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第11話

 そんな複雑な想いをしながら、トップ船長はシャルンホルスト号と共に、佐世保港からブレーメンの港へと1942年初めに旅立つことになりました。

 そして、シャルンホルスト号は、共に佐世保を旅立った出雲丸や春日丸と同航し、ブレーメンの港を目指すことになったのです。

 言うまでもないかもしれませんが、シャルンホルスト号らは、日本陸軍の将兵や物資を大量に積んでおり、ソ連海軍や民主ドイツ海軍にしてみれば、極めて重要な攻撃目標でもありました。

 そのために。


「護衛艦隊の旗艦、軽巡洋艦「神通」からの指示です。1分後に面舵90度」

「了解した、と発光信号を送れ」

「分かりました」

 トップ船長は、そんなやり取りをした後。

 ソ連海軍や民主ドイツ海軍の攻撃から、自分達の所属する船団を護衛する任務に当たっている日本海軍の護衛艦隊の練度に内心で舌を巻きつつ、ドイツの商船が日本海軍に護衛されている現実に皮肉な想いを抱かざるを得ませんでした。


 何しろ、実はこの時、ドイツ本土は連合国による分割占領下にまだあったのです。

 民主ドイツ政府は、いわゆる亡命政府であり、ドイツ本土を統治下にはおいていませんでした。


 勿論、新しいドイツ政府を作ろう、と連合国は動いてはいましたが、まだ新生ドイツ政府は実動してはいないというのが現実でした。

 だから、ドイツ国旗を掲げることについては、シャルンホルスト号は認められていたとはいえ、厳密に言えば、祖国ドイツの政府が、シャルンホルスト号には無い、といってもよいのが、この時の現実でした。

 だから、トップ船長は皮肉な想いを抱かざるを得なかったのです。


 そうして航海をしているうちに、祖国ドイツ、ブレーメンの港が近づきました。

 シャルンホルスト号の船員の間では、このことについて、大論争が引き起こされました。


 実は第二次世界大戦勃発に伴う連合国軍の機雷敷設により、ブレーメンの港は事実上、一時は死んでいたと言っても過言ではない状況だったのです。

 連合国軍の対ドイツ戦が事実上は終わり、更に連合国軍の対ソ戦の準備のためには、ある程度のドイツ本土の復興が必要不可欠であったことから、ブレーメンの港の機雷除去作業が、連合国軍の協力で行われることになりました。

 それによって、ブレーメンの港は息を吹き返してはいたのですが。


 シャルンホルスト号がブレーメンに入港する際に、汽笛を大きく鳴らすか否か、船員は論争しました。

 多くの船員が、盛大に鳴らして、シャルンホルスト号の健在をブレーメンの人々に示すべきだ、と主張したのですが。

 何しろ、今、シャルンホルスト号が運んでいるのは、日本陸軍の将兵とその物資です。

 少数の一部の船員は、シャルンホルスト号が、やむを得ないとはいえ、敵国の将兵とその物資を運んでいるのを触れ回るようなことになるので、汽笛を大きく鳴らすべきではない、と言ったからです。

 少数派の主張でしたが、確かに一理ある、といえる主張でした。


 トップ船長は少なからず悩みましたが、結局は多数派の意見に賛同しました。

 シャルンホルスト号が健在であることを知らせるべき、それが、きっとドイツの人々に力を与え、復興に役立つことになる、とトップ船長は考え、そう決断したのです。


 1942年2月、シャルンホルスト号はブレーメンの港に入港し、その際に汽笛を鳴らしました。

 この汽笛の音、薄々は聞いていたが、シャルンホルスト号は健在だったのか。

 この汽笛の音を聞いたブレーメンの港の近くの人達は、そう思って港に向かい、シャルンホルスト号の今の姿を見て、多くの人が泣きました。


 シャルンホルスト号が生き延びたことを喜ぶ人、現実を悲しむ人、色々な想いで人々は泣いたのです。

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