プリディクション - 第2話
まず、自己紹介をしようと思う。
あたしの名前は東栄絵。どこにでも居る高校二年生だ。今は髪を伸ばそうとしていて、ようやくセミロングまでやってきた。顔は……普通だと思う。極々。
ただ、少しだけ「どこにでも居る」から離れた経験を持ってもいる。『とある霊に憑かれた』という、微妙に不名誉な経験。それは他人に具に、得意げに語れる話では無くて――むしろ少し悲しくてやりきれない経験になったのだけれど、同時に一つだけ、他人に誇れる出会いがあったことも事実だった。
それが今、保健室の奥のベッドの上に座ったまま、ペットボトルに口をつけている不良保険医――雷瑚晶穂先生との出会いだ。
「それで」
ひとしきり水を飲み、発声練習のつもりか「あー」とか「うー」とか声を出してから、いつもながらのボサボサの髪を放ったままで、雷瑚先生は口火を切った。
「まず、そうだな。栄絵から聞いてるかも知れんが、一応言っておく。あたしの名前は雷瑚、雷瑚晶穂だ。表向きはこの高校の保険医、実態は除霊師」
「はい……あっ、失礼しました。わたしは大井遥といいます。東さんとは同じ予備校に通っている友達で――」
「何かしら除霊師に相談したいことがある、だったな」
はい、と、実に真剣な眼差しで大井さんは言った。彼女の言う通り、あたしと大井さんは、電車で二十分ほど離れた繁華街に鎮座する塾――大井さんの言う通り『予備校』と言った方が正しいのかも――で良く話をする間柄だ。彼女は真面目で、どちらかというと控えめな性格なのだけれど、小柄な背丈と小さな顔、黒のショートカット、奥二重の小さな目という小動物的な可愛さと愛嬌から、多くの友人を持っている。
彼女と友人になったきっかけは些細なもので、たまたま彼女がとある講義であたしの隣に座ったから。一言二言の何気ない挨拶から、SNSのアカウントを交換したり、共に勉強をしたり、他愛ない会話を迷いなくするような関係となるまで、そう時間は掛からなかった。
「しかし、アレだな」
先生はボリボリと頭を掻いて、言った。
「全然あたしを疑わないんだな、遥。『除霊師だぜ』だなんて言うと、大概の奴は身構えるもんだが」
「疑う、ですか?」
大井さんは目をぱちぱちと瞬かせた。それから、首を横にぶんぶんと振って、「そんなことしません」と強く言う。
「東さんが嘘をつくような子じゃないこと、わたし、知ってます」
……少し嬉しくなって、あたしは雷瑚先生へ満足げな笑みを見せた。
雷瑚先生は眉一つ動かさず、あたしの頭に――痛くない程度の――軽いチョップを入れる。
「にこやかにしてんじゃねーよ、ったく。切羽詰まった友達が目の前に居るってのに」
「それはそうかも知れませんけど……でも、雷瑚先生が何とかしてくれるなら、もう心配要らないですし」
へいへいお上手、と、雷瑚先生は軽く流して、また飲料水のペットボトルに口をつけた。だけど、あたしの言葉は本心からのものだ。何せ、あたしは一度、霊に取り憑かれて、雷瑚先生に命を救われている。だからこそ、普段と異なる大井さんの様相が『過去の自分に似ている』ことに気づけて、雷瑚先生に時間を空けてもらったのだ。雷瑚先生が居れば大丈夫だろう――あたしは本心からそう思っていた。
……少なくとも、この日までは。
「さて、遥。『誰か人を殺すかも』だっけか?」
殺人衝動でも持ってるのか、と、雷瑚先生は冗談なのか本気なのか判断に迷う質問を投げた。大井さんはまた、ぶんぶんと首を振り、「そんなのじゃありません」と真剣に返す。
「ただその……なんて言えばいいのか分からないんですけど……」
「大井さん、落ち着いて。大丈夫、雷瑚先生は基本的に暇だから。ゆっくり話して」
「基本的に暇ってなんだよ栄絵、あたしだって色々用事あるんだぞ」
「そう言いますけど、最近あたしが訪ねてきても、大体スマホゲーやってるか寝てるかじゃないですか。ちょっと前まではギブスしてたから分からなくも無いけど、先週くらいからはそれも取れましたし。坂田先生も溜息ついてまし……あれ?」
そこでふと、あたしは気付いた。この学校の保健室には、保険医が二人居る。一人は目の前の不良保険医。そしてもう一人が、男子生徒や男性教諭の憧れの的、モデルばりの眼鏡美人。
「坂田先生は? 今日はいらっしゃらないんですか?」
「うーちゃんは用事があってな。留守にしてる」
で、と、改めて大井さんに視線を向ける雷瑚先生。その言葉と視線に、大井さんは決意したように言った。
「子供っぽい、って笑わないで下さいね」
「おう、極力頑張るぜ」
「ありがとうございます。その……わたし、手芸部に所属してるんですけど……その手芸部で流行ってる遊びがあって」
「遊び?」
ここからは、あたしも初耳の話だ。大井さんは一つ頷き、続ける。
「『ウィジャ盤』を使った占い、です。その占いで、出たんです。わたしが人を殺す、って」





