革新的な使い道
20~30匹程度のゴブリンの集落に宝箱……これは以前二階層であったモンスターハウス的なやつだろうな。
危険ではあるが見返りがでかい、というやつだ。
不意打ちであの数が居たらしんどいが、こちらから仕掛けられるならアリか……?
最悪、脱出経路を確保しておきながら、無理だと判断すれば走って逃げれば済む話だ。
ゴブリン達の身体能力は子供と大差無いからな。
一番集落に近い木の上までこっそり上り、様子を伺う。
何を考えているかはわからないが、周囲を警戒している事は間違い無さそうだ。
念の為持ってきていた爆弾石が今日のドロップ含め二つあるので、慎重に踏ん張れる足場を探し、全力で集落の住居に投げつける。
力の腕輪を着けているため、野球選手にでもなったんじゃないかと錯覚するほどの剛速球が、隕石のように住居を貫いた。
途端、周囲の住居を巻き込んだ大爆発が起きる。
これはもはやちょっとした爆発じゃなく、ダイナマイトレベルだな……。
焦ったゴブリンたちが木の上の俺を見つける。
あれだけ本気で踏ん張ったから、まあ音で気付くか。
足元にゴブリンが集まってくる前に、もう一つの爆弾石を投げ込む。
爆発したことだけを確認して、木を飛び降りる。
頑丈の腕輪+1の効果で、それなりの高さでも無傷だ。
それよりも、足元で待ち構えられる方がまずい。
寄ってたかるゴブリンたちへのけん制に、全方位灰光魔法を放つ。
やられた身なら分かるのだが、これが意外と痛いのだ。
ひるんだゴブリンの一匹一匹をヤマトソードで斬り伏せていく。
ゴブリンが相手だと自分が実力のある剣士だと勘違いしてしまいそうになるが、ゴブリンが弱いだけである。
一瞬の混乱に乗じて周囲のゴブリンを一掃し終わったので、集落の様子を覗いてみる。
どうやら結構な数を爆弾石で倒していたようで、中は虫の息のゴブリンが数体だった。
ここまで来ると罪悪感が無くもないのだが、連日の非日常によって麻痺した感覚に頼り、生き残りを仕留めていく。
塵になって死体が残らないのも、罪悪感が無い理由の一つだろうな。
ゴブリンが居なくなった事を確認した俺は、一応警戒しながら魔石とドロップアイテムを回収していく。
レアなアイテムは無かったのだが、皮系防具が充実したので良しとする。
お待ちかねの宝箱だが、あの爆風にさらされても全くの無傷であるのを見ると、物理的な破壊は出来ないのであろうか。
いや、何のために破壊するとかもないし、中身を取り出すと消えてしまうのだが、なんとなく気になっただけだ。
ドキドキしながら中を開けてみると、ぽつんと封魔石のようなものが置いてある。
ようなもの、といったのは、封魔石は大体なにかしら綺麗な色が着いており、宝石のように見えるのだが、これは無色透明で、味気ないガラスのような見た目だ。
これも多分、ちゃんと鑑定しなければわからないんだろうな。
まったく能力を想像できないので、喜んでよいのかわからない。
その後、何体かのオークを狩ってから地上に戻り、すぐに派出所で鑑定に出す。
『からっぽの封魔石。使うとアイテムから能力を抜き出し、封印する』
なるほど、だから透明だったのか。
しかしそもそも封魔石の使い勝手を考えると、あまり良いアイテムには思えない。
封魔石を使おうとすると、片手が塞がってしまうので、それならば武器を持ったほうが汎用性が高い。
相当強力な魔法が込められていれば話は別だが、魔法を使える指輪もあるしな……。
手に持つ、ということがこれほど障害になるなら、何か良い方法はないのだろうか。
ちょっと気になってきたので、後で色々と試してみよう。
今日は急遽、買取りは休みと昨日のうちに派出所の掲示板に書いておいた。
在庫が車とプレハブを圧迫してしまったので仕方がない。
そろそろ倉庫が出来上がってるくらいの頃なのだが……お、あれだな。
作業開始から半日しか経ってないというのに、流石に仕事が早い。
しかも、思っていたより普通に小屋だ。
徐々にではあるが、いろんな製品が流通し始めているので、ある程度のものならできるようになってきているらしい。
中に入ってみると、すでにプレハブに置いてあった素材が移してある。
これなら今までの軽く10倍は在庫を確保できるぞ。
嬉しいのは簡易ベットと大きな作業台が置いてあることだ。
質素だが、こういう所こそ男というのは憧れるもので、秘密基地が出来たような気分だ。
大工さん達に礼を言い、謝礼を渡して帰ってもらうと、車から荷物を降ろし、中へ入れていく。
まだ明るいが魔石電球を稼働させて、手元を明るくして作業に入ろう。
まずは試してみたかった封魔石の応用だ。
手に持って発動できるのであれば、ものを通して持つとどうなのだろうか。
まずは麻の袋越しに風の封魔石を持ってみる……うん、発動したぞ。
それなら封魔石を入れた麻の袋を手からぶら下げると……ああ、これはダメだ。
だとしたらミスリル越しに持ったら……お、これは発動したぞ!
鋼鉄ごしだと……なるほど、これはダメなのか。
他にも色々試してみたが、だんだん法則がわかってきたな。
手元に近ければ発動するが、数センチ離れただけで発動しない。
だが、ミスリルだけは媒体になって発動するってところか。
となると、剣に埋め込んで手元までミスリルの管を細く伸ばし、グリップから少しだけ出すと……発動した!
これはすごい発見だ、発動はあくまで封魔石が中心になるので、柄の部分に入れておけば、風を纏う剣の出来上がりだ。
いわゆる魔法剣、いや魔法武器ってやつじゃないだろうか。
今まで使い道の無かった魔封石の価値がいきなり高くなったな。
それと、先程手に入れたからっぽの魔封石も、かなり重要な位置づけになりそうだ。
強力な武器やアイテム——例えば爆弾石などの能力を吸い取ってつけると、大変なものができるかもしれない。
まあ爆弾石の場合武器ごと破壊される恐れがあるので安易に使えないが。
「まだやってるの? 配給来てるわよー」
「あ、ごめん、集中してた」
母さんが配給を倉庫に持ってきてくる。
今まで配給券は母さんに預けっぱなしだったからな……いや、これからもお願いしておこう。
俺が管理するようになると集中して忘れてしまうのが目に見えているからな。
最近の配給は、段々と緑野菜の割合が増えてきているように見える。
農耕係のがんばりの成果だろう、葵に礼でも言っておくか。
ちなみに探索者が増え、魔石の発掘量が増えてきている中、少しづつだが、試作品の魔石車などの機械が出てきているらしく、インフラが整うことで農耕でも建築でもその恩恵を受けているらしい。
住居整備係は特に好調で、もうすぐ民間人全員のプレハブ住居が完成するという話も聞いた。
夕食を終えて、自分用の封魔石を使った武器を試作してみる。
ヤマトソードに大地の封魔石、新しくミスリルの盾を作成し、風の封魔石を付けてみた。
適当な廃墟の裏で二つを試してみたのだが、思った以上の強化になった。
大地の封魔石を着けたヤマトソードを地面にさすと、頭に浮かべた通りの形に地面を操る事ができる。
とはいっても一度に多くの土を操るったり、あまり複雑な動きをさせると重くなったりするのだが、人間大の土壁を作り出すことくらいは一瞬でできる。
これにより壁を作ったり、魔物の下に出して攻撃したり、逆に土を盛り下げて足場を悪くしたり、など応用が効きそうだ。
風の魔封石は、盾が体に近いのもあり、全身にその恩恵を受けられる。
体が軽くなり、移動時の空気抵抗がなくなるぶん素早く動けるし、逆に風の膜ができることで物理攻撃を受ける威力が減少しそうだ。
もちろん、盾自体にも風が纏わっているので、受け流しの盾のような効果も期待できる。
欲を言えば風の斬撃! とかやってみたかったのだが、そこまで威力のある風は操れないようだ。
一応、盾はバックラー型になっており、灰光魔法を使う時は盾を持った左手を振るうことで発動している。
灰光魔法は盾に纏わせる事ができるので、もしかしたら攻撃にも使えるかもしれない。
これで遠距離は灰光魔法、中距離は大地魔法、近距離は剣戟と使い分けられるようになり、隙が無くなったように感じる。
ただ悪く言えば器用貧乏、天峰さんのように圧倒的な剣の腕の前などでは歯が立たない気もする。
まあ一人で探索しているのだからオールマイティが一番だろうが、ああいう実力者達と肩を並べているとは思わないでおこう。
今回一通り悩んだのだが、まだ封魔石武器は隠し持ておこうと思っている。
これがバレると一気に封魔石の価値が上がってしまい、買い取れなくなってしまうからだ。
少しコスいが、しばらく封魔石の在庫を溜めた段階で、上級者向け装備として売りに出すのが良いかもしれない。
天峰さんなんかにしられたら、すごい食い付くだろうからな……気をつけよう。
翌日、朝一で八王子中央第2ダンジョンで、待望の天峰ソードを売りに出す。
これはバズる! と思い、昨日作れる最大量まで作っておいたのだ。
予想通り、天峰と名がついただけで飛ぶように商品が売れていき、一時間もせず完売する。
注意書きに『上級者向け』と書いておいたのだが、明らかな初心者が買っていったのは少し不安だが、消費者には逆らえないからな。
結局その日の稼ぎは1260MSと最高記録を叩き出し、今度は現金の扱いに課題を感じながら八王子西ダンジョンへ向かった。