プリディクション - 第26話
――それは、起死回生の一手。
の。
筈だった。
だが。
「……どう……して」
宙に固定した無数の『子供たち』は――町中の人間から投擲させて収集した『矢』の数々は、ピクリとも動かない。そんなわけはない。エリザベスはもう一度叫んだ。眼前の除霊師の名を。名乗られた名前を。最期の呪いに必要な、『個』を識別し、追跡し、狙い続けるための鍵を。
告げたのに。
「おかしいわねえ」
……未だ彼女の頭を掴んだままの除霊師が、可笑しそうに笑った。いや、違う。
嘲笑った。
「誰なの? サカタショウホ、って」
「誰って……あんた、最初にそう名乗って――」
『しょーちゃん……?』
『私の親友の名前。しょーちゃんは私より弱いから――』
答えに辿り着き、エリザベスは愕然とした。ショウホ。しょーちゃん。
偽名。
……こいつ。
この女!
「最初ッから! 初めて会った時から、嘘ついてたのね!!」
「当然でしょ? なに子供みたいなこと言ってるの。この業界で、敵に名前を隠さない人間なんて、真っ先に死んじゃうじゃない」
エリザベスは怒鳴った。喚いた。頭上の除霊師を口汚く罵った。怒りのままに、激情のままに。騙された、騙された、いや違う、そうじゃない、そんな程度ではない! 踊らされていたのだ!
この女は! 敗北を思い知らせるために、ここまで話を引っ張ったのではなかった!
「だけど、予想通りで良かった」
この女は!!
「あなた、自立攻撃システムだもの。奥の手の一つか二つは持ってると思ってたのよね」
最期の呪いをスカさせるために、ただそれだけの為に、敢えて待っていたのだ!
ただ、嘲笑うためだけに!!
「うん。とっても素敵な吠え面だわ」
除霊師はくすくすと笑った。エリザベスは激怒の咆哮を上げ――しかし次の瞬間、致命的な軋みが脳髄を砕いた。
こうして、エリザベスは破壊された。





