表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/16

探索者デビュー

 

「うえー……。今日の配給、しいたけ入ってるって。マジ無理……」

「お前、21歳にもなってしいたけ食えないのか? 食べられるだけありがたいと思えよ」

「お兄ぃも海老嫌いじゃん!」

「出てきたら食べるっつーの」


 あおいは八王子地区の農耕員に配属されているが、今日は非番だ。

 元気そうに見えるが、友達の安否もわからず、知り合いの居ない地で暮らしていることにかなりのストレスを感じているはずなのだが、空元気を出して頑張っている。


 農業も軌道には乗ってきたらしいのだが、住民の食を賄うには至っておらず、多くを山などからの採取で賄っている。

 他にも畜産、調理、住居整備、道路整備など様々な係が割り振られており、父さんは住居整備、母さんは調理を担当している。


「ねえ、本当に探索者になるの?」

「ああ。若い男はみんなそうだろ。やってみたいこともあるし」


 ダンジョンの探索に関しては命の危険が伴うので、係による割り振りではなく希望制である。

 希望すればDSS機構の教員から最低限の心得や知識などを教え込まれ、資格を貰う。

 月次で魔石納品のノルマを達成していれば、係活動を免除される仕組みだ。


 今はダンジョンについてまだ詳しくわかっていないため、葵の様に用心深くなる人がほとんどだ。

 このタイミングで探索者になる人は、スポーツや格闘技をやっていたり、集団行動に苦手意識のある一部の人だろう。

 俺は後者ということもあるが、何事にも先行者メリットというものがあると信じているため、やるなら早くという事で探索に乗り切った。


「だってお兄ぃ、クラン入らないんでしょ? 本当に死んだらどうするの?」

「クランなんて搾取されるだけだろ。分前とかも含めて、一人あたりの稼ぎなんてそんな変わんねーよ」

「でも、一緒に入ってくれる人なんていないじゃん!」


 だいたいクランというのは、クラン内の階級制度に則ってパーティ構成され、リーダーが魔石や拾得物を管理するものだ。

 会社みたいに、末端のクラン員はその中から決まった報酬を渡されるんだが、ギリギリノルマを達成できる程度だろう。

 ならば一人で低階層をちびちび回ったほうがまだマシだと、俺は考えている。


 別に腕に自信があるわけじゃない。

 むしろ、下手に自信を持って深い階層へ潜り、自滅していく人が多いとDSS機構では言っていた。

 その辺りはわきまえているつもりである。



 父さんの車を使って、近くのダンジョンの入口まで向かう。

 避難所に近いダンジョンは既に幾つかのクランが利用しているらしく、そこに一人で乗り込むのは気がひけるので、車が無いと行きづらい、誰も使ってい無さそうな場所を選んだ。


 入口にはDSS機構職員がいるので、許可証を渡すと通してもらえる。

 車は近くに駐車しているのだが、職員もいるので盗まれる心配はしていない。

 それにしても盗難の話をあまり聞かないのは、腐っても日本だと言うことだろうか。


ふじ大和やまとさんですね。一人での探索は三階層までを推奨してます」


 適当に返事をして中に入っていく。

 不安が無いわけではないが、中の様子は講習で聞いているため、不必要に臆さない事も大事だ。


 ただ、丸腰というのがどうも寂しい。

 地上から持ち込んだ物は、全てダンジョンに入った瞬間に溶けてしまうらしく、そのため着ているのは支給の布服だけである。

 それと、ダンジョン産の麻で作られたリュックサックは、有資格者限定で非常に安く買えるため、自腹で買った。



 その代わり、ダンジョンには剣や杖、盾など、ファンタジーよろしくの様々な武器が落ちているらしい。

 まずはこれらを拾得することが、最初の目的になりそうだ。




 —— 八王子西ダンジョン『1F 光岩の洞窟』



 ダンジョン入口の穴を下っていくと、鍾乳洞のような構造になっている。

 ところどころ、岩の間から光る鉱石が覗いており、明るくは無いが視界には困らない、といった感じだ。

 講習で、壁から生えている鉱石はどうやっても取れないと聞いたので試してみるが、素手では当然うんともすんとも言わないようだ。


 しかし、生きているうちにこんな幻想的な光景が見れるとは思っていなかった。

 知らない景色を知れる、という点では、探索者は良い職業なんだろう。

 命がけ、という一点で言えば、自然観光も似たようなものだと思う。危険度が段違いだが。



 道はそれなりに入り組んでいるが、メモが必要なほどでもない。

 そもそもメモするための紙もインクも無いため、頭で覚えるか印を付けるしかない。

 深く潜れば潜るほど複雑になるらしく、深層を目指している人達にとっては、使えばすぐに入り口に戻れる『脱出の魔導書』というアイテムが必須のようだ。


 突然、洞窟の角からべちゃべちゃという粘着質な音が鳴る。

 自分の足音も含め、いろんな音が反響している為、近くに来るまで気づかなかった。


 角から出てくる講習で名前を教わったそいつは『スライム』、そしてこいつはその原種だ。

 人の頭サイズのコアを中心に、薄いプリンのような膜を張っている。

 地面をぴょんぴょんと飛び跳ねて移動しており、人を見つけると体当たりをすると聞いた。


 原種は個体に近く、コアを攻撃すれば、比較的簡単に倒せるのだとか。

 スライム種の中には、物理攻撃が効かないタイプや、酸性のタイプなども居るらしく、深層では厄介な敵に変貌するらしい。


 飛び跳ねない様に左手で地面へ押さえつけ、そのまま右手でコアを殴る。

 すぐにコアにヒビが入り、スライムは塵になって消えていった。


 魔物は倒すと漏れなく塵になって消えていき、魔石に加えて運が良ければドロップアイテムを残すらしい。

 このスライムは消えた後に一束の草を残していった。


 通常、初めて見るものは何の用途かわからないのだが、これに関しては講習で予め聞いている。

 低階層でもたまにドロップ確認されているこの草は治癒草と呼ばれており、一束呑み込むと軽い怪我が治るというのだ。


 こういったアイテムも地上に持ち帰り使える為、魔石と同様に高い価値が付く。

 まあしかし、それも流通が少ない今だからだろう。

 一階層でこんなに簡単にドロップするのであれば、今後はかなり多くの供給が見込まれる。



 そのまま同じ階層をぐるぐると周りながら、スライムを狩る。

 二階層への穴も見つけたのだが、まずは雰囲気に慣れたいし、全て周りきって落ちているアイテムも拾っておきたい。


 小一時間ほど周回して、魔石が七つと薬草が二つ、盾が一つを手に入れた。

 盾は本当にチープなもので、非常に薄く、何の金属かわからないものだが、これ一つでも有るのと無いのでは安心感が違う。

 欲を言えば棒でも良いから武器が欲しかったが、これでもギリギリ武器に使えるだろう。



 文明崩壊から現在までに、円という通貨が全く意味を持たなくなった。

 銀行もなければろくな商店も無いのだから、持っていても使えないという点において当然である。

 しかし、代わりに擬似的な通貨として機能しだしたのが、魔石通貨だ。


 唯一のエネルギー源という事で重宝されており、DSS機構が中心となって流通させている。

 係活動で一日10MSが配給され、一部の行政機関で使えるようになったのが最近だ。

 麻のリュックも、母に20MS借りて買ったものだ。


 魔石はグラムで価値を決められており、DSS機構の派出所などで換金できる。

 だいたい10グラムで1MSだったはずなので、多分俺が稼いだ魔石だと3MSくらいだろうか。

 一時間で3MSが多いのか少ないのかわからないが、命の危険も有ると考えれば手放しで喜べる価値では無さそうだ。


 さて、このまま二階層に降りてみる。

 薄いとはいえ金属の盾を手に入れたので、二階程度ならまだまだ大丈夫だろう。




 —— 八王子西ダンジョン『2F 光岩の洞窟』



 鍾乳洞のような構造は一階層と変わらないようだが、気持ち一階層より暗いだろうか。

 たまに出てくるスライムを狩りながら、左壁に沿って歩いていると、動く骸骨が現れた。


 DSS機構ではスケルトン、と名付けたらしく、武器を持ったものや魔法を使うものも居るらしい。

 しかしこの階層ではどうやら手ぶらのようで、ゆったりとした動きで襲いかかってくる。


 あの硬そうな指で引っかかれたら痛そうだな……くらいの感想しか抱けない。

 気持ち悪いと言ったらそうなんだが、わりと綺麗に白骨しているし、スライムを見た後なのでファンタジー感が否めないのだ。


 恥骨辺りを足で蹴ると、バランスを崩して大きく仰け反る。

 そこへ、盾で頭蓋骨を思いっきり叩くと、崩れ落ちて塵になった。

 これは、変に自信を付けるやつが現れても、正直おかしくないなと思う。


 魔石のサイズが、スライムよりちょっとだけ大きくなっていた。

 並べて比べるとわかるかな、程度の小さな差だが。


 それよりもドロップ品として、なにかの装飾品が手に入ったのが気になる。

 大きさ的には腕輪だろうが、はっきりとしたことはわからない。


 ダンジョンにはこの手のアイテムが存在しており、身に付けると不思議な力を発揮するというのだ。

 例えば力が強くなったり、足が早くなったり、中には魔法を使えるようになるものも有るらしい。

 今すぐ手に付けてみたいが、さすがにどんな事が起きるかわからないので自重しておく。

 DSS機構には調べる道具があるそうなので、今日の帰りに寄っていこう。


 こういったアイテムが落ちるのであれば、今日は二階層を周るだけでも良いかもしれない。

 少なくとも武器と衣服が揃うまでは、下手に下層に挑戦するのは辞めておこう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ