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コードレス~対決除霊怪奇譚~  作者: DrawingWriting
プリディクション
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プリディクション - 第4話

「話を進めるわね」


 タンタン、という電車の奏でる音の間隔が、段々長くなっていた。どうやら、目的地の駅が近づいているらしい。雨月たちの住む町から電車で約一時間弱、乗り換え二回――子供からすれば十分に長く感じるであろう電車での移動も、そろそろ終わりが近づいている。


「実地調査の結果、それら潜伏候補地で魔術師が見つかった、なんて報告は無かった。当然だと思うわ。そもそも、涼ちゃんが見つけた手掛かりは、今から数十年前の人物像だった。だから最悪、装置を造り上げた本人は、既にこの世に居ない可能性だってある」


「装置は残ってるのに?」


「ピラミッドだって、ファラオが死んだ後も残ってるじゃない」


 この例は適切じゃなかったな、と、雨月は胸中で呟く。罠に掛かったものの生命を強制的に奪いとる装置と、死後の復活を願って作られた遺跡。目的が違うものを同列に語るのは、正しいモノの見方とは言えない。


「ただ一つ、残念な連絡があった。実地調査を担当していたうちの一人――これは除霊師じゃなくて、除霊師が雇った探偵さんだったんだけど――が、事故に遭って亡くなったの」


「事故?」


 涼が怪訝な眼差しを向けてくる。本当にそうなの、とでも言いたげだ。


「少なくとも警察の見解では『事故』と判断されてるわ。飲酒運転の乗用車に撥ねられて……っていう交通事故。私も調べてみたけど、事故を起こした犯人は魔術師どころか私たちの業界と一切繋がりは無かったし、事故発生後に犯人と面会した私たちのボスも、『犯人が呪いに掛かってる感じはしなかった』って言ってた。タイミング悪く発生した偶発的な事故……って考えるのが妥当だと思う」


「でも、調べに行くんだ」


 涼が立ち上がった。同じく、ちらほらと空席が点在する車両内にて、複数人が立ち上がる。


 目的地はもう、すぐそこだ。


「そうね。だけど、さっきも言ったけど、あくまで『念のため』よ。期待はしないで」


「さっき言ってた『ボス』って、あのデブのハゲで合ってる?」


「確かにハゲでデブでミリタリーオタクで煙草臭くてたまに鬱陶しい絡みしてくるけど、あれで結構凄い人なのよ?」


「わたし、そこまでケナしてないんだけど……」


 若干引き気味に涼は言った。しまった、と雨月は胸中で呟く。本音が口を突いて出てしまったらしい。


「でも、ママが言ってた。あのハゲ、かなり強い霊能力者だ、って。……そんな奴がわざわざ、あの暴力女やおねーさんに『行ってこい』って言ったんでしょ?」


 なら何かあるんじゃない、と、静かに涼は言った。


 どうかしら、と雨月は返した。


 電車が止まり、ドアが排気音と共に開く。


「もう一つ聞いていい、おねーさん?」


 ドアの外に出て、大きな屋根の下のホームを歩く。雨月は涼と歩幅を合わせながら、「坂田雨月よ」と、改めて名を名乗る。


「じゃあ、えっと……坂田おねーさん? おねーさんも、『コーダー』なの?」


 温風がホームを撫でていく。仕事帰りと思しきスーツを着たサラリーマンや、セーラー服を着た女子生徒などの足音が、電車の発車音をかき乱していく。その中で、雨月はにこりと微笑んだ。


「どう思う?」


 涼は返答しなかった。二人はそのままホームの中頃にある階段を降り、改札を抜けた。




 ――涼ちゃんもコーダーになったの?




 一瞬、質問しようか迷って、しかし雨月はそれを喉元で食い殺した。つい先日、ボスが晶穂と共に、涼を役所に連れて行ったという話は聞いている。この国において、彼女を、正式な除霊師として認めさせる手続きのため。つまり……敢えて尋ねる必要はどこにも無い。


 では、自分のことを口にする必要はあるか?


 この必要も、恐らく無い。


 同類の匂いは、自然と感じ取れるものだ。


「――さて。ここからどうしようかな」


 改札を出た先に広がっていたのは、全国どこにでもある、典型的な『駅前』の光景だった。バスロータリーがあり、ロータリーを見下ろすようにビルが並んでいて、それらビルには『英会話』だの『銀行』だのと書かれた看板が躍っている。ビルとビルの間には二車線道路が敷設されており、乗用車や軽トラックなどがひっきりなしに流れていた。自転車の前籠に大きく膨らんだビニール袋を載せている主婦も居れば、数名で並んで大きめの歩道を行く学生たちの姿も見られる。夕陽の中、家路につく人々の様子からは、少なくとも一見して『呪い』などというおどろおどろしい言葉を抜き出すことは出来そうもない。


 平々凡々とした、日常。それ以外に、この光景をどう表現すべきか。


「ひとまず、さっき言ってた事故現場にでも行ってみましょうか。現場百辺、は、どこの業界でも鉄則だもの。どう?」


 提案してみて、それからようやく、雨月は同伴者の異常に気が付いた。涼は足を止め、駅前の交差点の一つを見つめたまま、ピクリとも動かない。


「涼ちゃん?」


「メアリー」


「えっ」


 雨月が疑問を呈すのと、涼が走り出すのは、ほぼ同時だった。慌てて、雨月は幼い同伴者の後を追う。どうしたの、と声を出しながら。


 それに対し。


「居たの! 感じたの!」


 涼は、振り返ることなく、自身の走る先にある交差点――変わった信号と共に歩き出した人々の一角を指さし、言った。


「この前、わたしが燃やした――魔術装置を守ってた『花子さん』に似た感じの子が、向こうに居た!!」

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