞き慣れない鳴き声が聞こえてくる。
よく見ると緑色の小人……あれが噂に聞くゴブリンだろう。
講習では口酸っぱくゴブリンには気をつけろと言われている。
奴らは知能があり、武器を用い、集団で人を襲うため、初心者は近づかないのが身のためだと言っていた。
どうだろう、俺は一応ボスを倒しているので初心者では無いと思うのだが、かと言って上級者と名乗れる自信はない。
どうしようかと考えているうちに目が合ってしまい、三匹のゴブリンがこちらに走ってくる。
体は小さいし足も遅いのでそこまで驚異に感じないのだが、油断せずに迎え撃とう。
このまま棒立ちしている理由もないので、俺の方からも打って出る。
三匹のゴブリンは横に広がり、各々手に棍棒や石器の槍を持って多角的に攻撃して来るが、それを軽量ミスリル合金ソード改の広い間合いで一蹴する。
一匹だけ致命傷に至らないゴブリンが居たが、逃げるほどの気力も無さそうだったのでそのまま仕留める。
ゴン、と頭の後ろに重い衝撃が響く。
一瞬目の前バチっとしたが、瞬時に後ろを振り向くと、三歩ほど離れたところにゴブリンがいる。
手元には長い布、石でも投げたか。
ゴブリンは逃げようとするが、その背中に剣を投げつけ、串刺しにする。
危なかった……まだ仲間が隠れているとは思わなかった。
頑丈の腕輪がなければ気を失っていたかもしれない。
すぐに薬草を呑み込んで、後頭部の違和感を消す。
油断はしてなかったのだが、一人で来るには少しリスキーな場所かもしれない。
今日手に入れたアイテムもあるし、今日のところはあと軽く四階層を周回して帰ることにする。
もしかしたらこの状況を打破できる、特別な能力を持つアイテムがあるかもしれない。
いつも通り派出所で換金し、ボスドロップと宝箱のアイテムを鑑定に掛ける。
『灰光の指輪。装備すると灰光の魔法を使えるようになる。指輪は一人に付き四つまでしか装備できない』
初めての魔法系アイテムだ。
灰光とは、スケルトンが使っていたあの暗い光のことだろうか。
もし同じ事ができるのであれば、多角的な攻撃に強くなれる可能性がある。
もう一つ手に入れた箱の方は、壺に入らなかった為、他の手段で鑑定してもらう。
こっちは鑑定に5MSもかかるが、仕方がない。
奥から職員がメガネを掛けて出てくる。
『物知りのメガネ』といって、レンズ越しにアイテムを見ると鑑定してくれるらしい。
これはどこの派出所にもあるものではなく、かなり貴重な品なので料金を多く取るらしい。
「えっと、『強化合成の箱。同じ武器、同じ装備どうしを入れると、片方が強化され、もう一つは消費する』、です」
なるほど、同じアイテム……ミスリル武器なんかを入れると効果的な訳か。
軽い剣なんかも複数あるが、あれは単体で使うことが無いから、意味ないかもな。
むしろ、自作武器には適用されるのだろうか。
そう言えば鑑定したことが無かったので、鑑定してみよう。
『軽量ミスリル合金ソード改。製作者はフジヤマト』
へー、ちゃんと俺が名付けた名前で鑑定されるのか。
そして製作者の名前はフルネームで出るんだな。
これは、喜んでも良いのか? ブランド毀損が出来ないと考えれば、悪くないのか。
色々試さないとわからないことも多いが、自作武器でも鑑定ができるのが解った以上、強化合成もやりようはあるはずだ。
今日もミスリル鉱石を二つドロップしているし、プレハブに戻って試してみるか。