プリディクション - 第5話
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ウィジャ盤。スマホでササっと調べてみたところ、検索結果はこんな回答をあたしに示した。
『ウィジャボード(ウィジャ盤)とは、一八九二年にパーカー・ブラザーズ社が発売した占い用ゲーム用品。或いは、ゲームにおいて用いる、アルファベットや数字などが書かれた文字盤のこと。日本でいうところのコックリさんに類似している。複数人で文字盤を囲み、文字盤の上に置かれたプラッシェットに手や指を添えた上で参加者が質問を行うと、自動的にプランシェットが動き出し、質問への回答を行う』
「コックリさんじゃなくて、ウィジャ盤か。よくそんなもん持ってたな」
やはり、雷瑚先生のような専門家は、調べるまでも無くご存知のようだ。夕陽の射し込む保健室で、大井さんはぶんぶんと首を振った。
「いえ、その、わたしが持ってるわけじゃなくて。部室にずっと置いてあるものなんです。持ち主は分からないんですけど……きっと、先輩の誰かが手に入れて、部室に置きっぱなしにして卒業しちゃったんじゃないかなって、思います。結構頑丈で、良く出来てて……わたしたちの先輩も、一時期遊んだことがある、って言ってました」
「あー、あれか。部室に置いたまんまの古い少女漫画とか、そういう系だな?」
成る程、とあたしは胸中で頷く。何となく雰囲気は分かる。共有財産? とでも言うのだろうか。特別希少なものというわけでは無いけれど、何となく脈々と受け継がれていくもの。そして何故か、そう言った類のものは、何が切っ掛けなのか、時として爆発的な流行をもたらす時がある。
例えば、あたしが中学生の時に所属していた声楽部には、何故か部室の片隅に『はだしのゲン』全巻が置かれていた。そしてそれは、女の子が好むような絵柄でもないのに、一年に数回という周期的なスパンで爆発的流行を声楽部にもたらした。部室のドアを開けたら女子部員が全員ゲンを読み耽っている、ということもままあったし、あたしもよく友達とジュースを飲みながら「これはただのビタミン剤じゃ」「うそをつけっ」などというくだらない掛け合いを……いや、この話はこの辺で止めておこう。あまりにも無為だ。
「で、何を占ったんだ?」
「色々……色々です。占いって言っても、ほら、ちょっとしたゲームみたいなものですし。部長の好きな人は誰かー、とか、英語教師が臭いのは何で、とか……ちょっとした息抜きで、友達と色々問いかけて――」
「遥」
何を占ったんだ、と、再度尋ねる雷瑚先生。大井さんは先生から視線を逸らし、ちらちらと助けて欲しそうにあたしを見ている。しかし、残念ながらあたしは雷瑚先生派だ。先生が必要だと思うのであれば話すべきだと思うし、意地悪で尋ねているとしても先生の肩を持つ。
何せ、あたしにとって先生はヒーローなのだ。少し前までは先生が女性であることについて神をも呪おうとしたものだが、もうそんな子供じみた感傷は捨てた。世はLGBTを容認する時代へと突入している。即ち、先生が男だろうが女だろうが『どうでもいい』のだ。
何の話だっけ。そうそう、大井さんだ。
「……内緒にしてもらえますか」
あたしに助ける気が毛頭ないことを悟り、大井さんは消え入りそうな声で言った。ああ、と、真剣な眼差しで雷瑚先生が返す。その横顔は実に凛々しい。芸術的と言っても過言ではない。
「……将来、どんな人と結婚できますか、って」
大井さんは真っ赤になって俯いた。実に大井さんらしい、可愛らしい質問だと思う。が、先生は容赦なく質問を続ける。
「おかしくないか、それ? 『どんな人と結婚できますか』って聞いたのに『遥は人を殺す』って返してきたってことか? 質問の答えになってなくねぇ?」
「いえ、その……『結婚しない』って返答されて……わたし、ちょっとショックで……『どうして?』って聞いて……そうしたら……」
「ああ、そういうことな。ふーん。だが、そりゃ変な価値観だと思うぜ。前科者だからって結婚出来ないなんてことは無え筈だ」
「あの、先生。少し、質問していいですか?」
どうにも合点がいかず、あたしは隣から片手を上げ、両者の会話に参入した。真っ赤な顔の大井さんを横目に、「どうした?」と先生は尋ね返す。
「二つ、疑問です。まず、ウィジャ盤? って、こっくりさんみたいなものなんですよね? なら、そんなに真面目に受け取らなくてもいいんじゃないですか? ああいうのって結局、参加してる誰かが答えてるんでしょ?」
スマホの検索結果に出た『プランシェット』とやらがどういうものかは知らないが、こっくりさんで言うところの十円玉に相当するんじゃないかとあたしは推測した。これは余談だけど、流石にあたしだってこっくりさんくらいは知っている。五十音の平仮名が書かれた一枚のぺら紙の上に十円玉を置き、その硬貨の上にみんなで人差し指を置いて、「こっくりさんこっくりさん、御出で下さい」なんて感じのことを告げる。そして質問すると、十円玉はするすると紙の上を動き、質問への答えを、書かれた平仮名から文字を順に選んでいくことで指し示していく――。





