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コードレス~対決除霊怪奇譚~  作者: DrawingWriting
プリディクション
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プリディクション - 第22話

「……気味の悪い人間」


 ふと。


 夕陽の屋根の上で、高い声が響いた。


「術にかからない上に、ロアの居場所まで。どんな体してるの?」


 子供。子供の声だ。


 あたしは未だ先生に抱きかかえられたまま、周囲を見回した。……誰も居ない。異常なものがあるとすれば、ぐるぐると、水中でアーチを描くように群れを成して泳ぐ魚たちのような、例のプランシェット達だけ。だけど……その声は、どうもプランシェット群の奥から響いているらしい。


「あたしゃ二流の除霊師だが、ちょっとばかし体質が特殊でな。あのウィジャ盤の呪術には絶対に掛からん」


「絶対?」


「ああ、絶対だ」


「おっかしいの。魔術や呪術の世界に『絶対』なんて無いのよ。知らないの?」


「その言葉、そっくりそのまま返してやるぜ。おまけにダメ出ししてやる。お前らは詰めが甘い。


 あのウィジャ盤、プランシェットを使った人間にマーキングをするんだろ? で、それを為すには当然、ウィジャ盤の操作者に対して、呪力を送る必要がある。だが、お前らの術はそれを遮断される場合を想定して組まれてなかったし、呪力の送信元を辿られる可能性も考慮出来てなかった。雑な造りの術だったよ、マジで。


 ま、事情は分からないでもないけどな。ウィジャ盤は何十、何百も製造してるんだから、一つ一つの術の精度は下げざるを得ねえ」


「な、何百?」


 耳を疑うような言葉が飛び出て、あたしは抱えられながら、遂に口を挟んでしまった。先生は「おっと、言ってなかったか?」と、どこかとぼけた顔をする。


「あのウィジャ盤、背面に製造番号が彫ってあった。ナンバリング的にも相当数作られてる筈だ。その全てに、マーキングの術が施されてるかどうかまでは知らねえ。だが、少なくとも、あそこで宙を泳いでるプランシェットの数くらいは、術を施されたウィジャ盤が創り、売られ、この街に広がってた筈だ。玩具、としてな」


 マーキングの術、と、あたしが一人、反芻した時だった。


 紅い陽の射す正面の空間が、不意に歪んだ。


「あんた」


 空間の歪みが、形を……人影を成していく。


「もしかして、メアリーを殺した除霊師?」


「へえ。よく分かったな」


 鋭く、どこか挑発的に笑う先生の声を耳にしながら、あたしは正面の人影をじっと見つめる。


 やはり、子供だ。


 身長は、多分……百四十センチ程度。ポニーテールの真っ黒な髪、茶色いワンピースに肩掛け、真っ白な肌、少し高めの鼻。どう見ても日本人の顔つきではない。例えるならば、海外ドラマで田舎町を歩いている、地味な格好の、地味な少女……とでも言ったところか。


 ただ、一つだけ。


 両目の下を彩っている真っ黒な隈が、白紙に垂らした一滴の墨汁のように、不健康そうな、どこか不気味で薄暗い雰囲気を、周囲に放っている。


「どうして分かった?」


「魔術装置とか、防衛システムとか、あたしたちのこと、知ってる風だったから」


「ああ、そう言えば遥の部室で口に出してたな、その言葉。あ、ついでに、あたしの推測が正しいかどうかも教えてくれねえ? あの時、遥にだけお前の姿が見えてたのは、遥とお前らの呪力がガッチリ結びついちまってて、遥から姿を隠すのが逆に困難だったから。遥に危害を加えなかったのは、遥が大事なマーキング済みの人形だったから。どうだ?」


「正解。正解。あんた、頭が回るのね。頭が回る大人なんだ」


「ありがとよ。でも、褒めてるように聞こえねーな」


「褒めてないもの。むしろ逆。軽蔑してる。大人はいつもそう。あたしたちが創ったものを、創ろうとしたものを、遠慮なしに壊そうとする。


 あたし、嫌いよ。あんたみたいな大人、大嫌い」


 ビシ、と、前方の少女の足元にあった瓦の一枚が、音を立てて割れた。


 肌が、痛い。目に見えない礫のようなものが、前方から降り注いでいるかのようだ。


「そうか。奇遇だな。あたしも、お前らのような邪悪が大嫌いだよ」


 また、少女の近くの瓦が一枚、音を立てて割れる。プランシェット群はぐるぐると回り続ける。宙を、海中のように。


「邪悪?」


「首傾げてんじゃねーよ、白々しい。あたしがこれまで見てきた中でも、お前らのやってることは相当タチ悪い部類に入るぞ。よくもまぁ考え付いたもんだ、って、一周回って感心しちまうくらいにな。


 除霊師ですら感知出来ない形でのマーキング、そしてマーキングした人間への更なる魔術行使――この二段階を経て、お前らはマーキングした人間を人形のように操り、殺人すら実行させることが出来る。うまくハメれば、自分は一歩も動かずに、気に入らねえ奴をぶち殺せたりも出来るワケだ」


 あたしは半分置いてけぼりだった。先生が言っていることの、殆どが理解できない。除霊師ですら感知できない? マーキング? 殺人の実行? 一歩も動かず殺せる? 具体的にどういうこと?


 抱えられながら、後で詳しく説明してもらおうと思いながら、あたしは痛感していた。恐らく、あたしと先生の住んでいる世界には、想像以上に大きな境界がある。あたしと先生の常識は決定的に違うのだ。だからあたしには、先生の言葉の多くが分からない。


 だけど。




『わたし、人を殺してしまうかも知れません』




 分かることもある。


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