余地
—— 八王子西ダンジョン『7F 亜人が住む樹林』
・E ヤマトソード+2【大地】
・E ミスリル盾+2【風】
・E 皮の鎧+2
・E 魔獣のコート
・E 皮の靴+1
・E 頑丈の腕輪+1
・E 力の腕輪
・E 見切りの指輪
・E 灰光の指輪
・薬草×18
・懐中時計×1
・パン×1
この装備なら、もはや七階層の敵は相手にならないな。
ゴブリンの攻撃は【風】の効果でほとんど俺に届かないし、オークはそもそも近づく前に【大地】の魔法で行動不能になるので、あとは仕留める作業である。
ばっと周った所、目ぼしい宝箱などは何も無かったので、八階層へ行ってしまおう。
—— 八王子西ダンジョン『8F 亜人が住む樹林』
階段を降りると目の前に影が差していると思って見上げてみると、オークを上回る巨体がすごい形相で俺を覗き込んでいる。
反射的に横っ飛びすると俺が立っていた場所にでかい拳が突き刺さっていた。
なんか、六階層以降、難易度の上がり方が半端じゃないのだが。
オークの鈍重な動きと違い、武術を嗜んだ人間のような動きをする、頭に角が生えたこいつは、おそらくオーガだ。
少し離れて見るとその大きさがよく分かる。
オークでも2メートル弱だったのだが、こいつはそれより一周り大きい。
オーガが飛び蹴りを仕掛けてくる。
微妙にかするが、風の効果でギリギリ受け流す。
着地と同時に腕を振り、隙きを見せないようにしながら、次の瞬間にはタックルを仕掛けてくる。
息を付く間もない攻撃、まるで五階層のボスを思い出す。
飛び退いて地面に剣を突き立て、俺が居た位置に土壁を立てる。
もろに腹部に喰らったオーガは少し宙に浮いたので、そこを見計らいヤマトソードを振る。
剣戟はしっかりと真横に抜け、オーガの太い胴を真っ二つにして塵にする。
改めてヤマトソード+2の強力さが頼もしい。
今後、こう大きな敵が出てくるのであれば、剣のサイズが気になってくる。
今だと相手の間合いの内側に入らなければいけないので、なかなか技術も勇気も追いつかない。
これは改善の余地が出てきたな。
しばらくはこのフロアで力を付けると決めて、時間いっぱい周回する。
万が一でもオーガの群れに出会わないように細心の注意を払いながら、岩壁を背に周る形だ。
懐中時計を確認しながら、日没に気をつけて帰り際を見極める。
結局オーガもオークも群れには出会わなかったが、この地形はゴブリン以外群れないようになっているのだろうか。
やはり難易度が上がるとドロップアイテムも豪華になるな。
半日、八階層にいただけで初見のアイテムを三つもドロップした。
戻ってすぐに派出所へ行き鑑定に出したのだが、なかなか有用なアイテムが手に入った。
『木の封魔石』
『退魔の刀』
『技の草』
早く試してみたいのだが、屋外でのアイテム利用はDSSで禁止されているため、倉庫に着くまで我慢しよう。
日が落ちて人通りが少ないところなら好きなだけ試せるからな。
最近の換金は多い時で40〜50MSになる。
ここまで来れば一般的な稼ぎから頭ひとつ飛び抜けるな。
やはりリスクを背負った方が報酬が良いのは、文明崩壊後も変わらないらしい。
久しぶりに八王子中央第1ダンジョンへ買取りに出る。
今日は以前から派出所の掲示板に来ると書いていたので、待っていた人も居るだろう。
車の中はなるべく空っぽにしてきたので、一杯になるまで買い取ってしまおう。
「また来たか、どうだ調子は」
「ええまあ、ぼちぼちですね」
以前ふっかけてきたいかにも歴戦といったおじさんが茶化しに来る。
全く、なんで丁度よくここに居るのか、それとも俺を待っていたのだろうか。
「なんだ煮え切らないな。第2での噂は聞いてるぞ。こっちでは売らないのか?」
「いえ、明日の朝来ますよ。たまたまタイミングが合わなかっただけです」
「そうか、楽しみだ。お前がある武器のせいで、魔石産出量が第2ダンジョンに抜かれっぱなしだからな」
なに、そんな事になっていたのか。
確かに初心者でもある程度の武器を持てるようになり、新規参入のハードルも下がったから、活性化したのか。
狙っていたこととはいえ、そんな大きな影響になっているとは思わなかった。
「まあ最下層記録はこっちが勝ってるから、俺は気にしてないんだが、上の連中がな。それよりお前の武器に興味があるんだ」
「明日来るから待っててください」
「それもそうだが、闘界連盟の天峰に専用武器を作ったろう。それを俺にも頼みたい」
う、これは面倒な事になったな。
天峰さんは知名度があるからビジネスになると思って受けたのだが、こんなおっさんに絡まれるとは……。
「なんだその顔は。俺も一応、西日本No,1クランのトップなんだがな。ハルバードの寺地って聞いた事ないか?」
「え!? それは単純に知りませんでした。てっきり絡み癖のあるおじさんかと……」
「仮に思ってても言葉を選べ! まったく……とにかく、俺が頼みたいのは盾だ。必要なものがあれば用意する」
まさか、こんな嫌味なおっさんが……いやいや、これはこれでビジネスチャンスだ。
しかし盾か、あまり得意とするジャンルじゃないが、挑戦しようと思ってたのも事実だな
「特別用意してもらうものは無いので、不用品をじゃんじゃん売ってください。今の手持ちで最高の盾を作ってみるので、それで満足いったら買ってもらえれば良いです」
「そうか、それなら余ってるアイテム全部売るとしよう」
そういうと腰に下げた袋から、明らかに袋の体積を上回る量のアイテムを次々と取り出していく。
驚いて聞いてみたところ、『魔法袋』と名付けられており、異次元に物を収納することのできる超レアアイテムらしい。
鑑定の中で小、中、大と別れているらしいのだが、寺地さんのはその中で最も価値の高い大なのだそうだ。
西日本トップの規格外さを思い知る。
寺地さんが売ってくれた量は相当な物で、車の三分の二を締めてしまった。
珍しいアイテムも多く、かと言って安く買い取って恩を売られるのも嫌なので正しい値を付けていったのだが、あれだけあったMSの半分が散財してしまった。
寺地さんから買い取った初見のアイテムだとこの辺りだ。
・貫通ナイフ 80MS
・炎魔法の杖 25MS
・魔狼の毛皮のコート 60MS
・オリハル鉱石 24MS
・念動力の指輪 40MS
・雷の封魔石 14MS
・闇の封魔石 14MS
どレアなアイテムばかりである。
これは流石トップと言うより他ないな。
寺地さんからすれば、確かに便利だが制限のあるアイテムが多いらしく、武器防具なんかは上位互換を既に作っているので良いのだとの事だ。
ただ、盾だけは良いものが出ないらしく、汎用的な物を使い続けているらしい。
他にもミスリルや鋼鉄、砥ぎ石など、よくみるアイテムや、力の腕輪、頑丈な腕輪、速の腕輪などのかぶったアイテムを大量に売ってくれた。
正直、腕輪や指輪関係は使い道がまだないのだが、自分が使+値強化には役に立つだろう。
寺地さんには一応希望のタイプを聞いておき、明日の朝試作品を持ってくると言っておいた。
今日は試行錯誤になるだろうが、トップに頼られたのだから最善を尽くそう。
もちろん、打算もあるが。
プレハブに戻って今日は早めの夕食にする。
食べながら葵に聞いたのだが、明日ついに市場がオープンするらしい。
俺は今のところ興味がないので行くつもりは無いが、どんな感じだったかは葵に教えてもらおう。
ただ、これでMSがやっと消費できるようになるので、価値変動はあるだろうな。
市場の相場チェックも葵にお願いするか……少しバイト料を出してやろう。
あと、両親に借りていた250MSを返しておく。
このタイミングだと1500MSも持っていても、これ以上買取り量が増えることは無いだろうからな。
倉庫に戻ってまずは寺地さんにお願いされた盾の製作に取り掛かる。
受け流しの盾があるのでベースにしようと思ったがやめる。
封魔石も、使えばもっと上等な物が出来るかもしれないが、両方とも今の在庫状況では同じ物を量産できないし、まだ封魔石を使った武器は隠しておきたいのが本音だ。
寺地さんの希望はカイトシールド、上半身を隠せるサイズの物で、それなりに重量が欲しいと言っていた。
まあ重さは後から調整するとして、外殻はミスリルで作るんだろうな。
盾の内側の素材だが、なるべくしなやかな方が良い。
衝撃と体の間に入る緩衝剤になるので、あまり硬いと衝撃を殺し切れないのだ。
となると木材なのだが、皮素材を何重かにして体に引っ付けながら使えるようにしてみようか。
それとせっかく形を自由にできるのだから、外側にトゲを着けてカウンターシールドにするのも良いな。
それから下部にも長めのクギを付けて、地面に刺さるようにしたらどうだろう。
それだと地面が土じゃない時に不便か……いっそのこと着脱式にするか?
着脱ができるなら、いろんなシーンに対応できるよう、カスタマイズを前提にするのも良いかもしれない。
例えば盾自体を二層式にして……——
持ち手をバンドにすれば……——
覗き穴とかはあったほうが良いかも……——