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二人での探索

 

「さあ行こうか」

「……それ俺の台詞では?」


 天峰さんを助手席に乗せて、根の張った廃墟の横をドライブする。

 意識してみると彼女はよく見るとシュッとしていて、今更ながら己との不釣り合いさにドギマギしてしまうな。


「天峰さんはなんで冒険者に?」

「金に決まってるだろう。それ以外にあるか?」

「まあ、そうだよな」


 勝手なイメージだが、天峰さんは世の中のためとかそういうのだと思っていた。

 だが金が目的の方がわかりやすくて好感が持てるな。



 八王子西ダンジョン前に車を停めて、周囲を案内する。


「こんな静かなダンジョンがあるのか。これは良いな」

「まあ、歩いて来るのは難しいからな。俺はここで狩り放題だよ」


 車は大丈夫なのか? と心配されるが、ここには人が来ないから大丈夫だと言っておく。

 実はそろそろ不安なので、何か対策を考えているところだ。




 —— 八王子西ダンジョン『1F 岩光の洞窟』



「ここは洞窟なんだな。幻想的で、少しうらやましい」

「あー、ダンジョンによって違うんだったか。第2はどう?」

「こっちは沼地だよ。いろんな種類のスライムが出てくるんだ。次が火山で、その次が孤島、その次が骸の山だ」


 第2は随分とハードな地形が多いんだな。

 それに比べるとこの洞窟は随分進みやすそうだ。


 サクサクと下への階段を見つけて降りていく。

 道が変わっているので迷わずに進めるわけではないが、一〜四階層はあまり広くないので、降りるだけなら簡単だ。



 まあスケルトンや魔性蝙蝠はスルーしていると怪我をする可能性があるので、一応狩りながらではある。

 今の俺ならまったく道の妨げになるレベルでは無いのだが。


「変わった武器を使っているな。さすが店を構えるだけの事はある。それに、まだ何か能力を隠しているな?」

「……まあ、隠しているわけじゃないけど、次の地形に入ったら見せるよ」


 洞窟の中は狭いので、可変式ヤマトブレードは片手剣モードにしてある。

 それにまだ魔封石は発動させていないのだが、天峰さんともなるとわかるのか。


 天峰さんは、それが見たいんだと言わんばかりに機嫌よくなっている。

 まあ俺もここまで来たら手の内を見せる覚悟はしている。

 魔封石の価値が上がってしまったらそれなりに困るが、逆に武器に期待して流通が増えるかもしれないしな。




 —— 八王子西ダンジョン『6F 亜人の住む樹林』



「ほう、気持ちが良い地形だな。このダンジョンはつくづく当たりだ」


 天峰さんが気持ちよさそうに伸びをする。

 ここだけ見れば、まさか戦いに来ているなどとは誰も思わないだろう。



 ここからは遠目に見える魔物をできるだけ避けながら歩く。

 目的地は十階層、だからこの辺りは出来るだけスルーするのだが、九階層だけは俺もどんな魔物が出るか知らないので、不意の対策をする為にも何度か戦ってから十階層に降りるつもりだ。



「ここを降りたら九階層だね。天峰さんも警戒しておいて」


 不自然に岩壁に空いた穴づてに、暗い階段を降りていく。




 —— 八王子西ダンジョン『9F 亜人の住む樹林』



「モンスターハウス……いや、フロアだな」


 目の前を埋め尽くす巨大なオーガ。

 それだけでなく、大人を余裕で超えるサイズのゴブリンや、武装し体の引き締まったオーク、そして通常よりさらに大きく邪悪な気を纏ったオーガが混じっている。


 全ての目が俺たちを狙っている。

 圧倒的な『死』の存在感、狩られる側の恐怖が身を捻る。


「逃げっ——

「間に合わんよ」


 正面に迫る無数の巨大な拳と脚が鼻を掠める錯覚がしたと思うと、細切れになって弾け跳ぶ。

 気付けば一歩前へ出たところに、二本の剣を腰から抜いた天峰さんが構えている。


「岩壁を背に身を守れ!」


 その気迫に言われるがまま、背を付ける。

 オーラ——と言うのが正しいのかわからないが、天峰さんの体からは得体のしれない"エネルギー"が溢れ出していた。


「16階以来か。腕が鳴る」


 その様子を見てまるで蛇に睨まれた蛙の様に動かなかった魔物たちの間を、天峰さんが縦横無尽に駆け回る。

 かろうじて捉えられるその剣先は、正確に魔物の急所を断っていく。


 彼女の動きを皮切りに、我に返った魔物たちが彼女を狙う。

 もちろん、俺の方にも。


 身を守れ、と言ったのは信用からか、それとも守る余裕が無いのかわからないが、俺だって守られてるだけの訳にはいかない。

 最初こそ数にビビってしまったが、一体一体はタイマンなら勝てる敵のはずだ。


 それに、俺には【大地+1】の土壁と【風+1】の風壁がある。


 可変式ヤマトブレードを大剣モードに切り替え地面に突き刺すと、全方位から迫ってくる魔物の右辺を突き飛ばしながら、土壁が遮断する。

 左辺からの攻撃は全力で展開した風壁と盾で受け流し、残るの魔物にぶつけ、ヤマトブレードでまとめて真っ二つにする。


 それでも勢いの止まらない、タフな奴らを灰光魔法の全方位攻撃で弾き飛ばしながら、次の波状攻撃に備える。


「ははっ、ヤマト、なんだそれは、やっぱり面白いなっ!」


 俺の魔法を見た天峰さんが淡々と迫る魔物の首を切り裂きながら茶化すが、説明は後だ。

 処理した魔物の裏から新しい魔物、息をつく間などない。


 ぶっつけ本番で【大地】を発動し、先端が尖った幾つもの杭を土壁の要領で地面から突き出す。

 複雑な形だと精度もスピードも落ちるが、何体かのオーガと大きなゴブリンは身動きが取れなくなる。


「いい仕事だ!」


 行動不能になった魔物たちの間をまばたきの間に通り抜けると、ワンテンポ遅れて魔物の頭がゴロゴロと落ちていく。

 天峰さんが居た方向は既に血の海になっており、残った魔物は彼女の動きに付いて行けず、二の足を踏んでいるようだ。


 土杭の連打と天峰さんの攻撃による連携で魔物がみるみる減っていく。

 見える範囲の魔物が数える程度になったところで、魔物たちは静かに樹林の中へ消えていった。




「ふう、終わったな。一度あいつらに見つかると、階段を登っても付いてくるから厄介なんだ」


 なるほど、逃げるのが間に合わないと言ったのはそういう事だったか。

 俺なんか頭が真っ白になってしまったのに、さすが天峰さんは肝が座っている。



「それより、さっきの魔法は何だ!? 指輪にしては威力が高かったし、種類も……三つは使っていただろう。それに見間違いじゃなければ剣で発動してなかったか? それにその剣、仕組みもそうだが何より切れ味が鋭すぎる。素の性能は私の剣より上じゃないか!」


 天峰さんは先程の戦闘を見て興奮している。

 探索者になったのを金のためとは言っていたが、戦いが好きなだけではないかと勘ぐってしまうな。


「封魔石を使った武器だよ。試作段階だから商品化はまだなんだ」

「飛んだ隠し球だ。が、それだけじゃないな? それだと威力に説明がつかない」


 ああ、たぶん強化合成の事だろうか。

 これもまだ誰にも言ってなかったんだっけな。


 同じ装備を合成する事で強化ができる、という『強化合成の箱』を打ち明ける。

 天峰さんは予想通り「私もやってくれ!」と目をキラキラと輝かせる。


 今回の探索が無事終了したら、お礼に剣を二本とも+1にする事を約束した。



 モンスターフロアの魔石とドロップを集める。

 よくよく見てみると100体以上は倒したのだろうか。

 俺はその三分の一も倒しておらず、殆どが天峰さんの功績だ。


「前に言っただろう。魔石もドロップもいらないよ。モンスターフロアには宝箱が複数あるから開けてくるといい」


 という天峰さんの男らしさに押し負けて、全ての魔石とドロップを回収する。

 普通よりも狭いらしいこのフロアをサクッと見て周ると、宝箱が三つ、まとまって置いてあった。



 ・進歩の小槌

 ・謎の棍

 ・謎の糸玉


 進歩の小槌か! 自分でのドロップは二回目だが、これは嬉しい。

 錬金王の金槌に使えば、次は何に変化するのだろうか。


 棍はなかなか扱いに困るな……好んで棍を使う人など居るのだろうか。

 見たところ上等には見えるので、よほど良い効果が付いている事を期待しよう。


 糸玉は、『丈夫な糸』と特別変わったところは無く、色が黒く、量がバスケットボール並に大きいのが違いだ。

 まあ色のバリエーションは作れるが、宝箱から出たのだから、それだけってことは無いだろう。



 ドロップアイテムは風の魔封石、退魔の刀、オリハル原石など、出にくいアイテムも多数落ちていた。

 未鑑定品も幾つかあったが、天峰さんによると『亜人のブーツ』と『探知の指輪』だそうだ。


 探知の指輪は非常に有効だから付けておいてそんな無い、とのことなので付けてみると、遠くで身を潜めているオーガの気配に気付くことができた。

 なんとなく気配が分かる、といえば良いのかわからないが、便利なことは間違い無さそうだ。




 —— 八王子西ダンジョン『10F 亜人の住む樹林』



 目的地である十階層に降りると、岩壁に囲まれた狭い樹林の中心に、扉が付いた大きな岩山がある。

 ボス部屋だろうからひとまずここで休憩して、せっかくだから天峰さんの強さの秘密も聞いておこう。


「単純に場数さ。戦闘の勘も冴えるし、たくさん倒せば草もドロップするからな」


 なんと天峰さんは力の草を三つ、速の草を五つ、技の草を六つ、頑丈の草を二つも食べているらしい。

 俺なんか力の草を一つ、速の草を一つしか食べていないので、足元にも及ばない。


 どうやら深ければ深いほどドロップして、十階層を超えた所から目に見えて増えるらしい。

 それでもダンジョン解禁からずっと潜り続けてきた彼女は、やはり他の人より多いのだそうだ。



「あとはこれだな。闘気の指輪というのだが、運良く私は二つドロップしたから両方付けてる」


 天峰さんが戦闘中に見せたオーラ、その正体が闘気だという。

 身体能力が一段向上し、攻撃や防御にも補正がかかるとのことだ。


 彼女の場合は二つ付けているので二倍だ。

 強化合成すれば一つで済むのだが。



 強さの秘密、というほど複雑なものではないが、教えてもらったところでフロアボスに挑戦する。

 十階層程度ならなんとでもなると天峰さんは言っているが、俺はそこまで肝も据わって居なければ実力も無いので、しっかり引き締めていこうと思う。


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