フジヤマト商店
結局、試し切り用の非売品も含めて、全部売れてしまった。
いや、良いことなのだが、思ったより需要があったので、これは本気で供給を作りに行かないといけない。
売上が全部で172MS、原価がミスリル鉱石一つ6M換算で108MS、利益で62MSか。
薄利だな……価格設定ももう少し考えなければ、このままだと相場が決まってしまう。
ひとまず買取りを強化するために、決まった曜日の決まった時間に店を出すと、掲示板に告知しておく。
あとは安定供給ルートを作りたいのだが……もう少し軌道に乗れば大手クランと取引するのも手かもな。
売れるものが無いので、今日のところはプレハブに戻り、試作武器に専念したいと思う。
夕方になったらまた買取りにでも行くかな。
・ミスリルナイフ×3
・麻×2
・木材×4
・接着粘液×2
・丈夫な糸×1
・進歩の小槌×1
・のこぎり×1
・魔骨の針×1
・鋼鉄×2
・研ぎ石×2
・高級な研ぎ石×1
・オリハル原石×1
・世界樹の木材×1
・長槍×1
・アックス×1
・皮の靴×1
・麻の服×1
・軽い剣×3
・薄い盾×2
量産品も良いのだが、男なら至高の一本も作ってみたい。
以前試作したミスリルナイフをミスリル鉱石に戻して、色々組み合わせながら上手く出来ないだろうか。
そう言えば、ドロップ武器にミスリル鉱石を纏わせてみるとどうなるだろう。
例えば軽い剣の刀身にミスリル鉱石を叩き込んで纏わせて、薄く広く伸ばしてく。
うん、純ミスリル製よりも軽く、攻撃を当てる部分は固く重い、使い勝手の良い剣になったな。
纏わせた分、見た目は大剣だが、俺でも片手で持てるくらいの重さだ。
この要領で、薄い盾にミスリルをくっつける事もできそうだ。
今日はせっかく時間も有るのだし、素材を使いまわしながら色々試してみよう。
……うん、軽い剣を加工して細長くし、比較的重い鋼鉄で刀身の芯を作り、周りをミスリルの刃で固めれば、片手で取り回せる両手剣サイズの剣が完成だ。
名前は仮に軽量ミスリル合金ソードとでもしておくか。
我ながらネーミングセンスがない……商品化する時は葵にでもネーミングをお願いしよう。
重心を中央近くにするために素材の比率に苦労したのと、形を左右対称にするためにいちいち型を作ったのに、思ったより時間がかかった。
昼から作り始めて、既に夕方近い。これは明日試すとして、今日のところは買取りで出よう。
今日は八王子中央第1ダンジョンの方に行く。
第2ダンジョンと同じくらいの人気だが、プレハブから少し遠いのと、力のあるクランが多いから敬遠していたのだ。
だが、こちらはこちらで俺が今まで出会わなかった素材にも出会えると期待している。
「買取り? 変わったことをする奴がいるんだな。面白い、これにいくらの値を付ける?」
威圧感のあるゴリゴリのおじさんから目を付けられる。
なんでそんなに偉そうなのかわからないが、まあ豪華な装備を見るに実際偉いのだろう。
聞けば、八王子中央第1ダンジョンは、西東京で一番攻略が進んでいると聞く。
「これは……!! 進歩の小槌、ですね」
「ほう、見ただけでわかるか。目は効くようだな。で、いくらだ?」
これは絶対に欲しいが、これが一般的にどれくらい値が付くものなのか想像がつかない。
武器や防具に使えないから、使いみちは限られるはずだが、下手に安く出して引き下がられるのが一番怖いな。
「……50MSでいかがでしょう」
「なるほど。……倍だ。100MSなら売ろう」
こいつ、性格悪いな。
この感じだと絶対に使い道など無いだろうが、ふっかけてやろうという気が満々だ。
だが、俺にとって100MSなら充分に買う価値がある。
すぐに取り返してやるさ。
「わかりました、100MS出しましょう」
「はっはっは! ふっかけて悪かったな。良い取引になったよ」
まったく、しっかり100MS取ってく癖に、何が悪かっただ。
しかし、良い取引なのは事実。
俺と同じ様に商売を考えてるものからすれば、10倍出してもおかしくないだろう。
おそらくこれからMSで買えるものが増えてくれば、MSの価値は上がっていく。
そうなる前に下地を整えておくのが、良いやり方のはずだ。
結局この日はミスリル鉱石を中心に買い取った。
第2ダンジョンでは5MSで高いと言っていたから今回は4MSで買ってみたが、全く問題なく買い取れた。
最後は資金が足りなくなったが、12個も買い取れたのだから上出来だろう。
その他にも研ぎ石や、初めての素材も買い取れた。
やはり定期的に来る必要がありそうなので、この近くの派出所にも掲示板に出しておき、曜日替わりで来るとしよう。
・ミスリル鉱石×12 48MS
・研ぎ石×2 4MS
・魔性のローブ×1 4MS
・スライムのゴム材×1 2MS
車に戻って、ミスリル武器を作る前にまずは錬金の鉄槌を進化させてみる。
こういうのは何か一つに特化しておいたほうが、のちのち競合が出てきた時に差別化できるからな。
進歩の小槌を錬金の鉄槌に当ててみると、黒ずんでいた見た目が高級そうなゴールドに変化した。
早速、派出所で鑑定してもらおう。
『錬金王の金槌。あらゆる鉱石や鋼を加工、精錬できる』
お、精錬と来たか。
試しに車に戻って、ミスリル鉱石を叩いてみる。
するとミスリルが光って、暗い灰色だったものが少し白っぽく、高級そうな見た目に変化した。
そのまま派出所で鑑定に出す。
『ミスリル鋼。魔法の力を備えた鋼』
やっぱり、原石を鉱石に、鉱石を鋼にできるって理解で良さそうだ。
オリハル原石も、あのままでは只の石と変わらなそうだったが、これで鋼まで精錬できれば心強い。
ファンタジーではオリハルコンがやっぱり最強の素材だからな。
プレハブに戻って、ミスリル鋼の武器と軽量ミスリル合金ソードを精錬・加工する。
型さえ作ってしまえば、大して時間はかからない。
家族にも商売が軌道に乗りそうだと言うことを話した。
そして今は投資の時期なので、借りたMSの返済は少し待ってくれと言っておく。
もっと出そうかと母さんが言ってくれたが、手持ちのミスリルを元手に増やして行けるので、今のところは大丈夫だろう。
また、葵の情報によると、八王子中央付近にちょっとした市場を開く計画があるらしい。
父さんもそこの店舗建設情報は把握していたので、間違い無さそうだ。
早ければ再来週には売り物が出るとの事だったので、そろそろMSの価値が上がっていくだろう。
市場が活性化して良いことなのだが、それまでに俺はできるだけ稼いでおかないとな。
翌日の朝一は八王子中央第2ダンジョンへ来て、新しくなったミスリル武器を捌く。
明らかに切れ味が変わった為、前回と商品名を変え『ミスリルナイフ改』『ミスリルソード改』とした。
改と付けただけだが。
価格もナイフを7MS、ソードを20MSにして、少し高いかな? と思うくらいの設定をした。
初心者には辛いかもしれないが、7MSならギリギリ手が届くだろうし、低層なら充分使えるはずだ。
思った通り、ナイフが順調に捌けていく。
前回の評判をクランで聞いたのか、試し斬りをしない人達も多い。
その代わり、ソードの方が価格の事もあり、手が出にくくなっているか。
「ん、明らかに前回から変わっているな。試し斬りさせてくれるか?」
先日の女性二刀流剣士が現れる。
おもむろにミスリルソード改を手に取ると、目にも留まらぬ速さで試し斬り用の丸太を細切れにする。
「参ったな……昨日買ったばかりなのに、こうより良い商品を出されたら、買うしか無い。ヤマト……で良いかな? 次に新しい商品を出す時は『真・闘界連盟』というクランの天峰静佳に連絡をくれないか?」
「天峰静佳さんね。メモしておくよ」
前回同様、二本買っていくと意気揚々とダンジョンへ潜っていく。
相当な実力者なのは間違いないが、レベルアップなんてない中、どうやってあれほど強くなったのだろう。
その後、また火がついたように店の前に人だかりができる。
あの女性、もしかしたら有名なのかもしれない。
「知らないのか? この辺りでトップのクランで、副隊長やってる人だよ。男性女性問わず憧れの的さ」
へー、それは知らなかったが、たしかにあの強さとカリスマ性があれば納得だ。
そんな人がお得意先になったら、良いブランドが付くかもしれないな。
午前の早いうちに全てのミスリル武器が売れて、245MSの売上だ。
今回、ミスリル鉱石は4MSで買っているので原価は48MS、197MSの利益だ。
原価率20%弱、これはかなり良い商売になってきたぞ。
ただ、ここからミスリルの有用性に気づいて抱え込んだり、単純に供給が減る可能性があるから、原価は高騰するだろうな。
充分、競合優位性は作ったので、そろそろ大手クランに声を掛けても良いかもしれない。
それから二日ぶりに八王子西ダンジョンへ赴く。
相変わらず人っ子一人居ないが、普通は中央の方でクランに入って活動するだろうし、この近くに避難所は無いので、誰も来れないのは当たり前だろう。
今日は増やした新しい装備の試用運転だ。
・E 軽量ミスリル合金ソード改×1
・E 受け流しのミスリル盾×1
・E 皮の鎧×1
・E 魔獣のコート×1
・E 皮の靴×1
・E 頑丈の腕輪×1
・E 見切りの指輪×1
・薬草×12
・懐中時計×1
・パン×1