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コードレス~対決除霊怪奇譚~  作者: DrawingWriting
タブー
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タブー - 第19話




 その後……おっと、もうこんな時間なんですね。僕もそろそろ帰らないと。ええ、ですから後は、簡単にお伝えしてしまいましょう。


 僕たちは皆、神社から脱出しました。……と言っても、あの戦いのせいで、本殿も、建ち並んでいた鳥居も、綺麗に敷き詰められていた石畳も、何もかも崩壊してしまったのですけれど。その後の神社は……最初に話した気もしますが、いつの間にか駐車場へと変わっていました。あの戦いの、あの事件の事は、土地としても、記録としても残っていないわけです。


 だけど、だからと言って、あの日が無くなったわけじゃありません。


 梓馬さんは会社を辞めて、『境講』に協力する裏の公的機関に就職しました。彼とは未だに度々会うんですよ。その度に、ご飯を奢ってもらったりしてね。僕たちの結婚式にも来てくれた。……きっと梓馬さんも、一人であの事件を抱え込むのが苦しいんだと思います。何せ……目の前で二人も人が死んだんですから。


 大学生さんたちのことは、正直言ってよく分かっていません。茶髪のあの人は、どこかの『境講』に入ったと梓馬さんから聞きましたが……除霊師という仕事は生死と隣り合わせですからね。おまけに、その活動は秘匿されます。梓馬さんも噂程度に聞いたレベルだそうで……無事で居てくださればいいんですけれど。『境講』に入ったのは、間違いなくあの事件がきっかけでしょうから。


 天然パーマの大学生さんは、茶髪のあの人以上に分かっていません。あの事件の後、すぐに大学をやめてしまったとは聞いたのですが、その先は梓馬さんも何も聞いていないそうで。いずれにせよ、あの人も間違いなく、事件で深い心の傷を負ったことは間違いありません。それをもたらしたのが、幼い日の茉莉だったという事実もまた、決して変わることはありません。僕たちは永遠にそれを気に掛けながら生きていくのでしょう。ウエンさんが言った通りです。『だって、生き残った人は、死んだ人に一生縛られるんだから』――実はね、マスター。僕はお酒に酔えないんですよ。こうして酒を飲んでも、あの日のことは克明に思い出せる。これもまた、一つの十字架なのでしょう。だけど、一番重い十字架を背負っているのは、言うまでも無く茉莉です。何せ、事件の直接の原因が自分なのですから。


 彼女は事件の後、僕にずっとついて回るようになりました。青い顔で、いつも泣きそうで。だけど、あの事件のことを口に出すことは一度も無かった。僕や梓馬さんのように、誰かと事件を分かち合うことすら、彼女にとっては苦痛なのでしょう。或いは、赦されない行いだ、と思っているのかも知れません。だけど、一緒に大人になっていくにつれ――いつしか彼女も、少しずつ笑うようになって。結婚式の日は、心から笑っていたように思います。ええ、僕と茉莉は結婚しました。実はこうしてマスターの店に来ているのも、彼女が二人目を産んで、今は実家に帰っているからなんです。僕はと言うと、どこにでもいる平凡なサラリーマンで、今日も仕事を終えて、彼女の様子を見に行って、子供をあやして――そして、こうして酔えないのにバーに来ている。ああ、怒らないでくださいね。決してマスターのお酒がまずいわけじゃありませんから。後遺症というか、罰というか。


 ……茉莉も、お酒には酔えないみたいですね。それに、人が死ぬような映画とか、小説とか――そういうものには決して触れようとしません。外出するときは、必ず僕の傍にぴたりとついて回ります。新婚旅行も「いけない」と言って――はい? 息苦しくないか、ですか?


 ……そうですね、そう思う時もあります。でも、背負うと約束しましたから。あの日、ウエンさんと――だからこそ、彼は僕らを助けてくれたのだと思います。まぁ、本人は戦いの後、「見捨てたらしょーちゃん――雷瑚さんの事ですね――に怒られると思ったから」なんて笑ってましたけど。


 ああ、そうそう。ウエンさんも消息不明なんです。約束通り、ホテル一泊は堪能されたそうですが、その後は行方が掴めず、だそうで。だけど、あの人は必ず、どこかで生きていると思いますよ。ただの勘ですけどね。殺されても死ぬような人じゃない。きっと今も、どこかの神社の本殿に上がり込んでぐうぐう眠っているんじゃないでしょうか。何せ、天狗が最後に落とした錫杖も、「珍しいものを貰った」なんて言って、嬉しそうに持っていったくらいですから。


 ……ああ、今日は本当にたくさん喋ってしまいましたね。すいません、マスター。こんなホラ話にずっと突き合わせてしまって。え? ふふふ、最初から言っているじゃないですか。全てホラ話ですよ。信じる必要はありません。全て酔っ払いの出まかせだと思ってくれればいい。


 だから、出まかせついでに、最後に一つ。

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