第6話
トップ船長が、そんな想いに駆られている時、シャルンホルスト号(神鷹丸)は、どうしていたでしょうか。
何とも皮肉なことに、日本に拿捕されたことから、シャルンホルスト号(神鷹丸)は、日本の国旗を掲げ、日本と欧州等への間の人員、物資の輸送に使われるという状況に陥っていました。
祖国ドイツとある意味、シャルンホルスト号(神鷹丸)は敵対する事態になっていたのです。
そして、当然のことながら、日本の船舶と同様に、ドイツやソ連の潜水艦を中心とする海空軍の攻撃にシャルンホルスト号(神鷹丸)は、さらされることになりました。
第二次世界大戦中にドイツやソ連の潜水艦に発見されて、シャルンホルスト号(神鷹丸)が攻撃されたことは、再三に渡ってありました。
一度どころか二度、独ソの航空機の爆撃を、シャルンホルスト号(神鷹丸)が受けたこともあります。
ですが、何とも皮肉なことに、シャルンホルスト号(神鷹丸)は、それらの攻撃で傷つくことはありませんでした。
航空機による爆撃や潜水艦による攻撃を、シャルンホルスト号(神鷹丸)に当時、乗り込んでいた日本人の船員たちは、回避することにほぼ成功しました。
もっとも全ての攻撃を回避できたわけではなく、1度(当時の船員の一部の人に言わせれば、2度)潜水艦の放った魚雷の直撃を、シャルンホルスト号(神鷹丸)は受けたそうです。
ですが、幸いなことに魚雷がシャルンホルスト号(神鷹丸)の船底を潜り抜けたのか、それとも、偶々、不発だったのか。
魚雷が爆発することは無く、シャルンホルスト号(神鷹丸)は無傷で切り抜けたそうです。
このことを後で知ったトップ船長や、他のシャルンホルスト号(神鷹丸)のドイツ人関係者は、心の中で想ったそうです。
きっと、何としても姉を生き延びさせねば、とグナイゼナウ号やポツダム号が、シャルンホルスト号(神鷹丸)を陰で守護したのではないだろうか、と。
一方、当時、実際に乗り込んでいた日本人の船員達は、別の想いをしました。
神鷹丸の名前の通り、この船には神がついていたのではないだろうか。
真実は不明ですが、それくらいシャルンホルスト号(神鷹丸)は、この当時、幸運に恵まれていた、といってもよいでしょう。
ですが、戦時中に人員や物資を運ぶ以上、攻撃を受けた場合に備えて、この当時のシャルンホルスト号(神鷹丸)は様々な対策を施さざるを得ませんでした。
例えば、攻撃を受けた際に火災が発生しないようにと、防火対策として、可燃物は徹底的と言ってもよいくらいにシャルンホルスト号(神鷹丸)から降ろされてしまい、また、豪勢で多くの利用客を満足させていた入浴設備等も、防火水槽等に転用されて扱われる有様となっていたのです。
また、敵からの攻撃を少しでも避けるために、シャルンホルスト号(神鷹丸)は、様々な迷彩を施されてもいる有様でした。
そのために、この当時のシャルンホルスト号(神鷹丸)には、かつての欧州と極東の間を結んでいた豪華貨客船の面影が、ほぼ消えていたと言っても過言ではない有様でした。
それこそ、気品に溢れて、豪華な衣装をまとっていた令嬢が、身を隠そうとボロをまとっているような有様だった、と陰口を叩かれても仕方のない姿を、シャルンホルスト号(神鷹丸)は晒していたのです。
でも、それはシャルンホルスト号(神鷹丸)だけではありませんでした。
本来なら、シャルンホルスト号(神鷹丸)のライバルとなる筈だった新田丸達も同様の姿になって、日本と欧州等を結ぶ輸送に従事していたのです。
特に新田丸の三番船、春日丸とシャルンホルスト号(神鷹丸)は、共に行動することが多く、義理の姉妹に見えた人もいる程でした。
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