タブー - 第13話
その顔で、僕は全てを察しました。削れたような跡。そして、その日の彼女の所持品――図画工作で利用した彫刻刀セットの存在。
問いただそうと口を開いた瞬間、彼女は大声で泣きました。僕と茉莉の無言の遣り取りに一切気付いていなかった男性三名が、びくりとしてこちらを振り向いたくらいです。しかし、泣きじゃくる彼女の様子に、皆も理由を察したのでしょう。何とか落ち着かせようとする僕の動きを、彼らは止めようとはしませんでした。
何とか聞き出した事の顛末は、こうです。
彼女は僕と同じく、頻繁に神社に来ていた。そして、学年の都合上、僕よりも早く神社に着くことが多く――それ故に、待ち時間を使って神社の掃除をすることもあった。神主さんが行っていた掃除の仕方を参考に、です。
日々の掃除の中で、彼女はふと、裏手の柱と、そのすぐ傍の木板に、黒い汚れがあることに気づいた。彼女はその日、それを何とかしようと思い立ち――その日の図画工作で触れた、彫刻刀で薄く削った木の板の、その心地よく小綺麗な表面を思い出した。
それを悪戯心と言っていいのか、僕には何とも判別がつきません。ただ、結果として、彼女は本殿の一部の木板を削った。そして、恐らくはそれが、この事態の原因である――事ここに至って、彼女はようやく、自らの行いの意味するところを知ったのです。
「ごめんなさい」
僕は必死で、泣きじゃくる彼女の傍で、大学生さん達と、梓馬さんと――そして、ウエンさんに謝りました。その時の僕にとって、彼女は妹のような存在だった。妹が――意図はどうあれ――余りにも取り返しのつかないことをしてしまった。だから僕は、泣きそうになりながら、とにかく泣き続ける彼女の代わりに謝りました。何度も何度も謝りました。天然パーマの大学生さんが溜息をつき、茶髪の大学生さんは両手を額に当てながら本殿に座り、梓馬さんは困ったようにウエンさんと僕らを交互に見ていました。二人も人が死んでいて、その原因が子供の些細な過ちのせいだった――拳を振り上げようにも、罵声を張り上げようにも、といったところだったと思います。
ただ、ウエンさんは違いました。
「みんなテンション低いなぁ。事情が分かったってことは、神社の外に出る道が拓けたってことじゃないか。……あれ、もしかして皆、分かってない?」
「……何が」
「えー、キミ大学生でしょー? 分かんないのぉ? マジにぃ? 幼卒の僕でも分かるのにぃ?」
茶髪の大学生さんの低い声と対照的に、ウエンさんは只管、これまでと同じ調子のままでした。煽っているようにも見えましたね。と言っても、その時の茶髪の大学生さんは、もう怒る気力も無い、と言った様子でしたが……次の言葉を聞いて、彼の眼の色は変わりました。
「犯人が分かったなら、相手に突き出せばいいんだよ。つまり、この場合、その子を石畳の外に出す」
全員、暫く無言でした。茶髪の大学生さんだけが静かに立ち上がり、背後のウエンさんを見つめ――いえ。
睨みました。
「……なに言ってんだてめえ」
「え? いや、だからさ。腹立つ相手が目の前に居るとするじゃない? イライラしてるとするじゃない? で、相手が『ごめん、殴っていいよ』って謝ってくるとする。殴る。スカッとする。イライラ収まる。神社の空間の歪みも消える。外に出れる。ハッピー! そういう話」
茶髪の大学生さんは、おもむろに、胡坐をかいているウエンさんの胸元を引っ掴みました。そして――口がうまく回らないのか――少しどもりながら、言ったのです。
「い、石畳の外に出たやつが、ど、どうなったか……!」
「聞いたよ? 天狗に殺されるんでしょ? でもしょうがなくない?
過ちを犯したのは、その子なんだから」





