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コードレス~対決除霊怪奇譚~  作者: DrawingWriting
プリディクション
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プリディクション - 第29話

「……仰ることの意図が、分かりかねます」


 挑発している――あたしは先生の数々の発言を、そう読み取った。相手の――つまり、あたしのすぐ傍の魔術師の注意を、あたしから自分に向けさせようとしているのだ。そして、恐らく……相手にもそれは見抜かれている。一切、あたしの傍から魔術師が動こうとしないのは、その何よりの証拠だ。


「これでもわたしは、主に忠義を尽くす身でございます。故に、聞き逃しかねます。どうして主をそのように見做されるのか……理由を窺っても宜しいでしょうか?」


「ああ、宜しいですよネグロイド美人。単純な話だ。真っ当な頭の持ち主なら、お前をここに配置するのはあり得ない。何せ――タネの詳細はともかく――お前の魔術の特性は間違いなく『防衛』だ。自分に向けられた攻撃の数々をいなし、放たれた魔力なり呪力なりを掻き集め、カウンターとして利用する――駅前であたしをぶっ飛ばしたのがコレだな?」


「ご明察、でございます」


「ありがとよ」


「続きを」


「言ったも同然だろうが。防衛主体の駒を、何でわざわざ攻められてる時に自陣から離れさせる? コソコソと全国に魔術装置造って罠張り巡らせてたような慎重な奴が、そんなことさせるか? どうにも得心行かねえな」


「全国に? 何の話でございましょう?」


「さっきぶっ壊した奴、あたしのことを『メアリーを殺した除霊師か』って尋ねてくれたぜ? 有り難かったよ。あたしからすりゃ、繋がりは見えてたものの、確信にまでは至って無かったことを、そっちから吐き出してくれたワケだからな。奇妙な縁を感じるぜ。全く別件でこの街にやってきたあたしが、探してた魔術装置の一団に辿り着けるとは、ぶっちゃけ思ってなかった。


 だが、だからこそ疑問なわけだ。蜘蛛みてえに獲物が罠に掛かるのを待ち続けるのが主体の奴らが、どうして前に出てくる? それはな、射撃手が戦場の最前線に出て、歩兵と正面切って戦おうとするようなもんだぞ」


 あたしの傍の女性が、小さく笑みを零した。


 なに笑ってんだ、と先生が鋭く言い放つ。


「申し訳ありません。ただ、あなたはまだお若い。きっと、戦争のご経験は無いでしょう? そんな方が、さも承知であるかのように戦の喩えを用いられるものですから……少し、滑稽に思いまして」


「……まるで自分はそうじゃねえ、とでも言いたそうだな」


 女性はまた、妖しく笑った。あたしには、それが妙に不気味に思えた。声、そして視界の端に映る容姿から判断して、隣の魔術師は、先生とそう変わらない年齢の筈だ。だけど……何故だろう。


 あたしには、その全てが、急にまやかしに思えてきたのだ。丁寧に造り上げ、綺麗に装飾を施した人形であるかのように思えてきたのだ。


「……話を戻すぜ。お前らが攻められてる立場にあるのは間違いねえ。あたしは侵入者迎撃用と思しき魔術装置をぶち壊したわけだし、お前らはその侵入者迎撃装置で『誰か』を狙い続けてる」


 ――きっと、坂田先生のことだ。敢えてぼかして言ってるんだ――あたしは胸中で呟いた。


「そんな中、逃げるでもなく、お前はわざわざこっちへ出張ってきた。考えられる理由は二つ。一つ、その主は、防衛主体のお前を出張らせても大丈夫なだけの自信がある。……で、もう一つ」


「『わたしは従者では無い』……とでも?」


 ……遠くで、ヘリコプターのプロペラ音が、微かに聞こえる。上空から見ると、この光景は、一体どんなものに受け取られるのだろう。


 夕暮れの、ボロボロに砕けた屋根瓦の散乱する、幾つもの家屋がほぼ隙間なく連なる屋根屋根の上。そこで対峙する、小綺麗な黒人女性と、ボロボロの白衣を着た先生。異様な光景であることは……間違いないだろう。


「少なくとも、お前こそが各種魔術装置を動かす中心人物の筈だ。魔術装置の仕組みから逆算すると、そう考えるのが一番妥当だしな」


「仕組み、でございますか」


「お前、ヴードゥーの神官なんだろ?」


 ……ヴ―ドゥー。聞こえたキーワードに、あたしは顔を伏せたまま、頼りない記憶を思い出す。


 確か、アフリカかどこかで信仰されてる宗教じゃなかっただろうか。黒人の神官が祭りか何かで踊っている姿を、テレビだったかネットだったかで目にした覚えがある。


「ヴードゥーでは、人間の霊魂を、いくつかの要素で構成される存在として定義する。そして、その内の一部を操作することで、神官は病気の治癒や犯罪者への刑罰を行う。有名なのが『ゾンビ』だな。魂の内、自我に当たる部分を操作することによって、人間を奴隷として扱う術――お前はこれを応用して、この街で分割式の呪術を展開した。


 まず、特製のウィジャ盤で遊んだ人間の魂を『把握』する。そう、『把握』だ。プランシェットの奴にはマーキングって言ったが、こっちの方がより実態に即してる。ウィジャ盤を介して送った呪力で、お前はその人間の魂の特徴を把握し、識別できるようになるんだ。ここでの狙いはあくまで識別までだから、後で除霊師がウィジャ盤の利用者を視ても、何かに呪われてるような痕跡は一切見当たらない。


 そして、ヴードゥーの神官であるお前は、世界を構成する無数の霊的存在を知覚できる。人間の魂も含めた個々の識別には距離的な制約もつくだろうが、少なくともお前は、この街全体くらいであれば、識別が可能な筈だ」




『この町にゃ、最寄り駅に帰ってくる度、空に持ち物をブン投げる風習でもあるのか?』




「ここまでが分割式呪術の第一段階。そして第二段階――恐らくは何らかの魔術装置の発動をきっかけに、その内容に応じて、識別済みの魂を呪力で操作し、人々に特定の動作を強制する。今回は『投擲可能な物体を宙に投擲する』ってところか。


 ああ、そうそう。前に会った時、あたしはお前が『邪視』を使うって言ったな。いま思えば、ありゃ大いなる勘違いだった。お前は邪視で誰かを操ってたんじゃない。直接目が合った人間の、その魂を把握して、手駒を増やそうとしてたんだ。恐らく、第二段階の魔術装置を使って危害を加えようとした人物が、予想以上にしぶとかったんじゃねえか? ウィジャ盤で遊ぶ奴の数なんてたかが知れてるだろうからな。だからお前は、遥のような認識済みの貴重な手駒を傷つけることは出来なかったし、わざわざ街を彷徨うなんつう苦肉の策も実行せざるを得なかった」

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