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量産品

 

『進歩の小槌。アイテムを一段階進化させる。武器、防具には効果がない』

『魔骨の針。硬い素材も貫く事ができる』

『魔獣のコート。熱や寒さに強い』


 進歩の小槌というのが、四階層で宝箱に入っていたレアアイテムである。

 DSS機構職員も、例が無いことは無いが珍しいと言っていた。

 俺の手持ちアイテムからすれば、充分に当たりだろう。


 魔石を28MSに換金し、早速車で使ってみよう。

 俺が今一番期待しているアイテム『加工の鉄槌』を進化させようと思う。


 進歩の小槌を加工の鉄槌に軽く当ててみると、白く光って赤字の印が入る。

 これで進化したはずだ、と加工の鉄槌でミスリルを叩いてみると、以前は綺麗に割れるだけだったのに対し、力を入れずとも熱された鉄のように自由に形を買えられるようになっていた。


 これは非常に有用である。

 試しに小さなナイフ形に整形してみると、研いでないので切れ味は無いが、刺突なら充分に使える品が出来上がった。

 ミスリルなので滅多なことでは壊れたり形が変わったりしないので、品質としては上々だろう。


 ミスリルナイフのすごい点は、量産ができるという点だ。

 一つのミスリル鉱石から三つは取れるので、5MSで仕入れて一つ3MSで捌けば、4MSの利益が出ることになる。

 欲を言えば砥いで切れ味も付けたいが、それは後で色々と試してみよう。


 そういえばDSS機構派出所に掲示板があった事を思い出す。

 今日のうちに買取りを明日の夕方行う旨、研ぎ石を優先的に買い取る旨を張り出しておく。


 ついでに、進化させた加工の鉄槌を鑑定してみよう。


『錬金の鉄槌。様々な鉱石や鋼を自由自在に加工できる』


 この『自由自在に』ってところの説明が変わっているな。

 今はまだ鉱石系の素材がミスリル鉱石しか無いので、他の素材も手に入れなければいけない。

 明日の買取りで出てくると良いのだが。


 ひとまず手持ちの道具を整理しておく。

 ダンジョンで使うものは手持ち、加工系の道具は車、使わないものはプレハブに積んでおく。


 ◯手持ち

 ・E 風切の短剣×1

 ・E 受け流しの盾×1

 ・E 皮の鎧×1

 ・E 魔獣のコート×1

 ・E 頑丈の腕輪×1

 ・E 見切りの指輪×1

 ・薬草×12

 ・懐中時計×1

 ・パン×2


 ◯車

 ・ミスリル鉱石×13

 ・ミスリルナイフ×3

 ・麻×2

 ・木材×2

 ・接着粘液×2

 ・丈夫な糸×1

 ・進歩の小槌×1

 ・のこぎり×1

 ・魔骨の針×1


 ◯プレハブ

 ・麻の服×1

 ・皮の服×1

 ・軽い剣×3

 ・薄い盾×2



 翌日、しっかりとダンジョンの探索を進める。

 ゲームのようにレベルアップしたりしないので、どこで五階層に挑戦すればよいのかわからないな。

 もう少しアイテムが充実してくるまでは、四階層の周回で留めておこう。


 夕方前にはDSS派出所で換金と鑑定を済ませる。


『刀。切れ味は良いが脆い』


 今日の未鑑定品はこれだけだ。

 これだけ周回していれば、そろそろ新しいアイテムも少なくなってくるだろう。

 ダンジョンに寄ってアイテムに偏りがあると言うからな。

 だからこそ、俺の手に入らない研ぎ石などを買取りできると助かるのだが。



 八王子中央第2ダンジョンの入口へ行き、告知通りに買取りを開始する。

 今日の資金は100MS弱あるので、めいいっぱい買い取るのが理想だ。


 看板には『研ぎ石や鉱石素材を高値で買取ります』と書いておいた。

 針や糸もあるから布系の素材でも悪くないのだが、俺は縫い物が出来ないからな。



 車を停めるとすぐにお客さんがやってくる。

 張り紙を見て待っていてくれたみたいだ。


「張り紙をするなら前日の昼までにしたほうが良いよ。みんなだいたい一日一回、夕方に寄るだけだからね。僕はたまたま見たけど、今日ここで買取りがある事を知らない人が多いんじゃないかな」


 親切な人がわざわざ教えてくれる。

 確かに、昨日の夕方に貼って、今現在見ている人は少ないだろうな。

 派出所に寄ってから戻ってくるのも大変だろうし。


 この親切な人はミスリル鉱石と鋼鉄、皮の鎧を売ってくれた。

 鋼鉄が手に入るのは嬉しいが、製鉄してある分、ミスリル鉱石より希少なんだな。

 宣言通り、鉱石系は高値で買い取っておく。



 しばらく車を停めていると、わらわらと人が集まってきた。

 前回見かけたがアイテムを持ち歩いていなかった人も多いらしく、見かけたら売ろうと狙っていたみたいだ。


 また、今回は売れないが出す時は早めに言ってくれという声が思った以上に多い。

 これは早めに告知すればかなりの買取りが期待できるな。


 ・ミスリル鉱石×4 24M

 ・鋼鉄×2 16M

 ・皮の鎧×1 2M

 ・研ぎ石×3 6M

 ・高級な研ぎ石×1 6M

 ・木材×2 4M

 ・オリハル原石×1 12M

 ・世界樹の木材×1 12M

 ・長槍×1 2M

 ・アックス×1 2M

 ・皮の靴×1 2M


 全部で88MSの買取り額だ。

 資金をほとんど使ってしまったな。


 しかし、狙いの研ぎ石も手に入ったし、初めて見る素材も多く手に入った。

 研ぎ石なんかはこのダンジョンで結構ドロップするらしく、自分用に数個は確保しても余ってしまうのが常らしい。

 その他、高級そうな素材が手に入った時は、加工方法が無かったりするので、扱いに困ってしまう事が多いそうだ。


 あとこれは噂程度なのだが、素材を加工するアイテムをクランで保持しているところも有るには有るのだが、ミスリルなどを加工するよりも深層でドロップする武器の方が強力なため、加工した武器を扱うものは少ないらしい。

 最下層を目指している探索者からすれば、より強い武器を求めるのは当然だろうな。


 大手クランはどんどん最下層記録を更新しており、そろそろ15層のボスを突破するんじゃないかと言われている。

 ダンジョンは5層ごとにフロアボスが待機していて、そこを突破するのが一つの目安となるのだ。

 俺はまだ5層すら挑戦していないので、まだまだ先の話だが。



 まだ少し時間は早いが、資金も尽きたしやりたいことも有るため、早めにプレハブへ戻る。

 そろそろ車の中もアイテムでいっぱいになってきたので整理しなければならない。


 俺は明日、ダンジョンへ潜れない。

 DSSで週に一日はダンジョンに潜らない日を作らなければ行けないと定められているのだ。


 俺としては会社で働いていたときよりも自由が効くし、働ける時に働いておきたいのだが、制度がある以上仕方がない。

 研ぎ石も手に入ったし、そろそろ買取りだけではなく売りの方にも手をつけようと思っていたタイミングだ。



 予め父さんにお願いして、木材と工具一式を借りたので、ナイフと剣、それぞれの型を切り出していく。

 それぞれミスリル鉱石を錬金の小槌で叩きながら押し込み、はみ出した分を削いでいく。

 そうして形になったナイフと剣を研ぎ石で研げば、量産型ミスリル製武器の完成だ。


 振ってみた感じは全く問題なく使える。

 むしろ軽さと頑丈さを備えており、鉄製の武器よりも遥かに扱いやすい。


 肝心な切れ味なのだが、試しに木材に皮の鎧の一部を貼って斬ってみると、両断までは行かなかったが半分以上食い込んだ。

 どこまで通用するかわからないが、初心者〜中級者向けなら充分に使えるはずだ。


 剣の方は少し握りにくかった為、皮の鎧と皮の服を切り貼りし、丈夫な糸と魔骨の針できつく縫い上げておく。

 これだけでもグリップがしやすく、手も傷めにくくなるだろう。


 全てのミスリルを使い切って、ナイフと剣を量産しておく。

 まずはこれで売れるか、明日の朝試してみよう。



 ・ミスリルナイフ×21

 ・ミスリルソード×10


 翌日、車に在庫を積んで八王子中央第2ダンジョンの入口に停める。

 今日は資金が無いため、買取りの看板はお預けだ。


『軽くて切れ味抜群! ダンジョンで使える初心者〜中級者向け装備 ミスリルナイフ@3MS ミスリルソード@10MS 試し切り出来ます』


 できるだけぱっと見でわかりやすく、かつ誰に向けた商品かわかりやすくしておく。

 おっと、大事な看板を忘れていた。


『フジヤマト商店』


 うん、自分の名前を店名にするのは恥ずかしかったが、今後わかりやすくブランド認知させるならシンプルな方が良いからな。

 探索者がダンジョンへ潜る午前から昼過ぎくらいの間は、これで店を構えようと思う。


「なあ、あれちょっと見てみる?」

「へー、武器売ってるんだね。手ぶらだと怖いから一応見てみようか」

「すいませーん、試し切りしてって良いですかー?」


 よし、明らかに初めてダンジョンへ挑戦するであろう少年二人が食いついた。


「じゃあこのお試し用のものを使ってもらって、そこに有る丸太を斬っていいよ」

「ありがとうございます。えいっ……うん、よくわからないけど、包丁よりは全然切れるかな?」

「じゃあ俺も。たぁっ! ……え、結構良いんじゃない?」


 なるほど、初心者だと他の武器と比較が出来ないのか。

 それなら丁度良いのが有るぞ。


「じゃあこれも試してみなよ。ダンジョンの低階層でドロップする、軽い剣ってやつ。最初に手に入る武器だと思うよ」

「へー、あ、軽い。……なんだこれ、全然切れないですね。軽すぎ?」

「ホントだ。これだとちょっと怖いかな……じゃあ俺、とりあえずこのナイフ買っとこ」

「あ、俺も。ナイフじゃ足りなくなったら剣で良いかな」


 早速ナイフ二本が売れる。

 やっぱり、俺もそうだったが初心者にとっては丸腰って辛いし3Mくらいなら全然安い買い物だな。


「店主、そのミスリルソードってやつ、試して良いか?」

「あ、はいどうぞ」


 珍しい、女性の探索者か。

 まだ若そうだが……多分10代じゃないかな。


 女性は無造作に、しかし無駄なく、力強くミスリルソードを振るう。

 すごいな……成人男性の胴くらいの丸太を、こんな軽く振っただけで両断してしまった。

 試し切り用の丸太の予備を持ってきておいて良かった。


「うん、やっぱりミスリルだから丈夫だし軽いし、切れ味も落ちにくそうだ。良いね、二本くれ」

「え? もちろん良いけど、二本も持ち歩くの大変じゃない?」

「大丈夫、私二刀流だから。両手で違う武器使うのって、なんかバランス悪いんだ」


 なるほど、二刀流の人にも需要が有るのか。

 確かに同じものを二本揃えようと思うと、安定供給されている武器は重宝するかもな。



 その女性を皮切りに、軽い人混みができるくらい店の前が盛り上がる。

 この人の影響力がすごいってことかな?

 とりあえず繁盛している今がチャンスだから、しっかり商売しないとな。


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