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コードレス~対決除霊怪奇譚~  作者: DrawingWriting
プリディクション
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プリディクション - 第14話

「――先生!!」


 激痛が収まらぬ中、駆け寄ってくる足音が聞こえた。晶穂は舌打ちして、うつ伏せの体を無理やり持ち上げる。が、そうして無理をしてロータリーの先、瞬時の戦闘を交わした交差点へと視線を飛ばしても、既にロアの姿は見えなかった。


 どうやら、人々に紛れ、どこかへ去ったらしい。人々は槍投げフォームを取ることもなく、それぞれの家路へと進んでいく。それを見て取って、再度、晶穂はうつ伏せに崩れた。


「先生!! だっ、大丈夫ですか!! 返事してください!!」


「きゅ、救急車呼んだ方がいいですか!? いいよね!?」


 栄絵と遥、二人の少女が晶穂を仰向けにして狼狽えている。どうやら、駅の改札を出た人々も、尋常でなさそうなこちらの様子をうかがっているらしい。楽じゃねーなぁ、と内心呟きながら、栄絵に抱きかかえながら、晶穂はひらひらと片手を振った。


「あー、大丈夫大丈夫、ちょっと地面がひんやりしてたから眠りたくなっただけだ。救急車なんて要らん要らん。お気遣いなく」


「そ、そうなんですか?」


「なーんだ、心配かけさせないでくださいよー……って馬鹿! そんなわけないでしょ! 大井さんも聞こえてたじゃん、さっきの凄い音!」


 栄絵の剣幕に、遥が慌てて「ごめんなさいごめんなさい」と告げている。若いもんは元気だなぁ、などと呑気なことを晶穂は思った。……いや、それより。


「っつうか栄絵、お前、あたしが『目を開けんな』って言ったってのに」


「無理ですよ! こんな近くで、あんな凄い音がしたら!」


「あいつの姿を見たか?」


「? あいつ?」


 何のことですか、と栄絵。どうやら、ロアの姿を眼にしたわけではないらしい。その事実に、晶穂は密かに胸を撫で下ろした。


 全てに当てはまるわけでは無いが、魔術や呪術の類には、視覚を媒介として影響を及ぼすものが多い。ロアもその類の術を使うようだ。咄嗟の――そしてさしたる根拠もないような――判断ではあったが、「目を瞑れ」という指示自体は、結果的に正解だったと言えるだろう。


「あの、雷瑚先生。何があったのかよく分かってないんですけど、やっぱり、まず病院に行った方がいいんじゃ……」


「そう、そうです! あっ、それか坂田先生に連絡――」


「いや、まずは遥の高校に行くぞ。話は行きがてら、だ」


 意を決して、晶穂は足に力を込めて立ち上がった。思った通り、骨の髄から痛みが迸り、一瞬、苦悶の声を漏らしそうになる――が、何とかそれを噛み殺した。叩きつけられた背中は恐らく痣だらけになっていることだろうが、依頼者たちを不安がらせるわけにはいかない。


「あ、そうだ栄絵。お前、今日はもう帰れ」


「ええ!? 嫌です!」


「ダメだ。まだあたしも色々整理できちゃいねーが、どうにも単純な霊視で終わるような状況じゃなくなってるみたいでな。はっきり言って、お前まで守ってやれる気がしねえ」


 ロアなる魔術師が、遥を含む人々に何をさせようとしているのか――その狙いは一切分からない。おまけに、ロアは姿を消した。この体で、当てもなく彼女を探すのは困難だろう。


 だが、遥を悩ませるウィジャ盤の『予言』と、ロアの用いた魔術には、何らかの繋がりがある筈だ。でなければ、どうしても説明がつかないことが一つある。故に、遥の高校へ行き、ウィジャ盤を調べ、ロアの元に向かう。これは必須事項だ。


 しかし、それは同時に、彼女と再度、対峙することを意味する。



『大人しく、退いてくださいまし』



 ――勝てるか?



「お前も一度、似たような体験があるなら分かるだろ。……また死にかけたいか?」


「あ、あの……そんなに危険なんですか、わたし……」


 震えながら遥が言った。小柄な少女が、泣きそうな目で晶穂を見ている。しまった、と胸中で呟いた。依頼者を不安がらせない――そうしなければならないというのに。


「あー、すまんすまん。なに、大丈夫さ、遥。あたしがついてる、心配すんな!」


「そ、そうだよ大井さん。先生もついてるし、あたしも一緒に居るから」


「いやお前は帰れっつうの」


「でもあたしが帰ると、大井さん、不安で死んじゃいますよ?」


「……もう一回言うぞ、栄絵。帰れ」


「嫌です」


 晶穂の思惑に反し、栄絵はきっぱりと告げた。


「あたし、大井さんの依頼が終わった後に、先生を病院に連れて行かなきゃいけない気がするので。さ、大井さん、行こ!」


「栄絵! アホみたいなこと言ってねえでぇぇぇぇぇぇ……っ!!」


 大声を出した途端、背中に激痛が走った。悲鳴を噛み殺している間に、栄絵は遥の背中を押し、バスロータリーへ進ませる。そうしてから、彼女は小走りにこちらへ戻ってきて、痛みを堪えるだけで精一杯な晶穂の肩に手をまわした。


「さ、あたしに寄りかかりながら歩いてください。あたしだって、杖代わりくらいにはなれますから。……多分ですけど、無理して立ってるでしょ?」


「だ、け、ど、な……!」


「ホントにまずそうなときは、邪魔にならないように逃げます。それならいいでしょ? ご存知の通り、あたしは一回、似たような経験してますから? それくらいの判断はつきます」


 さも自信ありげに言う栄絵だが、晶穂は突っ込んでやりたかった。彼女の体験など、おぞましい世界の一端に過ぎない――だが、痛い。痛みが発言を封じている。


「さ、行きましょ先生! 大丈夫ですよ、何だかんだで先生ならきっと何とか出来る筈です! ……あ、もしかして、こうしてくっついて歩いてると、恋人に間違われたりするかもですね!?」


 それはないだろ、と突っ込みたかった。……が、やはり、痛みに言葉を殺され、晶穂はしぶしぶ、強引な学生に連れられ、歩き始める。




 その判断が正しい、とは、とても思えなかったけれど。

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