表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変則のリリア  作者: 源 蛍
リリアの望み
2/27

一話『眼前で起こる変則』

 ──くだらねぇ。


 斤関川高等学校第一学年Bクラス。塔坂(とうさか)莉音(りおん)。血液型AB……って、んなこたどうだって構いやしない。

 五月上旬に行われるのが決まりらしい身体測定を適当に終えた俺は、自身の赤茶髪を掻き上げて廊下に出た。

 何が身体測定だくだらねぇ。毎年毎年そんな変化起こるかよ? 太るか痩せるかくらいだろこの年頃なら。


 廊下をだらだら歩いて校内昇降口付近に設置されている自動販売機に近寄って行き、ラインナップを物色する。何だって構わねぇからな。

 百三十円のココアを購入し、近くのベンチに腰をかけてそれを一気に飲み干す。

 普通ココアは味わうものだと思うだろうが、んなもん知ったことじゃねぇ。


 俺は普通なんて飽き飽きして来たとこなんだよ。


「甘ぇ。何でこんなに甘いんだこりゃ、バカか? 砂糖の入れ過ぎじゃねぇのか」


 ココアの空き缶は意外とよく飛ぶので、少し遊んでみることにした。ゴミで遊ぶのは変だろうが。

 右脛で高く蹴り上げ、天井スレスレに飛ばす。落下して来たタイミングを持ち前の動体視力と反射神経でピントを合わせ──ふわりと斜め左前方にシュート。

 軽やかに飛んだ空き缶は廊下にうるさい音を響かせてゴールインした。ケッ。


 昔から身体能力はバカみてぇに高くて、高校でも陸上部に入部したが一週間も出ていない。つまんねぇからな。


 俺はこんな口調で、周囲の人間からはヤンキーだの何だの言われてるが気にしねぇ。目つきも悪いし喧嘩もするからそう言われて当然だしな。

 おまけに素行不良、態度も悪いのは説明要らずだろう。

 今更思い出したが、身体測定無理矢理でもサボってりゃよかったな。今日一人休んでるから構いやしねぇだろ。


「なぁ、莉音お前何で外靴履いてんだ? まだ今日は始まったばかりだろ。女子生徒の下着でも漁んねぇ?」


「漁るかバカ。戸田、テメェしつけぇよ。俺に話しかけんなって何度も言ってるよな?」


「バカはお前だろうがよ。俺しつけぇよ? 気に入った奴にゃ幾らでも付きまとってやる」


「面倒くせぇ奴だな」


 戸田博史は俺のクラスメイト。多分ヤンキーだろうなって容姿をしている。

 金髪がコキアみてぇに逆立ってて、平気で教師にも楯つく様な厄介な奴だ。女にもしつこくしつこく手ェ出してるしよ。

 んで、俺を同類だと思い込んで話しかけて来たのが入学式の翌日だった。何度追い返そうとも軽く返されて野さぼらせる。


 コイツは図太い神経してんだろうな。面倒くせぇから放っておけよ。

 適当に理由つけてさっさと学校出るか。んな面倒なとこに居たかねぇからな。


「腹痛ぇから帰るだけだバカ」


「糞でもすんならトイレ行きゃいいのにな。お前の方がバカじゃねぇか」


「全然違ぇわ。とにかく帰るからもうテメェも戻れ。蹴り飛ばすぞ」


「ほいほいっと。仕方ねぇな、金玉痛くなるのも可哀想だしまたな」


「テメェマジで殴るぞ」


 戸田を切れつつ追い返し、一息吐いたとこで外に出ようとしたらまた別の声が聞こえた。

 今度は俺を呼んだ訳じゃないようだが、聞き覚えのあるものだったから声のした廊下の奥を覗く。

 藍掛かったショートボブが目につくクソ女。陽野風鶫が教師と話していた。

 耳を澄ましてその会話を聞いてみる。


「鶫は本当に良い子だなぁ、クラスの皆を纏めたりして。身体つきも大人っぽくなってきて……なぁ俺とどうだ?」


 反吐が出ること言ってんじゃねぇゴミ教師。キモいんだよテメェは。セクハラばかりしてんな。

 それにそいつのことはかなり前から知ってっけど、成績かなり悪いからな? 度のつく程の馬鹿だからな。クラス別に纏めちゃいねぇよ。


 そしてテメェもヘラヘラしてんな。


「へ? 先生、それセクハラですよ。ですが、褒めてくださって有難うございます。試験合格にしてくれたら、イイコトしちゃうかも……ですよ?」


「うおマジで? するする。十点でも五点でも鶫は合格でいいぞ!」


「わあ嬉しい! 有難うございます!」


「いやいや全然構わないって!」


 下心丸出しだなあのゴミ教師。そしてあのクソ女は真のクズだな。

 勉強が出来ないから誘惑して合格にさせてもらおうって魂胆か。レコーダー隠し持ってるのを見た感じ、アイツ手慣れてやがんな。


 教師と別れた陽野風はこそこそしていた俺に視線を向け、駆け寄って来た。

 かー、面倒くせぇのがまた来た。

 コイツいつの間に身体測定終えてんだよ。俺が一番最初に順番変更させたのによ。どうなってんだ。


 クスクスと腹を押さえて笑う陽野風に苛立ちを覚えつつも、何だよと返す。


「だって、さ。あの先生バカじゃない? イイコトとは言ったけど厭らしいことする訳じゃないし。掃除してあげるだけだし」


「そうかよクソ悪魔。そもそもテメェが掃除したら余計散らかるだけだろうが」


「あ、バレた? よく覚えてたね〜」


「昔荒らされたからな」


 コイツは腹黒さ校内一と言われてるくらいだからな。何されるか分かったもんじゃねぇ、と皆従ってるだけだ。

 まあ、コイツも色々あって捻くれちまったんだが。

 昔はよく話してたが、今は全然だ。確か親と喧嘩して家出したって聞いたが、何がどうなってそうなったんだか。


 コイツなら色々有り得るしな。人怒らせるプロと言っても過言じゃねぇだろ。


 溜め息を吐いてそのまま扉に向かって行くと、左腕を強く掴まれて振り返った。

 陽野風はほくそ笑みながら制服の胸元を広く開け、俺の顔を覗き込んで来た。何なんだよテメェはよ。


「莉音君も、イイコトする?」


「遠慮しとくわ。部屋中ゴミ塗れにされたくねぇしな」


「エッチなことでもいいよ〜? はははっ!」


「くだらねぇんだよバカ」


 俺がそう冷めた目を向けて言うと、陽野風は明らかに不機嫌そうな無表情に変わった。刺すような視線だけで苛立ちを表現してくる辺り、人が従うのも分かる気がする。

 すんげぇ変わっちまったなコイツ。だからこそ嫌いなんだがよ。

 扉を素早く閉め、門に続く階段を降りて行く。


 この高校は案外高いとこに建てられたのだが、周囲はそこそこ都会だ。都会の中心に小さな山があってその上に建てられてる。

 降りんのが面倒ったらありゃしねぇな。



 恐らく、クズである陽野風はサボるクズな俺のことを告げ口している頃だろう。ぶりっ子モードでな。

 で、必ず下心満載な男性教師に悪口を言われただのと助けを求める。アイツはそういうクズ人間だ。

 何年も居るんだ。流石に覚えた。


 さて、やる事も特にねぇ。ゲーセンでも行って暇潰しでもしとくか。



 ──ゲーセン来たはいいが、特に何もやることがねぇ。バイトとかもしてないし、金も遊べる程残っちゃいない。

 マジで退屈なだけだな。探してみるかバイト。


「いや、無駄か。どうせこの赤い髪見て即落とすだろうよ。事情も知らねぇ大人どもは全部同じだ」


 騒音つーか雑音っつーか、ゲーセンでこんなこと呟いたとこで誰も気がつかないだろ。

 おっと、適当に財布漁ってたら百円玉出てきたぞ。まだ残ってたか。丁度いいから正面のUFOキャッチャーでもやってっか。

 一回切りで終わるがな。


「チッ、この操作方法分かりにくいんだよ。しかもアームだって強くなさそうだ。んなデケェライオンでしかも縫いぐるみ、取れっかよ」


 無駄無駄と諦めつつも真剣に右へ操作、そして奥へアームを進ませる。

 下手したらリュックくらいのサイズがあるだろう縫いぐるみをアームが軽く挟み、持ち上げて行く。この時点でもう落ちそうだし、無理だな。


 ──なんてUFOキャッチャーから離れようと足を引いた直後、アームに違和感を感じた。

 機械の癖に意思がある様に、縫いぐるみをしっかり支えた。そんな風に思えた。


 その後もフラフラと揺れることなく取り出し口の方向へ縫いぐるみを運び、無事ゲット。百円玉は無駄にならねぇですんだ。


「何かおかしいなこれ。……ん? 今真後ろ通ったのって、うち学校の制服着てたよな?」


 アームがしっかりと縫いぐるみを掴んだ直後、ガラス部分にこっそり映り込んだただの通過者。そいつの服装は俺と同じ斤関川高等学校の物だった。

 右肩に小さく取り付けられている花が緑色だったし、俺と同じ一年の奴だろう。

 変だな、今頃身体測定の途中の筈だ。何でここに居んだ?

 俺が言えたもんじゃねぇけどよ。


 何となく誰か気になってそいつが進んだプリクラの方へ向かうと、ゾッとする光景を目の当たりにした。

 そいつは、何故か窓ガラスに向かって邪悪な笑みを浮かべていやがった。流石に恐ろし過ぎる。


「あいつ、今日休んだ奴じゃねぇか。確か『月海(つきみ)リリア』。弓道部で百発百中って噂の化け物……流石に言い過ぎか」


 頬に手を当てて未だ笑みを浮かべる悪魔みたいな女は、日本人には珍しい黄色の髪をしている。まあ俺は人間として珍しい赤だけどよ。

 身体能力が常人離れしていて、視力に至っては四か何かって噂もある。

 それによって百発百中なんだとか。


 しかも頭までいいってくると、何か関わり難いと思えてくる。悪いがよ。

 そもそも、あいつは目つきが悪い。目がいいのに目つきが悪いのは、ただ睨んでるとしか取れないだろ。

『孤高の天才美少女』だとか何とか言われてるが、ただただ友達いねぇぼっちなだけだろうが。後半は否定しねぇけど。


 あ、ヤベェなぼっちだとかは。悪い月海、俺もぼっちだから許してくれよ。

 つぅか、何してんだお前。全くその行動理解出来ねぇんだがよ。


「はぁ、退屈。本当に暇。何か、変なことでも起こらないかしら」


 ……急に何を言い出すのかと思えば、さっき俺も似た様なこと考えてたな。

 退屈だし、こんな何も無ぇ日常より、非日常的なことが毎日一度でもいいから起こってほしい。

 月海、何かお前とは分かり合える気がするぜ。


「核ミサイルでも落ちて来ないかな。町が崩壊するくらいの大地震でも噴火でも、最悪津波だっていい」


 さっきまでの共感が一瞬で塵と化した。

 あの女は何言ってやがんだ? 下手したら大量に人間死ぬだろそれ。限度を考えろ限度を。

 つぅか、案外よくあるもんばかりだな。

 俺だったら、空一面にオーロラが広がるとか、触れたら消える幻想的な雪が降り注ぐとか、何かよ。そんなもんがいい。


 人が死ぬとか論外だ。ふざけんな。


 あんな女となら気が合いそうとか、反吐が出る。反吐が出る前にゲーセンから出るか。

 ゲーセンから少し左に離れた狭い路地、そこは何故か不良共の溜まり場になってる。実際は格好だけの連中だけどよ。

 さて、面倒なことになりそうだぞ。不良共のリーダーっぽい奴が接近して来る。


「おいお前何見てんだよコラ。変な髪色に染めてカッコつけたいのか? しかも何だその目つき。喧嘩売ってんのかよ?」


 こういう連中は何で顔を近づけて来んだろうな。俺が優しい奴じゃなきゃ今頃地面に這い蹲ってるとこだぞ。

 それに、コキアみたいな髪は流行ってんのか? 正直何がいいんだかは理解出来ないな。


「うるせぇな鶏野郎。そんな狭い道塞いでたら人が通れねぇだろうがよバカか? それにこの髪は生まれつきだ。格好なんてどうだっていい。中身がカスなテメェらとは違えんだよ」


「んだとテメェ! ぶっ殺すぞ!」


「何様だコラァ!」


「……あー、クソ面倒だな。つっても、ここで喧嘩なんてしたら陽野風の奴にどんな噂流されるか分かったもんじゃねぇしな」


「何ブツブツ言ってんだキメェな!」


 不良共ってあれか? 人が何かしてるとキメェしか言えなくなるのか? 今まで何人も見てきたぞ。そういう奴。

 そうか、なるほどな。こんな奴らみたいなのは知能が乏しいんだな。可哀想に。


 どうせ日常に飽き飽きしてたとこだ。いっそここで普段出来ねぇことでもやってストレスの発散でもするか。


「っし、鶏野郎共かかって来いよ。だがその前に、一応俺の()()()見せといてやる」


「あ!? 何言ってんだテメェ! 頭沸いてんじゃねぇのか!?」


「らあっ!!」


 不良が胸ぐらを掴んできたのも無視して思い切り腕を振り上げる。振り上げただけだ。


 不良の一人が宙を舞い、後方の積荷に突っ込む。これが俺の腕力だ。

 絶句してるみてぇだがよ、これ以上は絡みたくねぇだろ? 大人しく引きやがれ。

 ……て、俺なんて言った? 『積荷に突っ込む』だ?


「おいおいマジかよ!」


 不良が突っ込んだのは、段ボールと木材が大量に積まれた何かだ。

 何であんなとこに積まれてんのかは知らねぇけど、人になんて当たったら大事だ。


 積荷にが崩れ落ちた方へ駆けて行ってる途中、バレたら警察に注意とか受けるし罰金とか有りそうだなとか溜め息吐きたくなったが、それどころじゃねぇ。

 眼の前で一人の、女が何事も無かったかの様に突っ立っていやがる。


 段ボールは車道に散りばめられ、木材はその女を()()()()落ちてる。

 普通ならありえねぇことなのはこの場に居る誰もが理解してる筈だ。


「……危ないわね、これ。周りの人に当たるとこだったわ」


 月海リリア──コイツ一体何なんだ!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ