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コードレス~対決除霊怪奇譚~  作者: DrawingWriting
タブー
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タブー - 第12話

「おいオッサン! まさか、それ壊したんじゃないだろうな!?」


「ま、まさか、な、なにもしてませんよ、私は」


 場は騒然となりました。当然です。何せ、調査した結果、仮に祟られている原因が分かったとして――そこから、この事態をどう解決に持っていくか、誰も分からないのですから。


 神主さんのように舞を踊ることは不可能です。あんな複雑な舞を一目で覚えられるわけがない。では、ご神体に向かって平身低頭謝り続ける? いえいえ、わざわざ『謝る手段』として舞が伝わっていたのです。単純に手を擦り合わせて謝意を述べる程度でどうこうなるなら、そもそも複雑な舞など編み出されてはいないでしょう。


 梓馬さんと茶髪の大学生さんはPHSに何度も呼びかけました。反応はゼロです。僕も茉莉も場の焦燥が伝わっていて、思わず互いの手を握り合っていました。その時です。


 盛大なイビキが聞こえました。


 梓馬さんと茶髪の大学生さんの動きが、ぴたりと止まりました。その時気付いたのですが、天然パーマの大学生さんはというと呆れたような疲れ切ったような表情で本殿を見つめていたのです。その視線の先には……涅槃仏のような格好で横たわっているウエンさんが居ました。


 彼は。


「寝てる」


 それはそれは安らかな寝顔でしたよ。本殿の――正確には、ご神体の前の空間・外陣で、脇の下にクッション替わりとでも言うように、先ほどまで自分が身に着けていた半纏を丸めて置いて、寝息を立てていたんです。僕らは思い出しました。天然パーマの大学生さんが呟いていた言葉を。




『っていうか、何で繋がってんだ、この電話。さっきは圏外だったろ』




「もしかして」


 梓馬さんが汗を拭きながら言いました。


「今まで電話が繋がっていたのは全部あの方の力があったからで、それが眠ってしまったものだから電話も切れてしま――」


「起きろてめええええ!!!」


 茶髪の大学生さんが、怒髪天を衝く、という言葉を体現するかのように、怒声を上げて外陣へと乗り込みました。それでもウエンさんはむにゃむにゃと何やら寝言らしきものを呟きながら眠り続け、大学生さんは彼の首元を引っ掴んで何度も何度も体を揺すっていました。子供ながら、「ついさっきまで寝てたのに、何でまたあそこまで深く眠りなおせるんだろう」と思ったくらいです。


 ついでに言うと、梓馬さんの考察は正鵠を射ていました。よくよく思い返してみると、確かに、彼らはPHSでの会話を『電話』ではなく『念話』と言っていた。雷瑚さん曰く異界と化した神社から、外部の彼女へと通話が繋がったというのも、彼ら除霊師達が持つ、一種の霊力や魔力と言った力が、その通信を支えていた、と、そういう訳だったようです。どうにかこうにか目を覚ましたウエンさんにその辺りを尋ねると、彼は笑いながら言っていましたよ。


「あはは、ごめんごめん。その通り、僕が寝たら切れちゃうんだよね、これ。でも、念話し続けるのって結構疲れるんだよ?」


「疲れるんだよじゃねえんだ! 命が掛かってんだぞこっちは! 早くさっきの姉さんに繋げ、でないと出方が分からんまんまで――」


「分からないまま? いやいや、さっきのしょーちゃんの話で、もう方向性は確定でしょ」


 茶髪の大学生さんに対し、ウエンさんは呑気な――しかし、僕らにとっては予想外の言葉を放ちました。さっきは「どうすればいいのかなんて全然分からない」と言っていたのに――除霊師同士、何か通じ合うものがあるのでしょうか――彼にはもう、打開策がはっきりと分かっている様子でした。


 彼は外陣で胡坐をかき、僕らの顔を順繰りに見つめました。


「しょーちゃんの話だと、誰かが本殿に何かしたんじゃないか、って流れだったよね? どうだったの?」


 仕方なく、僕たちは互いに報告を行いました。裏手の屋根の下に小さな鳥の巣が出来ている。側面から本殿の下を覗き混むと、落ち葉やゴミが溜まっているように見えた。外陣に入る手前、本殿の階段に毛糸のゴミが落ちていた。本殿の側面に大きめのシミが出来ているように見える。それと反対側の側面、柱の部分に、カビのような黒い汚れが付着している。そのすぐ傍の木版に削れたような跡がある――。


「それじゃない?」


 報告を遮って、ウエンさんがポツリと呟きました。皆の目が一斉にウエンさんへ向かい――それを受けて、彼はのんびりとした口調で話し始めました。


「この神社に祀られてる奴――天狗だっけ? その天狗さんは、しょーちゃんの言葉によると、場所にこだわりがある奴なんだよね。あ、あと、自分のおうちごと気に入らないヤツを殺せるほど、思い切りのいい奴でもない」


「『家ごと巻き添えに』なんてヒト、早々いないのでは?」


「数十年に一度しか舞をしてなかった、っていうのも、おうちにこだわりがあったからなんじゃないかなぁ。おうちが大事だから、メンテナンス不足でここが荒れたりした時に怒ってた。じゃあ誰かにおうちを削られたりして傷つけられたら?」


「持ち家の柱を削られたら誰でも怒ると思いますけど」


 相槌――というべきか、横やりと言うべきか、雷瑚さんとは打って変わって、ウエンさんの言葉には皆が声を差し挟みました。ただ、ウエンさんの仰っていること自体は、それなりに説得力があったんです。だから僕は――ゆっくりと、すぐ傍の茉莉へと視線を向けた。


 彼女は、怯えた目をしていました。

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