プリディクション - 第31話
『あたしは呪具使いだ。お前みたいな呪いの掛かったモノの扱いにゃあ慣れてる』
そうだ、そうだ、そうだ! あたしは思い出していた。先生は呪いの力を操作する除霊師なのだ。だから。
例え相手に集められた力だろうと、それを逆利用できないわけがない!
「栄絵!!」
輝きの最中、先生はあたしの名前を叫んだ。叫びながら、宙で体を猛然と捻り、光の槍の石突部分を――神官が作り上げた呪いの力の集大成を、自身の踵で猛然と蹴り出した。
時が、加速していく。
『――栄絵。そんでもって、もう一つ頼ませてくれ』
『それは分かりました、引き受けます! だけど――』
――こんなタイミングで!?
あたしは叫びたかった。無茶だ、無茶だ、無茶だ! こんな激しい光の中で、こんな一瞬の戦いの中で、よりによってどうしてあたしが――だけど、弱音を吐く胸中とは裏腹に、あたしの体は忠実に、先生に告げられた『頼み』を実行していた。
その時の自分の状況は、ハッキリ言って、今でもよく分かっていない。
無我夢中で、何も考えていなかった? そうかもしれない。
ただ、あたしはずっと、どんな事件でも、雷瑚先生が居れば大丈夫だろうと思っていた。先生は強いし、いつかのようにあたしを暗闇から掬い上げてくれる――そう考えていた。
だけど、違った。あたしはこの日、そうではないことを思い知ったのだ。先生であろうと真っ向勝負では勝てない、届かない存在が、この世界には存在しているということを、眼前で嫌というほど認識させられたのだ。
だから、だったんだと思う。あたしの体は、あたしが思う以上に、迅速で正確に動いていた。
――先生を、助けるために。
渡されていた掌大の包みを取り出す。強引に破く。零れ落ちそうになる『それ』を、眼前の神官へと押し当てる。
『それ』とは。
真っ黒な――黒い絵の具で塗りつぶされている、一枚の絵の切れ端。
『坂田先生、それは?』
『曰くつきの絵の欠片。触れた人を中に閉じ込めちゃう呪詛が込められてる』
あたしは、どこにでも居る高校二年生だった。ただ、少しだけ「どこにでも居る」から離れた経験を持ってもいた。『とある霊に憑かれた』という、微妙に不名誉な経験。あたしがその時、その瞬間に思い出していたのは、その経験の時に坂田先生から聞いた、とある呪具についての説明だった。そして、その『とある呪具』を押し当てられた瞬間。
初めて、眼前の神官は、驚愕した素振りを見せた。そして、あたしを振り解こうとした。
だけど。
「覚悟は出来てるか、クソ魔術師」
その時には。
「寝惚けてんじゃねーぞ。お前の相手は最初っから最期まで――!!」
あたしだ、と、先生が叫んだのと。
体を捩じり、先生が光の槍を相手へ押し込むように蹴りこんだのと。
呪具に吸い込まれかけ、硬直した神官が、光の槍を頭部に撃ち込まれたのと。
――すべては、同時で、一瞬の出来事だった。





