タブー - 第1話
人死にを見たことがありますか?
ええ、人が死んだところ、です。死んでいる、じゃないですよ。目の前で人が――それが家族であれ、赤の他人であれ――事切れる瞬間。無い? ご両親も健在? それは良かった。あまり気持ちのいいものではないですからね、人が死ぬところなんて。
ああ、すいません。変ですよね。初めてのまともな会話がこんな話題で。ちょくちょくこのバーには寄らせてもらってるから、勝手に顔見知りのような気分になっちゃって。先週も二回くらい来たし……あ、三回でしたか。ありがとう。何と言うか、覚えててもらえてるっていうのは、やっぱり嬉しいものですね。……もちろん、何もかもが全部、そういうわけではないでしょうけど。
僕はね、見たことがあるんですよ。人が死ぬ瞬間。忘れもしない、十歳の時です。秋だった。相手は名前も知らない他人だったけど、今でも焼き付いてます。脳裏に――っていうのかな。今でもたまに夢に見ますよ。目の前で、こう……ぐちゃっと。潰れたんです。プレス機で圧し潰される時って、多分あんな感じなんでしょうね。
事故でも見たのか、って? 事故……うーん、事故、になるのかなぁ。でも……ああ、そうですね。折角だし、一から説明しても? ほら……いまは他にお客さんも居ないことですし。酔った若造のホラ話――そう思って、軽く聞き流してくれたら。
今も言った通り、あれは僕が十歳の時。あの頃、僕は隣の家に住む一つ下の女の子と、学校からの帰り道の途中にある神社で、よく一緒に遊んでいたんです。ええ、幼馴染、ですね。彼女の母親は自宅仕事をしていました。「あまり早く帰るとお母さんの仕事の邪魔になるから」って、幼馴染のその子は子供ながらに考えて。で、暇つぶしのお相手に、顔馴染みで遠慮しなくてもいい僕が選ばれていたわけです。でも、もうその神社も今は無くなってしまいました。神主の方も亡くなられて。ええ。
僕が見た人死にの一人が、その神主さんだった。
何故死んだかって? 言ったでしょう、潰れたんです。僕らの目の前で。ええと、つまり。
天狗に、圧し殺されたんですよ。





