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コードレス~対決除霊怪奇譚~  作者: DrawingWriting
クロスファイア
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クロスファイア - 第11話

 雨月の問いかけを完全に無視して続けられた質問に、雨月は少し首を傾げた。魔術師。晶穂が?


「どうして?」


「まず『はい』か『いいえ』かを言って欲しいんだけど」


「じゃあ『いいえ』。しょーちゃんにその手の力は無いわ。対抗するための知識だけで言えば、並みの除霊師よりは豊富でしょうけど」


「ホントに?」


「もう一度聞くわね。どうして?」


「魔術師じゃないなら、あいつ、何でアンの創った亜空間から脱出できたんだろ」


 涼は天井を見つめたまま、呟きのような回答のような、どちらとも取れる言葉を放った。雨月は……しばし考えて、柔らかな日差しの射し込む縁側へと視線を移す。


「あいつ、言ってた。『亜空間を中から叩き壊した』って。わたしがアンを追い詰めてたから、亜空間自体が歪んでて……その綻びを突いて出てきたんだ、って」


「……なぁんだ。答え、教えてもらってるじゃない」


「答えになってないわ」


「どうしてそう思うの?」


「あいつの力だけで壊せる程、アンの創ったあの空間はやわな出来じゃなかった」


「だから、涼ちゃんがアンを追い詰めてくれたおかげで、しょーちゃんでも壊せるようになってたんでしょ?」


「無理。幾ら歪んでたとしても、木の枝じゃ鉄の壁は壊せない。アンの術はそういうレベルのものだったし……アンにトドメを刺した雷瑚の一撃も、そういうレベルだった」


 ……的確な表現だ、と、雨月は胸中で涼を褒めた。彼女の言葉は正しい。あの時の晶穂が持っていた御守の数――換言すれば、あの時の晶穂が所持していた霊的エネルギーでは、どれだけあの亜空間がボロボロになっていたとしても、破壊は不可能だっただろう。


「涼ちゃんの力なら、壊せた?」


「無理だったと思う。わたしが一度壊したことがある空間とは、強度がまるで違ってたから。あれは侵入者を確実に仕留めるための術で、無防備にやってきた子供を捉えるのが目的の術とは、次元が全然違った」


 これも、涼の意見が正しい。アンは涼の才能を高く評価していたと聞くが、それも納得できる。


 だが。


「でも、しょーちゃんはそれを破壊した。……そう言えば、しょーちゃんが途中で戦った魔術師は、わざわざしょーちゃんを狙って出てきた、って言ってたわね。なら、相手側も把握してたんじゃないかしら。しょーちゃん――雷瑚晶穂は、アンの亜空間を破壊せしめる人物だ、って」


「答えになってないんだけど」


「晩御飯何かしら」


 坂田、と、涼が真剣な口調で名を呼ぶ。しかし、年上に対して、あまり褒められた名の呼び方ではない。


「坂田おねーさん、よ」


「はぐらかさないで。あいつが魔術師じゃないとして――自分が普段出せる力以上の力を術で創り出せる人間じゃなかったとして、じゃあ、どうやってあいつはアンの術を超えたの? ……坂田、あんた、何か知ってるでしょ?」


 あいつ何者なの、と、涼は強い口調で尋ねる。


 雨月は。


「聞いたことない?」


 涼へと視線を移すことなく、縁側を、その向こうから差し込む陽を見ながら、言った。


「『道具の使用が前提の除霊師は二流、知識と技術で祓える除霊師は一流』。しょーちゃんは前者で、コードネームを持たない二流の除霊師――コードレス。……雷瑚晶穂っていう人間を説明するのに、それ以上は要らない」


「要るんだけど」


「眠くなってきちゃった。私、また寝るわね。お休みなさい」


「は? 坂田? ちょっと、坂田! さか――」


「坂田おねーさん、ね」


 呟きのような諫言のような、どちらとも取れる言葉を放って、雨月は布団に潜り込む。目を閉じる。涼の甲高い声に、耳を塞ぎながら。




 ――それ以上は、要らない。言いたくない。




「しょーちゃんが――」


 古い記憶が浮き上がってくるのを恐れて、喉元で抑えた言葉は、誰の耳にも入ることなく、柔らかな闇の中に溶け込んだ。










【クロスファイア 完】

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