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第9話

 なお、日本政府にしても、単なる好意とか、ドイツの商船を戦争のならいとはいえ、拿捕して使用したことへの贖罪の想いとかから、北ドイツ・ロイド社にシャルンホルスト号を返還しようとした訳ではありません。

 それなりの理由がありました。


 ドイツとの戦争が事実上終わったとはいえ、まだまだソ連や共産中国との戦争は、たけなわと言っても間違いではありませんでした。

 そのために日本では多くの若者が軍人となっており、人手不足が深刻になりつつあったのです。


 実際、21世紀の現在では当たり前のように思われるでしょうが。

 それまで基本的には家庭内にいた結婚した女性の多くが社会に出て働く事態が人手不足から、この当時の日本では起こるようになっていました。

 こうした状況を少しでも改善するために、シャルンホルスト号をドイツ人に運航してもらおう、と日本政府は考えて、北ドイツ・ロイド社にシャルンホルスト号の返還を持ち掛けたのです。


 そして、北ドイツ・ロイド社も背に腹は代えられない、としか言いようのない状況でした。

 戦災により、大被害を被ったことから、北ドイツ・ロイド社の経営自体が完全に傾いていました。

 倒産を避けるためには、シャルンホルスト号を返還してもらい、それを運航することが、北ドイツ・ロイド社にしてみれば、必要不可欠と言って良い状況だったのです。

 とは言え、シャルンホルスト号が返還してもらえる代償として、北ドイツ・ロイド社が日本政府のために行わねばならない仕事というのは。

 トップ船長にしてみれば、本音では気が重くてならない仕事でした。


 民主ドイツ政府が、ソ連では出来たとはいえ、実際には、ドイツ本土は連合国軍の占領下にあるといっても過言ではありません。

 そして、北ドイツ・ロイド社の本社はドイツ本土にあり、その多くの従業員やその家族は、生殺与奪を暗黙の裡に連合国に握られていると言っても過言ではありません。

 だから、そう言ったことから考えるならば、連合国内での有力国である日本政府の要請を、北ドイツ・ロイド社が断ることはできない話でした。

 それに、日本政府は、それなりの好条件を北ドイツ・ロイド社に示しもしているのです。

 だから、北ドイツ・ロイド社は、トップ船長は受け入れるべき仕事なのは、理性では分かるのですが。


 1940年秋、トップ船長は、北ドイツ・ロイド社が懸命にかき集めた船員達を引き連れて、フランスのブレスト港に向かうことになりました。

 ドイツの多くの船員が、ドイツ海軍に徴用される等した結果、第二次世界大戦において戦死したり、重傷を負って船員として働けなくなったり、していたからです。

 北ドイツ・ロイド社が、第二次世界大戦勃発直前に雇っていた船員の過半数が、全員が戦死した訳ではないとはいえ、北ドイツ・ロイド社で船員として働けなくなっていました。

 そのために、トップ船長がシャルンホルスト号を操れるだけの技量がある、と見込める船員もそんなにいないという状況になっていたのです。


 トップ船長たちがたどり着いたブレスト港には、シャルンホルスト号が停泊していました。

 北ドイツ・ロイド社の船になったことから、取りあえずという形でしたが、神鷹丸からシャルンホルスト号へと名前が戻されてはいましたが。

 その外観だけでも、トップ船長は落涙し、かつてのシャルンホルスト号を知る船員達も同様でした。

 かつてはキレイに塗装されていたのに、独ソ両国の海空からの攻撃を避けるために、迷彩塗装を施されたことから、シャルンホルスト号のかつての美しい面影を探すのは、とても難しい有様でした。

 更に、トップ船長らはシャルンホルスト号に乗船し、更に衝撃を受けることになるのです。

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