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下準備

 

『見切りの指輪。装備すると反射神経が良くなる。指輪は一人につき四つまでしか装備できない』

『速の草。食べると少し早くなる』



 二階層だと手に入れるのに苦労したアイテムが、軽く探索しただけでドロップした。

 やはり難易度と比例して良いアイテムが手に入るのだろう。


 魔石も魔性蝙蝠のものは少し大きく、午後だけの換金でも14MSになった。

 午前と合わせて26MS、鑑定で5MS掛かったので純利益で21MSだ。

 今後、MSの価値は変動していくだろうが、単純に係活動の2倍と考えれば充分だ。


 これがクランに入っていたら、おそらく半分以下だろう。

 リスクを取っている分と考えれば、決して儲けが良いなどとは言えないな。



 プレハブの家に帰って、家族に収入の報告をする。

 葵は「お金持ちじゃーん」などと囃し立てるが、そもそもまだ買えるものは少ない。


 今日の夕飯は葵が育てたじゃがいもを使ったガレットだ。

 わざわざ葵が母さんの職場に行って作ってもらったらしい。

 明日のお弁当に、と俺にも持たせてくれた。


 そろそろ、俺が考えているもう一つの構想の下準備に入っても良い頃かもしれない。

 明日は朝早くからダンジョンに潜って、夕方はその下準備に充てよう。




 —— 八王子西ダンジョン『3F 光岩の洞窟』



 今日は早い時間から三階へ潜る。

 昨日手に入れた見切りの指輪と速の草の効果もあるので、そう簡単には窮地に陥らないだろう。


 頑丈の腕輪は思ったより優秀なようで、魔性蝙蝠の大きな羽に当たっても、軽い切り傷で済んでいる。

 もしかすると、スケルトンに囲まれたときもこれがなければ体を引き裂かれていたかもしれない。



 途中、魔性蝙蝠がパンをドロップした。

 魔物が食べ物をドロップするのは聞いたことが無かったが、もしかしたらこれで昼に一度、地上に戻らなくても良くなるかもしれない。


 今日は母さんのガレットがあるので車に戻り、昼食にする。

 明日はこのパンを持っていき、お昼はダンジョンで済ませることができるな。


 午後もなるべく少ない時間で三階を周回する。

 一周りしたところでさっと引き上げ、今日はすぐにDSS機構派出所へ向かった。



『接着粘液。アイテムとアイテムをくっつける』

『風切の短剣。振るう時の空気抵抗の少なくする』

『木材。しなやかで加工がしやすい』



 接着粘液は道中のスライムを狩った時に手に入れたアイテムだ。

 今の所使いみちは無いが、こういうアイテムは大事にしていきたい。


 同時に木材も今後大事になるだろう。

 魔性蝙蝠から木の角材がドロップした時はちょっとびっくりした。


 魔石もそれなりで、19MSもの稼ぎを得ることが出来た。

 これで手持ちは52MS、資金としては物足りないが、試してみるには丁度良いかもしれない。



 幾つかの避難所が密集している地域のダンジョンまで車を飛ばす。

 自衛隊から車が走れる道は予め地図を貰っているため、スムーズに行くことが出来た。


 八王子中央第2ダンジョンと言って、この辺りだと一番大きく、人が多いダンジョンだ。

 思ったよりもかなり賑わっており、人の出入りが激しい。


 入り口付近に車を止め、昨日父さんから木の板を貰って作った看板を掲げる。


『ダンジョン産の不用品買います』

『薬草売ります。一束あたり1MS』


 これだけの人通りである。

 興味本位でも良いから、声をかけてくれる人が居るはずだ。

 この時間を狙ったのも、探索が終わって派出所へ向かう人達が多いという仮説に基づいてである。


「あの、すいません、何でも買ってくれますか?」


 お、早速来たな。

 成人はしていないくらいの青年だが、面構えを見るに探索者としては先輩だろうか。


「はい、なるべく買いたいと思うので、まずは見せてもらえますか?」

「えっと、これとこれなんですけど……」


 なるほど、未鑑定の物もあるのか。

 ダンジョンの入口で張っていれば、それはそうなるだろう。

 効果がわからない、未鑑定のものに関しては、種類によって一律の価格を決めたほうが良さそうだな。


「はいはい……そしたらこちらのミスリル鉱石は5MS、こちらの木材は1MSでよろしいですか?」

「え、ミスリル鉱石そんなに高いんですか?」


 あれ、これはやってしまったかな。

 確かに意外とドロップするし、持っていても使いみちは無いから、少々高く設定しすぎたかもしれない。

 しかし口に出したからには「やっぱり3Mで」なんて訳には行かないな……。


「え、ええ。5MSで買取りしますよ」

「あの、明日も居ますか? ミスリル鉱石結構溜まってて……」

「あー、はい、来る予定は無かっですけど、朝なら引き取りに来ますよ。ちなみに幾つありますか?」

「8つあります! 全部買い取っていただけると嬉しいです!」


 8つ、40MSか。今日と合わせて46MSの買い物となると、少しきついな。

 いやしかし、せっかくだから買っておこう。

 最悪手持ちが足りなくなれば、家族から借りれば良い。

 どうせ今の所、使いみちは少ないからな。


 明日の朝に待ち合わせをして、青年は帰っていく。

 一体そんなに何を買うつもりなのかわからないが、ほくほく顔だ。


 その後も、何人かに声を掛けられて、買取りをする。

 結局薬草は一つも売れなかったので、単純にMSが出ていっただけである。


 ・ミスリル鉱石×1 5MS

 ・薬草×2 1MS

 ・軽い剣×1 2MS

 ・のこぎり×1 3MS

 ・受け流しの盾×1 10MS


 合計で21MSの買取を行った上、明日40MSの予約があるので、61MS。

 10MS足りなくなるので、今日のうちに家族に借りておこう。

 いっそのこと、事業資金として100MSくらい借りてしまおうか。


 思わぬ収穫だったのは、武器系が多いことだ。

 それなりに潜っている探索者からすれば、自分のより程度が低い武器は余ってしまうのだろう。


 両手武器の『のこぎり』はともかく、『受け流しの盾』は俺にとってかなり有用だ。

 早速明日から使わせてもらうことにする。


 今はまだ、買取りをしたところで明確なメリットは無いのだが、俺の考えが正しければ、今後必ず有用になってくるはずだ。

 今のうちに、地道にMSを稼ぎながら積極的に買取りをしていこうと思う。



 プレハブの家に帰り、車から荷物を降ろしていく。

 決して広くは無い家だが、交渉の末なんとかダンジョンアイテムを置いておくスペースを確保した。


 車の後部座席と荷台でも今のところは充分足りているのだが、今後を考えると心許ない。

 倉庫の建設を父さんに相談したら、そのうちMSで建設できるようになるかもな、とのことだった。


 そして両親から50MSづつ借りることにする。

 MSの価値が無い今だから簡単に貸してくれるが、これから様々なものが買えるようになってくるとそうも行かないだろう。



 翌日、八王子中央第2ダンジョンでミスリル鉱石を買取り、そのままの足で八王子西ダンジョンへ向かう。

 今日は丸一日探索に当てるつもりだ。


 MSを稼ぎたいというのもあるし、四階層にも挑戦したいと思っている。

 見切りの盾を手に入れた分、少しは余裕が出て来るはずだ。


 ちなみに昨日、雰囲気のある探索者に話を聞いたら、もう10階層に近いとのことだ。

 民間がダンジョン探索を始めた時期は俺とそう変わらないはずなのに、本気の人達はやはりすごい。




 —— 八王子西ダンジョン『4F 光岩の洞窟』



 三階で昨日ドロップしたパンを昼食にしたあと、四階に降りて慎重に探索を進める。

 この階層で新たに出てくるのは、武器を持ったスケルトンだった。

 主に剣か盾のどちらかを装備しており、動きは相変わらず遅いが、殺傷力があるぶん厄介だ。


 盾持ちのスケルトンであれば蹴りなどで簡単にバランスを崩せるが、剣持ちだと不用意に攻撃出来ないため、盾で初撃をやり過ごした後に攻撃を叩き込む戦術を取る。

 慣れてしまえば作業だが、二階層の時にスケルトンに囲まれた時の事を思い出すと、慎重を期すに越したことは無いと思う。


 午後いっぱいを四階層の探索に充てられたので、フロアはおそらく全部制覇出来ただろう。

 ウェポンスケルトン(と呼ぶらしい)との戦闘に時間がかかるので、魔石効率は正直そこまで良くなかったが、有用そうなアイテムをドロップしてくれたことは非常にありがたい。



『皮の鎧。動きやすく丈夫で、急所を守ってくれる』

『懐中時計。時間がわかる』

『丈夫な糸。縫い物に必要だ』


 魔石は18MSに換金した。

 一日の稼ぎとしてはそんなに悪くないはずなのだが、買取りを考えるとどうしても不足感がある。

 しばらくは四階層の周回速度を上げて、魔石効率を上げていくのが良いかもしれない。



 またその翌日も八王子西ダンジョンの四階層を周回する。

 今日は丸一日探索に費やせるので、たっぷりと時間をかける。


 昨日、パンもドロップしていたので、夕方まで潜りっぱなしだ。

 ダンジョン内で使える懐中時計のおかげで、日が落ちる心配もいらない。

 丁度一周するころ、四階層の小部屋で宝箱を発見した。



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