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ふと、意識が浮上した。
痛みも寒さも感じていない自分を不思議に思って、私はゆっくりと身を起こす。どうやら奇跡的に誰かが見つけれくれたらしい。
私は書院造の部屋に布団で寝かされていた。
どうやら畳は新しいらしい。まだ青く、い草の匂いが私の鼻をくすぐった。
辺りを見回してみても、人は居ない。
身体にも問題は無いようだったので、私は立ち上がって目の前にある襖を開けてみた。
目の前には素晴らしい日本庭園が広がっており、思わず呟いた。
「いや、本当にここ何処。」
しばらく呆然としてしまったが、そうして時間を浪費しても解決はしないと思い直す
取り敢えず、この屋敷のどこかに人はいるはずだ。お礼を言って、その後に現状確認をするためにも探しに行くべきか、いやでも無許可で人の家歩き回るのはな…
「ってか、試験!!!」
太陽の位置から見て、もう正午は回っていることに気付く。
「嘘、でしょ…。」
そのまま私はへたり込む。
本当は、命が助かっただけで御の字、と考えるべき場面だったんだろうけど。でもそこは人間の強欲さというかなんというか、とにかくそんな感じで1つ解決できたらもっと、って考えてしまうのが性でして。頬を涙が伝うのを感じながら、わたしは頭が真っ白になって動き出すことが出来なかった。
「そろそろ、いいかね?」
後ろから声がして、思わず私は肩を跳ね上がらせて勢いよく振り返った。
「…?!」
そう、ついさっきまで誰もいなくて困惑していたのに、いつの間にか背後に人が立っていた。
背筋は伸びており、口調の割にパッと見私とそんなに歳は離れていないように見受けられる。体型から判断して、おそらく男性だろう。身につけている着流しが男性ものであることからもそれが裏付けられた。
しかし何より目を引くのは、鬼の面を付けていて表情が伺えないことだろうか。仮にそのまま道を歩いていたら歩道待った無しである。
驚きで涙は止まり、私は口を開閉させる。彼は私と目線を合わせるために少し腰を曲げ、私の目元を指で拭った。
「可哀想に…。
こういうことになるから、覚醒型の子を予告無しで回収するのはやめろと何度も抗議しているのじゃが…。
どうして泣いているんだい、話してごらん解決は、出来ないのかもしれないが。」
気遣わしげな声と触れ方に、私の涙腺は更に刺激された
「うっ……く、
に、二次試験が、今日で、でも、もう午後でずよね、っし、試験始まってる…
決めてたのに、今度こそは、って、、
A判定、だったのに、先生方にも、期待、してるよって、っい、言ってもらって、
私立の、大学行く友達が、遊園地行、くのグループトークで、話してて、それでも、わ、私勉強して、たのに、っうぇ、」
最後は自分でも何言ってるのかわからなくなりつつ、胸の内を吐露する。知らない人間にこんなこと急に話される身にもなれ、と冷静に心のどこかで思いつつ、それでも止められなかった。
「そうか…
それはまた随分と酷な……,。
申し訳ない、私にはどうすることもやはり出来ぬ。」
彼は私にティッシュを箱ごと渡し、落ち着くのを待ってくれた。
「ず、ずびばぜん、お見苦しい所を…。」
「いいや、悪いのはこちら側じゃ、謝らないで欲しい」
さっきから、所々引っかかる。まるで私のいきなりの瞬間移動の原因を知っているかのような口ぶりだ。
「…どういう、意味ですか。」
困惑しつつも、私の声に敵意が篭ったことには相手も気付いただろう。
だって仕方ない、いくら親切にされたとあっても、私のこの急な移転にもし彼が関わりを持っているなら、私は許せないと思う。
「わかった、これから説明をしよう。
でも君は、まず食事をしなければ。動転していて気付いてないかもしれないが、きっと今空腹なはずじゃ。」
グーーーーーー…
そこで、私のお腹はまるで同調するかのように大きくなった。
「……お願いします。」